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【徳成旨亮氏×堂上研:後編】『CFO思考』著者が語る、ウェルビーイングに生きる意識の持ち方。趣味から生まれた感動の出会い

日本経済を支える伝統的大企業(JTC)では、経営陣と従業員の距離は決して近くない、というのが一般的なイメージであろう。しかし、とある企業のCFOは誰とでも笑顔で接し、従業員と話す時間も惜しまない。その人物が、100年の歴史で最大の赤字をたったの1年で回復させた、株式会社ニコンの取締役 兼 専務執行役員CFOの徳成旨亮さんだ。

徳成さんは「CFO」という“カタい”役職のイメージとは異なり、Wellulu編集部に出会った瞬間から私たちを笑顔で温かく迎え入れてくださった。

2023年6月、初めて本名で出版された『CFO思考』の内容にも触れながら、徳成さん自身がウェルビーイングな生活や働き方で心がけていること、会社組織にウェルビーイングな空気をもたらすために重視していることをWellulu編集部の堂上が話を伺った。

徳成 旨亮さん

株式会社ニコン 取締役専務執行役員CFO

1982年に三菱信託銀行入社。三菱UFJフィナンシャル・グループCFO兼三菱UFJ銀行CFO、米国・ユニオンバンク取締役を経て、2020年6月より現職。「Institutional Investor誌」のグローバル投資家投票で、⽇本の銀⾏業のベストCFOに2020年まで4年連続選出。主な著書に『CFO思考』(ダイヤモンド社)など。

※肩書は取材当時

堂上 研さん

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

「3つの施策」を指揮し、1年でニコンをV字回復

堂上:ニコンの歴史上最大の赤字を1年でV字回復させた「3つの施策」とはなんだったのですか?

徳成:1つ目の施策は、カメラ事業を「中高級機」に絞り、かつ人口の多い中国やインド市場でファン獲得に力を注いだことです。

スマホの登場以降、カメラの販売台数は減少の一途を辿っていましたが、スマホを入門編として写真の面白さを知った人が増え、より美しい写真を撮りたくなった時、「中高級機」のカメラの需要は生まれるはず。人口の多い中国やインド市場で特に若い層の開拓に力を入れることで、全体の収益向上が実現できると考えたのです。

こういった施策が奏功し、「カメラ事業(正式名称:映像事業)」は、2年連続の営業赤字から脱し、今は5つのセグメントで最大の利益貢献をしてくれています。

堂上:2つ目の施策はなんですか?

徳成:2つ目の施策は、「コンポーネント事業」をニコンの新たな収益の柱としたことです。

ニコンには、カメラをはじめとする「映像事業」と半導体などの露光装置を手掛ける「精機事業」に次ぐ収益の柱がないことが、長年の課題でした。そこでニコンが持つ膨大な技術の蓄積を生かして、部品やデバイス、コンポーネントの形で他企業に提供して、顧客企業とともに成長することを目指す事業を立ち上げました。

その結果、「コンポーネント事業」はたった1年で営業利益が1億円から127億円へ増加し、ニコン全体を支える柱になってくれています。

サステナビリティで成長を加速させる。大手航空会社と取り組む、環境に優しい革新的な取り組み

堂上:最後の3つ目の施策はなんだったのでしょうか?

徳成:3つ目の施策は、「サステナビリティを成長戦略のドライバーにした」ということです。

中期経営計画において、すべての事業部でサステナブルな社会や環境の実現に貢献するビジネスを主要施策として進めています。たとえば、弊社が独自で開発した「光加工機」を用いた取り組みがあります。

この取り組みでは、海中を高速で泳ぐサメの肌(サメ肌)の形状を参考にした加工を航空機の表面に施すことにより、航空機の抵抗を減らし、燃費改善やCO2削減を目指しています。全日本空輸(ANA)さん、日本航空(JAL)さんという日本を代表する航空会社と実証実験を行っており、加工を施した両社の航空機が既に飛んでいます。

自分の職務領域を一歩踏み出して提案するカルチャーが、「賞賛のウェルビーイング」を組織にもたらす

堂上:3つ目の施策でサステナビリティの話が出てきましたが、僕は「経営のサステナビリティはウェルビーイングと同じ」だと考えています。そこで、世の経営陣がニコンさんのようなサステナビリティな戦略を進めるには、どのような意識づけやアクションから始めたらよいと思いますか?

徳成:『CFO思考』の中に出てくる言葉を借りると、「全てのビジネスパーソンよ! アニマルスピリッツを持とう!」という話を伝えたいですね。

いわゆる日本の「プロフェッショナル」と呼ばれる人たちって、日本人の特性だと思うのですが、皆さん“奥ゆかしい”じゃないですか。アメリカだと逆に「私はグレードだろ」と皆さん自信満々なんですよね(笑)。

でも、そんな日本人のビジネスパーソンは自分の専門領域に対する知識が深いから、前提となる条件や制約が変化した場合の解を見つけることができる場合が多いんです。

堂上:たとえば、それはどのような領域においてでしょうか?

