「あなたは今、幸せですか?」。この問いに「YES」と答えられる人はどれくらいいるのだろうか? 様々なテクノロジーが発展する近年において、人々が感じる幸福感や幸せはむしろ減少してきているというデータがある。幸せになりたいけど、いったい何からやればいいのか、本当に幸せだと感じるためには何が必要なのか。お金? 愛? ますますわからなくなる人も多いのでは。
今回は、「世界中の人を、1人残らず幸せにする」をミッションに「ハッピー」と「テクノロジー」を融合したサービスを提供している、幸せの伝道師・太田雄介さんにウェルビーイングな人生を送るためのヒントを求め、Wellulu編集部の堂上研が話を伺った。
太田 雄介(フレディ)さん
株式会社はぴテック CEO 兼 CHO(ハピネス)
一般社団法人ウェルビーイングデザイン 理事
堂上 研さん
Wellulu編集部プロデューサー
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。
「幸せの伝道師」はタンザニアのザンジバル島からはじまった
堂上:Welluluを立ち上げてからの9カ月間、様々なウェルビーイングな方を取材をさせていただいています。そして太田さんには出会うべくして出会ったなと感じているんです。本日はよろしくお願いいたします。
太田:ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
堂上:今日は素敵な服を着ていますね。
太田:見た人が幸せファーストになるかなぁと思って作りました。
堂上:いいですね。普段太田さんは「フレディ」の名前で呼ばれているそうです。今日もフレディとお呼びしてよろしいですか? あと、早速ですが、普段どんな活動をされているか教えてください。
太田:はい。主な活動は3つあって、会社経営と一般社団法人での活動、そして大学での研究です。株式会社はぴテックでは幸福度診断Well-Being Circleや「はぴトレ」という、使うと幸せになれるITサービスを手がけています。また、僕と同じ慶應義塾大学出身で学生時代には機械工学を教えてくださった前野隆司先生とのご縁もあり、「一般社団法人ウェルビーイングデザイン」であらゆる人々のウェルビーイング向上を目指して一緒に活動させていただいています。
堂上:フレディがウェルビーイングな世界にのめり込んでいったのは、いつ頃だったのですか?
太田:色々と調べ始めたのは2016年頃です。まだウェルビーイングという言葉自体があまり認知されていない時だったので、最初はなかなか周囲にも理解されませんでした。もともとITのコンサル会社にいたのですが、周囲にウェルビーイングの事業を始めると伝えたら心を病んだのかと勘違いされたこともあります(笑)。
堂上:病んだなんて、そんなことないですよね。生きる上でウェルビーイングについて考えることはとても大事だと思っています。どんな原体験があったのかもう少し詳しく教えてください。
太田:小学生の時に「アフリカの子どもたちの命が300円で助かります」というCMを見たのですが、それが強く印象に残ったんです。一方で、日本の教育費には一人あたり3,000万かかるという情報もあって。日本の教育費で10万人の命が救えるのか……とショックを受けました。
太田:そこから、『空手バカ一代』(原作:梶原一騎・作画:つのだじろう、影丸譲也)という漫画に出合って、「正義なき力は無能なり、力なき正義も無能なり」という言葉に感銘を受けました。「なるほど、正しいことをするには強くなる必要があるんだ」と思い、なぜか物理的な強さを求めて空手道場に入ったんです。
堂上:まずは空手から入ったとは。面白いですね。
太田:途中から柔道に鞍替えして大学まで続けて、「次は社会人」というタイミングでビル・ゲイツさんが財団をつくり、発展途上国の人たちを助けていることを知りました。「そうか、力とは腕力ではなくお金なのか!」と思ったんです。そこでビルゲイツさんと同じようにITの分野で就職し、僕自身はそれなりに楽しくやっていました。一方で、周囲では心を病んでいく人もいて……。そこで学生時代に行った、自分の原体験であるアフリカの旅を思い出しました。
堂上:アフリカの旅をされたのはどのタイミングですか?
太田:卒業と就職の間ですね。僕が行ったのはタンザニアで、途中ザンジバル島というところで仲良くなった現地の人の家に伺ったりしたのですが、みんなお金はないけれど、とても幸せそうに生きていて。むしろ日本人より幸せに暮らしているのでは、と思ったんです。ちなみに、あだ名の由来のフレディ・マーキュリーさんが産まれたのがザンジバル島です。
で、改めて調べてみると日本の国民総生産(GDP)はこの50年間で上昇しているのですが、幸福度はほとんど変わっていないというデータがあって。幸せを高めるにはお金だけではないと知り、幸せであることの重要性を伝えたいと思い、2018年に起業を決意しました。
堂上:なるほど。ウェルビーイングという世界に入ろうと決めた時には、具体的にこうしようというアイデアはあったんでしょうか?
