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「ウェルビーイング産業」の牽引者が実践!個人からコミュニティ、地球へと広がっていく“ウェルビーイング・アクション”とは

博報堂のWEBマガジン・センタードットで連載中の「生活者一人ひとりのウェルビーイングを実現させる――『ウェルビーイング産業の夜明け』」。博報堂・ミライの事業室、Wellulu編集部の堂上研をナビゲーターに、「ウェルビーイングの未来」について、業界の最先端を走る有識者たちと語り合う企画だ。第1回のテーマは、人や社会に幸福をもたらす「ウェルビーイング産業のこれから」。SDGsの観点から可能性を探っている博報堂・小田部巧さん、人生100年時代のより良い生き方を提案する「100年生活研究所」の大高香世さん、社会とビジネス課題の同時解決に取り組む株式会社SIGNINGの亀山淳史郎さんが、それぞれの視点から意見を熱く交わし合った。
今回は、4名が実践している“ウェルビーイング・アクション”など、連載では紹介しきれなかった“とっておきのウェルビーイングトーク”をお届けする。

「幸福は一人ひとり違う」からこそ、ウェルビーイング産業は面白い

堂上:あらゆる事業設計は、顧客の解像度を上げるところから始まります。ただ、ウェルビーイング=何を幸せと感じるかは、「生活者一人ひとり違う」のが大前提です。子どものため、働く女性のため、シニアのためと非常に広く多面的な顔を持つ「ウェルビーイング産業」において、皆さんがもっとも興味を抱いている分野を伺えますか?

大高:生活者像で言えば、大きく3層ですね。私たち「100年生活研究所」が目指すのは“人生100年時代のより良い生き方”ですから、まずはやはり80歳以上の人。100歳までの道のりを「プラス20年分のボーナス」と捉えて、自分と社会にとって良いことをやってみましょうよ、と提案を続けていきたいです。

2番目は50歳に差し掛かった世代で、私も同年代なのですが「あと10年で引退だと思っていたのに、まだ倍もあるの?」と悩んでいる方が本当に多くて。まだまだ体力も時間もある年代ですし、可能性が大きい領域だと感じています。

最後は、これからの日本を作っていく20歳近辺の若者たち。ウェルビーイングを国の財産として真剣に考え、ビジネスを組み立てていける世代だと思いますので、積極的に共創していきたいですね。

堂上:なるほど。若者のウェルビーイング教育にも関連しますが、世代間のギャップについては、どう考えていますか? 今後活性化していくであろう地域のウェルビーイングにおいても、若者と高齢者で価値観の違いは浮き彫りになっていくと思います。相容れないメンバーとも共存しなくてはならない状態は、「ノット・ウェルビーイング」だと感じるのですが。

大高:私は「価値観が違うのは当たり前」な世の中こそ、ウェルビーイングなのではと思っています。そのためにはファシリテーション教育もとても重要で、立場が異なる人の意見を集めて「でもここは共通しているよね」と握手できるポイントを見つけ出していく。例えば地域のウェルビーイングでも、「街を良くしたい」という想いは全世代共通なはずでしょう?

小田部:方向性ややり方は違えど、目的は同じだと。そこを明らかにした上で対話を重ねていくわけですね。

亀山:仲介人がいるとよりスムーズに話し合えそうですね。中立の立場から話を仕分けして、結節点を探し出す。

小田部:民主主義教育に通じる視点ですね。

堂上:「一人ひとり違うのを認め合おう」と意識させるだけでも変わってきますよね。教育は時間がかかりますから、今すぐ始めないと10年単位で遅れをとってしまう。DXも進めづらい領域じゃないですか。これは国、働き方、医療にも言えることですが、それぞれの権益を守ろうとする動きが強く、ビジネス参入がなかなか難しい。

亀山:逆転の発想ですが、ウェルビーイングというアプローチによってアップデートが進むかもしれません。とくに医療においては、テックから入るのではなく「より幸福に生きるため」という人の話として入っていくのが一番良いのかなと。

