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【小澤いぶき氏】“子どもがまなざす世界”から育まれるウェルビーイング

親とって、自身のことと同じくらい、またはそれ以上に考えを巡らせているのが子どものことではないだろうか。Welluluにも「子どもが学校をサボりがちで……」「子どもの居場所を作ってあげるにはどうしたら?」といった多くの相談が寄せられている。

今回お話を伺ったのは、児童精神科医として、多くの子どもたちのメンタルヘルスのケアとウェルビーイングに関わった後、子どもも自分もウェルビーイングな地域を育むことを目的として活動するNPO法人「PIECES」を創業。現在は一般社団法人Everybeingの共同代表、こども家庭庁のアドバイザーも務める小澤いぶきさんだ。

子どもたちが安心・安全に、ウェルビーイングに生きるために必要なこととは? そして、そのために親や周りの大人たちができることとは何だろうか。Wellulu編集長の堂上研が話を伺った。

 

小澤 いぶきさん

児童精神科医/一般社団法人Everybeing 共同代表/こども家庭庁アドバイザー

児童精神科医・精神科専門医・精神保健指定医 臨床研修医・精神科臨床医としての経験後、東京医師アカデミーにて児童精神科の研修を積み、東京都立小児総合医療センター、児童相談所、精神保健福祉センター等にて子どもの心のケアに携わる。その後、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を経て、認定NPO法人PIECESを創業。Fish Family Foundation JWLIフェロー。2017年、ザルツブルグカンファレンスにて、子どものウェルビーイングのためのザルツブルグステイトメント作成に参画。日本及び中東での子どものmentalhealth and wellbeingのプロジェクトに関わる。2022年7月よりこども家庭庁設立準備室(現・こども家庭庁)アドバイザーを兼務。
https://everybeing.or.jp/

堂上 研

株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu編集長

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
https://ecotone.co.jp/

目次

尊厳が響き合いながら共存する世界をつくりたい

堂上:『Wellulu』を通じてウェルビーイングを探求していくなかで、子どものウェルビーイングには特に強く関心を持ちました。ですので、今日いぶきさんとお話しできることをすごく楽しみにしていたんです。どうぞよろしくお願いします。

小澤:光栄です! こちらこそよろしくお願いします。

堂上:いぶきさんは認定NPO法人PIECES(以下PIECES)や、一般社団法人Everybeing(以下Everybeing)、そしてこども家庭庁という場所で、まさに子どものウェルビーイングを追求してらっしゃいます。その背景にはどんな想いがあるのでしょうか。

小澤:多くの人やもの、ことがすでに「存在」していて、自然や、自然と共に生きてきた先人の中には、違う環世界をもつ存在たちが共に在る「あり方」やまなざし、知恵があります。そのような豊かさや可能性がある一方で、なぜこんなにも暴力が連鎖してしまうのかという疑問が根源にあります。私たちは何かをコントロールできる存在ではないはずなのに、どうして国同士の争いや人同士のトラブル、自然破壊などが起こってしまうのか。

誰かや何かの痛み、尊厳が踏み潰された上に一部の誰かの「Well(ウェル)」が乗っているのではなく、本当の意味でそれぞれの尊厳が響き合い、それぞれの尊厳へのまなざしが交わされながら共存していく。まさにウェルビーイングな相互存在が起こっていくためには何が必要なのだろうか、どのように育んでいけるのだろうかという関心から、PIECESやEverybeingは生まれています。

小さな子どもの場合、人間や人ならざる生き物、もしかしたら「ゴミ」と言ってしまうような道端にあるビニール袋に対しても同じように純粋な関心を向けていることがあります。その“子どもがまなざす世界”は、この世に存在するすべての尊厳へのまなざしへの大事なエッセンスなのではないかと感じます。そのようなまなざしを大切に、子どもの方々と共にそれぞれの存在のウェルビーイングの相互存在を育んでいけないかという思いが込められています。また、子どもの方々は時に社会の構造の皺寄せの影響を色濃く受けます。その子どもの方々の「こえ」は、社会の構造の歪みに光を当てる大切な「こえ」でもあります。

堂上:なるほど、だから象徴としての子どもというわけですね。そもそも、いぶきさんがその分野に興味を持ったきっかけはどんなものだったのでしょうか。原体験を伺いたいです。

