Biz 4 Well-Being

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災害大国・日本が直面する「水」不足とウェルビーイングの関係性。小規模分散型の水循環システムで、世界の水問題を解決する

自宅では蛇口をひねれば水が必ず出て、入浴やトイレも何不自由なく出来る。疑いもしない日常が崩れるのは、災害時ではないだろうか。水道が止まってしまったときに、いかに人間にとって水が重要であるかということを認識する。そして途上国では、災害時でなくとも日常的に子どもたちが水を汲みにいくために何十キロもの道のりを歩いていく毎日を繰り返す。日本にいるとなかなか自分ごと化する機会は少ないが、人類にとって水問題は大きな課題だ。

その課題に取り組んでいるのが、WOTA株式会社。彼らは上下水道を引くのではなく、水を循環させる小さなプロダクトを開発している。「WOTA BOX」や手洗いスタンド「WOSH」は災害現場やコロナ禍で大きな注目を集め、WOSHは東京都庁のオフィスにも導入された。

WOTAはなぜプロダクトを用いて水問題を解決しようと考えているのか。その先にはどのようなウェルビーイングが実現されるのか。WOTA株式会社の代表取締役・前田瑶介さんに、​​Wellulu編集部プロデューサーの左達也とライターの齋藤優里花が話を伺った。

【本記事のリリース情報】
ウェルビーイングメディアWellulu(ウェルル)で代表前田が対談取材を受け、そのWEB記事が公開されました

徳島、災害現場、途上国で感じた上下水道インフラの課題

左:水の領域のスタートアップというのは日本では希少かと思います。水で起業しようと思われたきっかけは何でしたか?

前田:きっかけのひとつは、私が生まれ育った徳島県の環境にあります。徳島県は、下水道普及率が日本で最も低く、私の周囲でも、湧き水からホースを引いて家の蛇口に繋げて給水し、汲み取り便所等が多くありました。雨が降れば湧き水が濁りますし、「こっちの湧き水は冷えていてスイカを冷やすのに良い」「こっちは甘いから下校時に飲もう」とか、水の流れが変わって湧き水が変われば、バックアップを想定して別の湧き水にホースを変えることも日常でした。

齋藤:下水道処理人口普及率は全国平均が80.6%であるのに対し、徳島県は18.7%と大きく差があります。台風に襲われやすい徳島県では、汚水より雨水の処理を優先してきたこと、人が住む地域が山間部に点在しており、下水道を1本整備しても利用人口が一気に増えるわけではないことが理由だと言われています。

前田:人口が集中する都会では上下水道の整備によって、一気に人々が便利に水を利用できるようになりましたが、今日の上下水道自体もまだまだ完成形ではなく課題があります。それを痛感したのが、2011年3月11日の東日本大震災でした。私はちょうど3月10日に大学の合格発表があり、東京に来ていたのですが、都市のインフラが一気に止まり、みんな不自由さを感じたと思います。高度に発達し、複雑化し、分業が進んだ結果、生活者一人ひとりには、何が原因でどこで水が止まっているのか、何も分からない。飲み水が3日間なければ人間は生きていけないのに、バックアップが想定されていない。それでは、目の前にある神田川は飲めるのか? 飲めなくても洗濯には使えるのか? ということも分かりません。都市では水との距離が開きすぎていると感じました。

左:おっしゃる通り、都市に住んでいて、水の問題を自分ごと化して考えるきっかけはほとんどないと思います。水とは距離がありますね。

前田:ええ。距離の問題をものすごく感じると同時に、ライフラインはまだ完成していないのだと気づかされました。東日本大震災の避難所にも行ったのですが、津波ではなく、避難所で水が使えなくて大勢の方が亡くなっていくのを目の当たりにしました。日本は災害大国なのに、災害の度に止まるインフラというのは不十分ではないかと感じたのです。

左:普段は日常的に使用できているため、問題視できていませんが、災害時には水の問題というのはいつも発生していますね。

前田:一方で、財政の問題もあります。1億人もの人口に対して80.6%の下水道処理人口普及率を達成できたのは、これまで我々の先輩方が水問題に真摯に取り組んできた結果です。しかし10兆円の総費用に対して、2022年には1.2兆円もの赤字が発生、2040年には4.0兆円に膨らむと言われている中で、これから人口が減少していき、将来の世代の負担が大きくなり続けます。夕張市の財政破綻など、徐々にその片鱗が見え始めていますよね。日本はどの国よりも真摯に上下水道の普及に取り組んだ結果、普及を進めた先に赤字財政になると証明したわけです。日本が課題先進国と言われるのとほぼ同義ですね。

