子どもたちがより良い人生を送るためには、なにができるだろうか。近年教育業界では「Social Emotional Learning(SEL:社会性と情動の学び)」という子どもたちの潜在的な自己認識能力を高め、生きる力を引き出す教育アプローチが注目されている。
日本でSEL教育を積極的に実践している株式会社roku you(ロクユー)の下向依梨さんと佐藤智さんは、子どもの教育には「教員」「親」「地域」が連携し、包括的な学習環境を作ることが必要だと語る。異なる立場のステークホルダーはそれぞれどんな一歩を踏み出していけば、子どものウェルビーイングへとつながっていくのだろうか。Wellulu編集部の堂上研が話を伺った。
下向 依梨さん
株式会社roku you 代表取締役/一般社団法人 日本SEL推進協会 代表理事
佐藤 智さん
株式会社roku you 広報担当/教育ライター/株式会社レゾンクリエイト執行役員
横浜国立大学大学院教育学研究科へ入学、修了。中学校・高校の教員免許を取得。中央経済社、ベネッセコーポレーションの教育情報誌『VIEW21』の編集を経て独立。株式会社レゾンクリエイトを設立。青森県教育改革有識者会議メディア戦略チーム。著書に、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』『10万人以上を指導した中学受験塾SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』(共著、翔泳社)がある。
堂上 研
Wellulu編集部プロデューサー
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。
「好き」に没頭できる環境へ飛び込んだ経験が今をつくっている
堂上:僕自身3人の子どもを育てる親として、教育や子どものウェルビーイングに関心があったので、今日の対談を楽しみにしていました。どうぞよろしくお願いいたします! まずは、お二人について教えていただけますか?
下向:こちらこそよろしくお願いいたします! 私が教育に興味を持ち始めた原体験は、中学受験まで遡ります。大阪の進学校へ入学したのですが、そこは国内トップクラスの大学に受かるために毎日勉強するような環境でした。自分の中にある「学びたい」という欲求に没頭できるウェルビーイングな状態を期待して入ったのですが、「学ぶことが楽しい!」と思っている子たちとなかなか出会えなかったんです。環境を変える必要があるなと思い、スイスの高校に進学することに決めました。
堂上:高校から単身で海外に渡ったんですね。そこからどのようにSEL教育への関心につながっていくのでしょうか?
下向:まずどうやったら社会がより良くなるかを考えた時に、社会起業家と呼ばれるチェンジメーカーの存在が頭に浮かびました。貧困や環境といった身近な社会問題に対して、創意工夫をして立ち向かっていく姿がかっこいいなと思ったんです。
たとえばバングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌスは、貧困問題の解決策を根本的に変えました。これまでNPOやNGOが貧困層が明日を生きるために支援するものだとされてきたことを、ムハマド・ユヌスはグラミン銀行を創設して、貧困層を対象に低利・無担保融資を行いました。貧困層にお金を貸すことで、彼らがビジネスをして自立するという構造的な解決策を提示し、世の中を変えていったんです。
堂上:本当に素晴らしい活動ですよね。
下向:「彼のようなチェンジメーカーが増えていったら世界はより良くなっていくはずだ!」という想いが、私を突き動かす原点になっています。
そう確信してからは社会起業家になる人材を育てたいと思い、パターンランゲージの研究開発を行い、学生にプログラムを提供していました。ですが、参加者の中にはそのプログラムが心に響く人もいれば響かない人もいたんです。プログラムを受けても響かない人がいる事実に愕然とし、他のアプローチを探していた時に、SEL教育に出会い、ペンシルベニア大学教育学大学院で研究を深めました。
堂上:そうだったんですね。依梨さんは教員をしていた時期もあるとお聞きしました。
下向:はい、東京で教員をしていました。教育に取り組むには、地域に根を張り、人や文化のつながりに深くまで入っていかなければなりません。しかし、東京はそれを実践するには規模が大きすぎると感じました。そこから地方に目を向け、沖縄を拠点に活動することにしたんです。
堂上:それで現在沖縄に住んでいらっしゃるんですね。智さんはいつ頃から教育への関心が生まれたのですか?
