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【小国士朗氏×堂上研】“素人”だからこそ多くの共感を生む。アイデアマンの裏にあるウェルビーイングな生き方

小国士朗さんは、元NHKディレクターという肩書を持ちながら、番組を作らないディレクターを名乗り、これまでに150万ダウンロードを突破した「プロフェッショナル 私の流儀アプリ」や、世界150カ国以上に発信された「注文をまちがえる料理店」など数多くのヒット企画を生み出してきたアイデアマンだ。独立して「肩書を持たない」今でも、その活躍は目覚ましい。

人々の共感を生む企画の裏には何があるのか、思わず参加したくなるプロジェクトにはどんな共通点があるのか。数々の企画の開発秘話やアイデアが生まれる背景を、Wellulu編集部の堂上研が伺った。

小国 士朗さん

肩書なし

2003年に日本放送協会(NHK)に入局し、ディレクターとして「クローズアップ現代」や「プロフェッショナル 仕事の流儀」など数々の番組の制作を担当。その後、突然の心臓病によって番組制作の道が閉ざされるも、電通PR局での9カ月間の社外研修をきっかけに「番組を作らないディレクター」としてプロモーション・ブランディング・デジタル施策など、NHK局内で“一人広告代理店”のような仕事を立ち上げる。
2018年7月にNHKを退局し、現在は肩書を持たず活動中。

■主な企画
・「プロフェッショナル 私の流儀アプリ」
・世界2〜3億回再生を突破した動画を含む、NHKの番組のおいしいところをおいしい形で届ける、動画配信サービス「NHK1.5チャンネル」
・世界150カ国で話題となった、認知症の人がスタッフとして働く「注文をまちがえる料理店」
・ラグビーの新しい魅力に出会えるコミュニティ「丸の内15丁目プロジェクト」
・みんなの力でがんを治せる病気にするプロジェクト「deleteC」
・高齢者施設に暮らすシニアが地元サッカークラブのサポーターになることで心身の健康につながる「Be Supporteres!」

■著書
・『注文をまちがえる料理店』(2017年/あさ出版)
・『注文をまちがえる料理店のつくりかた』(2017年/方丈社)
・『笑える革命 ――笑えない「社会課題」の見え方が、ぐるりと変わるプロジェクト全解説』(2022年/光文社)

堂上 研さん

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

「肩書なし」。これまでの仕事を話して、相手に決めてもらう

堂上:小国さんは「プロフェッショナル 私の流儀」のアプリや、認知症のスタッフが働くレストラン「注文をまちがえる料理店」を通して個人的にとてもお会いしたかったので、今回お話できる機会をいただけてとても嬉しいです。今日はよろしくお願いいたします。

小国:嬉しいです。こちらこそよろしくお願いいたします。

堂上:小国さんの名刺を見てびっくりしたんですが、肩書が「ない」んですね。

小国:そうなんです。NHKで働いていたときにはディレクターという肩書があったのですが、名刺交換の際にいつも違和感を感じていたんです。どんな人の名刺にも大体カタカナが並んでいたりするけど、この人はいったい何をしている人なんだろう……名刺交換してお互いに分かったつもりになっているけど、本当は何も分かっていないのでは? って。

それで独立するときに、「肩書はあえて付けないでおこう」と決めました。実際に肩書をなくしてみると、今回のようなインタビューで自己紹介をお願いされたときに不便なんですけどね……(笑)。

堂上:肩書って実はすごく便利なものですよね。

小国:はい。なので、初めてお会いする方とお話しする時は必ず最初に15分いただいて、僕はどんな人なのか、これまでどんな仕事をしてきたのかを説明しています。もちろんそれを鬱陶しいと感じられる人もいると思うのですが、その一方で、すごく興味を持ってくださる人もいて。

お互いに気持ちよく仕事をするためには、やはりお互いのことを知っていないと意味がないと思うので、その15分間を受け入れてくれるかどうかが、仕事をご一緒できるかどうかの基準のひとつになっています。

