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【髙橋ゆき氏】“お茶の間の幸せ度数”から社会のウェルビーイングが高まる。「愛のWi-Fi」を持つコツとは?

家事代行サービスのパイオニア・株式会社ベアーズの創業者であり、副社長を務める髙橋ゆきさん。社員のウェルビーイングを考え、ご自身のウェルビーイングを追求する姿は多くの女性の支持を得ている。

彼女のウェルビーイングはどのように形作られているのか。親交の深いWellulu編集部の河合和彦がお話を伺った。

 

髙橋 ゆきさん

家事代行サービス 株式会社ベアーズ取締役副社長、CVO&CLO

自身の香港での原体験をもとに、夫と共に「家事代行サービス産業確立」を目指し、1999年に家事代行サービスのパイオニアであり、リーディングカンパニーである、株式会社ベアーズを創業。
https://www.happy-bears.com/

経営者として社員のウェルビーイングを第一に考え、社内3つの実業団の「総監督」も務め、各種ビジネスコンテストの審査員や、ビジネススクールのコメンテーターを務めるほか、家事研究家、日本の暮らし方研究家としても、テレビ・雑誌などで幅広く活躍中。2015年には世界初の家事大学設立。
TBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」、読売テレビ・日本テレビ系ドラマ「極主夫道」、テレビ朝日ドラマ「おっさんずラブ-リターンズ-」で家事監修を担当した。1男1女の母。

河合 和彦さん

Wellulu編集部プロデューサー

1991年博報堂入社。営業、人事、デジタル系グループ会社、営業統括、人材開発、プロセスイノベーションを経験。「組織の関係の質」向上を目的とした、強みを活かす「ストレングスファインダーワークショップ」や「ポジティブ心理学」に精通し、ウェルビーイングに生きるヒントを伝える支援を行う。「タレントマネージャー制度」HRアワード2021入賞。「国家資格キャリアコンサルタント」、「JPPI認定ポジティブ心理学トレーナー」、「米GALLUP社ストレングスコーチ」、「日本MBTI協会認定ユーザー」、「組織変革のためのダイバーシティOTD普及協会認定講師」、「人的資本ガイドラインISO30414リードコンサルタント&アセッサー」などの資格を持つ。

自分にピントは合っているか?

河合:今日はいつも通り、「ゆっきー」と呼ばせていただきます。ゆっきーは株式会社ベアーズの取締役副社長のほかにも、様々な顔を持っていますよね。

髙橋:ベアーズの3つの実業団の「総監督」、家事研究家・日本の暮らし方研究家としても活動しています。一般社団法人全国家事代行サービス協会の会長や、一般社団法人日本フェムテック協会の理事、一般社団法人日本ウェルビーイング推進協議会の理事と様々な肩書きがありますが、1番大切にしているのは「母」であるということです。

河合:ベアーズの取締役副社長では「CVO」と「CLO」と書かれていますが、どういう意味でしょうか。

髙橋:CVOは「Chief Visionary Officer」、CLOは「Chief Love Officer」。先日出版した著書『ウェルビーイング・シンキング』のサブタイトルにも「Start with Love」という言葉を入れています。世の中には、辛いことや嫌なこと、納得いかないこともたくさんありますよね。でも全てを愛から解釈したり、自分の初動を愛からおこなったりすると、意外に物事がうまくいくんじゃないかということを発信しています。

河合:「愛からはじめる」。とてもゆっきーらしい言葉だなと思うけれど、自分には難しいと感じる人も多そうです。

髙橋:私はベアーズの実業団チアダンスチーム、吹奏楽団、女子陸上競技部の総監督をしていて、毎日がとってもドラマチックです。彼女たちは日中に仕事をして、夕方から競技の練習をするデュアルキャリアを行っており、非常に忙しいのですが、世界大会など目標に向かって日々励んでいます。私も総監督として各チームの監督やコーチと深夜まで話し合うこともあってハードなのですが、それがすごく楽しい。ウェルビーイングを感じるんです。

河合:なぜウェルビーイングを感じられるのだと思いますか?