徳成:税金の話でいえば法律の範囲内というのが大前提ですが、企業価値の指標として見られるのは「税引後利益」なのですから、税金は抑えられるに越したことはないわけです。

そこで、GAFAをはじめとした多くの世界的企業はあらゆるタックスプランニングを行い、全体で払う税額を減らそうと工夫している。つまり、納税額を減らし「税引後利益」を増やすことが資本市場では“善である”という考え方もできるのです。

こうした考えの中で世界的企業は「税引後利益」で株価が決まり競争し続けているわけですから、日本企業だって同じ意識で戦っていかないと負けてしまいますよね。

堂上:世界との差がどんどん離れていってしまいそうですね。

徳成:たとえば経理や管理会計、財務といったどちらかといえばルーティンと考えられている業務にも、企業価値に貢献できる余地がたくさんあります。決められたルールに従って、期日までに財務諸表を作る、あるいは納税する、といった仕事の枠組みから離れて少し前提を変えたり、経営者のリスク許容度が変わったりすると、会計処理やタックスプランニングにも変化が生じる可能性があるんです。

徳成:こうした業務を担当している皆さんには、前例踏襲や安全運転からちょっとはみ出して提案してみる勇気を持つことが大切だと思います。私はチームのメンバーに対して、「皆さんは会計や財務や税務のプロなんだから、今から0.5踏み出した時にどうなるのか常に提案してください」と伝えています。「CFOである徳成さんが、ここまで経営としてリスクを取ってくれると、こんな展開があり得ます」と提案して欲しい、ということをお願いしています。ルールでがんじがらめに思える会計や財務なども、実は解釈の幅や理屈付けの余地があるんです。

一人ひとりが自分の担当範囲を少しはみ出す視点を持ち、少しリスクの許容度を上げた時にどうなるかを考える。そうして考えた提案が、直属の上司や経営陣に受け入れられると、それが企業価値の増大へとつながる。

堂上:それは、給料以上の喜びですよね!

徳成:そうなんです。仕事の本質は「自己実現」ですからね。そしてもっと言いますと、企業価値拡大に貢献したのであれば給料は後から上げることができますしね!

堂上:確かに、両方上がりますね。これは「ファイナンシャルウェルビーイング」の話になりますが、自分の提案が受け入れられたという自己満足感も得られますし、「評価が報酬に還元された」という目に見える“賞賛のウェルビーイング”へつながっていくわけですね。

徳成:その好循環を経営陣が意識的に生み出すことができる組織はとても強いと思います。だからこの「アニマルスピリッツ」は、皆さんに持ってもらいたいのです。

気分が乗らない時は無理しない。自分の「やる気リズム」に任せるのがウェルビーイング生活の秘訣

堂上:ここから少しプライベートな話題にもふれたいのですが、徳成さんご自身は何をやっているときに一番ウェルビーイングを感じますか?

徳成:まずウェルビーイングに過ごすために大事にしているのは、気分が乗らない時はサボるということ(笑)。人間は生き物ですから。私自身も気分が乗れば仕事もかなりの集中力でガーっとやるんですが、そうでない時は休んでいます。私が息抜きにやっているのは、ギター演奏やフルートの演奏です。

堂上:徳成さんはもともとブラスバンド部だったんですか?

徳成:そうなんです。私はフルートを吹いてもう50年余りになります。実は三菱UFJ時代の20年以上前から、YouTubeにフルート演奏をアップしています。「いきものがかり」や「Perfume」から「バッハ」まで(笑)。

堂上:徳成さんご自身が吹かれているものが、YouTubeにアップされているんですか? すごいですね。

徳成:環境音楽ですから、空とか森とかの画像で、僕自身の画像は出てこないんですけどね。名前もハンドルネームだし。「ユーチューバー」という言葉が生まれる前からYouTubeに投稿しているのは、テックカンパニーのビジネスモデルの裏側が知りたかったからです。そのためには、自分でやってみるのが一番だと思いまして。

たとえば、自分の曲が類似のフルート演奏と比べて、世界のどの地域で人気があるか、視聴者の推定男女比や年齢構成などが、統計データとして提供されます。なぜか私の曲は、中南米や西トーゴ、マケドニアで人気があるんですよ。演奏で少しミスをしたところで視聴者が離脱していく様子もグラフ表示され、改善提案につながっているのも面白い。

堂上:YouTube上で視聴者さんと交流はあったりするんですか?

