
「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージに掲げ、ソーシャル・エンタープライズとして、事業を通して社会課題の解決に取り組む株式会社LIFULL(以下:LIFULL)。2024年現在、グループとして世界63カ国でサービスを提供。不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME′S」、空き家の再生を軸とした「LIFULL 地方創生」、シニアの暮らしに寄り添う「LIFULL 介護」など、この世界の一人ひとりの暮らし・人生が安心と喜びで満たされる社会の実現を目指し、さまざまな領域に事業拡大をしている。
2023年末には、1997年の設立以来初の社長交代を行い、創業オーナー×次世代リーダーのダブル体制となった。「利他主義」を社是に組織運営を行い、過去には「ベストモチベーションカンパニーアワード」にて第1位を受賞(※)して、「日本一働きたい会社」となっている。まさにウェルビーイングな組織を体現している会社ともいえるだろう。
※受賞当時は株式会社ネクスト
そんな「日本一働きたい会社」を育てたLIFULLの井上会長、そして井上氏から新たに社長のバトンを受け継いだ伊東社長に、ウェルビーイングな組織についてWellulu編集部の堂上研が話を伺った。

井上 高志さん
株式会社LIFULL 代表取締役会長

伊東 祐司さん
株式会社LIFULL 代表取締役社長執行役員
大学を卒業後、2006年に株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)に新卒で入社。 『HOME′S(現:LIFULL HOME′S)』の営業としてテレアポや飛び込み営業を経験した後、2015年に最年少で執行役員に就任。2019年〜LIFULL HOME′S事業本部長、2020年〜取締役執行役員を経て、2023年12月に代表取締役社長執行役員に就任。
2017年に立ち上げた『住まいの窓口』は、今では全国に約70店舗を展開され、満足度99%の黒字事業となっている。

堂上 研さん
Wellulu編集部プロデューサー
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。
「何を扱うか」以上に重要なのは、「誰と働くか」
堂上:ウェルビーイングな組織運営を実現している会社を追っている「Wellulu」としては、ずっと注目していたLIFULLですが、2023年末に井上さんから伊東さんに社長交代されたと伺い、これは取材させていただかないと! と今回の鼎談が実現しました。
今回はウェルビーイングな組織運営について、そしてお二人個人のウェルビーイングについてお話を伺えればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
井上・伊東:よろしくお願いします。
堂上:早速ですが、伊東さん、自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?
伊東:私は2006年、新卒としてLIFULLの前身の株式会社ネクストに入社しました。LIFULLは2004年から新卒採用を始めているので、僕は第3期生としての入社でしたね。当時の従業員数は80名くらいで、今のLIFULLの10分の1くらいの規模です。
井上:マザーズ市場に上場する半年前という、ちょうど過渡期に入社してきたんですよね。
伊東:はい。最初は不動産サイト『HOME′S(ホームズ)』(※)の営業職として入社したので、上司からエリア別のリストを渡され、朝からテレアポや飛び込みをひたすら行う……という毎日でした。
※現:LIFULL HOME′S(ライフルホームズ)
堂上:そもそも、なぜLIFULLへの入社を決めたんですか?
伊東:いくつか理由はあるんですが、1番大きいのは井上さんの人柄に惹かれたことです。当時ベンチャー企業を中心に見ていて、色々な社長のトップセミナーに参加していた中で、井上さんのプレゼンに圧倒的に魅了されました。「この人の下で働きたい!」と思いLIFULLに入社しました。
堂上:井上さんに惚れちゃったわけですね。
伊東:まさにその通りです。セミナーの中で1番心を揺さぶられたのが、「規模が大きく安定して世界にも行けるジャンボジェット機(=大手企業)の歯車の一部になるか、不安定で規模も小さいセスナ機(=ベンチャー企業)かもしれないけれどコックピットに乗るのか、君たちが選ぶんだよ」という一言。これを聞いて、「コックピットに乗りたい!」と素直に思ったんです。
あとは、同期の中でいち早く活躍したいと思っていたので、採用人数が少ない会社というのが当時の就活の軸でした。実際、LIFULLは同期が15人くらいでしたね。
堂上:事業内容はそこまで重視していなかったんですね。
伊東:そうですね。むしろ当時の私は実家暮らしだったので、応募するまで『HOME′S』のサービス自体知りませんでした……。
堂上:当時の伊東さんにとっては、井上さんと一緒に働けることがウェルビーイングだったんですね。僕もよく家族や同僚に「何をするかじゃない、誰とするかだ」という話をするので、ものすごく共感できます。
LIFULLは「超」がつくほどの利他主義の集まり
伊東:この話をしていて思い出したんですが、現在LIFULLで働いている人の8割以上はビジョンや社員に惹かれて入社しているような気がします。あくまでも僕の肌感ですが、「不動産情報ポータルサイトの仕事をしたい」という志望動機で入社してきたのは、1〜2割なんじゃないかな……。
堂上:伊東さんだけじゃないんですね。
伊東:はい。LIFULLはまだまだベンチャー企業なので、人の入れ替わりは多いんですが、OB・OG会をするとびっくりするくらいみんなLIFULLのメンバーのことを褒めてくれるんです。本人たちは会社を卒業したにも関わらず、「あれだけ利他主義の人が集まった会社はないよね」「仕組みや制度はまだ改善余地があるけど、メンバーは超最高だよね」って。
井上:辞めた人も働いている人も、「LIFULLって本当に嫌な人いないよね」ってみんな口を揃えて言うよね。
堂上:社是にもなっている「利他主義」というのは、井上さんが掲げたんですか?