髙橋:彼女たちには成し遂げたいことがある、というのが重要だと思います。成し遂げたいことのためには、嫌なことや納得いかないことがあっても、愛情や情熱を持ち寄って、チームに尊敬と感謝を持って、人生を懸けてやることで、成し遂げられる。愛や情熱を持ち寄る心の根っこが、ウェルビーイングにも、人生にも大事だと感じます。

河合:心の根っこは誰もが持っていて、普段は気づけていなくても、何かのきっかけでそれに気づくことが出来たら、愛を持てるのかもしれないですね。

髙橋:ポジティブ心理学の「PERMA(パーマ)理論」でもいわれているように、自らポジティブな感情を持って、人生に意味づけをして、夢中になる。私は「愛のWi-Fi」と言っているのですが、Wi-Fiのように愛をキャッチして、愛でつながっていけたらいいなと本気で思っているんです。

河合:愛のWi-Fi、良い言葉ですね。ゆっきーは、いつもポジティブなエネルギーに満ち溢れていて、まさに愛の人という印象です。

髙橋:よくそう言われるのですが、実は私は挫けそうになったり、自暴自棄になったりした経験が多いんです。祖母が脳梗塞で倒れて留学を断念して介護をしたり、両親の会社が倒産したり、パニック障害を発症したり、最愛の父を亡くしたり。パニック障害は今も完治はしていません。

河合:そうだったんですね。

髙橋:以前、テレビ番組で「1カ月30日のうち、体調も気分も良い日は1日くらいしかない」と発言したら、「私も実はそうなんです」といった反響を非常に多くいただきました。

私は自分の具合が悪いことに気づかないふりをして、誤魔化して生きていたら限界が来て、パニック障害になった。それって、自分にピントが合っていない状態だったと思うんです。頭が痛かったり、具合が悪かったりしていても、上司から連絡が来たら返信している自分がいて、子どもにはお母さんとしてしっかりしなきゃいけないと思う自分がいる。具合が悪い自分にピントが合っていないんですよね。ピントを常に合わせることは難しいけれど、ピントが合っていないなと気づくことが大切だと思います。

病に倒れた父に聞いた3つの質問

河合:パニック障害は完治はしていないものの、辛い時期から変化したきっかけはあったのでしょうか。

髙橋:37歳の時、最愛の父を亡くしたことは大きかったと思います。父から、「がんばるっていうのはちっとも美徳じゃないよ。がんばらなきゃいけない時はあるけれど、毎日毎時間毎秒がんばっていたらよくないよ」と言われたんです。ベアーズは創業時から「がんばる女性を応援します」というスローガンを掲げていたのですが、父の言葉を受けて、創業10周年というタイミングもあり、「“あなたの愛する心”を応援します」という言葉に変更しました。

河合:お父様の言葉から心境の変化があり、会社のスローガンにも反映させたのですね。ご自身の生き方や、考えが仕事にも反映されているのが、ゆっきーのまた素敵なところです。仕事と普段の自分を完全に切り分けてしまう人も多いので。

髙橋:私は思想家でも理想家でもなく、実業家です。愛を持って、志を持って仕事をすることで、社会を変容させていきたいと思っています。アーティストが自分の活動を通して表現をする感覚に近いのかもしれません。

河合:自分を表現する、というのはウェルビーイングにおいても大切ですね。ゆっきーの今があるのは、やはり、お父様の影響が大きいのでしょうか。

髙橋:大きいですね。そんな偉大な父が亡くなる時、3つの質問をしたんです。1つ目は、「お父さんの人生はどういう人生でしたか」。父は間髪入れずに「とても良い人生でした」と答えました。この一言は、どんなに辛い境遇になったとしても、生きていくという覚悟をくれたんです。母の経営していた会社が倒産し、父が写真家として成功しながらも経営していた会社も引っ張られる形で倒産し、しんどい時期も多かったと思います。それでも「良い人生だった」と言える父は凄いと感じました。

河合:間髪入れずに「良い人生だった」と言い切れる人生、素晴らしいですね。2つ目の質問は?