堂上:めちゃくちゃ面白いですね。

小国:これまで「NHKの小国士朗」としてさまざまな経験を積ませていただきました。でもそれも本来は「小国士朗がNHKにいる」状態に過ぎないんだよなぁと思っていたんですよね。ものすごく生意気で、不遜な考え方かもしれないけど。

どこに所属していようが、どこにいこうが、まずは「小国士朗」という人がちゃんといることが大切で。僕の肩書が何で、僕が何者かということは、15分僕の話を聞いてくれたお相手にすべて委ねています。

面白いアイデアのきっかけはいつも “前のめり12度”

堂上:小国さんが企画した、みんなの力でがんを治せる病気にするプロジェクト「deleteC」を初めて拝見したときは衝撃でした。長年広告を扱っていた僕からすると、妬むくらい最高な企画です。この開発秘話をぜひ聞かせてください。

小国:はい。「deleteC」を思いついたのは、がんのステージ4だった友人がきっかけでした。彼女がある時、「小国さん、私は2年間がんの治療をしてきたんだけど、みんながハッピーになるためにはどう考えても“がんを治せる病気にすること”が1番だと思う。わたしは、がんを治せる病気にしたい」と言ったんです。自分のがんを治すのではなく、がんそのものを治せるようにしたい。だから、小国さんぜひアイデアを考えてください! と。

うわー、すげぇなと思ったんです。そんな人類の夢みたいな話、普通はできっこないと思うじゃないですか。でも彼女は大真面目にそれを口にしていた。それがすごいなと。

でも、そもそも僕は医療者でも製薬会社の人間でもないし、頼む人間違えているやろーっていう気持ちもあって。さすがに無理だよなぁと思っていたら、彼女が「MD Anderson Cancer Center(MDアンダーソンキャンサーセンター:アメリカにあるがん専門病院)」の名刺を見せてくれたんです。そうしたら、その名刺の「Cancer(がん)」という文字の上にピッと赤い取り消し線が書いてあったんですよ。それを見て思わず身体が前のめりになって。「これだ、Cを消そう!」って叫んで、deleteCのアイデアを思いつきました。そういう「前のめり12度」の瞬間が、僕のアイデアの根底にはいつもあります。

堂上:「前のめり12度」ですか!

小国:はい。たとえば、がんでも認知症でも、24時間365日そのことを真剣に考えて向き合っている方って少ないと思うんです。ほとんどの人は、僕みたいに「がんだって認知症だって、その言葉は知っていたり身近だったりするけど、それに対して自分が何をできるか、何をしたらいいかは分からない」状態。そんな「素人」でも思わず前のめりになる瞬間のことを「前のめり12度」って呼んでます。「おっ、なにこれ?」って。

堂上:なるほど、その角度が12度なんですね。

小国:名刺を見るまでは「いやいや、僕にがんを治せる病気にできるわけないじゃん。」と後ろ向き、なんだったら角度で言えば120度くらいになっていたんですが、名刺を見た瞬間思わず前のめりになっていました。

堂上:そんな「前のめり12度」の瞬間を作ることで、多くの人の共感を得られるんですね。

小国:はい。たとえばdeleteCにはサントリーのC.C.レモンが参加してくれていて、C.C.レモンからCを消した特別なパッケージボトルを数量限定で販売しています。このパッケージをコンビニで見た時に、僕がかつて名刺を見た時の角度と同じ角度にみんながなるんじゃないかなと思うんですよね。「なにこれ?」「なんでCが消されてるの?」って。そうしたらパッケージには「なぜCが消されているのか」という理由がちゃんと書いてあるから、消費者は納得してプロジェクトに参加する動機を持ってくれるようになります。

あまりにも角度がきつくなると、それはちょっと世間からすると熱狂しすぎで。「おっ、なんだろう?気になる!」と思う角度は12度くらいの角度な気がしています。

堂上:小国さんは、人々の好奇心を促すきっかけを作られている方なんですね。

小国:そうですね。がんや認知症、高齢者の問題などの大事なテーマって、どうしても重かったり堅かったりすることが多いじゃないですか。とっても大事なことなのに、そのままでは人に届かないし、誰もが参加できる状態にない。

