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【佐藤ゆみ氏×今岡うえき氏】ジェンダーフリーの次は、エイジフリー! 100年時代、老いも若きも年齢で制限されない社会を築くためのヒントを探る

“昭和おじさん問題”“30歳定年説”など、年齢にまつわる思い込みが溢れているが、ウェルビーイングな社会をつくる上で、これらの偏見はハードルになる。では、そのバイアスを取り外すにはどうすればよいのだろうか。

健康、医療・介護、サスティナビリティ経営をはじめ、7ジャンルからエイジフリーに生きる術を発信するウェルエイジング経済フォーラムの主宰者である佐藤ゆみさんと、今岡うえきさんにWellulu編集部の堂上が話を伺った。

 

佐藤 ゆみさん

ウェルエイジング経済フォーラム代表理事
政治アナリスト/パブリックアフェアーズコンサルタント

ルイス&クラーク大学留学後、総合広告代理店に入社。コピーライター・プランナー、ディレクターとして勤務後、衆議院選挙に立候補。国会議員の政策担当秘書、日本医療政策機構やスタートアップのマネージャー等を経てグローバル金融機関の新規事業企画や官民連携業務に従事中。本業の傍ら、政治アナリストとしてウォーレン・バフェット氏など大物投資家・経営者、官僚・議員のインタビュー記事、政治考察を日経ビジネス等で連載。官民政策座談会を立ち上げ、2020年にウェルエイジング経済フォーラムを設立。NewsPicksのプロピッカーとしてニュースにコメント中。趣味は食とアート。

今岡 うえきさん

ウェルエイジング経済フォーラム理事
元財務省職員

1988年、東京都出身。早稲田大学時代、学生の「日本代表」として国際会議に参加する経験を通じて、自分を育ててくれた日本のために働きたいと強く思うようになり、財政政策を通じて国家運営に携わる財務省入省を志す。財務省入省後、アメリカのペンシルバニア大学院にてMBAを取得。世界のビジネスのダイナミズムを目の当たりにし、計11年間財務省に勤め主税局課長補佐を務めた後、ドリームインキュベーターでビジネスプロデューサーとして勤務。現在は一橋大学院博士課程に在籍しつつ、経営感覚を国の政策に活かすため、現在は目黒区・大田区で政策活動中。ビートルズと立川志の輔の落語を聴くのが趣味。2023年、長男を授かり、パパ1年生として奮闘中。

堂上 研

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

脱エイジズム! 年齢に対する価値観を変え、生き方や働き方を変え、社会を変えていく

堂上:まずはお二人が所属されている「ウェルエイジング経済フォーラム」について教えていただけますか。

佐藤:人類初の少子高齢化という世界共通の課題先進国、日本における課題を解決してウェルビーイングをどう高め、次世代にどんな未来を受け継ぐのか、をテーマにしています。組織・業界の縦割りや、年齢・立場の横割りを超え、政官民産学の知と志を融合する、全世代型の共創・公益のプロボノ団体です。

「もう〇歳だから、まだ〇歳だから~できない」など、年齢や年次で自分ばかりか他人の可能性まで制限したりせず、100年時代、エイジフリーで自立した自分、共生できる社会にしましょうよ、そのためのイノベーションを共創しましょうよ、という活動です。

エイジフリーに生きるため、自立と共生をサポートするエイジテックの発掘・活用を推進するアワードも開催しており、日本の課題解決を世界の課題解決につなげることを目指しています。

堂上:年齢に対する価値観というと、どんな背景があるのですか?

