Wellulu-Talk

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【根本かおる氏×宮田教授】グローバルな視点から考える、ウェルビーイングな世界とは〈前編〉

宮田教授×根本かおる氏

私たちは同じ人間ではあるけれど、当然ながら一人ひとり違っている。国籍、年齢、性別、性格、価値観、ライフスタイルといった、あらゆる部分が違う者同士がより良い関係性を築いていくために、自分と異なる環境や立場にいる人を理解するには、どんなことが必要なのだろうか。

今回の「Wellulu-Talk」では、アナウンサーならびに報道記者を経て国連職員として勤務後、フリージャーナリストとして活動し、現在は国連広報センター所長を務める根本かおるさんと、Welluluアドバイザーで慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章さんによる対談〈前編〉をお届けする。

「ジェンダー平等」の現在地と「ダイバーシティー&インクルージョン」

宮田教授×根本かおる氏

宮田:日本における「ジェンダー平等」の現状を、根本さんの立場ではどのように感じられていますか?

根本:私が大学を卒業して社会に出たのが、ちょうど男女雇用機会均等法が施行された年なんですね。30年以上経った今と、当時から議論されている内容があまり変わらないというのは、すごくもったいない時間の使い方をしてしまっているなと感じることがあります。日本も少しずつ前進してはいるとは思いますが、それ以上に他の国々がものすごいスピードで取り組んでいるので、実際のところ、置いてきぼりになってしまっている状態です。

宮田:残念ながら、日本のジェンダーギャップ指数は世界的に見ても低く、もっともっと学ばなければいけないことや課題がたくさんありますよね。「ダイバーシティー&インクルージョン」についてはいかがでしょうか?

根本:「ジェンダー平等」にしても「ダイバーシティ&インクルージョン」にしても、それらを企業経営に取り入れることは、ビジネスチャンスにもつながると思っています。組織内にさまざまな立場の人がいて多様な目があることで、あらゆるリスクを回避することができる場合があります。消費者の視点という点でも、消費者のニーズが自ずと経営の側面に滲み出てくるような体制を組んでいるのと、その場で取って付けたような形でニーズを捻り出すのとでは、生まれてくるものが違うはずですよね。

宮田:そうでしょうね。さまざまな視点が加わることで、あらゆるクオリティにも影響すると思います。

根本:国連が掲げるグローバルなテーマとしては、科学・技術・技術革新における「ジェンダー平等」を実現しようというものですが、たとえばデジタル分野に携わる職員の男女比を見ていくと、圧倒的に男性の方が多いんです。それこそAI分野においては、男性が5に対し女性が1という比率です。ビッグデータというのは社会を変革する礎になるわけですが、そこに女性の活用の蓄積がないとどんどん歪みができてきてしまいます。場合によっては多くの女性にとって、健康面のリスクにもつながりかねません。ただ単に「人権的に良い」ということではなくて、医療の分野における安全面にしてもビジネス面にしても、あらゆる面でジェンダー平等が求められるべきだということなんです。

宮田:まったくそのとおりです。テクノロジーの観点からいくつか付け加えさせていただくと、今までの社会というのは大量生産・大量消費モデルでした。マジョリティの対象となるモデルを置いて、平均値を設定したり平均像的なものを描いたりしながら、そこを中心としながら社会経済を回してきました。それが今は、デジタルを駆使することによって、多様性に配慮しながらも経済を循環させることが可能になっているんですよね。そうなったときに、薄いマジョリティなる幻想よりは、マイノリティ側の立場にいる人たちを含めた一人ひとりのウェルビーイングにしっかり寄り添ったコンテンツが必要になるだろうと思っています。

もうひとつは、性の違いによる身体的な特徴から、得意なことや苦手なことがあるというときに、それによってどうしても職業に偏りが出ることがあったかもしれません。その一方で、言葉やコミュニケーションの分野にかんしては、女性が持っている感性というのはすごく豊かですし、得意とする領域でもあると感じます。この数ヶ月間、ずっと世界を賑わせている「ChatGPT」がありますよね。ラージランゲージモデルといわれる言葉が主役になることによって、これまでの文脈を乗り越えて、多様な人たちが新たなイノベーションを起こせるようになっていくのではないかとも感じています。

どんな立場から、どのように見るかによって、見えてくる風景が異なる

宮田教授×根本かおる氏

根本:2022年の2月からロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まり、戦争が本格化して世界を揺るがしていますが、南半球を中心とする新興・途上国で生きる人たちから見える風景と、G7のような国々で生きる人たちから見える風景というのは、全然違って見えていると思うんです。

ある意味で、国連は世界で一番ダイバーシティあふれる職場かもしれません。同僚にはアフリカ出身者もいますし、アラブ・中東地域出身者もいます。たとえば今回のウクライナ戦争にしても、国によって人々の受け止め方に違いがあります。自分たちが勤務する国で伝えるときには、どのような苦労や課題があるのか。そういった経験を分かち合うというか共有し合うんです。それはとても学びになりますし、気付かされることがたくさんありますし、相手国を理解するうえで重要なことでもありますよね。これだけ世界がグローバル化しているなかで一方的な見方をしてしまうのは、とても危険なことだと考えています。

