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【佐藤明氏×ももえ氏×堂上研:後編】掃除は雑務ではない。「間」を持つことで生まれる自身とコミュニティのウェルビーイング

財務諸表には掲載されない「ワクワク」「イキイキ」「ニコニコ」といった「目に見えない資産」に着目したコンサルティングを行い、音楽愛好家・選曲家としても活躍する佐藤明さん。

心がととのい、地球と繋がる幸せな食べ方「食べる瞑想 Zen Eating」を提唱し、Googleやパナソニック、三井物産など世界的な企業からセッションを依頼されているももえさん。

「音」と「食」にこだわる二人が追求するウェルビーイングとは。​​Wellulu編集部の堂上研が話を伺った。

 

佐藤 明さん

株式会社バリュークリエイト創業パートナー

野村證券グループ入社、以後同社証券アナリスト。日経金融新聞(現日経ヴェリタス)アナリストランキングでは、29歳で企業総合部門で1位、造船・プラント部門7年連続第1位。IT業界に特化した投資調査会社で調査部長を務めた後、(株)バリュークリエイト設立。デジタルハリウッド大学でコーポレート・コミュニケーション論准教授、海外資産運用会社、レオス・キャピタルワークス(株)、コモンズ投信(株)取締役、ソケッツなどの社外取締役を経験。東京理科大学大学MOT特任教授、青楓館高等学院投資部顧問などを務める。

ももえさん

Zen Eating代表

瞑想を土台にした食べ方「Zen Eating」を開発・創業。Google・マッキンゼー・パナソニック・三井物産・日経新聞・アクセンチュア・セールスフォース・富士通・ダスキン・LinkedInなど国内外大手企業などに、ウェルビーイングのプログラムを提供。30カ国2,600名に、心の安らぎや繋がりの感覚を取り戻す方法を紹介してきた。中央大学総合政策学部では、比較幸福・思想、特に日本や禅の心を研究。中央大学客員研究員/ウェルビーイング顧問。人類と地球に貢献すべく、2023年に一般社団法人Joy of Livingを設立。

堂上 研さん

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

価値観の合わない人とはどう接する?

堂上:フィルターをかけず、自分の知らないものに出会おうとする時、居心地のよい場所を出なければいけないという側面もあります。もしかしたら、自分が苦手とする人や、価値観の合わない人と出会うかもしれない。そういった時、ももえさんはどのように対応されますか?

ももえ:これに関しては、私も数年前に葛藤がありました。でも、たとえ共感できなくても、分かち合えるということを知ったんです。仲間の定義を、共感できるとしてしまうと、共感できない人を自分の中で阻害してしまう。価値観が合わない人と共感しない上で、何を分かち合おうかということを考えるようにしています。

堂上:相手のことをもっと知ろうとされるのですね。ももえさんの好奇心の強さもあるだろうし、相手をちゃんと知ろうとされているんだなと感じました。明さんはどうされますか?

佐藤:基本的には自然体でいます。価値観の合わない人とは無理に一緒にいようとしない。ただ選曲の仕事をしていると、いわゆるカバー曲をかけることがあります。昔の曲を現代のアレンジで今のアーティストが歌うと、全然違う魅力になるから、原曲は好きじゃないけれどアレンジはものすごく好きだという人もいるんですよね。カバーによって楽曲の素晴らしさに気づくこともある。だからアレンジを変えたら、実は好きになるということもあるんだなと思います。

堂上:なるほど。別のアレンジにしたら良い曲だと思えるように、人との付き合い方を少し変えると良い部分が見えてくることもあるかもしれません。合わない状態のまま関係性を続けることを強制されるとウェルビーイングではなくなってしまう。選択肢があることが重要なのでしょうね。

僕は子育てにおいても選択肢が大切だなと感じています。どうしても子どもに対して「こうしなさい」と言ってしまいがちですが、子どもに選択肢を与えて待ってあげることが、子どものウェルビーイングに繋がるのではないかと考えています。