そうじゃなく、テーマが重要だからこそ軽やかに、誰もが参加できるようなプロジェクトにしていくアイデアを出すのが僕の仕事ですね。

“前のめり12度”の裏にある自分のマジョリティ性

堂上:「deleteC」をはじめ、人々の共感を生む企画を世に送り出してきた小国さんですが、そのアイデアはどのように生まれているのでしょう。やはり「前のめり12度」に秘密があるのでしょうか?

小国:「前のめり12度」もそうなんですが、その裏にある自分の「マジョリティ性」が大きく影響していると思います。

堂上:「多数派」という意味のマジョリティですか?

小国:はい。たとえば、以前三菱地所さんと「ラグビーの新しい魅力に出会える」というコンセプトの「丸の内15丁目プロジェクト」を企画したのですが、それまで僕自身はラグビーのことは全く知らなかったんです。企画を任されたことをきっかけにラグビーの試合を初めて見に行かせてもらった時の僕の第一声は、「どっちのチームが日本代表ですか?」でしたから(笑)。両チームとも外国の選手がすごく多くて、正直どちらも日本のチームに見えなかったんです。

堂上:想像を遥かに超える知らなさでした(笑)。

小国:今考えるとすごく失礼なんですけどね……。その場でチームの説明をしてもらって改めて選手の面々を見てみたら、「あ、これってすごいかも」って思ったんです。だって、超多国籍の選手たちがひとつのチームになって試合をしてるって、色々な企業が挑戦しながらも実現できていない「ダイバーシティ&インクルージョン」をいとも簡単にやってのけているんですよ。

そう思ったらアイデアが止まらなくなって。ラグビーってもしかしたらビジネスに活かせるのかも? キャプテンのリーチマイケル選手がダイバーシティについて語るビジネススクールって面白いかも? ビジネススクールだけじゃなくて、街作りが得意な三菱地所さんと一緒にやるならついでに映画館や図書館、飲食店を作ろうか……ラグビーが好きになる街の飲食店なら麺は全部“ラガーメン”かな……とか。

堂上:まさに「前のめり12度」が生まれた瞬間ですね。

小国:その通りです。結果的に丸の内にはコアファンもにわかファンもラグビーを楽しめるアクティベーションが200近く生まれて、大会期間中は100万人近い人が訪れるようなプロジェクトに発展していくのですが、最初のきっかけは「どっちのチームが日本代表ですか?」という素人過ぎる僕の一言でした。でも、僕みたいにラグビーのことを知らない人って絶対に多くて、むしろ多数派なんじゃないかと思うんです。

堂上:変に企画者としてのバイアスをかけず、多くの人が思っていることを素直に代弁する。まさに小国さんのマジョリティ性から生まれた企画だったんですね。始めからラグビーのことに興味のある人には思いつかなかったかもしれないと思うと、すごく面白いです。

新しい価値観に出会うときに可能性を感じる

小国:友人の「がんを治せる病気にしたい」や、僕の「どっちのチームが日本代表ですか?」という言葉って、『裸の王様』の寓話で子どもが言った「王様が裸で歩いてる!」っていうのと同じなんですよね。たぶん誰もが思っているであろう“あたりまえのこと”を、ただ素直に口にしただけというか。

「素人のあなたがそんなこと言うのはおかしい」とか「不謹慎だ」とかっていうのは、正しいかもしれないけれど、やっぱり僕はおかしいと思うんですよね。

堂上:大人の世界の暗黙の了解みたいなものですね。

小国:はい。前に認知症の方が接客をする「注文をまちがえる料理店」を企画した際に、「店の名前がわるい」「認知症の方が注文をまちがえることを前提にしているのは失礼だ」という意見がありました。

