背中周りの筋肉を使う「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」は、上半身をバランスよく鍛えられる種目で、ダンベルやバーベル、スミスマシンなどを使ったさまざまなやり方がある。本記事では「ベントオーバーロウ」で鍛えられる筋肉や得られる効果、それぞれの正しいやり方、効果を高めるためのコツなどを詳しく紹介。
この記事の監修者
中野ジェームズ修一さん
フィジカルトレーナー
「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」で鍛えられる部位と効果
「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」は、バーベルやダンベルなどを利用し、自分の身体の方に引き上げる動作で背中の筋肉を収縮させるトレーニング。
広背筋、僧帽筋(そうぼうきん)、脊柱起立筋群(せきちゅうきりつきん)、上腕二頭筋などを効果的に鍛えることができる。ここでは、以下4つの筋肉について詳しく解説するので、トレーニングの前に参考にしよう。
・「僧帽筋(そうぼうきん)」を鍛えて厚みのある背中に
・引き締まった背中のライン「脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)」
・大きな力こぶにつながる「上腕二頭筋」
広い背中をつくる「広背筋」
背中の中でもいちばん大きな筋肉のひとつで、二の腕から骨盤にかけて広がっている。
広背筋を鍛えることで、広い背中や逆三角形の体型をつくり出すことができる。また、基礎代謝の向上や体力の向上だけでなく、デスクワークなどで崩れがちな姿勢の改善にも効果的。
背中の筋力が上がるため、猫背の改善も期待でき、バランスの取れた美しい身体をめざせる。
「僧帽筋(そうぼうきん)」を鍛えて厚みのある背中に
首から肩にかけて、菱形状に広がる大きな筋肉。僧帽筋は「上部」「中部」「下部」の3つに分かれていて、「ベントオーバーロウ」では、とくに「下部」を鍛えられる。
鍛えることで背中に厚みが出て、ボリュームのあるたくましい上半身に。また、首や肩周りの血流が改善されることによる肩こりの予防や改善も期待でき、こちらも姿勢の改善につながる。
引き締まった背中のライン「脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)」
首から骨盤にかけて背骨の両サイドに位置する筋肉。
鍛える際に重量を増やすほど、腰回りの筋肉の輪郭がハッキリとしてくることで、美しく引き締まった背中のラインが手に入る。また、脊柱起立筋群は姿勢を維持する役目があるため、鍛えることで日常生活での腰痛予防にも効果的。
大きな力こぶにつながる「上腕二頭筋」
肩から前腕にかけて広がる、いわゆる力こぶの筋肉。広背筋や僧帽筋といった背中の大きな筋肉を動かす際に補助的に関わる。
そのため、力こぶを大きくしたり、二の腕を引き締めることができる。視覚的な効果だけでなく、日常生活での持ち上げや引っ張る動作の強化につながる。
「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」の種類とやり方
ここでは、5種類の「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」を紹介。
・ダンベル(両手)での「べントオーバーロウ」
・ワンハンドダンベルロー/ワンハンドダンベルロウイング
・スミスマシンでの「ベントオーバーロウ」
・チューブでの「ベントオーバーロウ」
「ベントオーバーロウ」をおこなう際には、正しいフォームを保持することが重要。とくに、腰に不必要な負担をかけないように注意し、背中をまっすぐに保ちながら動作を行うことがポイント。
筋トレ初心者の場合は、難易度が高いため、より負担の少ない種目から始めて正しいフォームを身につけることを優先しよう。
バーベルでの「ベントオーバーロウ」
<やり方>
- バーベルを肩幅の広さで握り、床から持ち上げる
- ひざはやや曲げ、上体を前に傾けながら背筋を真っ直ぐ保つ
- バーベルをひざ下に位置させる
- 上体を動かさず、みぞおちとおへその中間を目指して、背中が丸くならないよう注意しながらバーベルを引く
- その後、ゆっくりバーベルを降ろし、開始位置に戻す
動作中に「腰が丸まってしまっていないか」「肩がすくんでいないか」を注意しよう。バーベルを引き上げる際は、肩甲骨を寄せるように意識するのがポイント。また、反動を使わずに動作を行うようにしよう。
