新しい未来のテレビ「ABEMA(アベマ)」が、開局10周年という大きな節目を迎えた。かつてないスピードで変化を続けるネット業界において、運営元である株式会社サイバーエージェントは、なぜ常に挑戦を続ける組織であり続けられるのか。
その鍵を握るのが、人事部門を立ち上げ、長年「人」と「組織」の本質に向き合い続けてきた常務執行役員CHO(最高人事責任者)の曽山哲人さんだ。社員が自走するための「抜擢」の極意、そして失敗を財産に変える「セカンドチャンス」の文化とは。
今回は、プロダンスチーム「CyberAgent Legit(サイバーエージェント レジット)」のオーナーとしても情熱を注ぐ曽山さんと、Wellulu編集長・堂上研が対談。組織という枠組みの中で、個人が自分らしく、最大限に輝き続けるためのメカニズムについて熱く語り合った。

曽山 哲人さん
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 CHO

堂上 研
株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長
1999年に株式会社博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
コンプレックスを自信に。ダンス甲子園が教えてくれた、キャリアの原点

堂上:本日は、株式会社サイバーエージェントの人事部門を立ち上げ、長年牽引してこられた曽山哲人さんに、お話を伺います。まずは、曽山さんのキャリアの根源にある原体験として、幼少期に熱中されていたことから教えてください。
曽山:私は1974年生まれで、いわゆる「ファミコン世代」です。ゲームも好きでしたが、それ以上にのめり込んでいたのが漫画とアニメでした。特に『ドラえもん』や『ドラゴンボール』に夢中で、小学校では漫画イラストクラブに所属していました。
堂上:ご自身で漫画を描かれていたのですか。
曽山:はい。本格的にGペンとインクを使い、コマ割りをして描いていました。鳥山明先生の模写をひたすら繰り返すほど、絵を描くことが楽しかったんです。当時は本気で漫画家を目指していましたね。
周囲の友人の間でも、「いかに早く『週刊少年ジャンプ』を手に入れるか」を競い合うような熱気がありました。物語の熱量や登場人物の躍動感を、子どもながらに肌で感じていた時代でした。
堂上:その後、中学時代にはどのような変化があったのでしょうか。
曽山:中学で喘息を患い、激しい運動をするのが難しくなってしまったんです。サッカーやバスケで活躍する同級生が輝いて見える一方で、自分にはできない。そんな強いコンプレックスを抱えていました。
そんなとき、運命的に出会ったのが「ダンス」でした。中学3年生のとき、友人に勧められて見た深夜のダンス番組がきっかけです。当時はボビー・ブラウンやMCハマーといった海外アーティストのスタイルに、大きな衝撃を受けました。
堂上:そこからダンスの世界にのめり込んでいったわけですね。
曽山:中学卒業後に一度は離れた時期もありましたが、友人の誘いで再開し、横浜から恵比寿までダンススクールに通い詰めました。そこで非常にレベルの高い師に出会えたことが大きな転機となり、高校2年生のときにはテレビ番組企画『ダンス甲子園』に出場。全国大会で3位という結果を残すことができました。
堂上:全国3位ですか! それは素晴らしい実績です。
曽山:テレビに出たことで、周囲の評価が一変しました(笑)。それまで勉強も運動も中途半端で、自分に自信が持てなかった私が、初めて「努力すれば結果が出る」という確かな手応えを得られたんです。

曽山:この経験からは、もうひとつ大きな学びがありました。それは「戦う場所を選ぶ」ということです。
当時、サッカーや野球は競技人口が多く、競争が極めて激しかった。一方で、ダンスはまだ競技者が少なく、努力次第で頂点を目指せる可能性が高かったんです。
堂上:なるほど。「どの市場で勝負するか」という戦略的な視点ですね。
曽山:まさに「空いている場所で戦う」という感覚です。これは後のキャリアにおける意思決定にも、大きな影響を与えています。
堂上:曽山さんは、もともと新しいことに物怖じせず挑戦するタイプだったのでしょうか。
曽山:基本的には熱しやすく、興味を持ったら「まずはやってみる」というタイプです。そのスタンスは今も変わりません。「やる前から決めつけない」こと、そして「まず試してみる」こと。これを今でも大切にしています。
堂上:振り返ると、ダンスとの出会いが今の曽山さんを形作る大きな分岐点だったのですね。
曽山:あの経験がなければ、自分に自信を持てないまま、全く異なる道を歩んでいたかもしれません。
「経営と現場の翻訳者」に。信頼を育む人事のリアルな対話術