佐藤:私が教育に興味を持ったのは両親の影響が大きいと思います。身近な大人である両親がともに教員だったので、学校教育へ関心を持ち大学で学ぶことにしました。
下向:ちなみに私の両親も教員です!
堂上:なんと! roku youのみなさまは教育業界の申し子チームなんですね!
佐藤:大学院でも教育学を研究して教育にどっぷりつかる学生生活だったのですが、就職を考える時期に、改めて自分は本当に教員の道を進むべきかどうかを考えてみました。両親は学校に長年勤め上げていたので、教員になったら途中で方向転換するのは難しいのかもしれないと感じたんです。
それならば、自分が成長したときにいつか学校現場へと入るかもしれないけれど、まずは自分の好きなことにチャレンジしてみようと思い、出版業界へ進みました。じつは小説家になりたいと思っていた時期もあるくらい昔から書くことが好きだったので、本にまつわることを仕事にしたいと思ったんです。
堂上:そこから、どのように現在につながっていくのでしょうか?
佐藤:新卒で会計や税務のジャンルを扱う出版社に入社したものの、どこか心が熱くならない自分がいることに気づきました。本を作ることや売ることは好きなのにどうしてだろう……と考え時に「そうだ、私はやっぱり教育に関わりたいんだ!」と思ったんです。
そこで教育業界のベネッセに転職をして、先生向けの教育情報誌の編集者として全国各地の学校に赴いて先生たちを取材する日々を送りました。教育への情熱と書くスキルを活かして、現在はレゾンクリエイトという会社を立ち上げ、教育ライターやライティングコンサルタントとして活動しています。roku youには広報として関わらせていただいています。
「受け入れる」ことで子どもの可能性を広げる。策士な母が導いてくれた道
堂上:お二人ともご両親が先生だということに驚きました。やっぱり家庭でも学校の先生のような育て方や教育方針になるんですか?
下向:私の場合、母親がなかなかの策士でして……(笑)。
堂上:策士? 気になります!
下向:私は昔から勉強や学びに対して興味が強い子どもでしたが、姉は真逆で宿題を絶対やらないタイプだったんです。でも、それに対して母は何も言わずに見守っていました。母は大学や高校など様々な場所で教えてきて、多くの子どもたちを見てきた人。ガミガミ怒って無理やり宿題をやらせることが、子どもにとって正しい教育ではないと確信していたようです。
ですが、私たち姉妹が少しでも興味を示すものを目ざとく見つけて、積極的にやってみるようにいつも背中を押してくれました。
堂上:子どもの興味関心に合わせて寄り添ってくれる、素敵なお母様ですね。僕の勝手なイメージですが、先生という職業上、どんな時でも保護者からの目があるので、プライベートでも自分の子どもには厳しく躾けているものかと思っていました。
下向:私の母は音楽の教員だったので、子どもの感性を大事にしてくれたのかもしれないです。スイスへ留学したのも、母がナチュラルに誘導してくれていたように思います。母からは「行きなさい」とは一言も言われていませんが、高校生活に悩んでいることを知って「留学に行くのもひとつの選択肢だよねぇ」とほのめかされていました。それで新たな選択肢に踏み出すことができたんです。
堂上:すごいですね。子どもが選んだようにしているということですね。それは確かになかなかの策士だ! 自分のことを信じて受け入れてくれる親がいたからこそ、安心して生きる意味を見つけられたんですね。『Wellulu』でお母様のこともインタビューしたくなってきたなぁ。
佐藤:ちなみに依梨さん親子で対談イベントもされているんですが、お母様も話がとてもお上手ですよ。
下向:イベントでは子育ての答え合わせのようなことをしています。「あの時にああいう言い方をしたのはなんでだったん?」みたいなことを聞いています。
堂上:面白い! 『Wellulu』で親子対談もありですね! 智さんのご両親はどういう教育方針でしたか?
