
海洋プラスチックの総重量が世界の海に生息する魚のそれを越える日が迫っている。原因は街に捨てられたゴミが海に流れ込んでしまうこと。この課題を解決しようと、ゴミ拾いをスポーツとかけ合わせた「スポGOMI」という競技を考案し、世界に広げている人物がいる。一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブ代表の馬見塚健一さんだ。
彼の斬新な発想はどこから生まれたのか。活動が世界に広がった先に何を目指すのか。Wellulu編集部の堂上研がインタビューする中、美容家の余慶尚美さんも加わり、賑やかなトークが繰り広げられた。

馬見塚 健一さん
一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブ代表

余慶 尚美さん
美容家・ヘアケアリスト(毛髪診断士)
広告代理店や外資系企業にて広告宣伝の仕事に従事した後、2007年、美容家に転身。様々なメディアに出演するなど多岐にわたって活躍。近年はヘアケアリストとしても注目されている。著書に、髪の総合的な知見に加え、巡り、漢方美容、薬膳といった観点を取りいれた美髪メソッド本『髪トレ』があり、髪と共に生きていく女性のライフスタイルまでケアする活動に力を入れている。また、韓国ドラマ好きが高じ、韓国の俳優、女優の広告キャスティングコーデとしても仕事の場を広げている。
https://yokeinaoko.manna-heart.jp/

堂上 研さん
Wellulu 編集部プロデューサー
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。
勝利の決め手はチームワークと想像力
堂上:先日の2023年11月22日に東京・渋谷の街で開催された「スポGOMI」初の世界大会「スポGOMIワールドカップ2023」の決勝大会の模様を現場で取材させていただきました。「スポGOMI」というユニークな競技を世界に広めている馬見塚さんに、ぜひお話を伺いたくて本日お招きしました。
馬見塚:ありがとうございます。2008年から「スポGOMI」の活動をスタートして、ようやく世界大会を開催するところまで漕ぎつけました。
堂上:今回のワールドカップは各国での予選大会を勝ち抜いた21カ国の代表チームが出場するということで、私も初めて拝見しました。懸命にゴミを拾う各国の選手たちを間近で見ているだけで感動してしまいまして、これはまさにスポーツだと納得しました。
馬見塚:各国の出場チームが最後まで、白熱した戦いを繰り広げてくれました。
堂上:そもそも「スポGOMI」とは何なのか。スポGOMIを知らない人のために、まず簡単な説明をお願いします。
馬見塚:「スポGOMI」はゴミ拾いとスポーツをかけ合わせて競技にしたもので、複数人でチームを作り、指定されたエリアで制限時間内に拾ったゴミの量や種類に応じて与えられるポイントを競う競技です。今回のワールドカップでは特別ルールが採用され、チームは3人1組、制限時間は1時間(分別に別途20分)で行われました。
堂上:地の利を考えれば日本が優勝するに決まっているだろうと、直前まで思っていました。案の定、中間発表では日本がリードしていましたよね。ところが蓋を開けてみてびっくり。イギリスがまさかの逆転優勝でした。
馬見塚:イギリスチームの後半の巻き返しは、目を見張るものがありましたね。
堂上:「スポGOMI」で勝つにはどのような力が求められるのでしょうか。
馬見塚:一般論で言いますと、一番は「チームワーク」です。通常の大会では、分別も競技時間内で行いますからチーム内の意思疎通、声の掛け合いが鍵です。それともうひとつ重要なのが「想像力」。エリア特性を考え、人がどのような場所にゴミを捨てるかを想像する。主にこの2つです。今回のイギリスチームは、特にチームワークが優れていたと思います。
人知れず1個のゴミを拾った瞬間、風景の見え方が変わる
堂上:馬見塚さんがゴミ拾いをスポーツにしようと思ったきっかけを教えてもらえますか。
馬見塚:ちょっと時代は遡りますが、私は1990年代の終わり頃に30歳で東京に来ました。自分で会社を起こしたのです。大学卒業後、最初に勤めたのが九州の広告代理店だったこともあり、デザインやプランニングを手がけていました。
ただ都会の雰囲気に馴染めないまま、ひたすら忙しく働いているうちに気持ちがモヤモヤし始めたんですね。このままじゃメンタルがもたないと感じて、毎朝5時に起き、自分のためだけに過ごす時間を作ることにしたんです。