井上:そうですね。26歳での創業までリーダー経験がなかったので、組織を作る際に何を指針にすべきかまったく分からなかったんです。色々な経営者の方の本を、片っ端から読んでいる中で目に留まったのが、京セラ株式会社を設立した稲盛和夫さんが掲げていた「利他の心」でした。あれだけの経営の神様が言っているなら間違いない! と思って参考にさせていただいたんです。
堂上:僕も「Wellulu」を通してウェルビーイングを追う中で、最後は結局「利他」「思いやり」「恩送り」のような考えに行き着くんじゃないかと思っていました。そういう環境であれば、人と人とのつながりが増えて、みんながウェルビーイングになっていくのではないかと。ウェルビーイングな状態の社員を増やすことは組織運営にも重要だと、『Harvard Business Review(ハーバード・ビジネス・レビュー)』(※)でもいわれています。
※アメリカ合衆国の経営学誌『Harvard Business Review(ハーバード・ビジネス・レビュー)』
堂上:LIFULLはまさにウェルビーイング経営を体現している会社だと感じるんですが、意識して行っている独自の取り組みなどはありますか?
井上:まずは「妥協のない最高の採用」を心がけています。LIFULLのビジョンにフィットしているか、つまり「社会課題を解決したい」と心底思っているかどうかを、採用面接を通じて徹底的にスクリーニングするんです。中途採用でも、スキルよりもまずそこを見ていますね。
堂上:最初からビジョンに共感してくれる人を集めているんですね。
井上:はい。もともとそうじゃなかった人を、社内でいくら育成しても根本的な部分は変わらないというのが基本的な考えです。
そうやって利他主義のポテンシャルがある人ばかりを採用しているので、入社後もみんなが思いやりを持って働けて、誰がどこの部署に配属されてもパフォーマンスを発揮できるんです。上司と馬が合わないことがあっても、別の部署では必ず活躍してくれます。
創業当時からそういった環境を作ってきたので、たまにビジョンへの共感性が低いと感じる人が入社しても、数年働いていると不思議と「誰よりもいいやつ」になっていくんです。
伊東:「誰よりもいいやつ」、何人か思い浮かびます(笑)。
堂上:利他の考えやウェルビーイングって、周囲の人にも移っていくんですよね。LIFULLはそれが仕組み化されていて、まさにウェルビーイングな組織だと思います。
井上:それから、社員の言いたいことは全部聞くというスタンスも大切にしています。目安箱を設置して匿名で投稿できるようにしたり、「メールもいつでも送って来ていいよ!」と定期的に伝えたり。社内でピザパーティーを開いて、お酒を飲みながら「最近どう?」みたいな会話もよくしています。
堂上:経営者と従業員の距離感が近いというのも、組織におけるウェルビーイングの秘訣かもしれませんね。
井上:これも京セラの稲盛さんの真似なんですけどね(笑)。でも、そういうカジュアルな場でしか聞けない話って実はすごくたくさんあるので、きっと大事なんだと思います。
伊東:会長室も常にフルオープンで、だいたいお中元などでいただいたお菓子が置いてあるので、行けばもらえるものだとみんな思ってますよね。
井上:ガラス張りにしているので、いるかいないか、何をしてるかまで見えて、扉が開いてればノックしないで入ってきてOK、というふうにしているんです。
堂上:それは創業当時からですか?
