Wellulu-Talk

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【根本かおる氏×宮田教授】一人ひとりの多様な生き方こそが、持続可能な社会の実現につながっていく〈後編〉

根本かおる

自分の個性ってなんだろう? 今、私は幸せなのだろうか? 長い人生において、立ち止まることで見えてくる景色というものがある。時に、強さではなく弱さが力になることもある。一人ひとりがより良く生きるために、多様で持続可能な社会を目指すうえで大切なことはなんだろうか。

今回の「Wellulu-Talk」では、前回に続き、アナウンサーならびに報道記者を経て国連職員として勤務後、フリージャーナリストとして活動し、現在は国連広報センター所長を務める根本かおるさんと、Welluluアドバイザーで慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章さんによる対談〈後編〉をお届けする。

「強火」ではなく「弱火」でいい。しなやかに生きるためのヒント

根本かおる×宮田教授

根本:ウェルビーイングがテーマということで、少し個人的なこともお話させていただこうと思います。10年以上前になりますが、私はうつに悩まされていた時期がありました。2年ほど仕事を休み、最終的には勤めていた国連機関を辞めるまでに至りました。今はこんなふうに回復できているわけなんですけれども。

思い返してみると、そのときは自分にないものばかりに目を向けていました。私にはこれがない、これができない、これが足りない……といったように、常にネガティブな思考に陥っていました。人と会うことにもプレッシャーを感じてしまい、アポイントメントを入れることもできない状態でしたし、あるとき無意識に駅のプラットフォームの端っこを歩いていて「危ない!」なんていうこともありました。そんな状況でしたので、少しずつ認知の歪みを治していく練習をしたんですよ。つまり今度は、自分にあるものやできることに目を向けていく。たとえば「根本かおるという人間の人生を自分以上に語れる人はいないじゃないか」みたいにですね(笑)。でも、そうやって自分にあるものに目を向けていくと、少しずつ少しずつ回復していったんです。それから私は「書く」ことが好きだったので、国連機関を退職してからは執筆活動も行っていました。書くことは頭の中を整理すると同時に、自分の自信にもつながっていき、だんだん社会生活に復帰できるようになっていったんですね。

かつての私は「強火」の生き方っていうんですかね。もっと、もっと!という形のマインドセットだったかもしれません。今の私は、「弱火」でもいいから長く続けること。そして自分が大切だと思ったことはやり遂げること。このふたつを自分に課しつつモットーにしています。この考え方は、SDGsとも合致するところが多分にあってですね。だからこそ「誰一人取り残さない」ということも含めて、これまでの私自身の経験も重ねながら、気持ちを込めて広報発信することができたという実感があります。

根本かおる×宮田教授

宮田:ご自身の世界との向き合い方を変えるなかで希望を紡がれたというのは、本当にすばらしいことですね。強火から弱火へのマインドセットの変化ということで、いろいろな立場の人に寄り添うときにも、この両方を経ていることによるしなやかさのようなものがあると感じます。いろいろな局面に対応しながら柔軟にコミュニケーションされているところに、僕は心からリスペクトします。

根本:ありがとうございます。回り道ではあったけれど、「強火」で生きていたころには見えなかった風景が見えるようになりましたし、私見を広げるという意味でも良い経験になったと思います。当時を振り返ってみると、市民の力にもすごく気付かされましたね。セミナーやイベントなど、さまざまな学びの機会を提供している市民団体やグループの方々がたくさんいらっしゃるんですけど、自分が関心を持っているテーマであれば、こういった場を取材して書くこともできるし、国連機関を離れてオフィシャルの肩書きというものがなくなっても、私は私として生きていけるんだという希望を持つこともできました。

SDGs×お笑い? 異質なもの同士の組み合わせが生む化学反応

根本かおる×宮田教授

宮田:日本のSDGs認知は9割まで伸びてきているそうですが、だいぶ浸透していますよね。すごいことだと思います。ウェルビーイングはようやく2〜3割といったところですが、これから少しずつ広がっていくのではと思っています。

根本:多くのみなさんが大切だというふうに考えて、受け止めてくださったことが大きいと思います。さまざまな事業活動のなかにSDGsを取り込んでいただいたり、学習指導要領にも入ったことで子どもたちが学べる環境が生まれたりもしました。