馬見塚:もともと体を動かすのが好きだったので、はじめはウォーキングをしながら自分を見つめ直すという、そんな過ごし方をしていたのですが、それがジョギングに変わり、だんだん身体も気持ちもほぐれていきました。すると街の様子が目に入り始めたんです。それまでは自分のことばかり考えていて、周りが見えていませんでした。
当時、僕は横浜のみなとみらいに住んでいました。まだ高層ビルもなくて広々としたエリアでしたが毎朝走っていると、突如、青々とした街路樹がなくなり、高層ビルが次々に建ち始める様子を目にするわけです。そうして緑が少なくなっていったある日、道に落ちているゴミが気になったんです。
でも、自分がゴミを1個拾ったからといって街は綺麗にならないし、そもそもゴミを拾うという行為がなんとなく恥ずかしくて勇気もない。そんな状態がしばらく続きました。
堂上:それは見ている人から格好つけている、と思われるということですかね。
馬見塚:そうですね。でも、つべこべ言わず拾ってみようと思ったんです。別に街を綺麗にするといった気持ちもありませんでしたが、1個分拾えば1個分綺麗になるんだから、と開き直るような気持ちで1個拾ってみました。そうするとほかのゴミが気になるようになったんです。昨日までゴミなんて汚いと思っていたのに、気づけばゴミが自分のターゲットになっていました。
堂上:勝手に目がゴミを探すようになる感覚ですよね。
馬見塚:まさにその通りで、ジョギングの時もゴミを目標に走るという感じになっていきました。でも走りながらゴミを拾うのは意外に難しくて、自分なりに速度を落とさずさっと拾えるフォームを編み出したりしながら、トレーニングの一環でやっていました。
堂上:発想が面白いですね。あそび心みたいなものがあったんですね。
馬見塚:そうですね。そのうちにスポーツ感覚で楽しむようになりまして、そんな個人的な体験からゴミ拾いはスポーツにできると思ったのです。
堂上:ボランティアでゴミ拾いをしたのがきっかけで……なんていうお話を伺えるものだと思っていたら、想像していたストーリーとはまったく違いました! そのお話を受けて、ちょっと僕の体験の話をさせてもらっていいですか? 小学生の息子がサッカーをしているのですが、コロナ禍でチーム練習ができなくなりました。そこでチームメートの親御さんたちと話し合って、早朝に自主練習をさせてやろうということになりまして。
堂上:子どもの練習を離れたところで親たちが見るようになったのですが、ある日、一人のお父さんが手袋とトングを持ってきたと思ったら、子どもの練習そっちのけで周囲のゴミを拾い始めたんです。僕は驚いて「なぜゴミを拾ってるんですか?」とそのお父さんに尋ねたら「その質問はおかしい」と。「ゴミが落ちていたら拾えばいいじゃないですか」と言われたんです。たしかに、その通り。どちらが当たり前のことなのか、ということに気づきをもらいました。
馬見塚:まさにその感覚です。拾うのがおかしいのではなく、本来はゴミを捨てるほうがおかしいわけです。ただそれは、ゴミを拾ってみてはじめて気づくことなんですよね。それに気づくと、走っていてもゴミを拾うのが当たり前になります。そこで思ったのが、環境問題なんて気にしていない自分がこんな感覚になったのだから、ほかの人もそうなるに違いないということ。ルールを決めてスポーツイベントにしたら面白そうだと思いました。
堂上:それが「スポGOMI」誕生の瞬間だったのですね。実は僕、たまたま淡路島に出張に行った時に、宿泊先のテレビで馬見塚さんのインタビューが放送されていて、そんな面白いことをしている人がいることを初めて知りました。それから間もなく、このWelluluにも登場してくださっている美容家の余慶尚美さんから「スポGOMIって知ってる?」って聞かれまして「知ってます、知ってます」ということで、本日ご紹介をいただいたというわけです。聞けば余慶さんと馬見塚さんは長いお付き合いだそうですね。
馬見塚:尚美ちゃん(余慶さん)とは同じ鹿児島出身で「スポGOMI」にもずいぶん協力してもらってきました。
堂上:でしたら後ほど、余慶さんにも参加してもらいましょう。
「スポーツだから参加した」。学生の声が原動力に
堂上:余慶さんの登場の前に、「スポGOMI」の歩みをもう少し教えてもらえますか。まずどうやってルールを決めたのでしょう。
馬見塚:まず僕なりにルールを作ってみました。3つあるのですが、まず1つ目が「走るのは禁止」です。
堂上:ご自分は走りながらだったのに?