ももえ:間をプレゼントしてあげるんですよね。“解A”“解B”を子どもにプレゼントするのではなくて、選択肢を自分で探す「間」をプレゼントして、温かな微笑みで見守ってあげる。それが信じるということなのかなと思います。

佐藤:「間」の美意識という話で思い出したのですが、僧侶の松本紹圭さんと以前お会いした時に、自分のオフィスの掃除をアウトソーシングしようと思うと話したら「自分の瞑想を人にお金を払ってやってもらうんですか」と言われたんです。それで自分で掃除を始めたら、結構ハマっちゃって。

堂上:僕もちょうど年末の掃除はアウトソーシングしようと思っていました。ウェルビーイングのためには、自分でやった方がよいですね。

ももえ:お二人とも、掃除を雑務だと思っていたのですね。でも日常の歩く・食べるといった行為も、お掃除もすべて心を磨くチャンスです。「雑」ではないんです。禅では「作務」というのですが、お皿洗う時に、自分の頭だと思って洗っていただくと、セラピーのような体験になり得ます。

堂上:確かに雑務だと思っていました……。でも、「雑音」もなければ、「雑務」もないんですね。

佐藤:世の中に無駄なものはない。「無用の用」ですね。役に立たないものに見えても、何かの役に立っているという老子の言葉です。

堂上:人との関係性においても、「間」を大切にしていくことがひとつのポイントになるかもしれません。以前、楽天のCWO(チーフウェルビーイングオフィサー)である小林正忠さんとお話しした時(※)も、楽天は「仲間・時間・空間」の3つの「間」を大切にしているとお話しされていました。ウェルビーイングと「間」には大きな相関性がありそうです。

(※)「日本で希少な役職チーフ・ウェルビーイング・オフィサーとは何をするのか?楽天CWO小林正忠さんに直撃」

「間」は、人によって、その日によって、感じ方が変わる

佐藤:「Zen Eating」で一口食べたらお箸を置くというのも、「間」を持つということですよね。口の中に入れている時は、何かを考えて味わうのか、無心になるのか、もしくは何をした良いかというのはありますか?

ももえ:私から「無心になりましょう」と言うと、コントロールで選択肢を奪っている感じがしていて。すごく集中して味だけを感じてる人がいてもいいし、全然違う昨日の心配ごとで頭がいっぱいで味わってる場合じゃないという人がいてもいいと思っています。それはそれで「間」をつくったことによって気づくことができた、その時のギフトなんです。

堂上:無理に無心になろうとしなくてもよいのですね。

ももえ:「今日はとても味わえたな、すごく香りを感じたな」という日もあれば、「生産者の人とか食べものと命との繋がりを感じたな」とか、一人ひとり感じることが違ってお持ち帰りになられることが一番自然でありヘルシーかなと思います。

佐藤:セロニアス・モンクというジャズピアニストがいるのですが、彼のソロは「間」が素晴らしいんです。超絶技巧で魅了するジャズピアニストも素晴らしいけれど、セロニアス・モンクは1本の指で弾いているんじゃないかと思うくらいゆっくりなんですよ。音と音に「間」があるんです。その「間」は、人によって感じ方が違うし、その日の気分によっても変わってくるから面白い。「 Zen Eating」にもそういった面白さがあるのだと感じました。

堂上:食においても、音楽においても、「間」によってそれぞれの捉え方が生まれるというのは面白い気づきですね。

境界を淡くし、複数のコミュニティに所属する

堂上:ウェルビーイングなコミュニティを考えた時、コミュニティを円で括ると、円の中にいる人たちはウェルビーイングで居心地がよいけれど、円の外に出た時に排他的なのではないか、それはウェルビーイングに矛盾するのではないかという議論があります。

そういった時、僕は円の線をぼやかしていくような、森と海の移行帯で多様な生物が集まる「エコトーン」という言葉がしっくりくると考えています。お二人は、居心地のよいコミュニティやその境界についてどのように感じられていますか?

