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【ひきたよしあき氏×堂上研】相手に寄り添い、言葉を紡ぐ。社会をウェルビーイングに導く「伝わる言葉」の力

「言葉」には、人を笑顔にする力がある。しかしその力を発揮するためには言葉の真意を、しっかりと相手に伝えることが必要だ。

ひきたよしあきさんは、まさしく「言葉をわかりやすく伝える」専門家。2015年からは朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」を連載し、子どもたちにメッセージを伝え続けている。

今回は博報堂で長年勤めた経験を持ち、現在は株式会社SmileWordsの代表取締役を務める、ひきたよしあきさんに、言葉が持つ力とウェルビーイングな社会創造について、Wellulu編集部の堂上研が話を伺った。

 

ひきた よしあきさん

株式会社 SmileWords 代表取締役/コラムニスト/スピーチライター

1984年に博報堂入社し、CMプランナーとして数々のCMを手掛ける。政治、行政、大手企業などのスピーチライターや、大学講師などを務め、多くの支持を集めている。2015年より朝日小学生新聞にコラム「大勢の中のあなたへ」を寄稿。2022年に株式会社 SmileWordsを設立し、現職。主な著書に「博報堂スピーチライターが教える言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)などがある。

堂上 研さん

Wellulu 編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

わかりやすい言葉はどんな年齢の人にも伝えることができる

堂上:今日は、ひきたさんの人となりをお聞きしたくてインタビューをお願いいたしました。ウェルビーイングのメディアをやっているなら、「いつか、ひきたさんの取材をしたい!」と思っていたんです。

ひきた:いやいや、そんな(笑)。ありがとうございます。

堂上:まず、ひきたさんの経歴からお伺いしてもよろしいですか。

ひきた:私も博報堂の出身で、当時はCMプランナーの仕事をしていました。2011年には会社からの指示で官公庁での仕事を始め、内閣官房の広報アドバイザーを勤めました。東日本大震災の時には「政府からの発表を、どのようにわかりやすく被災者に伝えるか」という仕事に従事したんです。

堂上:なるほど。官公庁の仕事から「わかりやすく伝えること」を始めたんですね。

ひきた:その仕事を進めていく中で、ある疑問が湧いてきました。「私たちが使っている言葉は、本当に日本全体に伝わっているのか」と。高齢者や子どもの被災者には、どれだけわかりやすく伝えようとしても国からの情報は難しく、あまり伝わっていないかもしれません。その経験から2015年に始めたのが、朝日小学生新聞の連載コラム「大勢の中のあなたへ」だったんです。

堂上:子ども向けに、よりわかりやすく言葉を伝えるための連載として始まったのですね。

ひきた:内容としては難しい哲学的な話でも、わかりやすく書けば、子どもたちは理解してくれます。

堂上:ひきたさんを一言で表すならば、「言葉のスペシャリスト」でしょうか。

ひきた:「言葉をわかりやすく伝える人」のほうがより正しいかもしれないですね(笑)。

堂上:たしかにそうですね。逆に、公的な文書や政治家の言葉を読むと「人に伝わりにくい日本語を使う天才なんじゃないか」と思いますよね(笑)。

ひきた:私たちが実は理解しているようで、理解していない言葉を多く使っているというのを実感します。だからこそ、私が一番大きなテーマとして持っているのは「言葉を相手にわかりやすく伝えることで、世の中を変えていく」というものなんです。

童心に返り心のバリアを取り除くことが学びの第一歩

堂上:「言葉をわかりやすく伝える」ために、ひきたさんが普段から続けていることはどんなことですか?

ひきた:博報堂に入社する前の、学生時代からNHKのクイズ番組制作に関わっていたのですが、企画の中で「青森県八戸市に住むおばあちゃんに、今の言葉を伝えることができるか」というものがありました。その頃から、相手の立場で言葉を考えるということを意識をするようになりました。今でもなるべく、小学校高学年の子どもが使える漢字で文章を作るようにしています。

堂上:博報堂に入る前から、強い意識を持たれていたんですね! ではもっと過去に遡って、ひきたさんの「言葉」への想いを育んだ少年時代の原体験を教えてください。

ひきた:私は兵庫県西宮市で生まれたのですが、両親は東京の出身でした。家の中では東京の言葉を使い、学校では関西の言葉。転勤族だったので2年ごとに学校も変わり、日々の生活の中で色々な言葉が飛び交うんです。

堂上:家と学校での生活の中にダイバーシティがあったんですね!

