最高のパフォーマンスを発揮し、自らの意志で人生を切り拓いていく。その挑戦を根底で支えているのは、「睡眠」という土台があってこそ成り立つ。
『1日中、最高のコンディションが続く! 脳を鍛える超呼吸法』(KADOKAWA/2022年)の著者であり、マインドフルネスのプロフェッショナルとして活動する関根朝之さん。かつて過度なストレスから深刻な不眠に悩み、日常生活に支障をきたすほどの葛藤を経験した彼は、いかにしてその闇を抜け出し、格闘技で日本トップクラスへと登り詰める強固な心身を手に入れたのか。
本対談では、「Wellulu」編集長であり、バーティカルコミュニティ「睡眠上手になる会」を主催する堂上研が、関根氏のストイックかつ科学的な習慣を深掘りする。なお、本対談の様子は同コミュニティでも配信された。「Wellulu」ではこうした場を通じて、読者と共に実践的なウェルビーイングを追求する活動を広げている。
心身を整えることは、単なる健康管理ではない。それは、自分らしく挑戦し続けるための「準備」そのものである。二人の対話から、現代人が「夢中」を取り戻すためのヒントを探る。

関根 朝之さん
マインドフルネス講演者/株式会社マインドフルネス 代表/一般社団法人Wish 代表

堂上 研
株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
不眠の葛藤を越えて見つけた「心の解放」

堂上:ストレッチやマインドフルネス呼吸瞑想の観点から睡眠改善に取り組まれている関根さん。なぜもっと早くお会いできなかったんだろうと思うほど、「Wellulu」が運営するコミュニティ「睡眠上手になる会」とも親和性が高く、今日はお話しできるのを楽しみにしていました。
読者の関心調査でも、睡眠・食・運動への関心は非常に高いのですが、なかでも睡眠は「睡眠を制すれば人生を制す」と言えるほど、ウェルビーイングの根幹ですよね。
関根さんが睡眠というテーマに深く向き合うようになったのは、いつ頃だったのでしょうか。
関根:最初に「眠れない」という深刻な壁にぶつかったのは、中学生の頃でした。当時は学校が荒れていて、私自身がいじめの対象になってしまったんです。友人関係の悩みや生徒会副会長としてのプレッシャーが重なり、眠れないまま朝を迎えたり、眠れてもひどい悪夢にうなされたりする日々が続きました。
堂上:多感な時期にそれは辛かったですね。周囲に助けを求めることはできたのですか?
関根:なかなかできなかったですね。親を心配させたくなかったし、友人にも弱みは見せられませんでした。結局、極度の睡眠不足から激しい頭痛に襲われるようになり、1カ月入院することになってしまったんです。
堂上:入院まで……。そこまで重症だったとは驚きました。
関根:限界だったんだと思います。でも入院中、お見舞いに来た友人に思い切って心の内を話した日、久しぶりにぐっすり眠れたんです。誰かに「聴いてもらう」だけで心身がこれほど軽くなるのかと、身をもって実感した出来事でした。
堂上さんはウェルビーイングの要素として睡眠・食・運動を挙げられましたが、これらはすべて密接に連動していますよね。というのも、私は入院後、自分を叩き直そうと高校から柔道を始めたのですが、当時、谷亮子さんが世界選手権に向けて1日に2,000回腕立て伏せをしているという記事を読み、それをそのまま真似し始めたんです。

堂上:1日に2,000回ですか!? かなりストイックですね……。
関根:毎日4時間ほどかけてやり切っていました。昔から「やると決めたら一直線」な性格なんです。
堂上:幼少期の頃からその片鱗はあったのですか? 小学生の時は何をしている時が楽しかったですか。
関根:小学4年生の時に発表した将来の夢は「虫博士」でした。ひたすら虫を追いかけ、名前や生態を調べ尽くす。今でもカブトムシやクワガタの話になると夢中になります。
堂上:リベラルアーツの世界では、虫の観察も哲学も数学も、突き詰めればすべてはつながっていると考えます。関根さんがかつて虫に熱中した集中力と、現在の睡眠やマインドフルネスの研究は、根底でつながっていると僕は思います。
「今ここ」に100%集中する。脳内のノイズを静め、意図的に「ゾーン」へ入る
堂上:その後、不眠の悩みから、どのようにして克服の道を見出していかれたのでしょうか。
関根:環境を変えたことや、仏教徒だった祖母と祈ることで心が落ち着くといった経験もありましたが、決定的だったのは、睡眠や脳科学に関する本を読み漁る中で「マインドフルネス」に出会ったことです。