堂上:ここからは「組織」というテーマを深掘りさせてください。曽山さんが、そもそも組織や人事に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。やはりダンスチームでの経験が大きかったのですか?
曽山:実は、ダンス甲子園で結果こそ出せましたが、当時のチーム内の人間関係は決して良好とは言えませんでした。ダンサーは一人ひとりが個性の強いクリエイターなので、こだわりがぶつかることも多かったんです。ただ、本気でぶつかり合ったからこそ、最後は一丸となって結果を出し、お互いをリスペクトし合えました。その経験が、私の組織論の根底にあります。
堂上:結果を出していても、チーム運営には難しさがあったのですね。
曽山:その後、大学で始めたラクロスでも組織の壁にぶつかりました。4年生で主将を務めてチーム改革に挑みましたが、なかなか強くすることができませんでした。
転機は卒業後、伊勢丹で働きながら母校のラクロス部のコーチを務めていたときです。尊敬する先輩をヘッドコーチとして招いたところ、チームが劇的に変わり、悲願の一部昇格を果たしました。「マネジメントひとつで、組織はここまで変わるのか」と、強烈な衝撃を受けた瞬間でした。
堂上:そこでマネジメントの真の力を実感されたと。
曽山:個人の育成だけでは限界がある。リーダーの存在や仕組みによって、組織のアウトプットは大きく変わるのだと確信しました。
堂上:とはいえ、組織づくりは容易ではありません。配属も上司も選べない中で、多様な個性が集まれば組織はバラバラになりがちです。
曽山:だからこそ、何よりも大事なのは「同じ目標を持つこと」。これが組織づくりの鉄則です。組織が機能不全に陥っている原因のほとんどは、「目標が揃っていないこと」に集約されます。
堂上:シンプルですが、実践できている組織は意外と少ないかもしれません。
曽山:多くの企業で起きているのは、部門ごとの「縦割り」による目標の乖離です。営業は営業、人事は人事でバラバラな方向を向いている。しかし本来は、会社全体の大きな目標を全員が共通言語として持っていなければ、うまくいくはずがありません。
堂上:なぜ、その「当たり前のこと」が難しくなってしまうのでしょうか。
曽山:単純に、気づいていないケースが多いのだと思います。同じ目標を持たなければ同じ方向に進めないという基本が、日々の業務の中で抜け落ちてしまう。だからこそ、社員一人ひとりが「会社の目標を自分の言葉で語れるか」が極めて重要になります。
堂上:トップの言葉をそのままなぞるのではなく、言語化して自分事にする必要があるということですね。
曽山:その通りです。経営層が明確に言語化し、それを現場に浸透させ、さらに現場が自分たちの言葉で語り直す。このサイクルが回っている組織は非常に強いですね。