宮田:SDGsの周知活動にあたり、大切なポイントは何だったのでしょうか。

根本:SDGsがまだ知られていなかった頃、伝えていくうえで必要なことは、「SDGsって何?」というように、まずは振り向いてもらうことじゃないかと思ったんです。難民キャンプで支援活動を束ねる仕事をしていたときに、慰問訪問でピエロがやってきたことがありました。そのときのパフォーマンスでは、地面が割れるような笑いが起こったんです。子どもも大人もみんな笑い転げていて、食糧援助を受け取ったときには絶対に見せないような笑顔をするんですね。私は関西出身なので、もともとお笑いに対するリスペクトがあるんですけど、ピエロに対して嫉妬しましたよ(笑)。笑いの力というものを実感する出来事でもありました。そこからヒントを得て、「お笑い×SDGs」というアイデアが浮かびました。私自身、異なるもの同士が生む化学反応こそがおもしろいと思うタイプなんですよね。

宮田:なるほど。日本ではお笑いとの相性も良かったということですね。

根本:はい。それからエンターテインメント関係の方々と一緒にお仕事をするときにも、「ジェンダー平等」に関しては、よく話していたんですよ。私たちとの会議には必ず女性にも参加していただきたいとか、SDGs関連のイベントに出演する芸人さんの割合も男女のバランスを考慮してほしいとか。女性芸人の方が劇場に託児所を作ってほしいと提案されたこともありました。

宮田:体制や仕組みの部分にも取り組まれていたんですね。そういった発想や行動も含めて、しなやかさがありますよね。対抗するのではなくボトムアップで一緒に作っていこうとする姿勢や、これが正義だというふうに上から決めつけてしまうのでもなく、みんなで考えようというところから始められているのがとても腑に落ちました。

多様性を考えるうえで重要なのは、共感する力と想像力を持つこと

根本かおる×宮田教授

根本:興味深いデータがあってですね。日本人の国連職員のなかで女性が占める割合って、どれぐらいだと思いますか?

宮田:5対5のようにバランスが取れているべきなんでしょうけど、日本の場合は8対2みたいな感じでしょうか。男性の割合のほうが高いように思います。

根本:それが、実は6割以上が女性なんですよ。それも長いあいだこの割合をキープしています。

宮田:そうなんですか。意外といったらいけないのかもしれませんが、純粋に驚きました。

根本:では、この数字は何を意味するのでしょうか。もしかすると、女性の中には日本でのキャリアに見切りをつけて、日本を出る決意をした人がいるのかもしれません。海外のほうが働きやすいから、チャンスがあるからということで、女性の割合が高くなったというケースもあるかもしれませんね。

宮田:ああ、そういうふうにも受け取れるということですか。日本はジェンダーギャップ指数が低いですけれど、その自覚すらなかなか持てていない状態であれば、グローバルな環境で働いたほうが女性にとっては能力に見合った将来を手に入れられる確率が高くなる。そう考えるのは自然なことです。

根本:一方で、男性の場合は一家の大黒柱になっているケースが多くて、日本のほうが雇用が安定しているから、家族を引き連れて国連というところまで踏み切れないですとか、いろいろな事情があるとも思うんです。

宮田:日本社会における不平等が、結果的にこの状況を作り上げたともいえるかもしれないですよね。ジェンダーにおける機会の損失というのか、ジェンダーそのものが持っている課題をいかに解決するかというのが大切な気がします。

根本:そうですね。政治の世界においても、女性候補者へのハラスメントがあったり、SNSの言論空間で攻撃されたりといったことが起こっている現状があります。それによって気持ちが挫かれてしまったり、前に出ようとするのを踏み留まらせてしまったり、悪循環が生まれているとも感じます。

宮田:まだまだ偏りが強烈な世界が存在していますし、そうではないとしても、いろいろなアンコンシャスバイアスも含めた課題は多くありますよね。そもそもマイノリティにおける課題というのは、マジョリティといわれている側が本来努力して変わらなければいけないはずなんです。ジェンダー問題においても、男性側がいかに変わるべきかという部分も含めた視点が、今後さらに重要になってくるはずです。