馬見塚:大人だけでなく子どもも高齢者も、年齢に関係なく誰もが参加できる競技にしたかったので、怪我や事故を避けるため禁止にしました。2つ目が「チーム制」にすること。そして3つ目が「拾ったゴミの種類と重量によるポイント制で競う」です。この3つをルールにしました。しかし僕以外の人がどう感じるかわからないので、当時、周りにいた武蔵野大学環境学部の学生に協力を依頼して、繰り返してやってもらいながらルールを固めていきました。
堂上:そして実際に開催したのが2008年だったと。そこから、どのように周りの共感を得られていったのでしょう?
馬見塚:最初は学生対抗で行いました。8大学が参加してくれて、その時優勝したのが日本女子体育大学のバスケット部です。その模様をNHKが取り上げてくれまして、そのインタビューで彼女たちが「日頃はゴミ拾いをしないけど、ほかのチームと競うスポーツだったから参加しました」と答えていたのです。それで「スポGOMI」は若者たちに行動変容を起こしたことを知りました。これは続けていくと面白いことになりそうだと確信しました。
堂上:バスケ部の女子学生の声が、馬見塚さんの原動力になったのですね。
馬見塚:ただ行政で協力してくれるところはなかなか見つからず、商店街に協力を得るなどして、なんとか少しずつ開催していきました。その参加者たちを見ていると、参加前と参加後で明らかに意識の変化が見られるわけです。そこで自分たちの大先輩であるゴミ拾い関連のNPO法人の方々にも成果を伝えようと「スポGOMI」の活動概要と実績について、お話させていただく機会を設けたんです。僕はみんなで協働できたらいいなと期待していたのですが、みなさんから返ってきた感想は厳しいものでした……。
堂上:ゴミ拾いは真面目にやれってことですか……。
馬見塚:そうです。それが悔しくて、こうなったら第三者の目で検証してもらわないとダメだと思ったんです。それからあれこれ検索していたら「国立環境研究所」という独立行政法人があることを知りました。さっそく訪ねて説明したところ、一人の研究員の方がイベントを見に来てくれまして、2年間、調査してもらえることになったのです。その間、参加者の変化を丹念に調べていただいた結果、参加者に意識の変化が見られるとの結果が得られ、その成果が環境学会でも発表されたのです。
堂上:そこが大きなターニングポイントになったのですね。それにしても、馬見塚さんの行動力は見事ですね。
馬見塚:ただ悔しさだけで動いていましたが、結果的にその研究があったからこそ今につながったと思います。
堂上:ウェルビーイングの領域に「well-doing」という言葉がありまして、新しいことに挑戦したり何か新しいものを作ったりする人は、ウェルビーイングになっていく人の割合が高いそうです。新しいことには失敗がつきもので、抵抗する人も出てきますが、それを乗り越えるために行動する人にはフォロワーがつくといわれます。
馬見塚:たしかに最初に協力してくれた武蔵野大学の学生のほか、多くの方々が共感してくれて、ずっと協力してくれています。そこからどんどん仲間も増えていきました。
堂上:とはいえ活動を継続していくには資金も必要だし、事業化していく必要がありますよね。
馬見塚:当初からボランティア活動にはしないと決めていました。というのもゴミ拾い活動を展開しているNPOの多くが行政からの助成金を頼りに運営していたため、毎年、年度末になると予算が足りなくなってみなさん辛そうでした。良いことをしているのに、それこそウェルビーイングではないなと思い、僕らは助成金には頼らず、コンテンツを磨くことで、その対価をもらえるモデルにしようと考えました。といっても、最初は全然うまくいかなかったのですが……。
堂上:なにが突破口になったのでしょう。
馬見塚:活動モデルができるきっかけになったのが、愛知県の豊橋市から「スポGOMIをやりたい」と連絡をもらったことでした。豊橋市は「ごみゼロ運動」の発祥の地で、環境への取り組みにとても熱心な自治体です。ただ市で毎年ゴミ拾いイベントを開催しているものの、参加者が高齢者や特定の人に限られていたそうです。若い人や子どもたちに参加してもらうために「スポGOMI」を一緒にやらせてほしい、というご依頼でした。その時にはじめて予算をつけてもらえたのです。それまでは手弁当で開催していたので、この時は嬉しかったですね。