髙橋:「どんな娘でしたか」です。良い答えを期待していたのですが(笑)、「ゆきはみかんを箱でもらったら、箱から1個だけ取り出して、2つに割って僕に半分をくれる子だ」と言ったんです。印象的な言葉でした。

そして3つ目は、「死んでゆくというのはどういうことですか」。父は「死んでいくということは全く怖いことじゃないんだよ。だけど、会いたい人に会いたい時に会えなくなるね。それがとっても寂しいことだから、会いたい人がいたらどんな手段を使っても、待っているんじゃなくて、自分から会いに行きなさい」と言いました。これは私の人生の大きな指針になっています。

河合:とても素敵なお話ですね。会いたい人には必ず会いにいく、というのも今のゆっきーにつながっていると感じます。

香港で家庭を支えた「スーザン」との出会い

河合:ゆっきーは、なぜ株式会社ベアーズを創業されたのでしょうか。

髙橋:親の会社が倒産し、弁護士事務所でアルバイトをした後に、知り合いの経営者から誘っていただき、結婚した夫と香港に渡りました。夫婦で同じ会社に入社して、新たな生活を楽しんでいた矢先に、妊娠が発覚。とても嬉しいサプライズでしたが、「どうしよう」という不安も大きかった。異国の地で、まだ友達もいない中、子どもを育てながらフルタイムで働けるわけがないと思ったんです。打ち明けるのが怖くて、しばらく会社の社長に言えずにいました。

河合:でも、言わなければいけないタイミングが来ますね。

髙橋:そうなんです。それで香港人男性の社長に恐々と打ち明けたところ、とても喜んでくれました。なぜそんなに不安そうなんだと聞かれ、フルタイムで働けなくなる不安を伝えたら、「安心しろ、香港では東南アジアから来ているメイドが、共働き夫婦を支えている」と。「それはお金持ちが使うサービスですよね」と言ったら、「日本ではそうなのか? 香港では、社内でもみんな使っているよ」と言われて、とても驚きました。

河合:日本では当時、浸透していなかったサービスでしたね。それでメイドの方が、ゆっきーの家庭にも来たのですね。

髙橋:はい、スーザンという女性が来てくれて、献身的にサポートしてくれました。スーザンのおかげで出産後もフルタイムで働けましたし、家事をお任せ出来ているので、体も心も楽でした。毎日穏やかに、ノンストレスで過ごせたことで、仕事にも思いきり打ち込むことができたんです。

河合:それがベアーズの原点になるのですね。

髙橋:スーザンは母国にいる家族のため、誇りを持って仕事をしていました。その姿も非常に印象的で、日本でも新しい暮らし方と、新しい雇用の創造をしたいという想いが、ベアーズ創業につながりました。ですから、家事代行サービスを日本のインフラにすることで、“お茶の間の幸せ度数”から社会のウェルビーイングを高めたい、高められると信じています。

河合:“お茶の間の幸せ度数”というのは?

髙橋:一人暮らしであったとしても、その人の家にお茶の間はありますよね。私たちが目指すのは、“お茶の間の幸せ度数”を高めること。ベアーズは夫と創業したのですが、夫と「産業を創ろう」というのが合言葉になっていました。

河合:家事代行サービスは今や多くの人に知られ、また求められています。まさに産業を作りましたね。今、ゆっきーが成し遂げたい目標はありますか?

髙橋:家事代行サービスで、この国の家庭を支える皆さんの地位を向上したい。そのために、国家資格を制定したいと思っています。人材不足の今、海外諸外国から日本に来ていただき、日本の市場で働いてきたよと誇りを持って言えるためにも、グローバル国家資格を制定したいですね。

河合:素敵な目標ですね。ゆっきーなら成し遂げられそうです。

髙橋:海外の方が日本の家庭に来てくれた時、それは単なる仕事だけのつながりではないと思うんです。日本のおせちや行事など、文化を知ってもらえる。そして、日本に第二の家族ができる。それは真の文化交流であり、国際平和につながると信じています。

写真を大量に撮るのがウェルビーイング?