左:災害や人口減少、財政の課題を解決する新しい水の供給・処理の方法を考える必要があるのですね。

前田:はい。そこで我々が考えたのは、小規模分散型の水循環システムと、水処理自律制御システムです。WOTA BOXは、この2つのシステムを有しており、水道のない場所での水利用を実現するポータブル水再生システムで、機能を拡張するオプションユニットと接続すれば、いつでもどこでも水を使用することができます。また排水の98%以上を再生して 循環利用を可能にしています。

齋藤:WOTA BOXはかなりコンパクトで、これまでの巨大な上下水道のシステムとは大きく異なりますね。

前田:私は途上国のスラムで生活をしたこともあるのですが、綺麗な水が飲めないことで子どもたちの健康に影響があることを課題に思わない親はいません。水問題を解決したいと願う人は世界中にいます。しかし、なぜ解決が進んでいないのか。それは簡単に誰でも解決できる方法がないからです。上下水道を作ろうと思ったら、何十億、何百億円とかかります。さらに、長い時間もかかります。すぐに解決することができないんです。

齋藤:何百億円をかけて上下水道を作るというのは、現実的ではない国も多くあると思います。

前田:以前、マサイ族の村を訪れた時、人々はトヨタのランドクルーザーに乗り、家の庭にソーラーバッテリーシステムがあり、その発電で冷蔵庫を使用していました。iPhoneを持ち、YouTubeも楽しんでいる。そこまで便利になったのに、水はライオンなどがいる危険のある道を通り、何キロも歩いた先まで汲みに行きます。汲んだバケツ一杯の水で、1日を過ごすんです。その違いは、土木建設業的アプローチか製造業的アプローチかだと気づきました。製造業的アプローチならば、より速く、より遠くまで、水を届けられると考えたのです。

災害現場でWOTAが実現したウェルビーイング

齋藤:WOTAでは、まず災害現場での活用を進められていますね。

前田:何も実績のないベンチャー企業がいきなり水問題を解決したいと言っても、誰にも預けていただけません。まず我々ができることは、今、水に対して困っている現場に行き、一つひとつ解決していくことが重要だと考えました。そこで、直接避難所に連絡し、水に困っている方たちに我々の試作品を持っていくことから始めたんです。例えば、2018年の西日本豪雨。6月28日から7月8日にかけて豪雨が発生し、我々が入浴を提供したのは7月12日。1週間以上お風呂に入っていない方が大勢いました。

齋藤:気温の高い時期に1週間以上お風呂に入っていないと、ストレスを抱えていた方も多かったと思います。
前田 翌年の2019年には長野県で台風19号の被害が大きく、2ヶ月間6箇所の避難所で我々のプロダクトを展開し、入浴ができる環境を作りました。

齋藤:避難所で生活している方々は、不安や混乱も含めたストレスを抱えていると思います。その中で入浴を提供したことで、どのようなウェルビーイングが実現できたと感じられますか?

前田:1週間お風呂に入れなかった状態の方が、お風呂に入れたり水が使えたりした時の感動は言葉にならないほどです。ずっとムスッとしていたお子さんが笑い出したり、泣き出す方もいたりします。

左:その様子を見られるというのは、事業をやられている中でウェルビーイングに繋がっているのではないでしょうか。

前田:まさにそうです。それに、この体験を経て、みなさん水の課題と水の大切さに気づかれます長野県では小学校で授業をしてほしいとご依頼をいただくこともありました。災害を経験して、新たに自分も何か災害課題を解決するものを作ろうと志す方も多くいらっしゃいます。災害がないことが1番良いですが、そこから気づきを得ることもあるということです。

左:水について自分ごと化し、水との距離が一気に縮まるわけですね。

前田:そういった災害現場での取り組みから始めて、ここ数年は自治体の方々から、災害時の水問題だけでなく、過疎地域や島国での日常の水の問題もWOTAに解決してほしいと言っていただけるようになりました。我々のプロダクトやプロサイトを使えば、家で使った排水を回収してそのまま浄水、飲めるレベルの水を100%近く再生循環供給できます。不足分は雨水で補給します。これができれば、上下水道がない家でも水を自給自足でき、サステナブルに暮らすことができます。これを広げていくのが、次の我々の事業の柱です。

小規模分散化で人類の課題を解決したい

左:前田さんは非常に課題意識への解像度の高さを感じます。幼少期から水への課題意識をずっと感じられていたのでしょうか?