井上:そうですね。会社として利他主義を実現するためには、まずは従業員みんなが自己実現をすることが大事だと思っているんです。そのために、お給料も相場より少しでも多く出せるよう頑張りますし、異動の希望があったらできるだけ叶えてあげようと思います。
今は従業員が1,000人以上いるので、パズルみたいで大変なんですが……。従業員からの希望が出るたび、役員や部長陣を集めて、ものすごい時間を使って配置について話し合っています。
堂上:経営陣の労力を惜しまず、どんどん新しいことにチャレンジさせるというその考え方は、本当に素晴らしいですね。「Wellulu」の読者の中には、企業の人事やCHRO(最高人事責任者)もいるので、LIFULLの人事の考え方を参考にしたいという方も多いと思います。
井上:まさにそういった方に向けて、『日本一働きたい会社のつくりかた』という本を出しています。私が「日本一働きたい会社を作りたい」と思ってから2017年に「ベストモチベーションカンパニーアワード」で1位を受賞するまでの、12年間の失敗と成功の軌跡をすべてさらけ出しているんです。
井上:良い組織作りのためには、従業員一人ひとりの内発的動機を邪魔せずにブーストすることが大事だということが書かれています。たとえば世界で活躍するスポーツ選手も、「金メダル獲ったらボーナスあげるよ」といわれてやっているわけじゃないですよね。本人が人生かけてそのスポーツをやりたいと思っているからやる。組織運営においても、入社してもらった以上、こういう内発的動機を吸い上げて、徹底的に支援することが重要です。
堂上:素晴らしいですね。
井上:私が「日本一働きたい会社を作りたい」と思って人事業務未経験の社員に「やってみない?」と声をかけた時も、「未経験ですけど人生かけてやります!」と言ってくれました。それがこの本の著者で、今はLIFULLのCPO(人事本部長)を務める羽田という社員です。
堂上:「日本一働きたい会社」の実現は、まさに羽田さんの内発的動機によるものだったんですね。内発的動機、組織運営においては確かにかなり大事ですよね。
伊東:LIFULLでは、半年に1回全社員にキャリアデザインシートを書いてもらっています。将来どうなりたいか、そのためには5年後には何をしていたいか、3年後は? 1年後は? じゃあ直近で部署異動の希望はある? と細かく聞いているんです。上司は部下のキャリアビジョンを知り、長期的なアドバイスや関係者への引き合わせなどを行い、部下のキャリアを支援するため、意外とみんな素直な気持ちを書いてくれます。
井上:「5年後に独立したいです」とかも正直に書いてくれるよね。LIFULLには独立支援制度もあるので。
堂上:経営陣が社員の自己実現を徹底的に叶えようとしてくれるからこそ、従業員も伸び伸びと働けるんですね。まさにウェルビーイングじゃないですか。
井上:それから、LIFULLの「コーポレートユニバーシティ(企業内大学)」制度も面白いですよ。デジタルマーケティングやAI(人工知能)など60以上の講座があるんですが、講師の8〜9割はLIFULLの従業員なんです。
伊東:普段人前に出るのが苦手な従業員でも、自分の得意な分野の講師をお願いすると意外とみんな楽しそうにやってくれるんです。講師を担当した従業員のモチベーションも上がっていく良い制度だと僕も思います。
井上:そういう制度を利用しながら、長年かけて、ウェルビーイングな組織文化の作り方の生態系がLIFULLの中にできてきた、という感じです。
売上だけではない、お客様の笑顔が生まれたら「1ライフル」
伊東:LIFULLの利他主義の考え方は、実際のプロジェクトやサービス自体にも活かされています。
堂上:具体的にお聞きしていいですか?
伊東:たとえば、僕が2017年に立ち上げた『住まいの窓口』。LIFULLというとインターネットの会社と思われがちなんですが、私が最初立ち上げたこのサービスは、オフライン、つまり対面で不動産のことについて相談できるというものなんです。
もともと僕は『HOME′S』の中の人だったので、ユーザーから色々な相談が来るわけです。だけど、相談の多くは「どの物件がおすすめ?」ではなく、「家を買おうと思ったらまず何をすべき?」とか「不動産会社はどこがおすすめ?」とか、『HOME′S』を使う以前の内容なんですよね。
私らからしたら「いやいや、『HOME′S』使ってください」なんですけど、確かに不動産に関する根本的な相談に乗ってくれる人っていないじゃないですか。
堂上:確かに。言われてみれば『HOME′S』は「家を探す」ことが前提のサービスですもんね。
伊東:そうなんです。なので、『HOME′S』を使う手前の人に対してのサービスとして『住まいの窓口』を立ち上げました。LIFULLはインターネットでの集客が得意な会社なので、対面でのサービスは未経験だし、そもそも接客のマナーから身につけないといけないし、サービス立ち上げから1〜2年は泣きながらお客さんが来ないことを嘆いていました。
それでも何とか軌道に乗り、サービスリリースから7年経った現在では、全国で約70店舗を展開、満足度99%、事業としても黒字というところまできました。
堂上:すごい。社長になる前からすでに創業者じゃないですか!
