どんな商品・サービスにも値段がついている現代社会において、ギブの気持ちだけで価値を贈りあっている不思議なコミュニティがある。それが、一般社団法人giv(ギブ)だ。
メンバー同士がアプリでマッチングし、それぞれの好きなことや得意なことをプレゼント。お金を払うのではなく、メンバー同士で「恩」を繋いで広がっているコミュニティ。
そんなgivの成り立ちや仕組み、実際のギブ体験や体験から得たウェルビーイングにまつわる気づきを一般社団法人giv・代表理事の西山直隆さん、メンバーとしてご参加された鍼灸師の大河内朋子さんにWellulu編集部プロデューサーの堂上研が話を伺った。
お金だけでは人の心は豊かにならないのではないか?
堂上:まずはじめに、givがどのような活動をおこなっているコミュニティなのか教えていただけますか?
西山:givは2019年9月に立ち上げた一般社団法人です。『価値を贈って感謝でつながる』をコンセプトに、メンバー同士がそれぞれの好きなことや得意なことをギブ(相手に贈る)し合うコミュニティを運営しています。
givのアプリではメンバー同士がマッチングすると、お金と引き換えではなく、“無償で”サービスを贈ります。そして受け取った人は、また次の人にギブしていく。こうして、「恩送り」の輪が広がり、お金を得るだけでは得られない心の豊かさを感じられるのがgivの特徴です。
堂上:givのメンバーになるにはどうしたらいいのでしょうか?
西山:入会をご希望の人は、まずgivのホームページより事前登録をしていただき「コンセプト共有会」に参加していただきます。
このコンセプト共有会では、givがどのような理念やビジョンに基づき運営されているのかといった我々の想いを説明させていただき、入会希望者さんの共感とご理解を得られましたら、givのアプリへご招待させていただく流れとなります。
堂上:そもそも、西山さんがgivを立ち上げられようと思われたきっかけはなんだったのですか?
西山:私は前職で外資系企業に勤めており、いわゆる資本主義のど真ん中で働いていたんですね。シンガポールに在住しながら、半分くらいの期間はインドで仕事していました。そのとき、街で目にしたインド人の経済的には貧しいながらも幸せそうに暮らす姿に衝撃を受けたのがきっかけです。
私は経済的には豊かでも精神的に疲弊しているビジネスパーソンを多く見てきました。そんな彼らとインドで出会った人々を比較したときに「経済成長 = 幸せ」ではないなと。「もっと、心の豊かさを感じられる社会づくりのためになにができるだろう?」という問いからgivは生まれました。
無償でギブしたい人たちが集まる温かいコミュニティ
堂上:では今度は、実際にgivのメンバーとしてサービスを体験された鍼灸師の大河内さんにお話を伺います。まずそもそも、どのようなきっかけでgivと出会ったのですか?
大河内:出会ったのは2020年のちょうどコロナ禍の最中(さなか)。友人に「面白いコミュニティがあるよ!」と誘っていただいたのがきっかけです。最初はちょっと怪しいかも……と思っていたのですが、信頼する友人からの誘いだったので入会してみることにしました。
堂上:実際に体験されてみていかがでしたか?
大河内:私が入会したときはコロナ禍だったため、メンバーさんと対面でお会いしたり、私のギブである鍼灸のサービスをお届けすることができませんでした。そのため、最初はギブを受けてばかりでした。
たとえば、英会話レッスンを受けたり、お米やお野菜をいただいたり、はじめてのボイストレーニングを体験したり……。こんなにギブばかりいただいて申し訳ないなーという気持ちと同時に、早くコロナが落ち着いたら私もギブを贈りたいという気持ちが高まっていきました。
そして、はじめて鍼灸のサービスをギブできたときは、「やっとギブをお返しすることができた!」という心地よい気持ちに包まれたことを覚えています。
堂上:givのメンバーの印象はいかがですか?
大河内:givのメンバーは、代表の西山さんがお一人おひとりと対話をしてご招待されていますので、素直に「全員いい人!」という感じです。先ほどお話したように入会当初はギブを受けてばかりでしたので、少し気まずい空気になるのかなとも思ったのですがまったくそんなことはありませんでした。
みなさん、人に無償で何かを贈りたいという気持ちに共感して入られているからか、どんな人でも受け入れてくれる温かいコミュニティだなと思います。
ギブを贈ることで自分も幸せになっていく
堂上:人に無償でギブを贈る体験のなかで気づいた一番の発見はなんですか?