佐藤:「あなたの好きなようにやりなさい」と言ってくれる両親でした。国語の教員だったからか、本に関しては、欲しいと言ったものは雑誌でも漫画でも買ってくれました。そのおかげで私は本が好きになり、ライターの道を歩めています。
堂上:やはり「ありのままを受け入れる」って、とても重要なんですね。
佐藤:そうですね。一方で厳しい面も兼ね備えていて。たとえば学校で掃除をサボると、めちゃくちゃ怒られました。普段教員として生徒に指導しているので、自分の子にもきちんと守ってほしかったんだと思います。
下向:我が家も、あいさつや筋が通っていないことに関してはめちゃくちゃ厳しかったです。
堂上:親の存在ってとても大きいですよね! 僕も自由に育てられたので、確かに勉強しなさいとは言われなかった。にも関わらず、自分の子どもたちには「勉強しなくていいの?」と、つい口うるさく言ってしまっているなぁと反省しました(笑)。
下向:私も2歳の娘に言葉辞典を見ながら「これは犬だね」「猫がいるね」と意識的に話しかけているんですけど、なんだか無理やり言葉を教えているような感じがして悩んでいました。最近は自分の興味を持ったものを「これは何?」と聞いてきてくれるので、もっと早くから待つ姿勢を持てれば良かったのかもと思っています。
堂上:とてもよく分かります。「待つこと」も子どもの可能性をひらく上で大切ですよね。息子が通っている中学校の校長先生は、「お父さんお母さん。子どもたちは自分で気づいて動き出しますから大丈夫です。待っていてください」と言葉をかけてくださったんです。子どもから動き出すのを待つという視点を持った先生が増えてるのは、すごく嬉しいことだなと感動しました。周囲の大人たちと子どもの関係性が、子どもたちの可能性を広げていくんでしょうね。
子どもの「切りひらく力」を育てる、親と子の関係性
堂上:ところで、お二人はどのように出会ったのですか?
下向:私たちは、沖縄の酒造が一堂に会する『泡盛フェス』で出会いました。
堂上:智さんはライターでもありますよね。取材か何かがきっかけですか?
佐藤:いえ、完全なプライベートです(笑)。依梨さんとは、酒造の方が「教育関係の仕事をしている人がいるよ」と紹介してくださってお話ししたのが最初ですね。そうしたら、後日また依梨さんに取材をさせてもらう機会があり、再会しました。
堂上:すごい、運命ですね!
下向:その時に佐藤さんに書いてもらった取材記事を読んだ小学館の編集者さんが、先日発売された『世界標準のSEL教育のすすめ「切りひらく力」を育む親子習慣』を作りませんかと声をかけてくださったんです。それならば、どうしても佐藤さんに編集で入ってほしいと思い、お声かけしました。
堂上: 『「切りひらく力」を育む親子習慣』、読ませていただきました。僕も育児中ですので、自分の教育方針を考えさせられる勉強の機会になりました。親と子それぞれが相手を理解し、認め合うことでより良い関係性を築くことができる。それだけでいいんだよと励まされたように感じました。悩んでる親御さんに読んでほしいですね。
本の中でも書かれていますが、SELについても改めて教えていただいても良いですか?
下向:SELは、「Social Emotional Learning(社会性と情動の学び)」の略称です。端的にいうと5つの能力「自己認識」「自己管理」「責任ある意思決定」「関係性構築」「社会認識」を伸ばしていくことで、社会的および感情的なスキルを育成する教育方法です。ちなみにSELは、学校を中心とした実践が最も盛んに行われています。
堂上:本来SELは学校でしていくものなんですね。昔アクティブ・ラーニングが流行りましたが、もっと個人と向き合うようなイメージでしょうか。
下向:そうですね、自分と向き合うことからスタートし、他者や社会とつながっていくスキルです。近年注目を浴びている理由は、SELが「学びの土台」を育むからです。自分の興味関心に気づき、学びに向かっていくためにはSELのアプローチが有効です。また、不登校やいじめといった状況を解決するためにも、私はSELが重要なカギを握っていると考えています。SELを通じて、子どもたちが自分の状態に気づき、周囲に何らかの形で伝えて心のサポートを得ることで、現状を変えていけると信じています。
佐藤:この本では、与えるばかりの教育ではなく、子どもをリスペクトして一緒に育っていこうというメッセージも含まれています。それこそが、子どもの「切りひらく力」につながっていくのではないでしょうか。