佐藤:昭和の人気漫画『サザエさん』で祖父役の波平は54歳、祖母のフネは52歳で、『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年/TBSテレビ)のゆりちゃん(ドラマでは石田ゆり子氏)とフネは同年代なんですよ。現代人は生物学的年齢と実年齢の差が最大38歳で平均20歳若返っていて、寿命も延びています。

今岡:おばあちゃんのフネと、ゆりちゃんが同年代とは衝撃ですよね。

佐藤:2000年以降に生まれた人の平均寿命は107歳といわれています。“老化は病気”という研究も発展中で、個人差の時代にもなりつつある。世界で長寿化、健康寿命延伸は加速していますから100年時代は、もう少しで110年時代になります。

そんな中、「年を重ねると価値がなくなる」と女子高生までが思い込むなど、老いも若きもエイジングにより自己肯定感を下げてしまうといった年齢に対する差別や偏見(エイジズム)があり、これがあると自分が向かっていく未来の自分を否定してしまうことになるわけです。“逃げ恥”のゆりちゃんのセリフにもありましたが、「自分が否定していた未来に自分がなる」って、悲しいことですよね。逆に、まだ若手だからとイギリスのスナク首相(44歳)のようなトップは日本には生まれません。

昭和のサザエさん一家をモデルにした高度経済成長期からの社会保障などの制度や規制、価値観は現代に合わなくなってきていますから、価値観も制度とセットで実態に合わせてアップデートが必要です。

堂上:これからの時代のウェルビーイング向上は、年齢に対する価値観や意識のアップデートから始まる、ということですね。

佐藤:はい、年齢を切り口に「Age is just a number!=年齢はただの数字に過ぎない」をスローガンに、エイジズム(年齢・年次差別や偏見)を払拭する啓発もしています。個人や社会、企業が無意識に設定している限界や、「上には忖度しなくては」という忖度文化など、前例踏襲につながる偏見や思い込みを取り外し、心や組織の風通しを良くしていくものです。

今岡:すごくよくわかります。役所(霞が関の省庁)でも会った途端に「何年入省?」と聞き合っていました。ずっと中にいるとそういうものだと思ったままなんですよね。一年でも入省が先だと気を使うのが当然でした。

佐藤:霞が関や永田町あるあるですよね。年功序列のJTC(Japanese traditional Company)もほぼ同じです。実力がある若手がいたとしても、トップにはなれません。日本にもスナク首相(当選時43歳)や、アタリ仏首相(当選時34歳)のような若手首相が生まれるくらいの社会にしたいですね。

堂上:なるほど。無意識の思い込みや、偏見というのは根深いですもんね。僕は会社でアンコンシャスバイアスの研修を受けたことがあります。さまざまなジャンルがある中でも、ジェネレーションに対する先入観に捉われている人が多いと感じました。もちろん、僕にもバイアスがかかっています。でも、その色眼鏡を取らないとウェルビーングな社会は築けない。

佐藤:おっしゃる通りですね。

今岡:退職後、孤独問題の渦中の人になってしまう人も多いようですね。孤独の問題が生まれやすくなる。これからの社会課題のひとつです。年齢で近所のコミュニティに入れなかったりもしますね。若手がおじさんに会う前から、忌避してしまう場合もあるし、逆におじさんが若手を回避する場合もありますよね。

佐藤:そうそう。これからは全世代型に融合していかないと。コミュニティや組織では、年齢ダイバーシティがあるほうがウェルビーイングが高く、イノベーションが生まれやすいという研究データがあるんですよ。世界でエイジズムは人種、性別に次ぐ第三の差別といわれており、SDGsのあちこちにエイジズムをなくそうと書かれています。

堂上:年齢に対する偏見、差別(エイジズム)がSDGsで課題とされているとはあまり知られていませんね。

佐藤:日本社会に長く底流してきたので、当たり前になっていて気付かないことのほうが多いですね。

堂上:そんな固定観念を覆してウェルビーイングを上げるために、「ウェルエイジング経済フォーラム」ではどんな活動をされているのでしょうか?