大河内:入会当初の私は、メンバーからギブを受け取るときにコミュニティの価値や喜びを感じ、ギブを他の人に贈るのはコミュニティに所属しているという「義務感」や「責任感」から発生しているものだと思っていたんです。
でも、ギブを贈る体験を通して新たに発見したのは、人に無償でギブを贈るという行為で、私自身も喜びを感じていたということ。不思議だったんですが、人に「恩送り」をすることで自分も幸せな気分になっていることに気づいたんです。
堂上:私も今回、実際にgivに参加してみて同じことを感じました。ギブした側がギブされたような気分になっている。この体験は意図的に設計されているのでしょうか?
西山:まず我々が意識的に取り組んでいることでいうと、givではギブを受け取った人がサンクスカードを作成するという仕組みがあります。例えば、「いただいたお野菜をこんな風に調理しましたよ!」というお写真と感謝の言葉を公開するというものです。
このサンクスカードの存在によって、自分のギブがどんな風に相手に喜ばれたのかを知ることができます。農家さんであれば、農家さん個人だけでなく、ご家族やお子さんたちも「パパのトマトがどれだけの人を喜ばせているか」を知るきっかけとなっているのです。
大河内:確かに私もサンクスカードでギブを受けていただいた人のご感想が知れるので、それがギブした私の喜びにつながっていると感じます。
西山:そしてもう少し本質的な話でいうと、日本には昔から「おすそ分け」の文化があるように、人に無償で贈り物をすることが自分の幸せにもつながることを我々はどこかで自覚している国民なのかもしれないということです。
かつての日本人には当たり前だった「おすそ分け」に見られるギブの精神が、なにもかもに値札がつく近代の資本主義社会のなかで薄れてしまっていたとも考えられます。それが、givの活動を通して、みなさんに再発見していただいているのかもしれないですね。
ギブできていないのは心に余裕がないパラメータ
堂上:定期的にギブを贈られている人とそうでない人には、どのような違いがあると思いますか?
西山:前提としてgivでは、メンバーさんのお仕事やプライベートの状況にあわせてご自由にお使いいただければと考えています。そのため、ギブのノルマのようなものは存在しません。
そのうえでお話をすると、人にギブができていない状態というのは「自分に余裕がないとき」だと思うんです。
堂上:それはすごくわかります! 私もギブができていない期間があったのですが、そのときは仕事が立て込んでおり、心に余裕がなかったので。
西山:でも、「最近の自分はギブできているか?」と振り返る習慣をつけられていることはとても素晴らしいことだと思いますよ。
逆説的に聞こえるかもしれませんが、ウェルビーイングな状態をキープするために意図的にギブする時間を作ることもおすすめです。
堂上:入会して間もない人にとっては、最初のギブの体験は少しハードルが高いのかなと思えるのですが、初心者へのサポートはございますか?
西山:givではもともとメンバーだった人たちからなるコミュニティマネージャーが存在します。このコミュニティマネージャーが入会したてのみなさんに対してメンバー同士のマッチングをサポートしておりますので、何か不安がある人はお気軽に相談してみてください。
大河内:私もコミュニティマネージャーさんから「この人は面白いよ!」とか「こんなギブはどうですか?」とご紹介していただいているので、安心して利用できています。
堂上:なるほど、それはとても安心な仕組みですね! では、最後に西山さんにとってのウェルビーイングな状態とは何か?を教えてください。
西山:私はすごくシンプルな考えでいいのかなと思っています。
毎朝起きたときに「今日も楽しい一日が始まるぞ!」と思えるかどうか。そして、夜寝るときに「今日もいい一日だったな!」と思えるかどうか。これが私にとってのウェルビーイングな状態です。
ウェルビーイングは勉強すると難しいテーマですが、私はそんなに難しく捉える必要はないのかなと考えています。
堂上:いいですね!もっとシンプルに考えていけばいいんだと、とても勇気づけられました。
私たち『Wellulu』も人とつながりながらウェルビーイングな輪を広げていきたいと思っています。
本日は約1時間にわたり、一般社団法人giv・代表理事の西山直隆さんとgivのメンバーで鍼灸師の大河内朋子さんにお話を伺いました。
本日はありがとうございました!
西山 直隆さん
一般社団法人giv 代表理事
大河内 朋子さん
むらさき乳腺クリニック五反田 鍼灸師
著書に『こころのウェルビーイングのためにいますぐ、できること』。