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【宮田教授×蟹江教授】未来を担う子どもたちのために。サステナブルな社会の実現へと進み続ける

蟹江教授

2015年に国連総会で採択されてから8年が経ち、2030年の達成に向けて折り返し地点にある「SDGs(持続可能な開発目標)」。サステナブルな社会の実現は、私たちのウェルビーイングとも大きなつながりがある。

今回は、SDGsとウェルビーイングとの関わりについて、日本におけるSDGs研究の第一人者であり、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授の蟹江憲史教授とWelluluアドバイザーで慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章教授、Wellulu クリエイティブディレクター/コピーライターの井口雄大による対談をお届けする。

「ウェルビーイング」と「サステナビリティ」って、どうつながっているんだろう?

宮田教授×蟹江教授

井口:はじめに、蟹江教授のこれまでの活動内容を教えてください。

蟹江:私の研究室のメインテーマは「SDGs」です。地球環境問題やSDGsの実現における、国際制度や政策、「グローバル・ガバナンス」のあり方などを、総合的に研究しています。

井口:「SDGs」に関わり始めたのは、いつからだったのですか?

蟹江:国連におけるSDGs策定の構想段階からです。2012年にブラジルで開催された「国連持続可能な開発会議」(リオプラス20)の中で、MDGsに変わる「SDGs」という言葉を聞いたのが始まり。「SDGsがグローバル・ガバナンスを変えていくかもしれない」と感じました。

今は、2023年9月の国連総会で公表される「持続可能な開発に関するグローバル報告書(GSDR)」の執筆にも携わっています。

宮田:今回のテーマでもある「ウェルビーイング」と、「SDGs」や「サステナビリティ」というのは、どういったつながりと違いがあると思いますか?

蟹江:ウェルビーイングというのは、人にとって「良好な状態」ですよね。しかし、「良好な状態」を求めることが、必ずしも「サステナビリティ」と同じ方向を目指すことだとは限らないのではないでしょうか。例えば、「この服は着心地がいい」だから、ウェルビーイングになれる。でも、サステナブルな原材料を使っていないこともありえます。

宮田:たしかに、「ウェルビーイング」という言葉だけを抽出したときに、どうしても「つながり」の概念が薄くなってしまいます。本来、「ウェルビーイング」には「人とのつながり」が不可欠で、多くの人が「良い状態」になるために社会がどうなっていけばいいかという、「サステナビリティ」とも大きく関わっていく概念なのですが。

蟹江:ウェルビーイングは個人レベルでの目標で、サステナビリティは集団レベルの目標だというイメージが、いまだにあるのではないでしょうか。今はそのイメージの転換期なのかもしれませんね。

宮田:国際的に考えると、「ウェルビーイング」は経済的に豊かな人たちが使う言葉なんですよね。

ウェルビーイングのこれからの課題は、ウェルビーイングが目指すゴールと、サステナビリティ・SDGsが目指すゴールを、違いを意識しながら調和させていくことなのではないでしょうか。そうすることで、「ウェルビーイング」が世界的に説得力のある概念へと、次のステップに進んでいくと思っています。

サステナビリティにおいて日本が持つ「強み」とは

宮田教授×蟹江教授

井口:「SDGs」という言葉は日本での認知度がすでに8割を超え、9割近くまで上がってきました。世界的にも「SDGs」が浸透していく中で、お二人は社会の変化をどのように捉えてますか?

宮田:例えば、「服を着ること」に関しても、私たちは今まで、自分のファッション性や防寒性能で服を選んできました。しかし、デジタル技術の進歩などによって、その中身が見えるようになりました。「グローバルサウス」いわゆる途上国から搾取していたとか、環境に大きな負荷をかけていたとか、5割程度の廃棄を前提に大量生産されていたなど。「服を着ること」にも、「持続が可能なのか?」という概念が加わり、未来を見なければならないという潮流ができています。

蟹江: MDGs(ミレニアム開発目標)の時代は、大量生産・大量消費が基本にありました。しかし今、5年後・10年後を見据えたときに、このままでは絶対に続けていけない。ビジネスモデルが大きく変わってきているんです。