太田:いいえ、全くありませんでした。ITの知識を使って広めていきたいと思い、アプリを作ったり、SaaS的なものにチャレンジしたり……。最初の2年くらいは本当に迷走をしました。
堂上:独立されて企業したものの、最初の2年は迷走されて非常に大変だったと思うのですが、当時ご結婚はされていたんですか?
太田:はい。結婚もしていて、上の子はまだ2歳でした。
堂上:昭和の働き方をしていた時代なんかは「家庭と仕事どっちが大切なの」なんて会話が想像できるんですが、奥さまは独立について理解されていたんでしょうか?
太田:妻にはいかにやりたいか、パッションを伝えて、なんとか納得してもらえました。それに起業した人でご飯が食べられなくて命を落とすといったデータは調べた限りなかったんです。だからなんとかなるだろうと思いました。
堂上:なるほど。失敗してもまた立ち上がればいいという考えだったわけですね。ウェルビーイングな生活を求めてご家族の理解も得られて、独立されて。ご自身はすごくウェルビーイングな状態であるということですよね。
太田:はい、僕自身は今、かなりウェルビーイングな状態と言えます。収入は3分の1になりましたが、幸福度は確実に高まりました。
堂上:僕らにとって定説とされてきた「年収が800万円を超えると幸福度が飽和状態になりウェルビーイング度が下がる」というデータに対して、フレディの調査の中には、年収に比例して幸福度もどんどん上がっていくというものがありましたよね。
一方で僕たちが取材を進めていると、年収が低いと結婚できないだとか、学歴がないと経験の差ができてしまうという声もあって、ウェルビーイングな生活は富裕層向けのものなのでは、と思う人も多くいます。フレディはどうお考えですか?
太田:おっしゃる通りで、ここ2年ほど界隈でも揺れている議論です。年収800万円を超えると幸福度の上昇が止まるという人もいれば、2021年にはずっと上がり続けるという人もいて。2023年にはその2人で論文を書くという事態になりました。
堂上:そうなんですね! 結論はどうだったんですか?
太田:「そんなに高くはないが、ほんの少しずつ上がる」と結論づけられたんです。弊社も20万人ほどの幸福度データをとっていますが、確かにお金があるかはそこまで幸せかどうかに影響していないんです。ある程度お金を稼ぐ人の方が幸せになれる可能性は高いですが、それよりも「感謝をたくさんすること」や「何事も面白がってチャレンジすること」などのほうが、幸福度への影響は大きいんです。
堂上:やっぱりチャレンジしていたり、好奇心旺盛だったり、新しい出会いに積極的だったりということのほうが重要ということですね。
太田:はい。お金を持つこと以外にも、ウェルビーイングな状態をつくる方法はたくさんあります。お金を稼ぐことはあくまで幸せになる手段のひとつだということですし、そもそもそんなに影響は大きくないということです。
ウェルビーイング上手になるコツは“まみれる”こと?