前田:幼少期は生物の研究をしており、中学生の頃にある賞を受賞してアメリカのNASAとアメリカ国立衛生研究所(NIH)に派遣していただきました。そこでアル・ゴア氏の「環境問題はポリティカルイシューでも科学的イシューでもなく、総合的な倫理的イシューである」という言葉を聞き、環境問題に取り組めば、言語の壁を超えて世界中の人と繋がれるんだと感じました。生態系というのは誰かの死骸や誰かの排泄物が誰かの餌になり、全体最適化されています。全体で見れば、余剰なものは存在しないようなバランスで出来上がっているわけです。アル・ゴア氏のお話を聞いて、環境問題でも同じように、部分と全体のバランスを調和させれば良いのではと考えるようになりました。人間が出したものが環境に負荷をかけているということと、人間が自由自在にのびのびと暮らしていくこと、そのバランスを取っていく必要があると感じました。

左:そこから徳島県の環境もあり、水問題に関心を持たれたのですね。

前田:高校時代には食用納豆由来γポリグルタミン酸を用いた水質浄化の研究を行っていました。納豆を食べる文化さえ定着すれば、各家庭で水の問題を民主的に進められるのではないかと思ったのです。ただ、それだけでは水問題の解決は難しいことが分かりました。水を取り巻く産業構造や社会構造、産業の結果生まれる都市の生活について学ばなければ、リアリティのある技術の社会実装プランが考えられない。そこで都市開発や住宅設備、浄化槽などを学べる建築分野に進みました。

左:そこから土木建築業で実現できること、製造業で実現できることなどの解像度を上げていかれたのですね。最後に、前田さんの今後のビジョンを教えてください。

前田:私が水問題を解決した先に見据えているのは、我々のプロダクトや要素技術を使ってくださる、世界中の志ある方々とのコミュニティの形成です。90億人、世界中の人々と、水問題を通じて繋がりができる。これは何よりの財産です。水問題が解決できたら、人類全体の課題を人類で解決した成功事例になります。それを解決できるコミュニティは、他の課題も解決できるはずです。私はこのコミュニティで「WEFAM」、つまりWater(水)、Energy(エネルギー)、Food(食)、Air(空気)、Material(素材)の5つの分野での小規模分散化を実現したいと考えています。つまり基本的な物質資源、生活資源のある物において全てのものが小さく循環している状態にするということです。一人ひとりが自由に生きるということと、サステナブルであるということの矛盾が解消し、資源不足の問題・貧困の問題も解決した状態で、人類が22世紀に進める未来を創っていきたいと思います。

前田瑶介さん

WOTA株式会社 代表取締役

徳島県出身。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院工学系研究科建築学専攻(修士課程)修了。小学生の頃から生物学研究を開始し、中学生で水問題に関心を持ったことをきっかけに、高校時代に水処理の研究を実施。大学では都市インフラや途上国スラムの生活環境を、大学院では住宅設備(給排水衛生設備)を研究。ほか、デジタルアート等のセンサー開発・制御開発に従事。WOTA CEOとして、水問題の構造的解決を目指す。

左 達也さん

Wellulu編集部プロデューサー

福岡市生まれ。九州大学経済学部卒業後、博報堂に入社。デジタル・データ専門ユニットで、全社のデジタル・データシフトを推進後、生活総研では生活者発想を広く社会に役立てる教育プログラム開発に従事。ミライの事業室では、スタートアップと協業・連携を推進するHakuhodo Alliance OneやWell-beingテーマでのビジネスを推進。Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。毎朝の筋トレとランニングで体脂肪率8〜10%の維持が自身のウェルビーイングの素。

齋藤 優里花さん

ライター

慶応義塾大学文学部卒業。JTB首都圏(現:JTB)、リクルートコミュニケーションズ(現:リクルート)にて勤務したのち、独立。マーケティングからweb制作ディレクション、取材・ライティング、メディア運営と幅広く活動。幼少期の海外在住経験や、大学時代にシェイクスピアについて学んだ経験から、芸術が自身のウェルビーイングに必要不可欠。

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