小田部:ゆくゆくは法律を変えることも重要ですよね。DXは非対称性を壊し、あらゆるものを民主化してスピードを速めてくれる。その勢いを阻まれないよう、ウェルビーイングを志すマルチステークホルダーで政治にアプローチし、規制をクリアしていけたらと思います。

ウェルビーイングがもたらす“懐かしく、温かい未来”

亀山:ウェルビーイングという概念の登場によって、幸福感は多様化し、複層化しています。先ほどのDXの話とも通じますが、テクノロジーではなくウェルビーイングから発想することで、未来像が変わるように思っていて。

私たちが子どもの頃に夢見ていたのは、空飛ぶ車が透明なパイプの中を走り回る“無機質で銀色な未来”。でもきっと、これから訪れるのは“ノスタルジーで温かい未来”なんですよ。縁側でひなたぼっこしていたらロボットがちょうど良い温度でお茶を持ってきてくれるような、血の通った幸福感が芯にある世界です。テクノロジープレイヤーではなく、ウェルビーイングプレイヤーが思い描く未来の在り方を提案していくことが、新しいビジネスの方向づけになるのではないでしょうか。

個人的にはエンディング産業にも興味がありますね。どう人生を終えるか、周りの人たちがどう別れるか。ウェルビーイングの考え方は、とてもフィットするのではないかと。

堂上:「ウェルエイジング」が、若々しく健康的に生きていく手段であるのに対して、亀山さんのおっしゃる「ウェルエンディング」は、より良い死に方をするための方法ですよね。例えば、暗号資産などのデジタル遺産を遺族にきちんと渡せるようサポートする。アメリカではすでに産業として普及していますが、日本ではまだまだ浸透していない。この先、20個、30個と新しいサービスを生み出せる領域だと思います。

小田部さんはウェルビーイング産業において、どういった未来像を描いていらっしゃいますか?

小田部:ウェルビーイングは「社会」と「個人」、二つの捉え方があると思うんですね。社会に関しては、まさにダブルインパクト(サステナブルな社会=社会インパクトと、ビジネスの達成=ビジネスインパクトの両輪で同時実現を果たす考え方)で、健全な世の中を目指していきたいなと。一方、社会の構成要素でもある個人がウェルビーイングになるためには、“自分自身で幸福をつくる力”を身に着ける必要があります。その仕組み作りにはぜひ着手したいですね。

堂上:学会でも「自分がウェルビーイングでないと人をウェルビーイングにできない」というお話がありました。まず個人が幸福であることで、近辺のコミュニティ、地域、社会、さらにいえば地球にまでウェルビーイングの輪が広がり、繋がっていく。自分自身がウェルビーイングになるためには、何から始めれば良いのでしょう?

小田部:言い尽くされた表現ではありますが、“日々をちょっと丁寧に生きる”。ご飯を食べるときに、ひたすら30回ぐらい集中して噛んでみるだけでもいいんですよね。その体験を通したときに、美味しさがいつもと違うとか、自分の感じ方に耳を澄ませてみる。

大高:私が実践しているウェルビーイング・アクションは、自分にありがとうを言うことです。100年生活者研究所の調査によれば、ありがとうを言う回数が多ければ多いほどウェルビーイングですし、言われる回数も多いほどいい。周りに感謝を伝えれば、自ずと気持ちは返ってきますし、そうするとまた言いたくなる。そうして、“ありがとうの循環”を作っていきたいですね。

堂上:確かに「ありがとう」を言える人はウェルビーイングですよね。幸福をちゃんと感じ取れている。

ウェルビーイングは“自分自身との対話”から始まる

大高:あとは「上機嫌とモテ」という、二つのテーマでアプローチしたデータもありまして、上機嫌は自分で作るものなんです。「気分良くいよう」という意識が常に働いている状態。モテについては、思うだけで何もしていない人と実際に行動している人で比べると、後者の方がおよそ2倍も幸福度が高いんです。要するに、自分でその状況を作り出すことがウェルビーイングをもたらしてくれます。