堂上:次はウェルビーイングになるための意識の変え方についてお伺いしたいと思います。日々僕らも調査をしている中で、40代の男性のウェルビーイング度が一番低いことがわかりました。そのくらいの世代って不平不満が多かったり、ほかの人の言葉や目が気になってしまいウェルビーイング度が低くなってしまう傾向にあるようです。
他者の言うことは「気にしなくていいじゃん!」と個人的には思うんですが、特に真面目な方は人と比べて劣っているとか、何かを言われて嫌な気持ちになったとか、それらが原因でメンタルを病む人もいると聞きます。どうしたらこうした人たちがウェルビーイングなマインドになれるのでしょうか。
太田:そうですね。皆さんすごく真面目ですよね。ひとつのことをやってみてダメなら、別の方法でトライすればいいんですが……。柔道にたとえるなら「背負い投げが苦手なら内股でいけばいい」といった感じで、ほかのものに目をむけることができればよりウェルビーイングな状態をつくれるのではないでしょうか。
太田:あとは日々のワークもおすすめです。弊社で運営する「はぴトレ」というアプリがありまして、3つの良いことを記録するとAIが応援メッセージをくれるというものです。これを3〜4年続けている方もいて、こうした習慣をつけることによって良いことを見つけられるようになるんですよね。単純にちょっとしたウェルビーイングの知識を増やしたり、高める実践をしたりするだけでも大きく違います。
堂上:確かにおっしゃている感覚やウェルビーイングな生き方を知っているか、知らないか、では大きな差があると思います。皆さん自分の居場所やコミュニティがひとつしかない場合、そこで上手くいかないと全てが否定されてしまう仕組みをつくりがちなんですね。これは日本人の特性なんですかね……。ウェルビーイングな状態をつくるのが下手、といいますか。技術や習慣で上達させる方法もあるのかなと思うのですが、どうでしょう。
太田:それは大いにあります。ウェルビーイングに“まみれる”ことが重要です。会社組織の幸福度を測ることもあるんですが、定期的に講習や対話をしたり、ウェルビーイングな情報を学んだり、ウェルビーイングに関する話を週1回でもいいからチーム全体にメールで共有してみたり。これらが非常に効果的なんです。
堂上:ちょっとした意識をするだけでもウェルビーイングな状態になれますよね。ちなみに意識をすることでウェルビーイングな生活になったというデータはあるんでしょうか。
太田:たくさんありますよ。一橋大学CFO教育研究センター長である伊藤邦雄先生がおっしゃっていた「ウェルビーイング・コンシャス・プレミアム」という現象がありますが、ウェルビーイングを知って重要視している人ほど幸福度が高いという結果があります。パーソル総合研究所と前野研究室でおこなった「はたらく人の幸せ/不幸せ」でも、同様の結果が得られたんです。その一方で、2023年にコンピュータ製品を提供している企業のヒューレット・パッカードが出した調査によると、「日本人でウェルビーイングが大事だと思う割合は世界で圧倒的に低い」という結果が出てしまって。
堂上:ポジティブに考えたら良いのにと思ってしまいますが……。日本人のウェルビーイングへの意識の低さは大きな悩みですね。
太田:国ごとの幸せの感じ方が違うのも大きく関係していて、日本は欧米諸国よりもウェルビーイングであることが重要だという意識が低いんです。「仕事は辛いもの、その辛いものを頑張るんだ」という意識が根強いのかもしれません。だから組織の場合はウェルビーイングがいかに生産性の高いものかを伝え続けて、それを当たり前にすべきだと思います。
堂上:昔の体育会系な意識が残っているんでしょうか……。嫌なものに耐える美学みたいなものがあるのかなと感じます。
太田:まさにそうだと思います。僕はIT業界にいた時代にわかりやすい実体験がありまして、辛い思いでプログラミングする社員は、どんなに頑張ってもプログラミングが楽しくて仕方ない社員には勝てないんです。だからウェルビーイングな状態で仕事をすることがいかに重要で生産性が高いかがよく分かります。このような実体験が増えることも大切だと思います。
堂上:あとは、自分の上司や所属している組織のトップがウェルビーイングでいないと、それがチーム員や部下にも影響するというデータもありますよね。反対にウェルビーイングな人がいると周りにも広がっていく。多数派としてウェルビーイングな人を増やしていくことが大事なのかもしれませんね。
太田:はい。実は非暴力的な社会運動において、全体の3.5%が賛同するとその考えが一般に広がるという話があります。だから日本の人口を1億人として、350万人がウェルビーイングへの理解を高めてくれれば一気に変わっていくのではないでしょうか。
堂上:なるほど、インフルエンサー理論と同じですね。ではWelluluも350万人以上の方に読んでいただける媒体を目指してやっていきます!
些細な気づきや何気ない習慣の中に、ウェルビーイングのヒントがある
堂上:続いてウェルビーイングをより理解すべく、フレディの考えや具体的な方法を掘り下げられればと思います。フレディは今までのいろんなレポートを見られてきたと思うんですが、これは面白い! とかウェルビーイングな影響を与えるな、と思ったデータはありますか?