ひきた:そうした体験も「言葉をわかりやすく伝えたい」という想いに通じているかもしれないですね。そして、もうひとつ自分の中で大きなもの、大好きなものが「スヌーピー」なんです。

堂上:はい、存じ上げています。本当にお好きですよね!

ひきた:スヌーピーに登場するキャラクターは、全員が子どもです。しかし話している内容は、とても哲学的。そういった哲学的な考え方というのは、もともと子どもの中に備わっているものだと思っています。

私は色々な場所で講義をしていますが、大学生でもシニアでも、講義の最初に全員小学生に戻ってもらっています。そうすると初めて、「今の話、何を言っているのかわからない」と素直に言ってくれるようになるんです。

堂上:大人になるとなかなか「わからない」と言い出せないんですよね。小学生に戻ってプライドや心のバリアを取り払うわけですね。

ひきた:大人が大人の言葉を使うと、人にはなかなか伝わらない。小学生に戻ると、まず言葉使いが変わって、人に伝えるための話ができるようになります。

愉快に生きることを目的に。イタリアでの出会いに衝撃を受けた日

堂上:「わかりやすい言葉で伝える」というのは、技術でもありますが、相手の立場になって考えるという思いやりの要素も大きいですよね。

ひきた:そこが一番大切です。相手の心に寄り添わないと、自分の話だけに一生懸命になってしまいます。自分が知っている業界の言葉が多くなってしまって、「伝わらない話」になってしまいがちです。

堂上:本当に気を付けなければならないですね。たとえば「ウェルビーイング」という言葉も、私にとってのウェルビーイングと、ひきたさんにとってのウェルビーイングは捉え方が違うので、少しずつズレが出てきてしまうこともあります。

ひきた:はじめに「自分はウェルビーイングについて、こう考えている」という話をして、共有する必要がありますよね。私が思うウェルビーイングは「心も体も健康で、社会の中での人とのつながりも健康な状態であること」なんです。簡単な言葉だと、いつも上機嫌でいられることですね。

堂上:ひきたさんは、何をしている時に一番上機嫌でいられるのですか?

ひきた:その質問で思い出したんですが、博報堂の仕事で、イタリアへ撮影に行ったことがありました。トスカーナ地方の小さな村での撮影が終わり、スタッフで飲み屋に入って一杯飲んでいると、興味を持った村の人たちが集まってきて。さまざまな職業の人から、子どもも大人も。その中に地元中学校の校長先生が飲みに来ていて、イタリア語で「日本人は何を目的に教育をしているのか」と、いきなり真面目な話を聞かれたんです。

堂上:それは突然聞かれると困りますね! なんて答えましたか?

ひきた:お酒も入っているし、急な質問で「何の目的で私たちは勉強していたんだろう」と考え込んでしまい、すぐに答えを思いつきませんでした。校長先生に「イタリア人が教育をする目的は何なのですか?」と質問を返すと、その答えは「私たちは、いつも愉快に生きるために教育をしているんだ」でした。

堂上:なるほど! それは究極のウェルビーイングなのかもしれないですね。

ひきた:算数ができたほうが愉快ですし、本を読めたほうが愉快です。「愉快になること」こそが最上の目的で、勉強も仕事も遊びも、愉快になるためにやっている。この明解な答えに、思わずうなってしまったのを覚えています。この考え方こそがウェルビーイングな状態を保つための秘訣なのではないでしょうか。

堂上:日本人も、もっと愉快に生きたほうがいいんですかね?

ひきた:日本は、柔道・剣道・華道・茶道と「道を究める」という文化があります。これには良し悪しがあって、一本の道を究めようと進んでいくと、すぐ隣に同じ道を進む人がいる。そうすると、つまりは競争になってしまうんですね。

堂上:どうすれば子どもたちが、自分と人を比べずに、自由に生きていけるようになるんでしょうか。

ひきた:私は子ども向けの授業もしているのですが、ある日の授業の感想文に生徒の大半が「目からうろこが落ちました」と書いていんです。不思議に思って、生徒の母親に聞いてみると、ほかの授業の先生が「『目からうろこが落ちました』というのは、良い表現ですね」と言ったらしいんです。

堂上:それが「正解」だと思ってしまった、ということですか!