堂上:SELを通じたスキルを身につけることによってコミュニケーション能力が伸び、世界で活躍する人たちが増えていきそうですね。社会起業家が次々と生まれてくる未来が見えてきました。
「学校」「家庭」「地域」をつなげ、社会全体で子どもをホールドする状態こそが、ウェルビーイングへの近道
堂上:子どもにとって「教員」「親」「地域」という3つのステークホルダーと、どういう関係を作っていくのが良いものなのでしょうか? たとえば学校の先生と親の価値観が異なる場合、それぞれの立場や役割から責任を持って主張しているので、どうしても折り合えないこともあると思うんです。どうしたら健全な関係性ができるのでしょうか。
下向:子どもは学校だけで過ごすわけではないので、学校で学べることには限界があります。当然ですが家庭で長い時間を過ごしますし、地域の中で出会った人たちから学びを得ることも必要です。なので、最初のステップとして「学校の先生」「親」「地域の人々」、それぞれが持っている学びの価値を尊重しあい、共創していく場が必要になってくると思います。
しかし、その前提となるコミュニケーションが十分になされていないという問題があります。これまでは「どのような価値観を持っているか」「それぞれがやりたいと思っていることとはなにか」といった対話があまりされてきませんでした。これが良好な関係性を作ることが出来ていない理由のひとつでしょう。
堂上:おっしゃる通りだと思います。コミュニケーションが自発的に起こりづらいのであれば、ファシリテーターのような役割がステークホルダーのやりたいことを引き出して、主張を場に出すおせっかいをしながら、健全な対話ができる環境を用意することも有効だと思います。関係性を築くために、どのようなことを意識すれば良いでしょうか?
下向:「自分と他者は異なる価値観を持って生きている」ことへの理解が重要なのではないでしょうか。そのためには、一人ひとりの対話スキルをもっと高めていくことが不可欠です。他者との対話の中から、それぞれの違いに気づけるようになると思っています。
堂上:つまり「聴く」ことが大事ってことですよね。聴くことはウェルビーイングを考える上でも重要なキーワードだと思っています。
以前、『Wellulu』で孫泰藏さんと対談(※)させていただき、「アンラーン(unlearn)」ということばに出会ったのですが、今までの話がとても近いと感じました。正しいか正しくないかではなく、まず話を聴いてその人たちを受け入れるという姿勢がアンラーンそのものですね。お互いにゆるいつながりを持ち、リスペクトし合っている状態こそ、ウェルビーイングな社会への一歩だと感じます。
※【孫泰蔵氏×奥本直子氏×堂上研:前編】大人の「アンラーニング」が子どものウェルビーイングを高める理由
「先生という鎧」を脱いで
堂上:智さんは子どもと「教員」「親」「地域」の関係について、どう思われますか?
佐藤:私はもっと子どもを中心に考えたいと思っています。これまでは「教員 対 保護者」や「教員 対 地域」の構図が起きがちでした。本来、話題の中心にいるはずの子どもの存在が、どこかに置き去りにされていたんです。子どもを中心に三者で話し合っていかなくてはいけないのに、不思議ですよね。
堂上:先生は先生でちゃんと子どものことを考えているはずなのに、ちょっとした価値観の違いで子どもたちは授業が面白くないとサボったり、親も先生に対してクレームを入れたり。このようなボタンの掛け違いによるトラブルは頻繁に起きそうな気がするのですが、一体どうするのが正解なんでしょう……。
佐藤:学校現場における余裕の無さからなかなか難しい側面もあるのですが、コミュニケーションの行き違いの問題をいっそのこと教材として扱い、子どもと一緒に考えていくことで社会に接続する力を養っていけるのではないかと思います。問いを深めることで共に同じ方向を向いていきたいですよね。
下向:思いやりを持って、それぞれに異なる背景があることを理解することも必要ではないかと思います。ステークホルダー全員を信じる気持ちを持つところからスタートして、行動の背景には何があるのかを引き出していくことが求められているのかもしれません。
堂上:お話を聞いていて、やはりそこには対話や傾聴が重要なのだと感じました。そう考えると先生も行動につながった背景や置かれている状況をオープンに話してくれたら良いなと思ってしまうのですが、実際は難しいことなんですかね。
佐藤:もしかしたら、「先生という鎧」を着ているからかもしれません。
堂上:「先生という鎧」ですか?
