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【中島さち子氏×齋藤みずほ氏×堂上研】多様な遊び場に飛び込み、未来のかけらを創造する

子どもの教育や音楽、数学、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)などさまざまな分野で活躍する、中島さち子さん。大阪・関西万博ではテーマ事業「いのちを高める」にて、シグネチャーパビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」をプロデュースしている。

時には世界の民族音楽を求めてアフリカ旅行に行くなど、アクティブにウェルビーイングを実現している中島さんは何を思い、何を感じながら、日々を過ごしているのか。親交の深い齋藤みずほさんと共に、Wellulu編集部の堂上が話を伺った。

 

中島 さち子さん

株式会社steAm代表取締役社長/ジャズピアニスト/数学研究者/STEAM教育者/メディアアーティスト

東京大学理学部数学科卒。高校2年生の時に、国際数学オリンピック(IMO)で金メダルを取得。大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー(「いのちを高める」)、内閣府STEM Girls Ambassadorなど、経済産業省や文部科学省の教育変革に関わる委員会などに多数所属。一般社団法人steAmBAND代表理事、一般財団法人三千年の未来会議理事。

主な著書に『人生を変える「数学」そして「音楽」』(講談社/2012年)、『タイショウ星人のふしぎな絵』(文研出版/2018年)等。

齋藤 みずほさん

キャリア・クエスト代表/人材開発コンサルタント/ビジネスコーチ/早稲田大学非常勤講師(リーダーシップ開発)

全日本空輸株式会社(ANA)に入社し、客室乗務員として品質の高い接遇が評価され、PR業務にも従事。仕事を通じて磨いてきたコミュニケーション力と独自の審美眼を活かし、研修業界に転身。教育工学に基づいた教育研修プログラムの設計には定評があり、さまざまな企業・大学などでコーチングやコミュニケーションを中心とした研修と講演を多数受ける。日本航空株式会社(JAL)に入社し客室乗務員の兼業を経て独立。現在はキャリア・クエストを設立し、働く人のモチベーション、リーダーシップ、ウェルビーイングを研究し、次世代のリーダー育成や女性の活躍支援、先生のウェルビーイング向上、ウェルビーイングな組織づくりに注力している。

堂上 研さん

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

音を重ね、身体を動かすことで生まれる喜び

堂上:さち子さんはさまざまな顔をお持ちですよね。

中島:確かに……そうですね。ジャズピアニスト、数学研究者、STEAM教育者、メディアアーティスト、最近では大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーを務めています。経営者であり、母でもありますね。

堂上:さち子さんは何をやっている時が一番楽しいですか?

中島:全部楽しいです! ただ、色々と決めることが山積みになって、会議三昧になっていくと五感を使う時間がなくなってしまうので、「間」を入れるように意識しています。創造する時って苦しさもあるのですが、そこと向き合う時間を持つことで楽しさが生まれていくのかな。あとは、ライブをやっている時は楽しいですね。

堂上:ライブは僕も行かせていただきました! みずほさんもよく行かれているんですよね。

齋藤:さち子さんと出会ってから、すぐにライブに行くようになりました。それまでも音楽には親しんできたのですが、こんなに楽しそうにピアノを演奏する人を見るのは初めてで、とても感動したんです。さち子さんが音楽を楽しんでいる姿を見ていると、私自身も大人になって忘れかけていた子どもの頃のワクワクを取り戻す感覚があります。

堂上:さち子さんは踊りながらピアノを弾いている時もありますよね。ライブの楽しさはどういったところにありますか?

中島:音楽が良いなと思うのは、「重ねられる」ということなんです。言葉は誰かが話していたらそれを聴く側に回りますが、音楽は音を皆で同時に重ねて協奏できるんですよね。

堂上:確かにさち子さんは鍵盤を見ずに、皆さんの表情を見ながら演奏しているのが印象的でした。

中島:そこに流れる空気のようなものをお互いに感じながら、即興で音楽を作っていく。そこで正しく弾こうとかは必要ないんです。言葉は意味や論理を考えるけれど、音楽は本能に近い。確かに何かを感じているけれど、意味を超えて感じ取っているものがある気がしていて。

しかも音楽は音を重ねていくものだから、相手が期待しているものばかりでは面白くなくて。でも自分だけしか見えていないのも良くない。お互いの音を聞きながら、私はこうだよというのを出していくのが音楽で、そこはやっぱり「live」で、生きているなと感じます。