小澤:私は山梨県北杜市という自然が豊かな環境で育ったのですが、保育園の時、毛虫を見つけた先生が「あ、毛虫だ」と言って踏み潰したんです。当時、毛虫が毛虫であるという理由だけで潰されてしまったことにものすごく衝撃を受けました。その後、戦争に関するアニメや絵本に触れた時に同じような衝撃が蘇ってきたんです。「ただ一緒に存在しているだけなのに、同じ命なのに……」って。

堂上:人は自分が生きる上でマイナスになると判断した場合に、それを省いてしまう心理が働くのかもしれませんね。それを幼少期に感じていらっしゃったというのはすごいですね。

小澤:少し何かが偏った子どもだったのでしょうね。この経験は同時に、その行為を同じ「人」がやっているということは、私もやってしまう可能性があるのだと、人として暴力性を自覚し、何かが揺らいだ経験でもありました。戦争は、人が集まって集団になって起きるものですよね。でも、毛虫を踏み潰した保育園の先生がそうだったように、個人を見れば必ず温かいまなざしや一面もある。個々の中は宇宙のように多様。そうであれば、自然も含めてそれぞれの存在をちゃんと交わし合える状況があることで、戦争ではない形でなんとかなるのではないか、という希望を感じました。

堂上:とても共感しました。僕も含めて人には色々な面があって、どの面も自分なんですよね。ただそれを保育園の時に考えていたいぶきさんの感受性には本当に驚きました。

堂上:そんないぶきさんが小さい頃に熱中していたものはありますか?

小澤:絵本を描くのにハマっていました。一緒に暮らしていた猫が、小学校1年生の時に亡くなったのがすごく悲しくて、思い出や命が循環していく世界を絵本にしてみたんです。そうしたら自分の心が落ち着いて、それをきっかけによく絵本を描くようになりました。

堂上:僕も昔から絵を描くのが大好きで、絵本作家になりたいと思った時期もありました。今は続けていらっしゃらないのですか?

小澤:今はどちらかというと絵はあまり描いていなくて、詩を描くのにハマっているんですが、絵本を作りたいという気持ちはずっとあります。今は日本はもちろん、様々な地域、特に中東地域の子どもたちと関わっているので、その子たちが大事にしているまなざし、宝物をお互いに大切にし合えるような、ウェルな感覚を「言葉」を超えて共有できるような絵本を作りたいです。

堂上:素晴らしいですね!

小澤:小さい頃は、バイオリンやピアノを習っていたので音楽も好きでした。今でもそうですが、言葉よりも音や詩などで表現するほうが自分にフィットしている感じがします。

堂上:なるほど、面白いですね。ちなみに、今は何をしている時が1番楽しいですか?

小澤:まずは何かに没頭して熱中している時です。それから、イマジナリーな世界で詩や絵などを描いている時間にもウェルな感覚を感じます。あとは、自分と共に暮らす大切な子どもを含め、子どもの方や様々な人や存在と出会いながら「こんな世界の見方があったんだ」と、それぞれの環世界から体験している広い世界を教えていただいた瞬間や、大いなる流れの中にいる感覚も私には心地が良いです。

堂上:素敵ですね。僕も『Wellulu』を通じて色々な方とお話をするなかで、新しい視点や価値観を得られる瞬間はすごくウェルビーイングを感じます。放っておかれると延々と話しちゃうので、スタッフから怒られることもよくありますが……(笑)。

小澤:素敵なお仕事ですね! 仕事も人生の大切なエッセンスとして楽しいというのは、ウェルビーイングになるための要素として欠かせないと思います。

「子どもがまなざす世界」を大切に

堂上:小澤さんは、PIECESを立ち上げるまでは精神科医だったんですよね?

小澤:はい。今も変わらず精神科医であり、児童精神科医ですが、特に児童精神科医として、子どものトラウマを扱う仕事をしたり、メンタルヘルスとウェルビーイングの関係性を研究したりしています。

堂上:なるほど。医者という職業のなかでも児童精神科医を選んだ理由はどのようなものだったのでしょうか。

小澤:保育園の時の原体験から、ずっと戦争のようなことが起こる背景や人間の心のこと、それが集団になった時の心理や記憶というものに興味がありました。戦争や紛争が起こる背景には、見えない心の動きや感情の動き、過去の記憶などが関係しています。そういった「見えないもの」に興味が湧いたんです。

それと同時に、自分自身が子ども時代から変化していく中で、また子どもの方と出会うことでハッとさせられることがあり子どもの方への敬意が根底にあります。そんな「子どもがまなざす世界」もちゃんと大切にされるような世界へのプロセスを、子どもの方々と共に耕し、醸成していけないかという気持ちがあり、児童精神科医を選びました。

堂上:実際に精神科医として働く中では、日々どんなことを感じていましたか?