太田:たくさんありますが、やはり日本人がウェルビーイングをあまり大切と感じていないというデータですね。本当に「大事だ」と思うだけで全然良いのにと思います。大事だと思うだけで、人はそれに向けて歩んでいきますから。自分の人生がどうしたら満足できるかどうかは、幸せを求める中で大切なことなのに、それをあまり考えていないのはもったいないと思います。
堂上:なんででしょうかね……。考えるきっかけや時間が少ないんでしょうか。
太田:たとえば小学校の道徳の授業も素晴らしいですが、大人になると大部分を忘れている。もっと自分自身の幸せや周りの幸せについて考える時間を設けても良いんじゃないかと思いますね、子どもも大人もですが。仮に具体的な行動に起こせなかったとしても、ウェルビーイングについて考えるだけでも良いと思うんです。
堂上:そうですよね。たとえばフレディがウェルビーイングな生活を送るために習慣にしていることってありますか? 読者の皆さんにも真似できることがあればぜひ紹介していただきたいです。
太田:過去と今で少し違うのですが、以前ウェルビーイングを意識し始めた頃は1日の終わりに3つ良かったことをあげるとか、感謝の気持ちを伝えるとか、自分の良いところをあげるとか、ウェルビーイングを高めることは片っ端から実践してみました。マインドフルネスやセルフコンパッションと呼ばれる慈悲の瞑想の時間をつくるのもおすすめです。
堂上:なるほど。あとはウェルビーイング診断をするだけでも、ウェルビーイング度は上がるんですよね。
幸福度診断Well-Being Circle (well-being-circle.com)
太田:そうですね。『実践!ウェルビーイング診断』では、診断を受けながらウェルビーイングを理解しウェルビーイング度が高まるように、あえてストレートな質問を設定しています。あと最近は「慈悲の正拳突き」とか「慈悲の四股」をふんだりしていますよ。
堂上:お、気になります。もう少し詳しく教えてもらえますか?
太田:自分自身、周りの人、苦手な人、そして世界中の人たちみんなが幸せになれますようにと唱える「慈悲の瞑想」という瞑想方法があるんです。瞑想の中では、いわゆるマインドフルネス瞑想の次くらいに、研究レベルで効果が実証されているものなんです。それに祈りや願いには体の動きをつけるとより良いという研究結果もあるため、正拳突きや四股をプラスしています。
堂上:面白い! 動きながらって良いですね。もしかして初詣とかおみくじも同じなのかなと思いました。
太田:そうですね、自分より大きなものにつながり、畏敬の念を持つことやお祈りすることも幸せにつながるというのが分かっています。
堂上:よく考えたら日本の文化ってすごいですよね。山に入る時にはお祈りしてから入ったり、木を切る時にはお酒をまいてからとか、家を建てる時もお祈りしてたり。これらも今でいうウェルビーイングにつながる行動ですよね。
太田:かなりそうだと思います。お寺に行ったり、お坊さんに相談する習慣もそうですよね。日本独自の文化にもウェルビーイングになれるヒントがたくさんあるので大事にしていきたいですね。
小さな一歩が“今よりもちょっとウェルビーイング”につながる
堂上:子どものウェルビーイングについてもお話ができればと思います。僕の実体験からお話すると、ウェルビーイングに携わるようになりコロナ禍を経て、ここ4年ほど自宅にいながらオンラインで打ち合わせをする機会も増えました。すると1日100回くらい「ウェルビーイング」と言っているんですよね。家にいる子どもはそれを聞いているので、多少なりとも理解はしてくれているんですが、僕が叱ろうとすれば「パパ!ウェルビーイング!」なんて言われてしまうこともあって(笑)。ちょっとした魔法の言葉みたいになってるんですよね。
太田:そうなんですね(笑)。子どもに伝えるということは、ぜひ続けていただきたいと思います。子ども向けのウェルビーイングの本もあるんですよ。認定NPO法人フリー・ザ・チルドレンジャパンという子どものサポートをしている団体が出した『ウェルビーイングな暮らしをおくるためのヒント集』(※)という教材のようなものがあります。無料でダウンロードできるし、大人にとっても面白くウェルビーイングの理解が深められるので、ぜひお子さんと一緒に読んでいただきたいです。
※ウェルビーイング | 認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン (ftcj.org)
堂上:僕もフレディに紹介していただいて拝見しましたが、感動しました!