堂上:今や一般的になった言葉ですが、関根さんは「マインドフルネス」をどう定義されていますか?
関根:私はシンプルに「今、この瞬間に100%集中できている状態」だと捉えています。
堂上:坐禅に近い感覚でしょうか。私も呼吸法を実践すると、脳がクリアにリセットされる感覚があるのですが、あれは脳が休まっているということですか。
関根:マインドフルネス呼吸法を行うと、脳波がリラックス状態を示すα(アルファ)波が優位になり、落ち着きを取り戻せます。一方で、覚醒を促す瞑想もあり、目的に応じて脳の状態を使い分けることができる方法なんです。
堂上:目の前のことに熱中する「フロー状態」という言葉もありますが、これにも近いのでしょうか。
関根:マインドフルネス呼吸法は、フロー状態になるためのトレーニングにもなると言えます。子どもの頃は、誰に教わらなくても虫取りや遊びに没頭できましたよね。でも大人は、常に将来への不安や過去の後悔など、マルチタスクで脳を動かしてしまっている。そんな「散乱した意識」を今ここに戻し、意図的にゾーンへ入るためのメソッドなんです。

堂上:意識的に「夢中」を作るトレーニングなのですね。じつは、私も関根さんの著書『1日中、最高のコンディションが続く! 脳を鍛える超呼吸法』(KADOKAWA/2022年)を読んで、毎朝息子と一緒に呼吸法とストレッチを始めたんです。その後1時間ほど散歩しながら対話をするのが習慣になったのですが、驚くほど良い時間になりました。
関根:それは素晴らしい! 親子で実践していただけたなんて、著者としてこれほど嬉しいことはありません。
堂上:それまでは「息子の呼吸を整える」という視点が全くなかったのですが、呼吸が変わったことで彼なりにフロー状態を作りやすくなり、良質な睡眠にもつながったのだと感じています。
心身の土台を整える習慣が、新しい挑戦への一歩となる

堂上:キックボクシングとしても十分な成功を収めていた関根さんが、なぜマインドフルネスや呼吸法の道へと舵を切られたのでしょうか。
関根:格闘技は私にとって大きなやりがいでした。後楽園ホールのリングに立った時、かつていじめられっ子だった私の姿を知る友人たちが大勢駆けつけ、涙を流して喜んでくれたんです。チャンピオンになった際、一人の友人が「自分も変わりたい、頑張りたいのに頑張れない自分を変えるよ」と言ってくれました。
その言葉は嬉しかったのですが、現実はそう簡単ではありません。実際に人生を変えるアクションを起こせる人は、決して多くはない。なぜなら、夢や目標を追う以前に、日々のストレスや不調で「頑張れる状態」にない人があまりに多いからです。
結局、変化を生むのは特別な瞬間ではなく「日々の習慣の積み重ね」でしかありません。心身が整っていなければ、人は挑戦することすらできない。その「根本の土台」を支えたいと思うようになったのが原点です。
堂上:土台が崩れていては、どれほど高い志があっても踏ん張れませんよね。
関根:日本には、睡眠を改善し心身を健やかに保つための具体的な「メソッド」を学ぶ機会がまだ少ないです。幸せの定義は人それぞれですが、健康を維持する方法には明確な正解があります。それを広めることが、一人ひとりのウェルビーイングを支えることになると信じています。