堂上:それがイベントの基本モデルになったのですね。そこから全国に活動が広がっていった経緯を教えてもらえますか。
馬見塚:ひとつの自治体で事例ができるとそれがニュースになり、その隣や周囲の自治体からも依頼をいただけるので、しばらく愛知県内での開催が続きました。そのうちほかの県にも知られて……というように次第に広がっていったのです。その背景にあったのが、2015年に国連で採択されたSDGs。社会全体で環境問題解決の気運が高まり、その波に乗れたことも活動が広がる要因となりました。ただ少人数で運営していたので、僕らだけでは手が回らなくなってきまして、そこから全国に支部を作っていきました。
堂上:その協力者の一人に、余慶さんがいたのですね。せっかくなので、ここで余慶さんにも参加してもらいましょうか。余慶さん、こちらにどうぞ!
出会う人とつながり活動が展開していく関係づくり
余慶:こんにちは。よろしくお願いします。
堂上:余慶さんは馬見塚さんとの親交は長いそうですね。
余慶:まみちゃん(馬見塚さん)と初めて会ったのはたしか2013年だから、もう10年になります。
余慶:共通の知人がいて、あるイベントで知り合いまして、お互いに鹿児島出身ということですっかり意気投合して。「スポGOMI」の活動も素晴らしいと思いました。
馬見塚:ちょうど「スポGOMI」がどんどん膨らんでいた頃でしたね。
余慶:それで地元・鹿児島で活躍している私の同級生2人を紹介して、3人で鹿児島に「スポGOMI」の南九州支部を作ることになったんです。東京で活動している私は幽霊部員でしたが(笑)、地元にいる2人が協力的に進めてくれていました。私もイベント開催日には駆けつけて「みなさ~ん、こちらで登録をお願いしま~す!」なんて、お手伝いしていたんです。
馬見塚:尚美ちゃんには本当によく手伝ってもらってます。
堂上:せっかくなので余慶さんから馬見塚さんのプライベートな部分とか、素顔について教えてもらえますか。
余慶:先ほど志を持って活動する人にはフォロワーがつくという話題が出ていましたが、まみちゃんの場合、人柄のよさも大きいと思います。10年つきあってきて、まみちゃんの口から他人への批判や悪口を聞いたことがありません。そういう人柄だから人に好かれるし、やたら知人、友人、協力者が多くて、出会いがどんどんつながっていくんです。「スポGOMI」初の海外開催も知人の紹介からでしたね。
馬見塚:第1回目のスポGOMI海外開催は2016年、ロシアのトムスク州っていう、シベリアのど真ん中の州でやりました。
堂上:なんと第1回目がシベリア!?
馬見塚:国連でSDGsが採択された後、トムスク州の州知事が、当時東京都知事だった舛添要一さんと産業廃棄物などの問題を話し合うために来日され、その会談で通訳を務めたのがたまたま僕の知り合いでした。その時、国民がゴミの分別ルールを守る日本では、どのような啓蒙活動を行っているのかという話題になったらしく、日本にはゴミ拾いをスポーツにして啓蒙活動をしている団体があると、知人が「スポGOMI」を紹介してくれたのです。それから2週間ほどして、トムスク州知事から「スポGOMI」を開催したいという手紙が届きました。
堂上:ロシアって環境問題の意識が高いイメージはあまりないですが……。
馬見塚:ちょうどロシアでは2017年を全土で環境問題に取り組む年と決めていて、トムスク州知事は、ほかに先駆けた取り組みとして「スポGOMI」をやりたいと考えたようです。2016年に第1回を開催したあと、ロシアの色々な地域から依頼を受けました。1カ月くらいかけてさまざまな州を回って帰る、ということが3年間続きました。ロシアは環境への意識も高くて素敵な国だったのに、現在の状況は本当に残念です。
ゴミ拾いとドレスコードとウェルビーイング
堂上:今、スタッフは何人で運営しているのですか。
馬見塚:コアスタッフは、僕を含めて6人です。
堂上:意外と少ないのですね!