宮田:私はこの間、ドバイに行ったときに配車サービスを利用しましたが、着いた会場で「あなたはEVを選んで配車サービスを使っていますか?」と聞かれましたよ。

蟹江:EVに関しては議論も残るところですが、世界的には、よりグリーンなエネルギーを意識するようになっています。しかし、サステナビリティの課題はカーボンニュートラルだけではありません。例えば「食のサステナビリティ」にも、フードロスの問題がありますよね。

宮田:私も「食のサステナビリティ」については注目しています。欧米の肉食中心の食文化は環境への負荷が大きいと言われていますが、対して日本の米・野菜・大豆・魚を中心にした食文化は環境負荷が少ない。しかも日本食のクオリティの高さやコスト面の優秀さは、世界でも驚きをもって受け止められています。

ここをサステナビリティにおける日本の強みとして、押し出していく必要があると思っています。

蟹江:そこはむしろヨーロッパの巧みさがわかりますね。EVのルール作りなど、先に基準を打ち立ててしまうので。これからは、日本の強い分野で基準を作っていくことが求められます!

ハイブリッドカーも本来、バイオ燃料を活用して、ゼロエミッションであれば問題ないはずなんです。むしろリチウムイオン電池に用いるレアメタルを使わないので、より環境負荷が少ないはず。政府として新しい基準を作って、広めていくことが大切です。

“SDGs”は生活の質を脅かすものじゃない。むしろ新たな価値を生み出すチャンス

宮田教授×蟹江教授

井口:一方で、日本ではSDGsをネガティブに捉える風潮もありますね。生活の質を高め、ウェルビーイングに導くはずの「サステナビリティ」を、日本では逆に生活の質を脅かすものと感じる人が多い、というデータもあります。

宮田:EVの話にもつながりますが、日本の自動車産業が「SDGs」という言葉によって、攻め込まれているような印象もありますからね。海外ではサステナビリティが生活の基本であり、生活の質を高めると認識されているんですよね。

井口:サステナビリティをポジティブに考えるという発想が、日本にはまだ足りないのかもしれませんね。どちらかといえば”守り”に入ってしまっているような気もします。

蟹江:そうですね。日本の航空会社でも、ゼロエミッションに向けた取り組みが進み、環境問題に配慮したフライトを実現しています。もともと「人を乗せて空を飛ぶ乗り物」は、新たな出会いや交流を生み出すすごいものなんです。さらにCO2の排出を削減した飛行機は、まさに未来のモビリティであり、生活の質を高めるもの。もっとそのポジティブな価値を前面に押し出すべきではないですか?

宮田:今は、サステナビリティがクリエイティブなものではなく、「規制の義務」のようなマインドになってしまっている企業の人も多いと思います。

「そうじゃなくて、実はチャンスなんだ」と、新しいビジネス価値を生む方向に進んでいかなければなりませんね。

井口:「攻めのサステナビリティ」ですよね。

宮田:そう、そう。

蟹江:実は、私が今着ているジャンパーは、獣害対策として駆除されて、ジビエ肉として活用されたシカの皮を使って作られているんです。

井口:そうなんですね!その革ジャン、気になっていました。

蟹江:この1着を作ることで、獣害対策を行う自治体や猟友会、ジビエ肉の有効利用を推進する食肉加工所、革を加工する工場やメーカーなど、多くの人が連携でき、仕事も雇用も生まれています。これもまた、サステナブルなビジネスモデルだと思っています。

大阪・関西万博が「途上国がもっとも輝いた万博」になればいい

井口 雄大

井口:これからのサステナブルな社会、そしてウェルビーイングな社会の実現に向けて、大切なことはなんでしょうか?