宮田:西側諸国から見たロシアやウクライナだけではなくて、中東地域における紛争、あるいはアフリカに対するヨーロッパのこれまでの影響もあるでしょうしね。そういった文脈もふまえて今を見ているわけですから、まさにどの視点と立場で見るかによって、まったく違いますよね。そこで大切なのが、根本さんがおっしゃるように、一方的な視点だけではなく多様な視点をふまえたうえで、未来にどう歩んでいくのかということなんだと思います。

根本:人々のパーセプションにはさまざまな見方があるということですよね。ロシアによるウクライナへの本格的な侵攻が国連憲章に反しているのは大前提としたうえで、過去の歴史をふまえると一筋縄ではいかないというか。では、普遍的に何が最優先されるべきなのか?ということを共有しながら、連帯というものを紡ぎ出していく必要があるのではないでしょうか。

豊かさをGDPだけで測ることはできない。「Beyond GDP」という新たな指標

宮田教授×根本かおる氏

宮田:そういった意味においては、国連が掲げるヒューマン・セキュリティ(人間の安全保障)もそうですし、価値観や宗教が違っても何を共に仰ぎ見ることができるのか?という議論の中で、SDGsや前身となるMDGsが積み上げてきたもの、未来のあるべき姿を目指そうとする動きは、人類にとってもすごく重要なステップだといえますよね。

どんな命の灯火も消さない、というのがSDGsの重要なところでもあると思うんですけれど、次にその命の輝きといいますか、ウェルビーイングの観点もふまえて、未来をどう作ってっていくのか?という部分がこれからの課題になっていくのかなと思います。

根本:ええ、そうですね。SDGsの17の目標はもともと英語で、それぞれにキャッチコピーがあるのですが、この日本語化に協力してくださったのが井口雄大さん(Welluluクリエイティブディレクター、コピーライター)です。ゴール3の「ヘルス&ウェルビーイング」について、日本語版は「福祉」になっていますが、当時はウェルビーイングという言葉が浸透していないこともあり、理解してもらいやすい言葉を選んだという経緯があります。ですので、SDGsのなかにもウェルビーイング自体は要素として含まれているということなんですね。

SDGs

今後のSDGs関連の動きとしては、まず今年9月に「SDGサミット」を控えています。これは達成期限として設定している2030年に向けて、達成の軌道から大きく外れてしまっているSDGsを達成に少しでも近づけるようにアクセルを踏み込もうとするものです。その次に2024年9月に「未来サミット(Summit of the Future)」を開催するのですが、国連が100周年を迎える2045年に向けて、国連を中心としたマルチラテラリズム(多国間主義)を21世紀型に再活性化しようという取り組みです。

豊かさをGDPだけで測ることには限界がある、ということはかねてからいわれていますが、経済的な豊かさを超えた「Beyond GDP」という新たな指標づくりも「未来サミット」に向けた提言に盛り込まれています。環境保全、自然資本、ウェルビーイングのような人々の心の豊かさなどもファクターインするような測り方です。これからの時代は経済的な指標を超えて、内面的なものや環境的なものも含めて豊かさを測ろうとする動きが生まれるかもしれませんね。

宮田:それはすばらしいです。今まではあらゆる面で経済にフォーカスしすぎていたような気がします。それがテクノロジーの発展によって、SDGsそのものの発展にもつながっていたり、デジタルによって可視化されたもの同士が上手く結び付いたりして、シナジーを生んでいると思うんですよね。こういったことが世界を変える力にもなっていくはずです。

宮田教授×根本かおる氏

撮影場所:UNIVERSITY of CREATIVITY

 

【根本かおる氏×宮田教授】一人ひとりの多様な生き方こそが、持続可能な社会の実現につながっていく〈後編〉

「強火」ではなく「弱火」でいい。しなやかに生きるためのヒント 根本:ウェルビーイングがテーマということで、少し個人的なこともお話させていただこうと思います。10.....

根本かおるさん

国連広報センター所長

テレビ朝日を経て、1996年から2011年末まで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)にて、アジア、アフリカなどで難民支援活動に従事。ジュネーブ本部では政策立案、民間部門からの活動資金調達のコーディネートを担当。WFP国連世界食糧計画広報官、国連UNHCR協会事務局長も歴任。フリー・ジャーナリストを経て2013年8月より現職。

宮田裕章さん

慶應義塾大学 医学部教授。Welluluアドバイザー

2003年東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士
2025日本国際博覧会テーマ事業プロデューサー
Co-Innovation University 学長候補
専門はデータサイエンス、科学方法論、Value Co-Creation
データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。
医学領域以外も含む様々な実践に取り組むと同時に、世界経済フォーラムなどの様々なステークホルダーと連携して、新しい社会ビジョンを描く。宮田が共創する社会ビジョンの 1 つは、いのちを響き合わせて多様な社会を創り、その世界を共に体験する中で一人ひとりが輝くという“共鳴する社会”である。

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