齋藤:私はさち子さんのライブに行くと、英気を養えます。

中島:子どもって喜ぶ時に飛び跳ねるじゃないですか。でも大人になってくると、パソコンの前にずっと座っていて、なかなか身体を動かせないですよね。

堂上:確かにそうですね。そう思うと「生きる」というのは、身体を動かして、全身で表現できている時が楽しいのかもしれない。音楽は重ねられる、というのは面白いです。

中島:重ねられるのは演奏者だけじゃなくて、見ているお客さんもそうなんですよ。お客さんも含めて、みんなで作っているんです。社会もそういうことだと思います。言葉だけだと話が上手い人がリーダーになってしまうけれど、みんながそれぞれの形で参加できることが理想ですよね。

齋藤:それは教育の話とも繋がりますね。頭で考える教育というのは、もう終わりを迎えていて、その場で何を感じ取って、それをいかに繋げていくのかが大切だと思います。

中島:テストで正解を導き出すという時代ではないですよね。その後に「アクティブラーニング」が出てきて、発表するのは良いことなんだけれど、前に出て話すのが得意な子だけが偉いかというとそんなこともない。

色々な人間がいて、色々な生き方があり、学び方があるということ。そして今日の自分と明日の自分は違っていて、変わり続けていくというのが面白いんですよね。何か正解を教えてもらって正しい知識を得るのではなくて、自分なりに何かが見えたり、自分が変わるような学びを得る瞬間も人それぞれあるはずです。

堂上:知識を教わるのではなくて、自分で学びを感じ取るというイメージですね。

中島:そうですね。知識は受け取るものではなくて、再発明とか再構築していくものなんです。音楽も同じで、聞いているだけだと思っていても、みんな頭の中で何かを作っていて、誰もが創造的なんです。

堂上:自分の中で新しいものが生み出される感覚が、学びであって、ウェルビーイングを感じるのでしょうね。

齋藤:今の話を聞いていると、イギリスの組織論学者であるリンダ・グラットンの人生100年時代における「無形資産」の話を思い出しました。自分の中で、自分はこういう人生だな、こういうことを大切にしたいなと思う資産がいくつかあって、それは変わっていっても良くて。それが人それぞれあって、誰かに押し付けるのではなく、でもお互いに共感し共有していくということが大切ですよね。

堂上:それがお互いの理解を深めることに繋がりますよね。

「多様性は楽しい」に気づけると、見える世界が変わる

齋藤:さち子さんのライブに行くと、本当に多様な方がいらっしゃいますよね。

中島:大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーを務める中で、障がいのある方や病気の方と知り合う機会がものすごく増えたんです。関わるうちにどんどん仲良くなっていって、自分が気づいていなかった、忘れていた感覚が開いていく瞬間があります。

目の不自由な方は、音で天井の高さや風を敏感に感じ取っているので、私も音をより気にするようになるし、耳の不自由な方は、表情や動きを見ているから、私もどんどん表情豊かになっていきます。国籍が異なる人との出会いも面白いし、ジェンダーに関しても友人になると、踏み込んで色々と話せるようになる。日本では弱さを開示しにくいところがあるけれど、本当は開示し合えたほうが分かることが多いですよね。

堂上:弱さを開示するというのは、ウェルビーイングにおいても大きなテーマだと思っています。自分の弱さも含めてオープンにしていると、相手も返してくれて、お互いを理解し合える瞬間が増える気がしています。

中島:もちろんそこには、心理的安全性が担保されないといけないので、まず仲良くなることが必要ですが、ハラスメントの問題も大体悪気がないことが多くて。少しずつお互いを開示して、言い合える関係性になれると解決することがあると思います。

齋藤:それは企業や学校、家族においてもそうですね。学校に行くのが辛いと感じている子どもたちにも、もっとお互いを信じて言い合える心地よいコミュニティが作れたらいいなと私は考えています。

堂上:周りにいる親や先生といった大人がワクワクしていると、子どもも嬉しくなるじゃないですか。でも大人が毎日辛そうにしていたり、仕事の愚痴ばかり言ったりしていると、子どもも「サラリーマンは面白くないんだな」と感じてしまうと思います。

子どものウェルビーイングを実現するためにも、大人がもっと楽しんで、世の中楽しんだぜ! ということを伝えるためにはどうしたら良いんでしょうか。

中島:私は子どもも大人も含めて、「多様性」はひとつの答えになると思っています。多様性って楽しいんですよ。今の日本は割とモノトーンで、似ている人たちにしか出会わないですよね。だから安心するという部分もあるんだけれど、自分とは異なる人に出会うと面白いことも多い。