小澤:児童精神科には、毎日様々なお子さんがいらっしゃいます。世界はなんて広いんだろうと思うくらい様々な方と出会って、その方の感じている世界の一部を共有いただいたり、話をしていただきました。

一方で、医者である以上、出会えた一人ひとりへの診断が求められることがあります。その人から見えている・聴こえている世界、その人の感じている環世界があったとして、その世界は揺らいで変化していきます。それを私の体験している環世界や、特定の診断だけで勝手に切り取ることに違和感を覚えたんです。診断があることで、起こっていることへの一つの捉え方、理解の仕方としてその人にとって役に立つこともありますが、権威勾配の中、やや一方的に何かを決めたりジャッジするという構造自体への違和感でもあります。

医療という一つの入り口があったが故に出会った方もいます。その上で、もっと人と人として、心が交わされ、それぞれの環世界が交通しあっていくようなまなざしやあり方が土壌にあるような社会の構造を耕し醸成していけるといいなと思ったのも、PIECESを立ち上げるきっかけになりましたね。

堂上:社会構造、つまり外的要因が変われば、子ども一人ひとりのメンタルヘルスにも良い影響を与える可能性があるということですね。

実は、大学時代に世界の教育心理学について学んだことがあります。美術の授業で人の絵を描く指示が出されると、国によってどこから描くかが違うんですよね。例えば目から描いたり輪郭から描いたりと様々で、これはどういう教育を受けているか、どういう精神状態にいるかが関係しているそうです。いぶきさんのお話を伺いながら、そんなことを思い出しました。

小澤:ものすごく面白いですね。その論文、ぜひ読んでみたいです。

調子は揺れて当たり前。「ゆとり」ある環境を与えてあげる

堂上:昔も今も子どものウェルビーイングを追求されているいぶきさんにぜひ伺いたいのですが、子どもがウェルビーイングに生きるために最も必要なことは何だと思いますか?

小澤:ウェルビーイングというのは様々な定義がありますが、いわゆる疾病の有無ではなく、身体的にも、精神的にも、社会的にも、スピリチュアリティ的にも、ちょうどよく満ちているような状態であり、そこに向かうプロセス自体だともいわれています。

子どもに関わらず、メンタルヘルスとウェルビーイングは揺らぐものです。日々揺らぐということもそうですし、長期で見た時も揺らぎがあります。調子が良い時もあれば、悪い時もある。その瞬間瞬間の視点だけではなく、トータルで見た時にいろんな状態があったけれど「なんとなくちょうど良い感じ」だと感じるというプロセスが、ウェルビーイングを形づくっていると私は思います。

例えば、何かにびっくりしたり、怖いと感じたりすると心臓がドキドキして、呼吸が浅くなって、身体がきゅっと緊張することがありますよね。その時の大きく激しい揺れが、自分自身の力、周囲との関わりなどの中で調整され、だんだんと柔らかくゆるやかな揺らぎになっていく力を私たちは持っています。その感覚というのもウェルビーイングのプロセスなのかもしれません。

ただ子ども時代は、特にエコロジカルモデルでいう子どもの世界だけではない、子どもの周りの世界、より大きな世界の影響を受けます。揺らぎ自体が周囲、より大きな世界との相互作用で起きたり、調整されたりします。ですので、保護者や友人を含めた子どもたちの身近な人との関係、周囲の人同士の関係、地域の文化、保育園や学校、周囲の大人の働く環境や状況、社会制度、自然環境といったどの層においても、子どもにとってのウェルビーイングを保障するためのバッファが必要だと考えています。

堂上:つまり、子どもたちに「ゆとり」のある環境を与えてあげることが重要だということでしょうか。

小澤:はい。その環境にもいくつか意味があります。まずは、客観的な観点として、子どもの権利が保障されている状態をちゃんとつくっていくこと。児童期の肯定的な体験(PCEs)などの研究でも、児童期の肯定的体験は、大人になった時の状態にも肯定的な影響を及ぼすという研究があります。逆境体験の影響も緩和するため、そのような肯定的な体験がしやすい環境も大切になります。