堂上:まずは、自分の意識を変えることですね。確かに今の時代は、「主観的なウェルビーイング」が非常に重要視されています。私たちの研究テーマで、レコーディング・ダイエットならぬ「レコーディング・ウェルビーイング」という取り組みがありまして、「あなたはウェルビーイングですか?」と毎日訊ねるんです。すると1ヵ月後、聞かれなかった人に比べて幸福度が大幅に上昇していました。生活を変えず、ただウェルビーイングを意識するだけでもこんなに差が出るのかと。

大高:「レコウェル」、いいですね! 株式会社Hakuhodo DY Matrixのとあるチームでは、メンバー全員で自分のウェルビーイングを発表し、共有しています。発言することによって内省化できますし、人の話に耳を傾けるなかで「こんな幸福の感じ方もあるんだ」と学ぶこともできるんです。

小田部:内発的動機は、ウェルビーイングに欠かせませんからね。その動機に自分で気づいて、チームや身近な人にシェアすることで、ウェルビーイングをさらに加速できる。

亀山:確かに、「自認」はキーワードだと思います。この間、森林浴をしたんですね。緑の中に浸っていると、自分はちっぽけな存在だな、生かされているなという感覚があって、どこか満たされた心地になりました。人と比べず、自分という存在を見つめ直すことで幸福度が上がるんですよね。“わたし”のことをちゃんとわかろうとする、その試みこそがウェルビーイングなのかもしれません。

堂上:おっしゃるとおりで、一人で自分と向き合う時間を持つことができている人の方が、ウェルビーイング度が高いという調査結果もあります。自分との対話は、他者と向き合い、違いや共通点を発見することにも繋がります。

自分は自分、人は人。あの人よりも劣っているとか下手だとか、そんなことはどうでもいい。今の“わたし”は何が楽しいかを深く感じ取れる環境を、ウェルビーイング産業によって築いていきたいですね。

お問い合わせ先はこちら

100年生活者研究所

https://well-being-matrix.com/100years_lab/

MAIL:info_100yearlab@hby-matrix.co.jp

センタードット・マガジンでは、4名が描く「ウェルビーイング産業」の未来についてをご紹介。本連載と合わせてぜひご覧ください。

連載【生活者一人ひとりのウェルビーイングを実現させる――「ウェルビーイング産業の夜明け」】Vol.1“誰も取り残さない社会”をつくる。「ウェルビーイング産業」の未来地図

小田部 巧さん

株式会社博報堂 第三ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 部長。 ブランド・イノベーションデザイン局 イノベーションプラニングディレクター。 博報堂 SDGs プロジェクト EARTH MALL プロデューサー

2004年博報堂入社。マーケティング局、エンゲージメントビジネスユニット、HAKUHODO THE DAY を経て、2016年より現職。国内クライアントを中心に、戦略からエグゼキューション、トータルなコミュニケーションデザインを行う。生活者をパートナーと捉えた、創発型プランニングを好む。また、自身もNPO運営をしており、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)業務も積極推進中。

大高 香世さん

株式会社Hakuhodo DY Matrix 100年生活者研究所 所長

1990年博報堂入社。30年間にわたりマーケティングの戦略立案や、新商品開発、新規事業開発などを手掛ける。また、1,000回以上の様々なワークショップでファシリテーターとしての実績を持つ。2013年、「生活者共創マーケティング」を専業にした株式会社VoiceVisionを博報堂の子会社として起業し、代表取締役社長に就任。2023年より現職。

亀山 淳史郎さん

株式会社SIGNING 代表取締役・共同CEO /Social Business Designer

社会課題解決×ビジネスグッドをプランニングするソーシャルビジネスデザイン領域の業務を手掛ける。 2017年“プレミアムフライデー”のプランニング&プロデュースをし、新語・流行語大賞にノミネート。2019年にポイントドネーションWEBサービス“BOSAI POINT”をアスリート本田圭佑氏と立ち上げ、グッドデザイン賞を受賞。2020年から日本発クリエイティブオンラインビジネスイベント“Innovation Garden”を手掛ける。

堂上 研さん

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

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