反対派の方に「どうしたら良いですか?」と聞いてみたら、「注文を“まちがえるかもしれない”料理店」に変更すべきだと言うんです。でも、それってただの普通のレストランですよね。近所のファミレスだって「注文を“まちがえるかもしれない”料理店」ですよね。

堂上:たしかにそうですね。

小国:言っていることは正しいんですが、それは「注文を“まちがえる”料理店」という名前にすることによって本当に間違いが起きたとしてもお客さんが寛容になれるという、この企画の一番大切な根っこの部分を無視してしまっているんです。センシティブなテーマに関わろうとすると、どうしても「不謹慎だ」「こんなことやってはいけない」という批判や炎上が頭に浮かんで身動きが取れなくなりがちなのですが、僕はその批判の1歩先まで考えてみたいと思うんです。本当に、本当にそれって不謹慎なことなのかな?って。

堂上:新しい価値観を生み出そうとしていたり、一歩踏み出そうとしたりしている人に対して、「それは間違っていると思う」「やめたほうがいい」という反対意見も必ず出てきますよね。僕も新規事業を考える部署にいるのでよく分かります。小国さんは、そういう人たちにどう対応していますか?

小国:僕は反対されたらむしろ「よっしゃ」と思うようにしています。いわゆる世の中に溢れている「成功体験」に沿っていないからこそ反対されているはずなので、言い換えればそれは、新しい価値観が生まれる可能性の高い瞬間ですからね。

これまでも、これからも変わらない「テレビジョン」の姿勢

堂上:小国さんは、5年後や10年後、将来の自分がどうなっているかは想像つきますか? お話を聞いていると、ある意味自然に身を任せて雲や川の流れのように、自然体でその時々を生きていらっしゃるようにも感じられるのですが……。

小国:堂上さんの言う通り、明確な将来のプランはありません。がんや認知症などのテーマを扱う機会が多いこともあって「社会起業家」「社会にとって良いことをやる人」というイメージを持たれることも多いのですが、僕がやっているのはあくまでも「テレビジョン」なんです。

テレビマンとして働いていた頃に「自分の仕事って何だろう?」と、語源に立ち返ってみたことがあるんです。「テレビ(テレビジョン)」は「tele(遠く)」と「vision(映す)」という2つの言葉の造語だと知って、ものすごく腑に落ちました。だからテレビでは、多くの人が見たことのない風景や誰も触れたことのない価値を形にして届けているんだなって。

独立してからも、僕の根本は変わりません。テーマやプロジェクトの内容は変わっても、「常に自分の中で見たことのない世界を多くの人に届ける」ことを仕事にしていくと思います。

堂上:小国さんとお話ししていると、新しい視点や新しい価値を見せてくれるような気がします。だからこそ多くの人が小国さんに相談したくなるし、そこでまた新しい問い、そして「前のめり12度」が生まれるんですね。

小国:そうだと嬉しいですね。それから、無駄や余白、遊び心を大切にする仕事をしていきたいと思っています。コスパやタイパを求めすぎることでみんなが同じことをやり始めて個性を失うのではなく、あえて無駄や余白を残して楽しむことで、そのチームや組織や会社や地域に個性を宿す仕事ができたら最高です。

堂上:無駄を楽しめる環境は、そこで働く人のウェルビーイングにもつながりますよね。最後に、小国さんにとってのウェルビーイングを教えていただけますか?

小国:自分自身がすごい幸せだなと感じるのは、アイデアが思いついた瞬間です。

堂上:まさに「前のめり12度」が生まれた瞬間ですね! 本日はさまざまな企画の開発秘話やアイデアマンである小国さんの価値観などを伺えてとても勉強になりました。小国さん、ありがとうございました!僕も「Wellulu」を通して、たくさんの「前のめり12度」を見つけていきたいと思いました。ここから、自分たちで社会を変えていけるような気がします。

撮影場所:UNIVERSITY of CREATIVITY

[当記事に関する編集部日記はこちら]

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