そして、堂上さんがおっしゃるように「ゆとり」や「ゆらぎ」を含めて、主観的なウェルも大切にされること。子どもの時間は円環的で、目的的ではない状態も少なくありません。そのためのバッファを、子どもの体験する世界やこえを大切にしながら、私たち大人もつくっていくことが大事だと思います。

その上で、子どもの今の体験はその後の人生に影響があるということ。周りの環境、そして私たち大人がいかに子どもたちに影響しているかということを、大人たち自身が自覚することも欠かせません。もちろん私たちが子どもの方々から影響を受けていることも含めて。

堂上:親はもちろん、先生や地域の方々も含めてですね。僕は普段、つい口が悪くなってしまうことがあるんですが、そのたびに妻から「親は子どもの鏡なんだからきちんとしてよ」と怒られています(笑)。その一方で、家では仕事のネガティブな話をしないようにしています。子どもたちに仕事=つらいものと思ってほしくなくて……。

小澤:素敵ですね。 子どもにとっては、私たち大人自身が「環境」そのものともいえますものね。そして環境を考えた時、その子どものウェルビーイングに関しては、3つの要素が重要です。

1つ目が「Sense of Agency(=主体感)」。自分の影響を感じられ、自分にはちゃんと力がある、主体であると思えること。それには自分の声が繰り返し様々な層で聴かれて、ちゃんと考慮されること、自分のことに関するプロセスがとても大切なのだと思います。例えば、「何を着ていく?」「今日どう過ごしたい?」と日常の中で自分のことをちゃんと聴かれているかということ。また、自分の暮らす地域、例えば公園の設計や遊具、安全、それらを支える自治体の計画、国などの子どもが関わる制度、地球環境の状況に至るまで子どもの「こえ」が聴かれ、そのこえが取り入れることが重要です。「こえ」は言葉にならない様々な表現も含みます。

2つ目は、「Sense of Belonging(=居場所感)」。いわゆる「ここにいて大丈夫感」を、まさにエコロジカルモデルのあらゆる層、例えば、養育環境、学校や保育園、地域で感じられることです。

3つ目が「Sense of Optimism(=楽観性)」。つまり普段から「明日も明後日もなんとかなりそう、きっと大丈夫」と感じられ、その先に、将来に対しての肯定的な感覚を感じることも、子どものウェルビーイングには大事だといわれています。

堂上:現代の日本では、子どもの引きこもりや自死なども社会問題化していますよね。僕も知人から相談されることがたまにあるのですが、なかなか答えられなくて……。居場所がないと感じている子どもたちに対して、親や周りの大人たちはなんて声をかけてあげれば良いのでしょうか?

小澤:例えば、誰かからみて「殻に閉じこもっているように見える」としても、それはあくまで自分の捉え方で、その方がどんな体験をして、どう感じているかは違うかもしれません。また、その人に起きている様々なことの一つの表現や対処として、今の状態があるかもしれません。それに、もしかしたら、周りに相談しなかったり、学校に行かなかったり、自分を傷つけていたりという方法を取るまでの間に自分なりの色々な工夫をしたり、方法を試しているかもしれません。それでも、今なんとか自分が生きていくための対処法として、その選択をしている可能性があるかもしれませんよね。今の選択が「それ以外なかった」選択かもしれませんし、肯定的に選択しているかもしれませんし、その意味はそれぞれによって違うのだと思います。

実際子どもの方々からは、「普段聴かれていない中で、しんどい時だけいきなり『なんでも話してね』と言われても難しい」という「こえ」もありました。また、「死にたいとか調子が悪いと言うと偏見があるから相談しづらい」という「こえ」もあります。

調子が良い時もあれば悪い時があること、それが自然なことを私たちが知っておくこと。そしてそれぞれの知恵や工夫に敬意を持つことはとても大切です。その上で、今起きていることを「症状」とか「問題」として切り取るのではなく、「表現」「その人なりの対処」と捉えていくことも、また大切なことです。

堂上:たしかにおっしゃる通りですね。まずは今の状態を受け入れてあげることが大切なんですね。

小澤:今の状態を否定せず、何が起こっているか、何を感じているかを受け取った上で、その人にとって危機的な状況であったり、周囲から見て心配だと感じたりする時、それを丁寧に伝えて、相手のタイミングや願いも大切にしながら、一緒に考えたいという姿勢が大事なのかもしれません。人として大切だという姿勢で、積極的に待つということが必要な時もあります。