佐藤:識者による啓発を促すフォーラムなど、これからの社会に必要なエイジフリーな生き方、働き方を提言する活動や、世界一の超高齢社会というピンチをチャンスに変えるソーシャルイノベーション推進のための活動が中心です。

以前、東日本大震災から日本は復興するというムードをつくり、投資を呼びたく、ウォーレン・バフェット氏の記者会見を調整し「日本は復興する」とインタビューで明言してもらった成功経験があり、2022年は世界的なベストセラー『ライフシフト』の著者、リンダ・グラットン教授にご登壇いただきました。“100年時代、日本企業への処方箋”をテーマに変革の時代を生き抜き、イノベーションを起こすための生き方、働き方をテーマにディスカッションしました。

フィンランド大使館の方にもご参加いただき、幸福度世界一の国にはエイジズムという言葉すらないことや、当時の最年少女性首相だったサンナ・マリン首相の国民との距離感を例に、社会の寛容性、政府の信頼性が高い方が幸福度が高まることなどを発信し、反響がありました。

2021年はWHOの方に脱エイジズムについて(SDGs 2nd edition)レクチャーしていただいてもあまり、というか全く響きませんでしたが……徐々に響くようになってきて2022年は参加者の方々から、「年齢に縛られる必要はないことに気づかされた」といった感想を多数いただくなどマインドセットを変えるきっかけとなる「気づき」を提供しています。

堂上:僕は2023年12月に実施された「ウェルエイジング経済フォーラム Well-being&Age-tech Award」に出席しました。とてもいい内容でしたね。ウェルビーイングなテック企業が増えていくと、新たなユニコーンも出現しそうだとワクワクしました。世界に展開できそうですね。

佐藤:ありがとうございます! 当フォーラムで経済産業大臣賞を受賞した自動運転スタートアップの「ティアフォー」がまさにユニコーンになりました。年齢を重ねると赤ちゃんに戻っていくようなものなので、エイジングをサポートするエイジテックが必要です。日本のエイジテックは世界から注目されていまして、2023年はシンガポール政府派遣のエイジテック視察団が来日し、視察先のコーディネートやエイジテックマーケットについての講演依頼があり、当アワードでデジタル大臣賞を受賞した目のヘルスケアスタートアップ(OUI)を視察していただきました。

日本は世界一の超少子高齢社会という点では、ある意味、最先端なので世界が注目しています。ウェルビーイングテック、エイジテックの発掘・活用推進をすることで、日本の課題解決を世界の課題解決につなげることを目指しています。

両親の介護を機に、自身のウェルビーイングに目覚める

堂上:そもそも、ゆみさんがウェルビーングの世界に飛び込んだきっかけは何だったのでしょうか?

佐藤:親の介護が大きなきっかけですね。命とは“どこからが「生」で、どこからが「死」なのか”を深く考えましたし、介護の最中は、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めてはいけないと感じていたんです。

堂上:ケアラーだから奉仕すべきだということでしょうか?

佐藤:いえ、家族が大変な時に自分だけ美味しいものを食べたり、楽しんだりしてはいけないと思っていました。状況が変わった今は、ケアラーの罠にハマっていたと理解できます。

堂上:ちなみに、当時どんなお仕事をされていたのですか?

佐藤:当時は議員の政策秘書でしたが、親の医療過誤と介護をきっかけに医療や制度に疑問を抱くことが多く、医療政策を学び、変えられるものは変えたい! と思い日本医療政策機構に在籍しました。

堂上:そこからどのように「ウェルエイジング経済フォーラム」を立ち上げたんですか?

佐藤:もともとアメリカの大学で“日本の衰退”というタイトルの論文(ジョゼフ・ナイ氏著)に出会い、日本のためにという思いで仕事をしてきた中、主宰していた官民政策座談会で常連だった経産省ヘルスケア産業課の課長さんから、世界経済フォーラムで高齢化という世界共通課題について議論した内容を共有いただきまして。AARP(アメリカの高齢者のロビー団体)の日本版をつくりませんか、というご提案をいただいたのがきっかけです。

ただ、政策座談会では官民の学生からシニアまでをお招きしてディスカッションしており、高橋洋一教授(もと財務官僚)のレクの際は、19時から深夜2時まで財務省や金融の若手が帰らないほどでした。

各世代のインテリジェンスや志を融合させる場つくりが、ウェルビーイングな社会をつくる近道だと確信していたので、コンセプトをそのままに2020年にウェルエイジング経済フォーラムとしてスタートしたのです。

今岡:ゆみさんとはもう10年近い付き合いになりますが、初耳のエピソードが盛りだくさんで聞き入ってしまいました。

堂上:今岡さんは財務省にお勤めだったんですよね。どんなことをされていたのでしょう?