堂上:組織を整える際、対話の重要性についてはどうお考えですか。
曽山:人事の最も重要な役割は、「経営と現場をつなぐこと」にあります。経営の意図をわかりやすく噛み砕いて現場に伝え、逆に現場のリアルな声を整理して経営陣に届ける。いわば“通訳”や“翻訳者”のような存在です。
堂上:営業統括として現場のトップを走ってこられた曽山さんが、人事責任者になられた際に、戸惑いはありませんでしたか。
曽山:最初は、話を聞きに行くだけで「人事が来たぞ」と警戒されました(笑)。だからこそ、まずは「今、困っていることを教えてほしい」という一点に絞って対話を重ねることにしたんです。
堂上:非常にシンプルで、かつ本質的なアプローチですね。
曽山:大切なのは、聞いた悩みに対して即座に動くことです。「言えば変わるかもしれない」という信頼を得ることが第一歩になります。困っていたことが翌日には改善されているような対応の速さは、ひとつの感動体験になります。その積み重ねが組織への信頼を築くのです。
堂上:そこから徐々に制度や仕組みへと落とし込んでいくのですね。
曽山:仕組み化も大切ですが、それ以上に「現場の状況を正しく経営に伝え続けること」が重要です。人事は単なる管理部門ではなく、組織全体の「コミュニケーションのエンジン」であるべきだと考えています。
失敗は「学び」であり「財産」。何度でも挑戦できる「セカンドチャンス」の仕組み

堂上:曽山さんのように、人事という立場でありながら現場の痛みを知り、改善に奔走してくれる存在は、社員にとって心強いものだと思います。特に「任せる」ことの重要性は多くの企業で語られますが、サイバーエージェントではどのような基準で判断されているのでしょうか。
曽山:私たちの組織の根底には、「全員を抜擢できる」という考え方があります。ただ、ここで言う「抜擢」の定義は、一般的にイメージされるものより、もっと身近で前向きなものです。私たちは抜擢を、「期待をかけて、役割を任せること」と定義しています。
堂上:役職を上げることだけが抜擢ではない、ということですね。
曽山:そうです。例えば、新入社員に対して「君はこの部門の情報収集責任者だ。最新のニュースを共有してほしい。これがうちの部署への大きな貢献になるんだ」と伝えます。単に指示するのではなく、そこに「意味づけ」をして期待をかける。そうすることで、人は初めて主体的に動き出し、自走し始めるのです。
堂上:役割を任せる際、本人の希望はどこまで反映されるのでしょうか。
曽山:基本的には、本人の希望を最大限尊重します。実際、新卒社員の配属では例年90%以上が第一希望の部署に配属されています。
本人が「やりたい」と望んだ場所であれば、困難があってもやり抜いてくれるはずですから。入社後もアンケートを通じて、将来やりたい職種を毎年ヒアリングしています。社内に5名ほどいる「社内ヘッドハンター」という専門チームが、このデータをもとに、経営の戦略と個人のキャリア意向をマッチングさせているんです。
堂上:個人の意思を尊重し、挑戦を促す文化が徹底されていますね。ただ、挑戦には常に「失敗」がつきまといます。

曽山:私たちのミッションステートメントは、「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを。」と定めています。だからこそ、失敗しても別ルートで成り上がる「敗者復活」の事例を意図的に増やしてきました。組織のカルチャーとは、経営層が本気で実践している背中を見せない限り、誰も信じてくれません。
堂上:経営陣がどう振る舞うかが、文化の分岐点になるのですね。
曽山:象徴的なエピソードがあります。ある事業の撤退が決まった際、当時の代表取締役社長・藤田晋氏から私への指示は、「社員をよくねぎらっておいてくれ」という一点だけでした。「新しいチャレンジをしてくれたことを褒めて、次の挑戦も応援してあげて」と。
失敗した本人は、周りが何も言わなくても自分を責めて折れてしまう。だからこそ、「それは学びであり財産だ、ありがとう」という感情的なねぎらいが絶対に欠かせません。そこを飛ばして反省ばかり促すと、二度と挑戦者は現れなくなります。
堂上:ねぎらい、そしてまた本人の「次にやりたいこと」を聞く。一貫して一人ひとりの社員と向き合っていらっしゃるのですね。
曽山:人事を何より大事にするという経営陣の意志があるからこそ、私たちはやり抜くことができます。私にとってのウェルビーイングとは、自分の「才能に驚く」ことです。「自分は、こんなにできるんだ」という発見。これは仕事だけでなく、人生そのものを豊かにします。
堂上:「自分の才能に、自分自身が驚く」。素敵な言葉です。
曽山:組織の中では、本人の意向と配置が食い違い、せっかくの才能が眠ったままになってしまうことが往々にしてあります。これは個人にとっても会社にとっても、大きな損失です。私自身は51歳になった今、学生の頃には想像もできなかったほど充実した日々を過ごせています。それは、組織という環境の中で未知の役割に挑み、「自分はこんなこともできるのか」と自らの才能に驚く瞬間を積み重ねることができたからです。
「わざわざサイバーエージェントを選んでくれた全員に、自分の才能に驚いてほしい」と心から思っています。それが心身ともに健やかで、レベルの高いウェルビーイングの形ではないでしょうか。
「感情の共有」に価値が宿る。未来のウェルビーイングへの思い