佐藤:「先生とはこうでなくてはいけない」のだと、先生自身があるべき姿を思い込んでいることがあるのかなと。だから、他者に自分の考えや弱さを露呈しにくくなっているんだと思います。
堂上:なるほど。先生という立場だからこそ、言いづらくなっていることもあるかもしれませんね。
佐藤:それぞれに、教員を目指した理由や子どもを中心とした実現していきたい夢があったはずなんです。ですが、思いのままに進めない経験を重ねていくと、「本当はこうしたい」ということよりも、自分を守るためにどんどん重い「鎧」を纏ってしまいます。たとえ途中で思い描いていたビジョンに向かって進めなくなっている自分に気づいても、誰にも相談できずに、孤立が加速してしまう。だからこそ、roku youでは、子どもたちだけでなく、教員にも寄り添える存在を目指しています。
堂上:想いがあって素晴らしいです。roku youさんでは教員向けの研修事業もあるんですよね?
下向:はい。教員同士が安心して対話できる場をつくり、原体験を振り返り、自分の中にある子どもたちへの思いに気づいてもらう機会を提供しています。教員になりたいと思った理由や、ビジョンを実現できている感覚はあるかを聞いていくと、ハッとする方は多いですね。少しづつ鎧が剥がれて、ポロっと弱さが出てくることもあります。
堂上:どんな仕事においても同じだと思いますが、当事者が楽しんでいるか楽しんでいないかは大事ですよね。まずは先生自身がウェルビーイングな状態であることが、「子どもたちの楽しい」にもつながると思います。
佐藤:先生たちのウェルビーイングは、まさにroku youにとっての命題ですね。
下向:対話が大事だと分かっていても、学び合える関係性や環境、ファシリテーションスキルなどを身につけておかないとその実現は難しいです。こうした「風土」や「スキル」、そして対話などを実践する「機会」の3つがあることで、初めて先生のウェルビーイングが叶うのではないでしょうか。
堂上:先生方がウェルビーイングに働いていけるように、世の中が変わっていけたらいいですね。
佐藤:変わっていきますよ! 絶対変わると思います! 私は最近、その息吹を感じています。
堂上:心強いお言葉で嬉しいです! どのようなところで変化を感じますか?
佐藤:最近は学校全体のビジョンや取り組みを明確化している学校が、私立だけではなく公立校にも増えてきています。また、私が関わっている青森県などもそうですが、自治体単位で改革を進めているところも増えています。また、コロナ禍にオンライン化の波が来たことで、全国の学校同士が横でつながりやすくなり、良い事例や取り組みの情報交換が盛んになりました。
下向:他にも、学習指導要領の大きな転換期で、授業が大きくシフトチェンジをしていること。さらに、与えられた校則ではなく子どもたちがルールメイキングする機会を学校が設けるといった事例も出てきています。
堂上:これまでクローズドな世界だった教育業界が、いま開かれてきているんですね。新しい兆しを感じます。
子どもが生きる喜びを感じられる世界を目指して
堂上:お二人はどんな状態が子どものウェルビーイングだと思いますか?
下向:そうですね。「生きるって面白い」と思えている状態でしょうか。
堂上:いいですね。仮に今、目の前に小学生ぐらいの子どもたちが大勢いるとします。「下向さん、僕たちが生きるって面白いと思えるために何かメッセージください!」と言われたら、どんなメッセージを送りますか?
下向:「気になると思ったことをトコトンやってみて!」と伝えますね。そのために親でも先生でも誰でもいいので、相談できる人を誰か一人でもいいから見つけて欲しいです。
佐藤:これは子どもに限った話ではないのですが、「自分の存在価値を感じられること」がウェルビーイングにつながるのではないかなと思いました。
今の時代、条件付きじゃないと自分の存在価値を認めてあげられない人や、そういう社会の風潮があるように思うんです。たとえば、相手が喜んでくれたから愛してもらえるみたいな。でも本当はきっと、ありのままでいいんですよね。子どもには「自分はありのままで十分価値がある存在なんだ」ということを、心の底から信じられるようになってほしいです。
堂上:子どもたちに生きていることを楽しんでほしいですよね。自分は必要な人じゃないなんて思って欲しくないです。
最後に、お二人はどんな瞬間にウェルビーイングを感じますか?