今岡:かなり大上段に聞こえますが、本気で日本をどうしていくか? ということを話し合っていました。理想を実現するために必要な制度は何なのか、そのためにはどんな税制があるといいか、などですね。厳しい世界でしたが、その分やりがいも大きかったです。

佐藤:植くん(今岡さん)とは、私が政策秘書時代に財務省の友人の送別会で知り合いました。志の高さや想いに共感し、ウェルエイジング経済フォーラムへお声かけしたんですよ。

堂上:前から感じていたのですが、ゆみさんはなんでそんなに相手の懐に入るのが上手いのでしょう?

佐藤:なんででしょう……? 小さい頃からこうなのであまり意識したことないです(笑)。

堂上:幼少期から物怖じせずに、人の輪の中に入っていけたのですか?

佐藤:そうですね。2歳の頃に母の出産のため、しばらく地方の呉服屋を営んでいた祖母や叔父ファミリーと暮らしていまして。祖母のいる畳の呉服コーナーをうろちょろしていたら、いろんな大人が話しかけてくれていたんです。よくお歌を歌ってと言われ、歌うと大げさに褒められ調子にのっていました。

堂上:たくさんの人とふれあってきた原体験があるから、コミュニティを形成できるんですね。ゆみさんを前にするといつの間にか本音で話している自分がいます。

今岡:すごくわかります。

佐藤:付き合いの長いメンバーとは、意見をぶつけ合えるほど距離が近いです。

堂上:そういうコミュニティを持っているだけで、人はウェルビーイングになれそうです。

大人が楽しいと、子どもの幸福度もアップする

今岡:個人的な話題になるのですが、7カ月の息子がいます。彼の成長を目の当たりにしている時に、ウェルビーングを感じるんですよ。寝顔を見ていると、どんなに疲れていてもよし、がんばるぞと思えます。

一同:おめでとうございます!

堂上:子どもから教わることは本当にいっぱいありますよね。新しい学びのターンが始まりましたね。

佐藤:いいですね! ちなみに、ウェルエイジングは高齢者向けだと思われがちですが、赤ちゃんも対象です。生まれた時からエイジングしていますからね。

堂上:ウェルビーイングな社会をつくる上で、子どもはとても大切だと考えています。そして、幼少期からそう感じてもらうためには親の在り方も鍵となります。

僕が在宅で仕事をしている様子を見たり、聞いたりしている子どもたちにも、ウェルビーイングが浸透したようで。たまに子どもたちに怒っていると、「パパ、ウェルビーイング」なんて、言い返されたりも(笑)。そんなやりとりはありつつも、基本的には僕が楽しみながら、仕事を楽しんでいる姿を見せるようにしています。

今岡:子は親や大人の背中を見て育ちますもんね。私が財務省を目指したのは、公務員であった祖父の影響からです。面白そうな仕事だと思ったんですよ。祖父の日記から、やりがいのある仕事をしていることを感じ取りました。仕事を誇りに思っていたことが子どもにも伝わったんです。

佐藤:とっても素敵なことですよね。ウェルビーイングな大人が増えることで、子どもたちにも伝染するし、大人になる未来をポジティブに感じられるはずです。我々がお手本にならなきゃですね。ちなみに幸福度1位の国であるフィンランドには、エイジズムはありません。

堂上:どうすれば日本もそうなれるかを考えた時に、僕は企業から変えていくのがいいんじゃないかという結論に達しました。産官学で分類すると、産業界に属する人の割合が高いので。そこからちょっとずつアップデートしていくと、いずれは大きなうねりができるのではないでしょうか。