堂上:非常に共感します。ウェルビーイングは単なる「病気ではない状態」を指すのではなく、自ら意志を持って動く「挑戦」の中にこそあると私は考えています。関根さんの活動は、単に健康にするだけでなく「挑戦できる人を増やす」ためのものなのですね。まさに同志です。
関根:今の状況に気づいた人間が、まずは動くしかない。だから私はマインドフルネスの伝道師として挑戦し続けています。
堂上:我々が「ファーストペンギン」として飛び込み、それに続く人が増えていけば、人々のマインドや行動が変わり、ライフスタイル全体がアップデートされていく。結果として、誰もが当たり前に質の高い睡眠を享受できる好循環が生まれるはずです。
関根:アフリカの諺に「早く行きたければ一人で行け、遠くに行きたければ皆で行け」という言葉があります。社会の大きな流れを変えるために、多くの志を同じくする人たちと一緒に歩んでいきたいですね。
脳と腸を最適化し、エネルギッシュな1日を始める

堂上:関根さんとは共鳴する部分も多いのですが、一方で、僕自身は多忙を言い訳に暴飲暴食をしてしまうこともあり、お恥ずかしながら「健康的」とは言い難い生活です(笑)。関根さんは日々の食事で、どのようなことに気をつけていますか?
関根:じつは私も、以前はポテトチップスやチョコレートが大好きで、毎日食べないと気が済まないほどだったんです。当時は悪玉菌が優位な腸内環境だったので、脳が悪玉菌の好物であるジャンクフードや添加物を欲していて。でも、腸内環境を根本から整えてからは、たまに楽しむことはあっても、以前のように簡単に手に取ることはなくなりました。
堂上:腸内環境を書き換えたのですね! 具体的にどう変えたのでしょうか。
関根:まずは善玉菌を増やすために、そのエサとなる「水溶性食物繊維」を積極的に摂ることです。ワカメなどの海藻類をお味噌汁に入れるのが手軽でおすすめです。さらに、納豆などの発酵食品を組み合わせることで、菌の働きを活発化させました。
堂上:食生活の小さな工夫で、善玉菌は育っていくものなのですね。
関根:腸内細菌の先生から伺ったのは、じつは、腸を荒らす悪玉菌の多くは口腔内からやってくるということです。寝ている間に口の中の細菌は爆発的に増えるので、朝起きてそのまま水を飲むと、その菌をまるごと腸へ送り込んでしまうことになるんだそうです。

堂上:朝起きた時、水を飲む前にうがいをすると良いと聞きますよね。
関根:うがいだけでは不十分なんです。菌は歯の表面に付着しているので、水を飲む前に「歯磨き」をしてリセットするのが理想ですね。
堂上:歯磨きまで! 習慣の積み重ねが腸を守るのですね。他にルーティンにされていることはありますか?
関根:朝起きたらまず太陽の光を浴び、トイレに行って、歯磨きをしてから、内臓を冷やさないよう常温の水(できれば白湯)を飲みます。
午前中には、ストレッチや1分程度の「HIIT(高強度インターバルトレーニング)」を行うことも多いです。短時間でも負荷をかけることで、細胞内の発電所である「ミトコンドリア」が活性化し、1日中エネルギッシュに過ごせるようになります。
堂上:活気がある人は、細胞レベルでエネルギーが作られているのですね。
関根:さらに、ミトコンドリアを活性化させるもうひとつの習慣が「水シャワー」です。
堂上:水シャワーですか! 夏場ならまだしも、なかなか勇気が必要です(笑)。
関根:堂上さんなら大丈夫です(笑)。冷たい刺激を受けることで、体は自ら熱を出そうと反応し、内側から活力が湧いてきます。
あとは、抗酸化作用のある冷凍ブルーベリーやトマトを摂ることも、ミトコンドリアを酸化ストレスから守るために欠かせません。