ダンベル(両手)での「べントオーバーロウ」
<やり方>
- ダンベルを肩幅で持ち、地面から持ち上げて立つ
- ひざを少し曲げ、背筋を直して上体を前に傾ける
- ダンベルをひざのすぐ下に位置させる
- 背中を使って、ひじを後ろで接触させるようにダンベルを引き上げる
- 引き上げた後、ゆっくりダンベルを下ろし、初めの位置に戻す
ダンベルを使用した「ベントオーバーロウ」は、バーベルを使用したものと比べ、動きの自由度が高いことが特徴。軌道を少し変えることで鍛えられる部位も変わるが、その分難易度も高くなる。
「ワンハンドダンベルロー」/「ワンハンドダンベルロウイング」
<やり方>
- フラットベンチに一方のひざをすねまでつけ、もう一方の脚をベンチから離して肩幅以上に広げる
- 姿勢を正したまま、地面と頭から骨盤までを水平に保ちながら身体を前に傾ける
- ベンチ側の手はベンチに置き、反対側の手でダンベルを持つ
- ひじを腰の方へ引き寄せるようにしてダンベルを上げる。このとき、背中が丸まらないよう注意する
ダンベルを使用した片手での「ベントオーバーロウ」は、ほかのバリエーションに比べ、腰への負担を軽減しておこなえることが特徴。
まずはフラットベンチに片手と片ひざをつき、身体を安定させる。このとき、反対の足はベンチから遠ざけ、肩幅よりも広く設定することで、より安定感が得られる。空いている方の手でダンベルをしっかりと握り、背中は真っ直ぐに伸ばした状態のまま、ひじを腰に近づけるイメージでダンベルを身体の方へ引き上げる。
この際、上半身を安定させ、ひねらないようにするのがポイント。背中をまっすぐに保つことで、腰への不必要な負担を避けられる。
スミスマシンでの「ベントオーバーロウ」
<やり方>
- スミスマシンのバーを最低位置に設定し、適切な重量を装着する
- 肩幅で足を広げ、同じく肩幅でバーベルを握る
- ひざを少し曲げ、背中をまっすぐに保ちつつ、上半身ができるだけ地面に平行になるように前に傾けて位置を固定する
- バーをひざのすぐ下に置く
- 腕ではなく背中の力を使って、バーをお腹の方へ引き寄せる。このとき、動きがみぞおちとへその間をめざすようにする
- 引き上げた後は、ゆっくりとバーを下ろし、初期位置に戻す
フリーウェイトで行うものに比べ、軌道が固定されるため、バランスを保ちやすく正確なフォームを維持しやすい。ストッパーを掛けることで安全なトレーニングが可能で、初心者にもおすすめ。
引き上げる際は、背中の筋肉を意識して、ひじを身体の側面に沿って引くことが重要。
スミスマシンでは可動域が制限されて、「ベントオーバーロウ」がやりづらいと感じる人もいます。筋トレでは可動範囲をフルレンジで動かすことで効果を高められるのですが、その分負荷も強くなります。そのため、初心者の人は最初は意図的に可動域を狭くして、慣れてきたら徐々に広げていくという流れでもよいかもしれません。
チューブでの「ベントオーバーロウ」
<やり方>
- 足を腰幅で開き、足底でチューブを踏んで固定する
- チューブを左右均等に握り、立ち姿勢を取る
- ひざをわずかに曲げ、背中を直して上体を前に傾ける
- チューブを持った手をひざ下に位置させる
- 上体を動かさず、背中の後ろでひじが触れ合うように脇を締めてチューブを引き上げる
- その後、ゆっくりとチューブを下ろし、開始位置に戻す
チューブを用いた「ベントオーバーロウ」は、自宅でも気軽にできるのが魅力。チューブを選ぶ際は、自身のレベルに合った強度のものを選ぼう。
チューブを引き上げる際は、両ひじを背中の後ろでくっつけるようなイメージでおこなうことがポイント。
「ベントオーバーロウ」で役立つ器具の使い方
ここでは、ベンチプレスで使うトレーニング器具をご紹介。
動かし方などを画像と動画で解説するので、参考にしながら正しく使えるようにしよう。
「バーベル」の正しい使い方
「スミスマシン」の正しい使い方
逆手?順手?「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」の握り方
「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」には以下の3種類の握り方がある。
・リバースグリップ/アンダーグリップ
・パラレル
それぞれ負荷のかかり方や負荷がかかる部位が異なるので、自分に合った握り方を探してみよう。
順手:オーバーハンドグリップ