佐藤:おっしゃる通りだと思います。そこは官民で進めたいですね。経産省が主導した企業の健康経営がいい例だと思います。ヘルスリテラシーが以前に比べ高くなり、健康寿命も延伸中です。

金融庁は2023年、企業にサスティナビリティ情報開示(環境・社会・経済)を有価証券報告書に記載することを義務付けました。これをタイミングに脱炭素など環境はもちろん、社会には女性活躍に加え、エイジフリーなどDEI(Diversity Equity & Inclusion)、インパクト投資もセットで各ジャンルへと広めていきたく、近々サスティナビリティ経営協議会(コンソーシアム)を発足予定です。既に国の関係者や、大手金融の関係者とも調整中で、これから会員企業を募集予定です。

堂上:いいですね! 実業家の孫泰蔵さんから教えていただいた、これまで学んできた知識を捨てて、新しく学び直す「アンラーニング」という価値観に共感しています。これまで会得した全てを払拭することはできないかもしれないけど、忘れることはできます。そうすると、自分と他者の当たり前は違う、ということを受け入れられるようにもなる。「アンラーニング」を皆が意識できるようになると、ウェルビーイングな社会に近づけるかもしれません。

人のすべて理解することはできないからこそ、相手を理解しようとする姿勢と、対話が大切

佐藤:私たちが年齢や、肩書に縛られるルーツが気になって調べたことがあります。儒教と深い関わりがあり、鎌倉時代、組織の上下関係を重んじる儒教から派生した朱子学が伝わり、江戸時代ではガバナンスのために幕藩体制の基本理念となりました。

さらに明治憲法で家長制度が定められ、戸主の権限が強くなります。家では夫が君主で妻や子たちは従わないといけないという男女の上下関係が法で決められました。社会では目上の人を忖度して奉る、という感覚が1000年以上もの時間をかけて根付いています。今の時代にはそぐわなくなってきている。だから変革する必要があるのです。

今岡:アメリカ留学で言葉が文化に与える影響に思いを致すようになりました。英語(米語)には敬語がないため、年齢や立場を問わずに対等で話せる感覚がありました。一方で日本語には敬語がある。敬語は素敵な文化で、無くすべきとは思いませんが、敬語による壁ができることも意識しないといけない、と考えます。

堂上:たしかに言語は、距離を近づける側面もありますね。僕は『Wellulu』での対談を通じて、自分が凝り固まっていたと気づかされました。いろんな方のお話を聞いているうちに肩書きや年齢は関係ないと思えるようになったんです。むしろこの企画がないとバイアスの塊だったかもしれない(笑)。

佐藤:植くんの言う、対等にフラットに話をすることはとても大切だと思います。敬語は壁になると思うことがよくあり、会話のところどころで臨機応変に外しています。会話とは言葉だけではないので、五感で話すことも大切。そうして誰かの話を生で聞いたりしていくうちに気付きがあり、バイアスという壁は取り払われていくものなんですよね。

堂上:意識が変わると身の回りには「アンラーニング」できるトピックスが溢れています。息子との対話もそうです。僕の発言に対して、彼なりの意見を述べてもらえると、そこでまた新しい学びがあります。今の時代はバイアスによるギャップが人間関係を良くない方向に導いてしまっているかもしれませんね。

佐藤:もったいないですよね。

堂上:ウェルビーイングな社会をつくっていく上では、このバイアスを「アンラーン」することからですね。

いろんな関係性にどっぷりしたり、ゆるくつながったり。最大の奉仕は、自分の心が平和であること

堂上:お互いを知るためには、「傾聴」と「共感」が鍵になると考えていますがいかがですか?

佐藤:おっしゃる通りだと思います。2023年、京都大学の山極壽一先生の講演を聴いて共感し、経験からの感覚的だった共感の重要性が論理的な確信に至りました。

今岡:あのゴリラの研究で有名な?

堂上:京大の総長だった山極先生ですよね?