徳成:それがありまして、私の演奏した「いきものがかり」の動画に対して、ある日コメントが投稿されたんです。「私は幼稚園児を持つ父親です。子どもの卒園式後の謝恩会で、先生方と父兄に対し、幼稚園の思い出写真のスライドムービーを流そうと、そのバックグラウンドミュージックを探していて、あなたの演奏に出会いました。この「ありがとう」の演奏をBGMとして使ってもいいですか?」と、とても丁寧な文章で使用許諾を求めるメッセージが届いたのです。

このメッセージを受け取った時、それはそれは、銀行で出世するよりも嬉しかったですね(笑)。 日本のどこかの幼稚園で、子どもたちやご両親そして先生たちがいらっしゃる空間で自分の演奏した音楽が流れる、多くの人たちの人生の貴重な1ページに私の演奏が……と想像すると、フルートを演奏し続けていてよかった、と心から思いました。

堂上:インターネットの時代ならではの人とのつながり方、そしてウェルビーイングの感じ方ですね!

徳成:本当にその通りです。これも「自分が、自分らしく」いることを大切にしてきたからかなと思います。私がウェルビーイングを実感しながら生活するために意識しているのは、「やりたいときにやりたいことをやる」という姿勢です。

フルートを吹きたいと思えば吹きますし、ギターを弾きたいと思えば弾きます。そして、休みたいと思ったら休みますので、割と自分の欲望やリズムに忠実に生きています。

その点では「極力9時~17時はオフィスで仕事」といった固定概念ではなく、フレックス制やリモートワークといった自分のリズムを活かしやすいワークスタイルのほうが、ウェルビーイングに生活できるのではないかと思いますね。そういう柔軟なワークスタイルを認める社会になりつつあるのは素晴らしいことです。

心を開いて好奇心旺盛に。執着する気持ちをなくせば、世界はもっと明るくなる

堂上:僕が『Wellulu』で出会うウェルビーイングな人たちに共通しているのが、皆さん好奇心旺盛だということです。

徳成:だって、どうせ人間は死んでしまうわけですからね。それだけは絶対的に揺るがない真実で、死なない生物なんていないですから。だからこそ、どうせ死ぬんだったら生きている間にできるだけ未知な経験をしたほうがいいと思っています。

堂上:徳成さんが幼少期のお話をされていた時におっしゃっていましたが、私たちはもともと生まれた時は「ゼロ」だったわけですもんね。

徳成:その通りです! 私たちは何も持たずに生まれてきて死んでいく。どれだけお金を貯めようが立派な家で暮らそうが、あの世までは持ってはいけませんから。

堂上:今日お話をお聞きして、その感覚が徳成さんを「ウェルビーイングな生き方」に導いているような気がしました。本日も素敵な笑顔で私たちのお話にお付き合いいただき、ありがとうございました!

[前編はこちら]

【徳成旨亮氏×堂上研:前編】日本を代表する一流CFOはなぜいつも笑顔? 職場をウェルビーイングに導く考え方

【編集後記】

徳成さんの『CFO思考』を読んで、これから経営者が知っておくべき、ウェルビーイング経営の視点が盛りだくさんだったのでお会いしたいと思っていた。当日、僕自身の緊張感と、徳成さんとの出会いのブログはこちら。
CFO思考の徳成さんとの出会い

徳成さんと出会って、「だれもが恋する経営者」という言葉ができてきた。徳成さんのようなCFOがいらしたら、会社がもっともっと楽しくなるだろう。特に日本の会社において、アニマルスピリッツをもった経営トップがいることで、職場全体がポジティブになっていくだろう。「ごつごつした岩」を集めながら、新たな挑戦ができる環境をつくる。失敗を恐れず、経営の中に可能性を提示していく。

ウェルビーイングな働き方が注目されている中で、経営者がウェルビーイングな生活を率先してやっていることが重要になってくることが分かった。会社全体を「ウェルビーイング経営」を標榜していることで、社員ひとりひとりのウェルビーイングを醸成していく。

徳成さんの人柄が、社員だけでなく、接した人たちみんなを「笑顔」にしてくれる。僕は、Welluluを通して、たくさんの笑顔をいただいた。こんなウェルビーイング共創社会をいっしょに歩んでいきたいと強く感じた。徳成さん、とても楽しい時間でした。ありがとうございました。

この対談をさせていただいた後に、日経新聞で「徳成ニコン社長誕生」の記事が飛び込んできた。とても嬉しいニュースである。世の中に、徳成さんのような経営者が増えていくと、もっと日本や世界が明るくなるだろう。徳成さん、ご就任おめでとうございます。

 

撮影場所:UNIVERSITY of CREATIVITY

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