よく海外に行くと日本のことを知りたくなったり、日本に誇りが持てたりするといわれますが、違いがあることで自分について考えたり、自分の意見を言わざるを得なくなったりして。それはとても楽しいことなんです。その楽しい経験をしていなかったり、慣れていなかったりするだけだと思うんです。

堂上:多様な環境は楽しさを知らないと怖さがあるけれど、楽しいことに気づく経験があると良いですよね。

中島:そういう機会、空間を作っていくというのは、社会で作っていくべきなんだと思います。多様な友達ができると、やっぱり見える世界が全然変わってきます。

遊び×楽しいが周りを巻き込むパワーを生む

中島:たとえばICTやテクノロジー、AIなども、みんな真面目に使うことばかり考えてしまうのですが、まずは遊ぼうよと。大人も子どもも遊べる機会がもっとあると良いと思います。

堂上:学びと遊びの垣根がなくなっていく感じが良いですよね。

中島:やっぱり学びやスポーツ、音楽が好きな人は、遊びの延長線上にいるんですよね。やらなきゃいけないと思いながらやっている人は、大体途中で終わってしまう。でも遊びの感覚だと、上手くいかないこともいっぱいある中で、遊びの喜びを持っていられるから乗り越えていけるんです。

堂上:遊ぶ感覚を自分で作れる人と、作れない人がいるのはなぜでしょう。

齋藤:そうですよね。もし仮に自分で遊びの感覚を作れなくても、そういう時は、遊びの感覚を持っている人たちに巻き込まれたら良いのではと思います。たとえば、さち子さんのライブに遊びに行くとか、楽しそうにしている人のところへちょっびり勇気をだして巻き込まれに行くとか。そうすると遊びの感覚や喜びを見出していける気がします。それから多様性の楽しさを知る機会として海外留学に行くのはハードルが高いと思う人もいると思いますが、万博に行けば多様な人と出会うことができますよね。自分の心の声を聞き、色々な機会に巻き込まれてみてほしいです。

堂上:なるほど。みずほさんは巻き込み力が凄いですよね。どうやって周りを巻き込んでいかれてるのですか?

齋藤:難しく考えず、好奇心を持って楽しいと思うことを一緒にしたら、さらに楽しくなると思うんです。私は一人で楽しさを味わうのも好きなんですけれど、みんなと一緒にやったら3倍にも4倍にも楽しさが広がる気がしています。

中島:巻き込まれる機会も、多様だと良いと思います。ライブに来て楽しめる人もいれば、ライブは行きたくないという人もいる。万博が良い人もいれば、万博が嫌な人もいる。それで良いんだと思うんです。

ただ自分にも何か出来るかも、関われるかもと思えるような、創造的な機会があると良いですよね。それは別に楽器が出来るとかそういうことではなくて、もっと些細なことから探してみてはいかがでしょう。自分なりに何かを感じたり、創ったり出来る場所があると、自分が生きていると感じる根っこになる気がしています。

堂上:僕は家で料理するのが楽しくて、それも遊びの感覚なんです。今日は美味しく出来たなとか、この味は違うなとか。仕事も遊び場だと思って、自分の中で色々な遊び場を持っておくと良さそうですよね。

齋藤:私は先日さち子さんが開催された、デジタルファッションのイベントに参加してみたんです。自他ともに認めるくらいデジタルは苦手なので、最初は緊張していたのですが、やってみると楽しくて。デジタルがこうやって日常に関わっていくんだとか、自分でもファッションをデザインする疑似体験ができて、私も何かを創れるんだという実感に繋がりました。

中島:今は価値観が変容していく過渡期なので、戸惑ったり生きにくかったりすることもあると思います。でもなるべく敷居を低くした遊び場を増やしていきたいんです。

「ローフロア、ハイシーリング、ワイドウォー」という言葉があるのですが、「敷居は低く、天井は高く、壁は広い」。そういう遊び場を増やしていきたいですね。

キーワードは「揺らぎのある遊び」

堂上:大阪・関西万博のパビリオンコンセプトはクラゲだそうですが、さち子さんはクラゲがお好きなのですか?