ひきた:正解を求める癖がついてしまって、正解がないと不安なんですよね。「正解がなくてもいい」ということに気づくだけで、人は変わっていくのだと思っています。

“いのちが喜ぶ”道を行く。大病をきっかけに見つめ直した自身の生き方

ひきた:先日、「京都シニア大学」で65歳以上の方々に授業をしてきました。100人以上が集まってくれて、みなさん目をキラキラと輝かせて学んでいるんです。年齢を聞くと、80〜90代の方も多く、中には100歳の方までいて驚きました。

堂上:まさにウェルビーイングな生き方ですね! どんなテーマで授業をしたのですか?

ひきた:テーマは「コミュニケーション」でした。みなさん、孫や若い人とコミュニケーションを取りたいと感じていて、本当に「学びたい」という意欲があふれているんですよね。

堂上: 「学び」というのはより良く生きるためのキーワードのひとつですよね。では、ひきたさんの「生きること」についての考え方も聞かせていただきたいです。

ひきた:私は博報堂で働いていた56歳の時に、腎臓がんを患ったんです。その時に人生についての考え方は大きく変わりました。一番大きかったのは、「人生には限りがある」と知ったこと。わかってはいましたが、病気になってあらためて肌身に感じるんです。

堂上:大病を患われて、生き方が変わっていったんですね。

ひきた:博報堂の仕事もしていましたし、本も書いていましたが、これからの人生を考えて、両方はとてもできないなと思って、働き方をシフトしていきました。

堂上:本の執筆に力を注がれるようになったんですね。

ひきた:その頃に、自分の中でとてもありがたい機会に恵まれました。ハワイ大学名誉教授の吉川宗男先生と一緒に食事をして、「死生学」について習うことができたんです。その死生学の教えとは、「自分が亡くなり、友人が弔辞を読むときに、どんなことを言われたいか」ということを自分で書くというもの。そして、そこで書いたことは、自分の人生の理想の姿ということです。

堂上:それは面白いですね!

ひきた:自分が人生の最期に、何と言われて死んでいきたいか、自分の最期を明確に考えることがウェルビーイングに生きることにつながります。

吉川先生から伝えていただいたのは、「ひきたくん、これからは選択に迷ったら『どっちを選んだほうが、いのちが喜ぶか』を基準に考えなさい」という言葉。その言葉から「より、いのちが喜ぶ」と感じた作家の道を進むことに決めました。

“言葉のチカラ”でみんなが笑って暮らせる社会を創造していく

堂上:ひきたさんはこれからの10年、20年、どんなことをやりたいと思っていますか?

ひきた:「みんなが笑って暮らせる国」というのを大事にしたいと思っています。私が設立した会社は「スマイルワーズ」という社名です。「言葉によって人が笑顔になる」ということを追求していきたいと考えています。

世の中には苦しんでいて、笑顔になれない人たちもたくさんいます。受験生や就活生、40~50代の非正規雇用の人たちも、働き場が減って苦しんでいます。そんな中でも、人を愉快に、笑顔にする仕事をしていくというのが、私がやりたいことです。

堂上:教壇に立つことも、本を書くことも、言葉でスマイルな人たちをどんどんと増やしていく活動なんですね。

ひきた:浄土真宗の言葉で「凡夫(ぼんぷ)」という言葉があります。人間はみんな愚かで、欲を持っていて、ろくでもない。大前提が、人間は「凡夫=煩悩に満ちた平凡な人」。つまり全員が愚かなんだから、全員が「和を以て貴し(とうとし)」としようというのが日本の考え方なんです。

堂上:「和を以て貴しとなす」というのは、人間は愚かだという考えが始まりなんですね!

ひきた:私がやろうとしているのは、全員が一度小学生に戻って、みんながわからないことを素直にわからないと言えるような環境から、再び社会を組み立て直していくということです。

堂上:だから、ひきたさんと出会うと、誰もがみんな小学生に戻れるような体験ができるわけですね! 本日はひきたさんのウェルビーイングな生き方の秘訣を教わることができました。貴重なお話をありがとうございました!

撮影場所:UNIVERSITY of CREATIVITY

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