河合:ゆっきーは、日々多くの方の人生相談にも乗っていますが、ウェルビーイングな暮らしが実現出来ていない人には、どのように声をかけているんですか?

高橋:思考や体調ってつながっていて、食べるものや運動が本当に大事なんです。基本的なことだけれど、軽んじている人も多い。ベアーズの社員の中にも、詳しく聞いてみると、毎日食事を簡単に済ませていたり、食生活が偏っていたりしている子がいて。仕事の相談をしに来てくれたのですが、まずは食生活を変えて、ストレッチをするところから始めてみたら? と声をかけました。10日ほどで、みるみる変化して、とってもポジティブになっていましたよ。

河合:食生活が大事、運動が大事、とは分かっていても出来ないことが多いですよね。副社長でありながら、そういったところにまで伴走されているんですね。

高橋:社員のことは、本当に家族だと思っているし、そう言葉でも伝えることを心がけています。ちゃんと気にかけているよ、愛を持っているよ、と伝えることで拠り所を持っていてほしいんです。

河合:この人はちょっと自分にピントが合っていないな、というのはどうやって気づかれているんですか?

高橋:まず、人は全てが上手く行っている時なんてほとんどないし、強くない、という前提を持っているんです。ピントが合っていないなと気づくというより、ピントが合っている人に気づいていることが多くて、そうではない人は、何かしら不調があるのだと思うし、寄り添いたいという気持ちで接しています。

河合:なるほど。ゆっきーのこれまで辛かった経験があるからこそ、皆さんに寄り添えているのですね。最後に、ゆっきー自身がウェルビーイングを感じるのは、どのような時ですか?

高橋:写真を撮っている時です。写真家の父の影響で、写真家になりたかったんです。人の表情を撮るのが特に好きで、私の携帯のフォルダには27万枚の写真があります。その6割がベアーズの社員の写真ですね。

河合:27万枚!どういう時に撮られているんですか?

高橋:全社総会とか、毎月の表彰とかは、もう表彰された全員の写真を撮りたくて。「会社に入って10年以上経って、初めて表彰されました」と泣いている子とかがいると、この瞬間を収めたい! と思うんです。良い表情を収めたくて壇上のギリギリに立って撮影しているので、いつも落ちないか心配されています(笑)。私は自分の好きな場面や瞬間を「happiness moment」と呼んでいるのですが、それを閉じ込めておきたい。シャッターを切ると、大切な瞬間が天国の父にも届いているような気もします。

河合:「happiness moment」、正にゆっきーの生き方そのものですね。今日はたっぷりとゆっきーの原点を聞かせていただき、「happiness moment」の連続でした。本当にありがとうございました。

編集後記(堂上)

ゆっきーにお会いすることができた。博報堂の先輩であるかーくん(Welluluではそう呼ばせていただいている)のウェルビーイング界の人脈に頼らせていただいた。

はじめてお会いするのに、ゆっきーは周りにいるWelluluの編集メンバーやカメラマンをどんどん巻き込んで、対談中もずっと僕らともお話しをしてくださる。周りの人を巻き込みながら利他の心をもっている方だと感じた。

ゆっきーの話を聴いていて、常に社員のいちばんのウェルビーイングを「愛」を通して実行している。こんな愛され方をすると、働いている人たちもみんな嬉しいだろう。

愛は、その人の成長を生み、愛は、その人の安心を生み、愛は、その人の肯定を生む。そんなことを感じるくらい社員と周りの人に愛を捧げている。

ウェルビーイングには、自分の想いを解放する「open」と、相手の立場に立って行動する「respect」が大切だと思っていたが、それらを包み込む「love」が重要だと感じた。

ゆっきー、とても楽しい愛に溢れた時間をありがとうございました。

[髙橋 ゆきさんの著書はこちら]

『ウェルビーイング・シンキング』(日経BP/2024年)

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