手の甲を正面に向ける握り方である「オーバーハンドグリップ」は、肩甲骨を内側に寄せやすくなり、僧帽筋への刺激が強まるため、背中の筋肉を集中的に鍛えられるのが特徴。広背筋の収縮を強調する効果があり、「背中を厚くしたい人」におすすめ。
ただし、この握り方は手首を曲げてしまいやすく、手首への負担を増やしてしまうこともある。手首の保護には、バンドを使用するのもおすすめ。
逆手:リバースグリップ/アンダーグリップ
手の平を自分から見て正面に向ける握り方である「リバースグリップ」は、上腕二頭筋をよく使うため、重量を扱いやすいのが特徴。
また、手の幅を広げると扱える重量は下がってしまうものの、とくに広背筋に効かせやすいため、「背中を広くしたい人」におすすめ。
パラレルグリップ
手のひらを身体の内側に向ける握り方である「パラレルグリップ」は、ダンベルやチューブを用いた「ベントオーバーロウ」での握り方。上腕二頭筋の関与が少ないため、背中の筋肉、とくに広背筋と僧帽筋が強い収縮感を得やすく、集中的に鍛えられるのが特徴。
「パラレルグリップ」の場合、比較的身体に自然な握り方のため、手首や肩関節への負担が少なくなり、手首や肩に不安を感じる人も安心しておこなえる。
どのグリップを選択するかは、トレーニングの目的だけでなく、自身にとってやりやすい握り方は何か、身体の状態や負担がどうかなどを考慮して選ぶとよいです。
「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」の効果を高めるコツ
「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」をおこなう際の5つのコツを紹介。
・前傾の姿勢を保つ
・重心はかかと側にする
・肩甲骨を引き寄せる
・反動を利用しない
これらを参考に、安全かつ効果的なトレーニングができるよう意識してみて。
ただし、「ベントオーバーロウ」は腰に負荷がかかりやすいトレーニングのため、腰痛持ちの人は注意が必要。痛みを感じたらトレーニングをすぐ控えるようにしよう。
背中を丸めない
背中を丸めた猫背のような状態で行うと、腰に不必要な負担がかかり、腰痛のリスクが高まる。そのため、トレーニング中は常に胸をピンと張り、背筋をしっかりと伸ばすことを意識しよう。
これにより、肩甲骨が適切に動き、対象の筋肉にきちんと刺激が伝わりトレーニングの質が向上する。また、腰への負担やケガのリスクを減らすことにもつながる。
前傾の姿勢を保つ
正しい前傾姿勢を深く保つことで、背中や僧帽筋中部に効果的に刺激を与えることができる。セットの後半で身体が疲れてきても、意識して前傾姿勢を維持するようにしよう。
前傾姿勢が保てなくなってきたら無理はせず、フォームを崩さずに実施できる重さに調整しておこなおう。
重心はかかと側にする
バーベルやダンベルを引き上げる際、ひざを前に出しすぎて重心が前に傾くと、背中よりも腕や肩に負担がかかり、本来鍛えるべき背中の筋肉に十分な刺激が与えられない。そのため動作中は、重心を後ろに置くイメージを持つようにしたい。
重心をしっかりとかかと側に置くことで、身体の安定感が増し、安全なトレーニングが可能になるだけでなく、より多くの重量を扱うこともできる。
肩甲骨を引き寄せる
腕の引きだけで動作を行った場合、背中の筋肉を効果的に刺激できないだけでなく、肩関節のケガにつながってしまう。
そのため、ただ腕を引くだけではなく、肩甲骨を大きく開いてからしっかり寄せることを意識して、背中の筋肉にしっかり刺激を与えよう。
肩甲骨を引き寄せる感覚が掴みにくい場合は、ウォーミングアップで肩甲骨を動かす練習を取り入れるのがおすすめです。また、バーベルの持ち方を変えてみるのも1つの方法で、手の幅を変えることで、刺激の強さや角度が変わり、肩甲骨をより意識しやすくなります。
反動を利用しない
反動を使ってしまうと、足の踏ん張りが効かなくなり、体幹が安定しなくなるため、正しいフォームを保つことが難しくなる。また、目的の筋肉群に十分に効かせることもできなくなってしまう。
ほか、腹圧が抜けやすくなり、腰を痛めるリスクが高まるため、反動を使わず肩甲骨を引き寄せることを意識しよう。
「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」の重量や回数
ここでは、「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」の適切な重量や回数を紹介。
ただし、筋肉量やトレーニング歴などによって、適切な重量は変わってくる。まずは「低負荷・低回数」から少しずつ慣れていくようにしよう。