馬見塚:ゴミ拾いはその地域の課題解決のためのイベントですから、継続して取り組んでもらうためにも、現地の人に動いてもらうことを基本としています。こちらから行くのはディレクターだけ。頼まれればMCを手配しますが、受付も参加者募集も現地の人たちにやってもらいます。
余慶:それで口の悪い身内からは、他人にゴミを拾わせてお金儲けしてるって冗談を言われたりするんですよ。
堂上:冗談でもひどいじゃないですか(笑)。儲けようと思えば、ぜんぶこちらで手配してバジェットの規模を大きくすればいいわけですから、一人でいくこと自体、良心的ですよね。まあ、それはわかって言っているんだと思いますが。改めて伺いますが、馬見塚さん個人にとってのウェルビーイングとはどのような状態ですか?
馬見塚:自分がやりたくて始めたことが世界に広がった今が、ウェルビーイングな状態そのものなんです。
堂上:なるほど、一番やりたかったことが認められて、ワールドカップまで実現したわけですから。人生と「スポGOMI」がイコールなんですね。
余慶:まみちゃんって市長とか知事とか、大臣表彰を受けるようなハレの席にも短パンで来るんですよ。これってウェルビーイングなことなのかなって、ちょっと気になるというか心配になるんです。
余慶:たとえば美という観点でいえば、赤い髪の毛でも自分に合っていればそれでいいと私は思っていますが、格式の高い席で短パン姿はウェルビーイング的にどうなのかなって……。
馬見塚:一応言っておくと、上半身はちゃんと蝶ネクタイをしていますよ。ただゴミ拾いの団体なので、短パンがいいかなと思ってそうしているんです。
堂上:僕なら今日だって短パンで来てもらってまったく構いませんでしたよ(笑)。余慶さんの言うこともよくわかります。自分は自身のスタイルを通して満足でも、相手には非礼にあたると良くないよねってことですよね。ただご本人が等身大でみなさんとつき合いたいという意思をもってそうしているなら、いいんじゃないでしょうか。その意味で、ウェルビーイング的にもOKだと思いますよ。
馬見塚:クールジャパンの表彰式にも短パンで行きました。その時、グランプリを受賞したのはある大手企業だったのですが、その役員の方から「我々はグランプリをもらいましたが、今日一番クールなのは馬見塚さんですね」と言ってもらえました(笑)。
堂上:馬見塚さんは素直というか、自分の思いに正直な人ですよね。それはウェルビーイングの観点からも大事なことだと思います。
馬見塚:ほかの人から、人が良すぎるよといわれることが多くて、今後はそれが課題になるかもしれないと思っています。
堂上:よく「正直者はバカをみる」といわれますよね。僕は正直者こそ成功する世の中にしないといけないと思っているんです。たしかに資本主義の世界ですから、いかに儲けるかを考えるのが正しいという価値観も根強いですが、でもそうじゃないよね、と。素敵な体験や人との輪があって自分が満たされることが大事だよね、というのが、ウェルビーイングの発想ですよね。だから見え方や儲けももちろん大切だけど、それより自分の意識のあり方を大事にしてほしいし、僕もそうありたいと思います。もちろんお金も大事なんですが、それだけじゃないよねというところです。
本当のゴールは、スポGOMIができない社会にすること
堂上:では最後に、今後の目標を聞かせてもらえますか。
馬見塚:まず2030年までに30カ国でスポGOMIを開催することを、2020年に目標として立てました。今回のワールドカップで20カ国のオーガナイザーと連携できましたから、これは達成できそうです。一方で、子どもたちが小学生の間に一度はスポGOMIに参加する仕組みを作りたくて、そちらも動いています。ゴミを捨てない社会の実現には子どもの頃の教育がとても重要で、次世代を啓蒙する仕組み作りが必要だと思います。今、私の住む神奈川県の葉山町でそのモデルケースができないかと動いているところなんです。
堂上:それは大事な取り組みですね。たとえばオリンピック競技にするといったこともできそうじゃないですか。