例えば、岐阜県には学校に行っていない子たちが、自分たちで理想の学校を考えて、学校のあり方に反映させた例があります。また長野県には、登校時間やカリキュラムを子ども自身が選べる教室があります。「どんな学校があったらいいかな?」「教室ではどんなふうに過ごしたい?」と互いに会話をしながら、一人ひとりにとっての「いい感じ」な環境を探索し、その子自身も主体として、その環境を育み続けることが必要なのかもしれませんね。

世界の子どもたちがウェルビーイングを大切にし合うために

堂上:最後に、未来の話を聞かせてください。いぶきさんは、今後どんな取り組みをしていきたいですか?

小澤:前提として、全ての存在の尊厳が相互存在していくような……そんなプロセスに、子どもの方々と共に関わっていきたいと思っています。例えば公園がつくられたり、日常の風景のあり方といった暮らしだったり、それらの制度ができていくプロセスです。その上で、直近だと大きく2つあります。

1つ目は、子どものウェルビーイング指標に関して。近年は国際的にも、国としても子どものウェルビーイングの指標というものを捉え直す過程にあります。そのプロセスに子どもの方々が参加しながら、文化や背景、状況、アクセスの仕方など様々な多様性がちゃんと反映されていくような過程を一緒に育みたいと考えています。

実は子どもの安心は、偽造できてしまうんです。例えば、しんどいなあ、なんだか孤独で一人だと感じるなあという時、「ここはあなたの夢が叶う場所だよ」「私ならあなたのことがわかるよ。一緒に理想を叶えよう」ということを表面的に伝えながらグルーミングするようなあり方で、安心だと感じる状況をつくれてしまう可能性もあったりして。だからこそ、子どもの権利という、子どものウェルビーイングの基盤が指標策定のプロセスにも反映され、客観的な観点があることはとても大切です。

その上で、子ども自身はどんな状態がウェルなのか、そのために何が必要か、どう感じているか。ウェルビーイングの今ある指標をながめた時に、何は大切で、何は足りないか、何は違うと感じるか。これら子どもの感覚、「こえ」「問い」を大切にしながら、そのプロセスに子どもが参画して、指標の使われ方やその見直し・評価のあり方にも関わる。そういったプロセスを大切にしたいです。

堂上:素晴らしいですね!

小澤:2つ目が、Everybeingという団体での活動です。今は、例えば自治体の制度や、まちのあり方をどうしていくかというプロセスに子どもたちが参加し、実際にまちを歩きながら、その「こえ」を反映していくプロセスをつくっています。その他にも、日本とイギリスの協働のもと、子どもたちがコロナ禍を振り返って、どう感じていたか、今どう感じるか、何があったらいいか、自分たちのウェルビーイングがどうだったかということを探究するパートナーとして一緒にそのプロジェクトを進めていたり、メディアと子どもの権利及びウェルビーイングとの関係を子どもたちと調査し、メディアのあり方の例を作ろうとしていたりもします。

私自身、日本の様々な地域や、中東地域の子どもたちとも関わっている中で、そこに暮らす子どもの方々にとっての宝物、大切にしたいこと、どんなことをウェルだと感じているのかというのを教えていただいています。それは時にとっても感覚的で、いわゆる「どこかの言語」とか、今ある「言葉」に翻訳することが難しい感覚もあります。言葉にならない感覚やこと、そして、例えば微生物とか、蛙とか、雲とか、人ならざる存在の感じる環世界やウェルを、感覚的に交わしあいながら、それぞれにとってのウェルを共有し、一緒に大切にし合えるような試みをしていきたいなと思います。

人だけでなく私たちが生かされているこの世界の様々な存在も含めて、お互いのウェルや尊厳をまなざしあいながら、その相互共存を対話し試行していくようなプロセスをつくっていきたいですね。これは例えば、タンジブルな絵本や、世界中のまちの交差点にそっと置かれた誰か、どこか、何かのウェルの風景や感覚、美術館的なものかもしれませんが。

堂上:面白そうです! 『Wellulu』でも、今後ご一緒できることがあったら嬉しいです。

小澤:ぜひよろしくお願いします!

堂上:いぶきさんのお話を伺って、子どものウェルビーイングを実現するためには、我々大人が不可欠だということを改めて実感しました。いぶきさん、本日はどうもありがとうございました!

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