ウェルビーイング学会という組織があるんですが、そのうちの「教育とウェルビーイング」に所属する約30名のうち10名ほどが校長先生なんです。先生がウェルビーイングであれば、子どもウェルビーイングになれるという考えなんですね。昨今は、先生も心を病まれて体調を崩されお休みされる方もいらっしゃるそうです。
太田:教育熱心な校長先生がいらっしゃるのは素晴らしいです! ただ先生方はとても真面目で、様々な声を全て受け止めてしまう方も多いと感じます。先生の働く環境からまずウェルビーイングを目指すというのは、子どものウェルビーイングにとっても非常に大事なことだと思います。
堂上:先生たちのウェルビーイングにもつながるのですが、最近労働環境におけるウェルビーイングについて考えることも多いんです。企業自体がウェルビーイングになっていくためにはどうすればいいと思いますか?
太田:どの状態を目指すかにもよりますが、そもそもウェルビーイングって今まであまり意識されてこなかった新しいことだと思うんです。いわば皆さんは「ウェルビーイング初心者」だと僕は思います。運動も初心者がやると確実に上達するように、とりあえずやってみることがウェルビーイング度を高める近道だと考えています。ウェルビーイングもスポーツのようなもので、まずやってみることが大切です。
堂上:やるかやらないかが分かれ道ですよね。
太田:企業でいうと社内の施策を、幸福度を高める4つの因子(「やってみよう!」因子、「ありがとう!」因子、「なんとかなる!」因子、「ありのまま!」因子)で考えてアイデアを出してみるとかもいいですね。
堂上:WeluluでもCWOがいる企業に取材をさせていただいているんですが、経営者がウェルビーイングを理解して会社自体にそういう人が増えていけば生産性が上がるかもしれない、そう信じて取り組んで欲しいと思っているんです。だからフレディのような「ウェルビーイング伝道師」が必要です。
太田:ありがとうございます。今よりもちょっとウェルビーイングになりたいと思ったら、失敗してもいいからまず一歩踏み出して取り組むことが本当に大切なんです。もちろん、学びながら実践することをおすすめしますが。
ウェルビーイングをもっと“身近”に“手軽”に
堂上:Weluluのこれからの話になるんですが、記事を読んでもらうだけじゃなくてその人のウェルビーイング因子に基づいた体験やサービスを提供できるようにしたいと思っているんです。
たとえば自然に触れるとウェルビーイングになりやすいとわかったら、散歩をすすめるとか。ちなみに僕の場合は毎朝の日光浴を大切にしています。
太田:すごくいいですね。実は僕が最初に出したアプリはウェルビーイングのワークが色々できるものだったんです。ただ、あまりにワークが多すぎて結局何をやったらいいかわからない状態になってしまって。だから「はぴトレ」はシンプルに3つのワークに絞りました。
あとはある程度は、「誰かに決めてもらったほうが楽」みたいな心理もあるので、堂上さんがおっしゃっているサービスもやるべきことが出てくると良いと思いますね。動線をシンプルにし、とにかく手軽にウェルビーイング度を高める方法を実践するのが大事だと思います。気軽にウェルビーイングを知り、高めるシステムが身近に必要だなと思っています。昔でいうお寺とかお坊さんはそれに近かったんですよね。どの町にもあって交流や相談ができる。
堂上:そうですよね。極端にたとえるなら、コンビニくらい「身近」で「手軽」な場所に太陽光のパネルが貼ってあってそれを浴びるだけで気持ちが前向きになるみたいな(笑)。
太田:はい、あと実は日光浴も大切。なんとかなる因子にもつながる、幸せホルモンの一種セロトニンが分泌されます。「なぜシリコンバレーが起業のメッカなのか、それは日光が燦々と輝いているからだ」という話があるんですが、現地は日照時間が日本より長いんです。ハードシングスがあっても日光を浴びていれば、なんとかなると思える。だから人間は陽の光を浴びておけば何とかなるとも言えます。
堂上:確かに、そう考えると国ごとのウェルビーイング度の高さは、気候が暖かい国の方が高いイメージがあります……。
太田:反対にウェルビーイングの取り組みが盛んなのは、日照時間が短い国々なんですよ。陽に当たる時間が短いとどうしてもネガティブになってしまう。だからこそウェルビーイング度を高める文化が根強いんです。ナチュラルボーンでいうと温暖な気候の国のほうが幸福度は高いですが、逆にそうでない国ほどウェルビーイングへの文化やスキルが高いと言えます。案外どちらとも言えない国は、ウェルビーイングの重要性に気がついていないこともあります。