佐藤:私は文章を書いてる時ですね。取材対象者からお預かりした話をことばにする中で、自身も気づきを得ていく行為に幸福を感じるんです。これはコミュニケーションを通じて生まれるものなので、人との関係性はこれからも大事にしていきたいですね。
堂上:智さんらしくて素敵ですね! 僕も『Wellulu』の対談を通じて「自分が知らないことでさえ知らなかった」ということに気づかされることが多々あります。自分の無知さを知るってすごく前向きですよね。自分の新しい肥やしとして吸収していくと、どんどんウェルビーイングの感度が上がっていきます。事業を通じて社会にウェルビーイングな人を増やそうとしているのに、自分が一番ウェルビーイングな人になってきている気がします。
依梨さんのウェルビーイングはいかがでしょうか?
下向:私がウェルビーイングを感じる時は「瞳孔が開く」瞬間です。誰かと会話をしていて、ハッとする時があるんです。他者を通じて自分の存在価値を認識できた時にウェルビーイングを感じやすい傾向にあるかもしれないですね。
堂上:僕は今日お二人と話していて何度も瞳孔が開きましたよ。
下向:ありがとうございます!教育現場が好きな理由のひとつは「瞳孔が開く」のを感じやすい場所だからなのだと思います。子ども一人ひとりが瞳孔が開く瞬間に出会える場所になるよう、教育にコミットしていけたらなと思っています。
堂上:roku youさんの目指すウェルビーイングな教育のあり方を今後も応援していきたいと思います。本日は素敵なお話をありがとうございました!
堂上編集後記:
ドルトン東京学園の安居校長先生から、ご連絡を頂きおふたりをご紹介頂いた。沖縄と青森に住むおふたりとのオンラインでの会話は心地よく、あっという間に、共感しかない形で「いつかリアルでお会いしたいですね。」と言っていた。
そして、ふたりの想いが詰まった一冊の本を起点にWelluluに登場いただく機会があり、楽しすぎる時間を過ごさせていただいた。
子どもとウェルビーイングを探究している中で、親と子どもの関係が一番大きい。そして、子どもたちが自律していく過程において、SEL教育の大切さを感じた。その上で、僕らは多様な人たちと子どもの頃からどれだけ出会えるか、そんな機会を親や街全体でどれだけつくることができるかが重要である。非認知能力やニューロダイバーシティという視点も、多様な人や生物との出会いから、相手を受け入れ、そしてお互いが感じ合うことからはじまるのだろう。
この考えはアントレプレナーシップやイントレプレナーシップという視点と重なるなあ、と感じる学びの深い時間だった。おふたりとのご縁は、まだまだ続くと思います。
素敵な時間をありがとうございました。
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慶應義塾大学 総合政策学部(SFC)に入学。在学時に、社会起業家の経験値や暗黙知をパターン・ランゲージの手法を用いて言語化した『チェンジメイキング・パターン』を日本語と英語で製作し、英語版を出版。
2014年に渡米し、ペンシルベニア大学教育大学院にて、学習科学・発達心理学の修士号を取得。Social Emotional Learningと出会い、社会起業家育成(21世紀型問題発見解決スキルの養成)において、いかにSELが寄与するのかについて、修士論文にまとめる。
大学院卒業後、再び帰国し、東京のオルタナティブスクール(小学校)で教鞭をとる。算数・英語を中心とする教科を教えながら、探究学習のカリキュラムづくりと、SELベースのプログラムの開発に従事。後に、株式会社Live Innovationの取締役に就任し、教育クリエイト事業部の立ち上げと、公教育向けのカリキュラム・教材開発などに携わる。
2018年春、フリーの教育クリエイターとして独立し、人と人との間でしか起きない学びの機会・カリキュラムづくりを軸に全国様々なプロジェクトに関わり、2018年数名の教育クリエイターとともに、教育企画・コンサルティング会社 roku you を立ち上げ、現在は代表取締役を務める。その傍ら、「泡盛ガール」として泡盛の魅力をネットやイベントで発信している。
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