ももえ:私は「淡い」ということへの可能性を感じています。コミュニティ内の結束感とか、価値観を共有してるというのは、コミュニティの条件ではあると思うんです。しかしその中で「一緒だよね」と言いすぎない境界線の淡さがあると良いのではないでしょうか。この価値観にぴったり合わないとそのコミュニティに入れないってわけでもなくて、何となくいい感じで入ったり出たり、また戻ってきたりという淡さをイメージすると過ごしやすいのではないでしょうか。

佐藤:コミュニティにこだわらず境界に関して言うと、一番意識してるのは会社の境界がどんどんどんどん低くなっていった方がいいなという思いがあります。

堂上:会社の境界というのは、会社とプライベートの境界でしょうか?

佐藤:個性を家に置いてこないということは、すごい大事なことだと思う。今までは公私混同するなという言葉もありましたが、公的と私的で分ける必要はない。活動も複数の活動になってくるから、ひとつの会社のためだけに1日の8時間をコミットするという定則もなくていい。それじゃうまくいかないこともあるからそれは考えなきゃいけないと思うけれど、どっちをベースに考えるかというと、境界を無くしていくことに向かっていきたいですよね。会社の境界、会社を超えていろんな人たちと一緒にやっていけるようになるといいな、というのも思います。

堂上:確かに仕事をしている自分も、プライベートの自分も、どちらも“自分”ですよね。様々な面を持っているのが当たり前です。

佐藤:ひとりの中にも対人関係や環境によって異なる自分、「分人」がありますよね。コミュニティも色々な場所に属していればいい。江戸時代の人々は、ひとつの仕事・コミュニティではなく、複数のコミュニティに所属していたといわれてます。私たちも境界を低くして、多様な自分と多様なコミュニティにいられることがウェルビーイングなのではないでしょうか。

堂上:お二人とお話しさせていただいていると、時間を忘れてずっとお話ししたくなります。本当に楽しい時間でした。日々の生活で、五感を研ぎ澄まし、コミュニティとコミュニティの移行帯の中で楽しく生きていきたいと思います。どうもありがとうございました。

編集後記

この日の取材は、僕自身ワクワクしながら、明さんのオフィスに向かった。東京の中野駅の商店街アーケードを抜けたところのオフィスに向かったのだが、駅に向かう人、オフィスに向かう人が左右に分かれていて、多様な人たちが行き交う、中野駅がダイバーシティな感じがした。

今回、おふたりとも僕自身が尊敬する人だ。明さんには、「音とウェルビーイング」というテーマでお話を聴き、ももえさんには、「食とウェルビーイング」で話を聴こうと思っていた。おふたりの好奇心が拡がり続けている中で、どんどん脱線していくし、どんどん話が拡がっていき、とても楽しい時間を過ごさせていただいた。

ウェルビーイングな人と出会っているだけで、僕もウェルビーイングになっていく。そんな気持ちにさせてくれるおふたりだった。そして、おふたりの生き方が格好良くて、僕も見習いたいと思うことばかりだった。

ウェルビーイングな人は、世界中にたくさんいる。そんな中、ボーダレスな境界をつくらない世界をつくるとしたら、自分自身が感じるままに生きていくことがウェルビーイングの第一歩なのかもしれない。五感を研ぎ澄まし、感じるままに生きていこう。

話の最後に、ミヒャエル•エンデの「モモ」の時間どろぼうの話になった。モモは、ただ相手の気持ちに寄り添い、何も語らない。その「間」が、僕らの時間という余白をつくってくれているのかもしれない。ももえさんの「食」も現代版のモモだし、明さんの「音」も五感で自分と向き合う時間どろぼうへの気づきに感じた。

新しい出会いが、新しい自分を発見する、そんなおふたりとの出会いと時間に感謝だ。明さん、ももえさん、どうもありがとうございました。

堂上

 

[前編はこちら]

【佐藤明氏×ももえ氏×堂上研:前編】スマホを置いて、今の「一口」に集中する。食と音、五感で味わうウェルビーイング

 

[当記事に関する編集部日記はこちら]

和の心とウェルビーイング

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