堂上:覚悟を決めて、一度やってみます(笑)。夜、眠りにつく前のルーティンはいかがですか?
関根:会食などで遅くなっても、必ず湯船には浸かります。
堂上:僕は、湯船から出たあとに逆に目が冴えてしまうことがあるんです。
関根:それは温度が高すぎるのかもしれません。熱いお湯は交感神経を刺激してしまうので、のぼせない程度のぬるま湯に10〜15分ほど浸かるのが、睡眠スイッチを入れるコツです。
堂上:僕の良かれと思っていた習慣が、逆に睡眠を妨げていたようですね……。スマホもやはり避けるべきでしょうか?
関根:理想は玄関に置いてしまうことですが、せめて寝室には持ち込まないのがベストです。スマホが近くにあるというだけで、脳は無意識に情報の刺激を待ってしまいますから。
寝る直前には、マインドフルネス呼吸法で脳を鎮め、その日の良かったことを日記に書く。ただ日記を書くのも、睡眠の直前すぎると脳が活性化してしまうので注意が必要です。
睡眠におけるメソッドはさまざまありますが、自分に合うもの、できるものを取り入れていただけたらと思います。
堂上:メソッドはたくさんありますが、大切なのは「まず試してみて、自分に合うものを選び抜く」ことですね。
睡眠は、子どもたちの未来を守る「心の余白」

堂上:ここまで具体的なメソッドを伺ってきましたが、関根さんご自身が「ウェルビーイング」を感じる瞬間は、どんな時ですか?
関根:パッと思い浮かぶのは、3歳の息子と全力で遊んでいる時間ですね。やはり理屈抜きに癒されます。
仕事の面では、先日マインドフルネス呼吸法の体験会に参加された方々の睡眠スコアが劇的に改善していたことが、本当に嬉しいです。「寝起きが良くなった」という生の声を聞けることが、私にとってのウェルビーイングであり、活動の原動力になっています。
堂上:素晴らしいですね。僕も「Wellulu」を通して、皆さんのウェルビーイングな生き方に触れることが、自分自身のウェルビーイングに直結しています。最後になりますが、関根さんがこの活動の先に思い描く未来について教えてください。
関根:やはり、ウェルビーイングな人たちを増やしていきたいですね。ウェルビーイングの対極にあるのが、子どもの自殺だと思っています。
悲しい選択の裏側には、深刻な睡眠不足による「心的疲労」が潜んでいると考えています。睡眠が改善されれば、思考がクリアになり、自分を追い込みすぎる前に踏みとどまることができる。睡眠の質の向上は、命を救うための決定的な要因になり得ると信じています。
堂上:睡眠が「心の防波堤」になるということですね。

関根:私が実施している睡眠改善プログラムでも、メンタルケアの研修は一切行わずに「ポジティブ指数」が大きく上昇するという結果が出ています。正しく眠ることさえできれば、人は自然と前を向けるようになることが多いと感じています。
堂上:睡眠は「心の余白」を生んでくれますよね。ウェルビーイングの文脈では、時間・空間・仲間の「3つの間」の余白が重要だと言われますが、子どもたちにとっても、家庭や学校以外の「サードプレイス」を持つことは非常に大切だと思います。
もうひとつ、僕が大切だと思うのは「ウェルビーイングを意識的に探す」ことです。わが家で食事の際に「今日、何か良いことあった?」と毎日聞き続ける実証実験をしたのですが、続けていくうちに、子どもたちが私に報告するために「良いこと」を能動的に探したり、自ら面白いことを仕掛けたりするようになったんです。
レコーディングダイエットのようにレコーディングウェルビーイングと呼んでいたのですが、自分の中で体験したことを記録したり表現したりすることで、ウェルビーイングは増えていくんだなと思いました。
関根さんのおっしゃる通り、睡眠という土台を整え、子どもたちが「明日が楽しみだ」と思えるような、生きやすい未来を共に創っていきたいですね。本日はありがとうございました!

1988年埼玉県戸田市生まれ。小・中学生時代はいじめられっ子で高校生から柔道、大学生からキックボクシングを始め、学生キックボクシング選手権大会にて2階級制覇。2019年度プロでの最高位は日本2位。「身体が変われば、心も変わり、人生も変わる」との理念のもと、パーソナルジムhu-ReVoを設立。現在はマインドフルネス講演者として数々の経営者やモデル、医者、日本代表のスポーツ選手、企業にてマインドフルネスの講演、指導等を実施。
https://mind-fulness.jp/