堂上:曽山さんのウェルビーイングな瞬間について伺いたいと思います。今、何をしている時間が一番楽しいですか?
曽山:今は間違いなく、プロダンスリーグ「D.LEAGUE(Dリーグ)」のチームオーナーとしての活動ですね。お話ししたように、私自身がダンスに救われた人間ですから。
2022年にプロダンスチーム「CyberAgent Legit」のオーナーに就任して以来、活動を通じて他企業の経営者の方々と交流し、人事アドバイザーとして知見を共有させていただく機会も増えました。自社の枠を超えて、社会全体の組織づくりに貢献できている実感があるのも嬉しいですね。

「CyberAgent Legit」公式YouTubeチャンネル
https://m.youtube.com/channel/UCWO7Jm7M4gVKS0v3bIEMttg
堂上:まさに趣味と仕事が最高の形で融合していますね! そして、この度は「CyberAgent Legit」の優勝おめでとうございます。こうした「熱狂」の渦の中で応援できる環境は格別ですね。しかも大好きなダンスのチームオーナーとして関われるのは、本当に素晴らしいことだと思います。週末は、スポーツ観戦をしていることが多いですか?
曽山:スポーツ観戦も大好きで、バスケットボールの「B.LEAGUE(Bリーグ)」など、会場の熱狂に身を置く時間が最高のリフレッシュになります。私は、将来の人生のために趣味の選択肢を増やしておきたいんです。
堂上:それはウェルビーイングの観点からも非常に重要です。仕事以外のコミュニティや役割を多く持っている人ほど、幸福度が高いというデータもあります。

曽山:「あの人、いつも楽しそうだな」と思われるシニアでありたいと思っています。私が人生を謳歌している姿を見せることで、若い世代が「サイバーエージェントで働くと、あのように楽しい未来が待っているんだ」と感じてくれたら最高ですね。
堂上:最後に、少し先の未来について伺わせてください。2050年、私たちの社会はどうなっていると思われますか。
曽山:生成AIがあらゆる領域で合理化を進める一方で、相対的に「感情」の価値が上がると思っています。
堂上:合理化の対極にある、人間らしさですね。
曽山:「一緒に熱狂した」「同じ体験をして感動した」というリアルの共通体験は、AIには代替できない価値が宿ると思います。スポーツやエンターテインメントが生み出す「感情の共有」こそが、長寿社会を豊かに生きるための鍵になるはずです。
堂上:デジタルが進むからこそ、リアルな人間関係や心の余白が重要になる。私たちが目指すウェルビーイングな社会とも、深く共鳴するお話です。
お互いの才能に驚き合えるようなワクワクする未来を、これからも組織づくりを通じて築いていきたいですね。本日は示唆に富んだお話をありがとうございました!

1999年、当時社員20名程度だった株式会社サイバーエージェントに入社。営業担当を務め、後に営業部門統括に就任する。2005年、人事部門の立ち上げに伴い人事本部長に就任。2008年より取締役、2014年より執行役員を歴任し、2020年より現職。YouTubeにて「人事部長ソヤマン」としても活動中。著書に『クリエイティブ人事 個人を伸ばす、チームを活かす』(光文社新書/2014年)、『若手育成の教科書』(ダイヤモンド社/2021年)等がある。
https://www.cyberagent.co.jp/