根本:大切なことは、想像力なんじゃないかと思うんですよね。ジェンダーというのは、さまざまなダイバーシティの要素のひとつ。たとえば難病を抱えている人や障がいのある人、あるいはその家族の方々、いろいろなベクトルでマイノリティ側に回ってしまう人がいると思うんです。そのときに味わった悔しさや痛み、それらをきっかけにして、ありとあらゆる要素においてマイノリティ局面に置かれてしまった人の状況をイメージできる力が必要なのだろうと思います。

宮田:おっしゃるとおりです。かつて法哲学のなかでのディスカッションで、「正しいとはどういうことか」というものがありました。そこで大事なのは、あらゆる立場に自分が置かれる可能性を想像したときに肯定できる社会であることだと。要するに、根本さんの今のお話にも出てきた「エンパシー」なんですよね。共感する力のなかで、未来を共に歩んでいくということ。他者の視点や立場を考えるうえで欠かせない要素なんじゃないかと思うんです。だからまさに、ジェンダーというのはひとつの重要な切り口ですよね。

未来をつくる子どもたちへ。「なぜ?」という疑問と好奇心を大切に

根本かおる×宮田教授

根本:子どもたちと語り合う機会があるんですけれど、そのときによく、クラスメイトに外国籍の子はいないかな?みなさんが暮らしている地域に外国人の方はいないかな?って話をするんです。もし身近にいるのであれば、その人に自分の国のことを教えてもらってください。わざわざ外国に行かなくても、身近なところから好奇心を持って、いろんなことを聞いてみてくださいっていうんですよ。小さいころからそういう訓練というか、習慣をつけておくといいと思います。

宮田:いろいろな人の立場に立ったうえで未来を感じられる力って教育の本質ですし、SDGsを実現していくうえでもますます必要になってくる能力なんじゃないかという気がしています。

根本:これは人種や国籍に限らず、障がいのある人の立場で社会生活を想像することも同じことがいえますよね。

宮田:自分が当事者ではなくとも、いかにその立場を想像できるかどうかっていうところですよね。最後に、多様性というものを理解していくうえで大切なことですとか、これからの子どもたちへのメッセージはありますか。

根本:好奇心を大切にしてほしいと思います。「なぜ?」「どうして?」、まずはそこからで良いと思うんです。子どものうちは、だれでも素直に疑問を持つことができるじゃないですか。そこを大切にしてほしいんです。子どもたちの純粋な問いを飲み込んでしまう教育が日本のなかにあるのであれば、それはとてももったいないことです。スポンジのように知識や経験を吸収できるうちに、いろいろな体験をしてもらいたいです。

宮田:ChatGPT時代に、子どもたちは何を学べば良いのか?という議論が起こっていますが、かつて求められてきたのは知識習得、次に検索力、そして今は「問いを立てる力」なんですよ。そのためにも好奇心は必要です。それから、先ほどのお話にもつながっていくんですが、自分とは異なる立場の人たちに共感をしながら未来を紡いでいく力、相手の立場に立つ力こそが多様性なんだと思います。「共感力」と「好奇心」はつながっていますし、そこが一番大切なことですよね。

撮影場所:UNIVERSITY of CREATIVITY

 

【根本かおる氏×宮田教授】グローバルな視点から考える、ウェルビーイングな世界とは〈前編〉

「ジェンダー平等」の現在地と「ダイバーシティー&インクルージョン」 宮田:日本における「ジェンダー平等」の現状を、根本さんの立場ではどのように感じられていますか.....

根本かおるさん

国連広報センター所長

テレビ朝日を経て、1996年から2011年末まで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)にて、アジア、アフリカなどで難民支援活動に従事。ジュネーブ本部では政策立案、民間部門からの活動資金調達のコーディネートを担当。WFP国連世界食糧計画広報官、国連UNHCR協会事務局長も歴任。フリー・ジャーナリストを経て2013年8月より現職。

宮田裕章さん

慶應義塾大学 医学部教授。Welluluアドバイザー

2003年東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士
2025日本国際博覧会テーマ事業プロデューサー
Co-Innovation University 学長候補
専門はデータサイエンス、科学方法論、Value Co-Creation
データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。
医学領域以外も含む様々な実践に取り組むと同時に、世界経済フォーラムなどの様々なステークホルダーと連携して、新しい社会ビジョンを描く。宮田が共創する社会ビジョンの 1 つは、いのちを響き合わせて多様な社会を創り、その世界を共に体験する中で一人ひとりが輝くという“共鳴する社会”である。

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