堂上:なるほど。それが日本というわけですね。四季があって素晴らしい国なのにどうして幸福度が低いんでしょうか。
太田:日本人は何かと自分たちを低く見積もる癖がありますよね。だからウェルビーイングの一環として、自国の素晴らしさを理解すべく海外で日本を絶賛されている記事などを見せることもあります。「Ikigai」や「Shinrinyoku」、「Zen」など、日本の文化は世界でも注目されています。
堂上:自分たちでは気がつかないけれど、海外から見ると日本って本当に良い国なんですよね。日本の和の心もそうですし、美しい文化に溢れる国なんです。ウェルビーイングって本当に気づきが重要ですね。
太田:そう思います。一度外に出ると日本の良さに改めて気がつくと言いますか、バックパッカーや留学を経験した人も幸福度が高いですし。海外に一人で行くとかも日本の良さに外から触れる方法のひとつだと思います。
目指すは「世界中のみんながウェルビーイング!」
堂上:ここまでお話を伺って、フレディと僕らが力を合わせてこれから皆さんがウェルビーイングな生活を送るための行動に移すきっかけをつくっていきたいなと強く感じました。
太田:本当ですね。やりたいことがたくさんあります。失敗とかの共有もすごく大事だと思うので、追々できたらいいなと思います。つまりウェルビーイングをインフラみたいにしていきたいんです。今ではウェルビーイングが企業の差別化のようになっていて、もちろんそういったウェルビーイングに取り組んでいる会社に入りたい人も増えている。それもいいんですが、最終的には、みんなの取り組み事例や情報を持ち寄って、全ての会社や人がウェルビーイングを知って、取り組んでいることが当たり前になればいいなと思います。
堂上:そうですね。たとえば子どものウェルビーイングを考えるコミュニティや、シニアのエンディングについて考えるコミュニティがあってもいい。そこで得たデータや成功・失敗談を共有できる場ができていけば、よりウェルビーイングが広く浸透していくのではないかなと思います。Weluluはそのきっかけの場になればいいなと思っています。
太田:おっしゃる通りだと思います。そういったコミュニティづくりに僕もお力添えができればと思います!
堂上:ぜひ一緒にやりましょう! 最後にフレディのウェルビーイングを教えてください。
太田:僕は割といつも感じているんですが、やっぱりウェルビーイングがいろんなところに伝播していると感じる時でしょうか。会社のミッションが「世界中の人を一人残らず幸せにすること」なので自社のサービスや幸福度診断を通じて「変われました!」みたいなお話を伺えると最高に幸せです。
堂上:人の幸せに幸せを感じるんですね。人のためにと、自分を犠牲にしていないですか?
太田:僕はもうだいぶ幸せだと感じているし、ウェルビーイングでないこともウェルビーイングにとらえる技が身についてしまっているんです。でも、実は遺伝子調査では相当幸せではないんですよ。真面目でも誠実でもないし、協調性もないと出ていますし(笑)。だからこそ、先ほどの日照時間が短い国の話ではないですが、スキルで補っているのではないかなと思います。
堂上:遺伝子でそこまで分かるとは興味深いです。フレディのおっしゃる、人がウェルビーイングになると自分もウェルビーイングになるって素敵ですね。
太田:世界中のみんなが幸せになることが、本当の意味でウェルビーイングだと思うんです。日本の中でまず350万人がウェルビーイングを意識してくれるようになることを目指しています。
堂上:なるほど。一気に広がっていく可能性が高いですが、まだまだ浸透が必要ですね。だからこそ太田さんのような伝道師が必要だと思います。一方で、ウェルビーイングは一人ひとり違うので、正しく伝わるかどうかの難しさもあると思いますが……。
太田:その懐の大きさもウェルビーイングの良いところですよね。スポーツの流派やダイエットの手法と一緒で、試してみて合わなかったら違うものに変えればいいし、やりようはいくらでもあると思います。自分に合うように調節をしても良いわけです。
堂上:おっしゃる通りですね。これからもいろんな場面でご一緒できればと思います。本当に貴重なお話をありがとうございました!
太田 雄介さんの著書はこちら
『実践!ウェルビーイング診断』(前野隆司,太田雄介著/株式会社ビジネス社)
慶應義塾大学院総合デザイン工学専攻卒業後、ITコンサルタントとして流通小売/製造/金融業の大手企業にてシステム開発・業務改革に従事。一部上場のITコンサルティング企業にて年間個人MVPも受賞。
発展しているにも関わらず、幸福度が下がっている世界に課題を感じ、もっとみんなが幸せになる、みんなが幸せに向き合う世界をつくるために株式会社はぴテックを創業。