佐藤:そうです。『共感革命』という本に共感やコミュニティ、コミュニケーションのあり方が科学的に書かれてます。

今岡:サードプレイスとしての複数のゆるいつながりと、強いつながり、どちらも大事とありますよね。

佐藤:そうそう、お付き合いは広く浅く、いくつものコミュニティに属して交流を広げることは大切ですが、人と深く付き合った経験があるからこそ相手を理解しようとする心に勝るものはないと思っています。傷ついて見えてくることもある。相手は自分とは違う人間で、すべて理解することは不可能だという前提で相手を理解しようとする姿勢が大切だなって。

堂上さんがお子さんのことか何かで悩んでいたとして「いやいや、他と比べてマシよ」とか「他の人が大丈夫だからあなたも大丈夫」と、他の誰かと比較されたり他がそうだからと言われてもピンとこないし、嬉しくないですよね。

堂上:なんの助言にもなりませんね。わかってくれないと感じます。

佐藤:そういう、「相手だったら」という想像と共感が大切ですよね。ある程度人と深く関わって傷つくと痛みもわかるようになるというか、相手はこんなことがあると怒る=傷ついて悲しい、という共感も深く付き合うなら必要かなと。

『シザーハンズ』という1990年のアメリカ映画で、近づいて仲良くなりたいのに相手を傷つけたくなくて深入りできない主人公が出てきます。自分が傷つきたくないから。相手がどう感じるか? というのは、自身が傷を負って見えることもあるわけです。いざこざを進めるわけではありませんが、仕事仲間や友人、恋人などいろんな関係にどっぷりと「向き合う」経験も大切なのではないかと。時間が必要ですけどね。

堂上:本音を出し合える関係の構築には、信用と信頼も重要ですよね。

今岡:聴くというのは、政治活動においても一番大事です。論破するのではなく、まず相手の話を聴く。もちろん、その上でどう行動するかが重要ですが。

堂上:どんな状況でも、聴くことからはじまり、どう行動するかですよね。そして、正直に生きる。

話は飛びますが、自分たちの子どもたちが大人になっている2050年くらいの未来をどう創っていきたいですか? 僕は、彼らがウェルビーイングな感覚を抱いて成長していくと、社会はよりよく変わると信じています。

佐藤:まさに2020年の第一回フォーラムのテーマが「イマジンJAPAN 2050」で、次世代にどんな未来を受け継ぐか、バックキャスト型で2050年を考える回でした。ウェルエイジング経済フォーラムのキャッチフレーズが“Well-being, Well-Ageing”でして、日々ウェルビーイングでいることが、豊かに歳を重ね、豊かな未来につながると考えています。

必要以上に失敗を恐れず、挑戦できるマインドが大事。仕事でもボランティアでも、やりたいことにチャレンジできるように。大それたことじゃなくてもいいんです。荒野に出ることだけが冒険ではなく、「このトマトは食べたことがないから、今日は食べてみようか」といった毎日の些細なことでも挑戦です。

今岡:私はワクワクしながら働ける仕組みを構築したいです。仕事は人生の長い時間を費やすものなので、それならばぜひ楽しむべき。また、自分のウェルビーイングが確立されていたら誰かへの嫉妬も薄くなるのではないでしょうか。「出る杭は打たれる」という現象も少なくなるんじゃないかと。

佐藤:共感! 働き方は生き方ですよね。

堂上:先日のがくちょとの対談※で「出る杭は打たれるなら、浮いてしまえばいい」という言葉が印象的でした。浮いたら打ちようがないですもんね。そういう人がたくさん出てきたら、打ってる暇もなさそうです。
組織運営に必要なのは“サッカーOS”? 楽天大学学長が語るウェルビーイングな働き方

今岡:意志表明ができて、考えを共有できる場も増やしていきたいです。考えや知の共有から、どんな化学反応が起きるかも楽しみです。

堂上:コミュニティであり、座談会であり、フォーラムですね。そういう意味でもお二人の「ウェルエイジング経済フォーラム」は、ウェルビーイングな社会づくりへとどんどん進んでいきそうです。本日はありがとうございました!

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