蟹江:「Beyond GDP」の話がまた注目されつつあります。GDPは経済活動状況を表す指標ですが、経済だけでは世界は回らなくなり、新しい指標が必要になってきました。ウェルビーイングもその候補の1つです。社会の変革に向けて、どのような指標が選択されるのか。そこを注視する必要があります。

宮田:この10年間、世界は中国の経済成長に引っ張られて進んできた部分があります。しかし様々な側面から見ても、中国もこれから停滞期に入っていく。次にどこが伸びていくのかというと、やはり「グローバルサウス」です。今後はグローバルサウスとの関係が、大きなテーマになると思います。

しかし、先進国が先行して開発してきて、そのしわ寄せが「気候変動」という形で表れてきました。グローバルサウスが発展していくターンで、アクセルを踏み込むことができない状況になりつつあります。

蟹江:私はグローバルサウスも全開にアクセルを踏んで行っていいと思うんです。ただし、火力発電ではなくて、再生可能エネルギーを使って行うことにはなりますが。

宮田:2025年には大阪・関西万博が開かれます。SDGsにウェルビーイングという言葉で楽しさを加えながら、世界のバランスを共に考えていくような万博になれば、サステナブルな、そしてウェルビーイングな社会の実現に向けた道しるべになるのではないでしょうか。

蟹江:特にグローバルサウスのパビリオンが、一番面白くなる可能性がありますね!

宮田:その通りです!もちろん万博全体でSDGsを表現することは大事ですが、のちに「グローバルサウスが最も輝いた万博」と呼ばれるようなものができれば、開催の意味はとてつもなく大きいと感じます。

SDGsのその先を見据えて。子どもの存在がウェルビーイングにつながる

宮田教授×蟹江教授

井口:最近では、学校の教育にも「SDGs」や「ウェルビーイング」が取り入れられていますが、そのあり方について思うところはありますか?

蟹江:学校でのSDGs教育は、真面目過ぎて面白くないものになってしまっていると感じますね。

宮田:日本の教育の課題ですよね。学ぶことが”罰”になってしまうという。

井口:九九を覚えるように、SDGsを覚えている、ってことですね。

蟹江:例えば、SDGsの項目や意味を覚えようとか、そういった教育はつまらない。もっとクリエイティブで、楽しい授業カリキュラムが絶対に必要だと思います。

宮田:SDGsを1つの種にして、「イベントの中で子どもたちがSDGsを考える」くらいの教え方がいいと思います。SDGsはあくまでも通過点。SDGsの先を生きる子どもたちは、SDGsをベースに何か新しいこと、楽しいことを考えていって欲しいですね。

井口:最後に、蟹江先生にとってのウェルビーイングな瞬間とは?

蟹江:一番ウェルビーイングを感じるのは、やはり子どもと遊んでいるときですね。上が12歳、下が4歳で、本当に一緒にいるだけでも楽しいです。下の子は最近自転車に乗り始めて、はじめは転ばないように走って追いかけていましたが、どんどんとスピードが上がっていって、もう追いつけないんです(笑)。そういった子どもの成長に、ウェルビーイングを感じる毎日です。

宮田:子どもたちの目線を通して、世界をもう一度体験できるというのもあるんでしょうね。子どもと一緒だと、はじめて行った公園でさえも光輝いて見えるような。

蟹江:何をしだすか、何が出てくるのかがわからない。その行動1つ1つがウェルビーイングを感じる瞬間になっています。子どもとの関係は、それこそずっと持続していくもの。もっとも大きな「人とのつながり」なのかもしれないですね。

撮影場所:UNIVERSITY of CREATIVITY

蟹江 憲史さん

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授

専門は国際関係論、サステナビリティ学など。日本におけるSDGs研究の第一人者として、多くのSDGs関連の政府委員に選ばれている。大学院では、地球温暖化や気候変動の問題を中心に、地球環境ガバナンスの課題などを研究する。

宮田 裕章さん

慶應義塾大学医学部教授。Wellulu アドバイザー

2003年東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士
2025日本国際博覧会テーマ事業プロデューサー
Co-Innovation University 学長候補
専門はデータサイエンス、科学方法論、Value Co-Creation
データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。
医学領域以外も含む様々な実践に取り組むと同時に、世界経済フォーラムなどの様々なステークホルダーと連携して、新しい社会ビジョンを描く。宮田が共創する社会ビジョンの 1 つは、いのちを響き合わせて多様な社会を創り、その世界を共に体験する中で一人ひとりが輝くという“共鳴する社会”である。

井口 雄大さん

Wellulu クリエイティブディレクター、コピーライター

SDGs17ゴールズの日本語版開発をはじめ、クリエイティブ発のサステナビリティ関連業務や新規事業開発に数多く関わる。Welluluではコンセプト、ネーミング開発から参画。

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