伊東:これは後々気づいたことなんですけど、『住まいの窓口』のソリューションって「人」なんですよね。そこで先ほどの採用の話につながってくるのですが、もともと利他主義の人しかいない会社なので、お客様に寄り添ったハートフルな提案やアドバイスができるんです。
堂上:まさに「利他主義から生まれたサービス」ですね。
井上:そしてそれを、LIFULLでは「1ライフル」と呼んでいます。
堂上:1ライフルとは?
伊東:LIFULLでは、売上だけではなくて、その人が満足して帰ってもらえたら、成績として「1ライフル」という単位で評価しています。その人の「ライフ」を「フル」にしたよね、ということで「1ライフル」。
堂上:なるほど!
井上:『住まいの窓口』では、「家を建てようと思って相談に来たんですけど、相談しているうちにやめることにしました。ありがとうございました。」ということが起こるんです。会社の売上にはつながらなくても、お客様の笑顔が生まれた瞬間こそが「1ライフル」です。
私は前職の不動産デベロッパーでマンションを販売していたんですが、ある時、自社商品の中にはお客様に喜んでもらえそうな物件がなかったことがあったんです。だけどどうしてもお客様に満足していただきたかったので、競合他社の物件を探して紹介したんですよね。
自社の利益にはまったくつながっていないんですが、そのお客様がものすごく喜んでくれたんです。この笑顔をたくさん増やすことを目的に会社を創業したので、同じ想いで『住まいの窓口』を作ってくれて、本当に嬉しいです。
伊東:『住まいの窓口』に相談しにいらっしゃったそのお客様が、買わないという決断をしたとしても、ほかのお客様を紹介していただいたり、後日また違うタイミングで来ていただいたりすることも多いんですよ。
堂上:満足度が高いからこその循環ですね。
伊東:もうひとつ、『FRIENDLY DOOR(フレンドリー・ドア)』という、国籍や年齢、就業形態などが要因で住宅を借りづらい方、いわゆる住宅弱者と呼ばれる方を支援するサービスがあるんですが、これは僕の後輩が一人で立ち上げました。
最初は『HOME′S』に掲載している不動産会社28,000店舗のうちの500店舗くらいしか賛同しなかったんですが、5年間で5,000店舗超にまで増えました。
堂上:店舗数が増えたきっかけはなんだったんですか?
伊東:「共感」だと思います。このサービスを立ち上げた社員自身も外国籍なのですが、接客チェックリストとかも用意して参画いただいた不動産店舗の支援を行ってきました。その熱量が「1回やってみよう」という共感を生んだんだと思います。
堂上:ビジネスにおいてファーストペンギンが重要だといわれているように、いかに共感を生み、フォロワーを作ってコミュニティ化していくかは、とても大切なことですよね。従業員みんなが、自分の熱意をさらけだせる環境が整っているLIFULLは、やはり素晴らしいです。
井上:LIFULLでは50個くらいの事業がありますが、「儲かりそうだから」と始めたものはひとつもありません。ソーシャル・エンタープライズとして、「困っている人がいるんだからやらないわけにはいかないでしょ!」というのがLIFULLの企業文化です。
堂上:その企業文化こそが、従業員一人ひとり、そして組織全体のウェルビーイングにつながっているんですね。
記事内でご紹介した書籍はこちら
『日本一働きたい会社のつくりかた』(羽田幸広著 《株式会社ライフル執行役員人事本部長》/PHP研究所)
[後編はこちら]
【井上高志氏×伊東祐司氏×堂上研:後編】「利他の心」を育てたのは母親だった? 創業社長・新社長のウェルビーイングな生き方
大学を卒業後、入社した株式会社リクルートコスモス(現、株式会社コスモスイニシア)勤務時代に「不動産業界の仕組みを変えたい」との強い想いを抱く。
1997年、不動産テック企業として株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)を設立し、代表取締役に就任。2023年の社長退任後も代表取締役会長として株式会社LIFULLの経営に携わるほか、「世界平和」を目標としてさまざまな活動に携わっている。
https://lifull.com/
・一般社団法人 ナスコンバレー協議会 代表理事
・特定非営利活動法人PEACE DAY 代表理事
・一般社団法人 新経済連盟 理事
・公益財団法人 Well-being for Planet Earth 評議員