「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」の重量・回数・頻度(目安)
初心者の場合、「10kgのEZバー」か「5kg以下のダンベル」を活用するなど、体重の3分の1以下を目安に。
筋力アップが目的の場合は「3~7回で限界が来る重量」、筋肥大が目的の場合は「8~12回で限界が来る重量」、筋持久力の強化が目的の場合は「15~20回で限界が来る重量」を目安におこなおう。また、ダイエットを目的とする場合は「15〜16回」、スタイルアップを目的とする場合は「12~15回」を目安におこなおう。この際、セット間のインターバルは「60~90秒」で設定するとよい。
また、トレーニング頻度については、「週に2~3回」が効果的で、過度な頻度は筋肉の回復を妨げて、逆効果になることもある。適切な日数を空けて、筋肉の成長と回復を促すのが重要。
「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」に適したトレーニングアイテム
ここでは、「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」をおこなう際に便利なアイテムを紹介。本格的に取り組みたい人は、痛みやケガを予防するためにも購入を検討してみて。
リストラップ
「リストラップ」は、手首を包み込むように装着できるため、手首をしっかりと固定し保護してくれる。そのため、安定したフォームを維持しながらトレーニングを行うことが可能に。
また、とくに高重量でおこなう際は、握力が先に限界が来てしまうことがあるが、「リストラップ」を使用すれば、握力の疲弊を助けつつ、筋肉を効果的に鍛えられる。
リストストラップ
「リストストラップ」の使用により、手とバーの密着度が上がり、握力の消耗を減らすことができる。
とくに「ベントオーバーロウ」や「デッドリフト」などの下から上に持ち上げる種目では、手が滑りやすく、握力の消耗も激しい。そのため、背中をハードに鍛えたい人やバーベルでのトレーニング、握力に自信がない人におすすめ。
「ベントオーバーロウ(ベントオーバーローイング)」に関するQ&A
「ベントオーバーロウ」と「デッドリフト」の違いは?
A:「ベントオーバーロウ」は背中の筋肉を集中的に鍛えるもので、「デッドリフト」は、ハムストリングやお尻、腰などに効果的。
「ベントオーバーロウ」はとくに僧帽筋や広背筋に効果的。バーまたはダンベルを持ち、前傾姿勢から背中の筋肉を使って重量を引き上げるため、背中の筋肉に刺激を与えます。
一方、「デッドリフト」は、ハムストリングやお尻、腰などに効果的な全身運動。地面から重量を持ち上げる動作によって、全身の筋肉群に均等に負荷をかけられます。そのため、背中を強化し、形を整えたい人には「ベントオーバーロウ」、全身の筋力を上げたい人には「デッドリフト」がおすすめです。
下記の記事では、「デッドリフト」で鍛えられる部位や効果、やり方を詳しく解説しているため、興味がある人は参考にしてみよう。
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背中のトレーニングは「ベントオーバーロウ」だけでも十分?
A:背中の筋肉を均等に強化したい場合は、他トレーニングと組み合わせるのがおすすめ。
「ベントオーバーロウ」は、背中全体にアプローチし、とくに広背筋を中心に僧帽筋にも効果的。
ただ、背中は複雑な筋肉の集まりであり、「ベントオーバーロウ」だけでは鍛えきれない部分もあります。「ラットプルダウン」や「シーテッドロー」などと相性がよく、組み合わせることで、背中の上部から下部、内側から外側まで幅広く鍛えることができます。また、ハムストリングスやお尻の筋肉も同時に鍛えられる「デッドリフト」もおすすめです。
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アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士として、運動の大切さを広める活動を行っている。2014年からは青山学院大学駅伝部のトレーナーも務めており、東京神楽坂にある会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB100」で一般の方やアスリートを指導。「科学的根拠に基づき、必ず結果を出す」が合い言葉で熱意のある指導を常に心がけている。