中島:パビリオンを手がけている建築家の小堀哲夫さんは、私たちと一緒に「箱」ではなく「場」を作ろうとしてくれて、3年ほど前から毎週小堀さんの事務所で闇鍋会議をしてたんです。その場には数学者や音楽家、教育者、建築家など多様な人たちが集まって、「いのちを高める」というテーマについて話し合っていました。

「いのちが高まる」ってどんな時だっけ? 大阪・関西万博ってなんでやるんだっけ? とか。ある時には恋バナで盛り上がって、やっぱりいのちを高めるのは恋なんじゃないか、などいろんな意見を交わしました。そういう中で、いのちや創造性において重要なのは「遊び」だよね、という話になったんです。それも用途が決まっているアミューズメントパークとかというより、砂場とか缶蹴りのような……。

堂上:自分で遊びを作っていくような感じですね。

中島:はい。それを「揺らぎのある遊び」だと表現するようになって、建物も生きているよね、音楽のように言葉だけにならない得体の知れない原始的な何かが重要だよね、と話しているうちに、みんなの頭の中にクラゲのイメージが浮かびました。

堂上:ではもともとクラゲがお好きだったわけではないんですね! クラゲと縁が深いのかと思っていました(笑)。

中島:ここ数年、みんなで話しているうちに辿り着いたんです。

齋藤:揺らぎ、得体の知れないものというイメージを聞き、カチッと決まっていないからこそ、ふらっと入っていきやすいし、安心できそうな感じがしました。

堂上:良いですね。ウェルビーイングにも揺らぎはとても関係が深そうです。

中島:今、社会はどんどん変わっていっている面白い時期で、まさに揺らぎがあると思います。それ故のストレスもあると思うけれど、色々な遊び場で創造していくことで、未来のかけらが生まれていく。絶対に誰もが未来を作っていく部分を持っているんだと思います。

齋藤:私は未来の小さなかけらになるんだ、という思いを持つのって大切ですね。

堂上:未来は自分たちが作っていける、変えていけると思うと希望が持てますね。

中島:そう思える機会を作るために、多様な遊び場を作っていきたいです。今までの慣習的なものが、一旦ちょっとリセットできる時代だから、本当にやりたかったことがなんだったのかを問い直せるのではないでしょうか。

堂上:1個の遊び場だけだとそれに飽きたり、そこに来ている人たちと合わなくなったりすることもあるかもしれないから、いくつかの場を持っておくというのも大事なんでしょうね。日本人はみんな真面目だから、1個の遊び場でだんだん何か違うと思っても、続けてしまい苦しくなってしまうこともあります。やっぱりそこにも多様性が必要ですよね。

齋藤:若い方達にもそういう機会があったら良いですね。少し前は学校以外に地域社会での繋がりがあったけれど近年はそれが減っているので、別の場でそういう体験ができたら良いなと思います。

中島:地域という観点でいうと、「祭り」もすばらしい、開かれた郷土芸能ですね。生活の営みの中で、周りの山や森や田んぼや……いろんないのちとともに生まれた土地の文化で、昔は女性が入っていけないこともあったけれど、今はそういったことも減っています。音楽的にも面白いです。

堂上:祭りの時って何もかも忘れていて、童心に帰っている気がします。あれも遊び場のひとつですね。

中島:みんなで盆踊りをして共通体験をすると繋がっていく感じがしますよね。

堂上:最後に、お二人にとってウェルビーイングな瞬間を教えてください。

中島:ひとつは、17歳の娘との普通の日常ですね。何か特別なことをするというよりも、日常を一緒に過ごしている時にウェルビーイングを感じます。あとは音楽や旅。音楽のライブは、まさに今この瞬間の人と人との出会いが待っているんです。旅も、人との出会いが楽しいですね。人が好きなんだと思います。

堂上:Welluluでさまざまな方とお会いしていると、人が好きな方が多いなと思います。みずほさんはいかがですか?

齋藤:私も人との出会いが楽しみですし、人が好きです。ひとつひとつの出会いが私の人生に彩りを添えてきましたし、私はご縁というのをとても大切にしています。あとは自然の中にいるのが好きですね。家の近くに大きな公園があるので、毎日行くようにしているんです。太陽の温かさを感じたり、土の匂いを感じたりできる。そうすると、五感が開いていくような感覚がします。自分が抱えてる仕事がどんなに忙しくても、小さいことだなと思えるんです。自然と自分が一体化するような感覚に、ウェルビーイングを感じます。

堂上:森の声を聞いている時って良いですよね。僕もすごくウェルビーイングを感じます。今日は色々な観点からウェルビーイングを掘り下げられて楽しい時間でした。ありがとうございました。

[当記事に関する編集部日記はこちら]

中島さち子さんの大地との共鳴

 

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