馬見塚:実はそういう構想もあるんです。そうなると世界連盟を組織する必要がありまして、そのためには多くの方々の知見や協力をいただく必要があります。
余慶:いっそのことパリオリンピックの開催直前に、パリの街を舞台に試験的にやってみるのはどうですか。それが実現したら私、飛んでいきます。もちろん、めいっぱい手伝いますよ。
堂上:そうやって世界に活動を広げていく役割が、馬見塚さんや余慶さんをはじめスポGOMIメンバーの方々に期待されている一方で、僕が一番感心しているのは、「スポGOMI」の最終目標が「スポGOMIが開催できなくなること」だと公式に宣言しているところです。
馬見塚:僕らの活動の真の目的はそこにあります。街からゴミがなくなり「スポGOMI」ができなくなることが僕らの目指すゴールであって、僕たちはそのために活動をしています。
堂上:その目標を最初に達成するのは、やはり日本であってほしいですね。
馬見塚:現状、日本がもっともその目標に近いのは確かです。ほかの国をみるとまだまだほど遠い状況ですね。
堂上:まずは日本がそれを達成して、ゴミ拾い先進国としての「日本モデル」を世界に普及させるという形になるといいですね。
余慶:私、この活動を通じて感じるのは、やっぱり人には心の余白とか余裕が必要だということです。余裕がない人にゴミ拾いを楽しむことはできないと思うんです。
堂上:たしかに今日の食べ物に苦労している人は、ゴミ拾いどころか、スポーツもできないですよね。でもそれは必ずしも経済的に豊かになることとイコールではなくて、一人ひとりの心と意識の問題でもある。反対に、豊かな国でもゴミ拾いを楽しめる人は少数派です。でもやってみればゴミ拾いは楽しいし、まずは体験することが大事だということを、今日馬見塚さんと余慶さんのお話を伺って思いました。途上国であってもその楽しさが伝わる競技に育っていってほしいです。お二人とも、今日は貴重なお話をありがとうございました。
編集後記
今回、偶然の出会いから、ゴミ拾いを世界的スポーツにしてしまった馬見塚さんにお話しをおうかがいできた。先日、渋谷で行われた「スポGOMI」のワールドカップを拝見させて頂き、このスポーツに感動した。
僕自身、地域のゴミ拾い活動のボランティアに、子どもと一緒に参加したりしても、楽しいと感じることもなく「なんで、タバコの吸い殻こんなに落ちとんじゃ〜!」と怒りしかなかった。
このスポーツがなくなるときというのは、本当にゴミを街に捨てる人がいなくなったときだろう。そんな日が来るためには、子どもたちに伝える前に、大人ひとりひとりがどう行動するかだ。
昨年の夏に富士登山をしたときも、ゴミが気になった。街にゴミを捨てることや、自然の中にゴミを捨てることは、地球のウェルビーイングに反しているか、考えてみて欲しい。空き缶や吸い殻など、街のゴミがなくなることを願っている。
サッカーW杯でも、日本人観客が、試合終了後にゴミ拾いをしていたことが、世界から賞賛された。スポGOMIという日本初のスポーツに可能性を感じることができた。
スポGOMIが、馬見塚さんと共感した人々から生まれた背景をおうかがいして、社会課題を楽しみながら解決していく方法はいっぱいあると感じた。日常の自分が楽しんで、新たな挑戦をどんどんしていこう。
堂上
1967年鹿児島生まれ。大手広告代理店の営業を経て独立。2006年に環境とスポーツをデザインするブランディング集団「まわるプロジェクト」を設立。「ap bank」の連携先として「ゴミは幸せの抜け殻 mawarufukuro」という利益還元型のゴミ袋を発表。2009年、一般社団法人日本スポGOMI連盟を設立。ゴミ拾いという社会貢献活動にスポーツの要素を取り入れた「スポGOMI大会」を主導。現在は一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブに社名を変え、環境保全以外の社会課題の解決にスポーツを掛け算する事業を展開している。
http://www.spogomi.or.jp/