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【高山かおる氏】足の寿命は50年⁉ 皮膚科医が掲げる「足育学」。爪は体の健康にどう繋がっている?

足の爪の健康について、気をつけている人はどのくらいいるだろうか。深爪や巻き爪など、爪のトラブルは日常的に多いものの、日常生活に支障がないからと放置している人も多いのでは?

しかしその結果、高齢者は足の爪が切れず、歩くことが困難になってしまうこともあるのだそう。足は私たちの健康と、ウェルビーイングと、どのような繋がりがあるのだろうか。

皮膚科医であり、足育研究会の代表である高山かおるさんに、Wellulu編集部プロデューサーの堂上研が話を伺った。

 

高山 かおるさん

皮膚科専門医、済生会川口総合病院皮膚科部長/東京医科歯科大学附属病院臨床准教授

済生会川口総合病院にて足の問題を根本から解決するための装具外来、メディカルフットケアを併設するフットケア外来を開設している。健康な足を保つ重要性について著書や講演、マスコミを通して啓発をおこなってきたが、活動を広げる目的で一般社団法人足育研究会を設立。
著書に『ガサガサかかとが危ない1足の手入れが健康寿命をのばす』(家の光社)、『巻き爪、陥入爪、外反母趾 特効セルフケア』(マキノ出版)がある。

堂上 研さん

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

高齢者はなぜ足の爪が切りにくいのか?

堂上:本日はよろしくお願いいたします! 早速ですが、高山先生はなぜ足育研究会を立ち上げられたのでしょうか。

高山:皮膚科の専門医として、皮膚科の一般診療をずっとやっていたのですが、2002年ごろに、先輩から高齢者は足の爪のトラブルが多く、爪が切りにくくて困っているというデータがあると聞きました。そこから「フットケア」という分野があることを知ったことをきっかけに、2007年から足と爪の外来を開くようになったんです。

『足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア』(全日本病院出版会/2019年)

高山:さまざまな患者さんを見るうちに、足のことは皮膚科医だけではなく、看護師から靴屋まで、さまざまな多業種他職種の方々と連携していく必要があると感じ、一般社団法人として足育研究会を設立しました。

堂上:高齢者の方は、なぜ爪が切りにくくなるのでしょうか。

高山:日本人に水虫の方って、どのくらいいると思いますか?

堂上:わぁ、どのくらいでしょう……。分からないですが、3人に1人とか?

高山:実は6人に1人は、何らかの水虫があるといわれています。水虫が爪に入ると「爪水虫」といわれるのですが、爪水虫は13人に1人。65歳以上の高齢者になると、この割合が40%以上にもなります。

堂上:そんなにたくさんいるのですね。痒みなど、自分で気づける症状はあるのでしょうか?

高山:痒みがないので、みんな放置してしまいます。そうすると段々爪が厚くなって、切れなくなってしまうんです。

堂上:厚いから切れないということなんですね⁉ 腰が曲がらないから切りにくいとか、そういったことかと思っていました。

高山:もちろんそういった要因もありますし、目が悪くなって見えにくくなるというのも理由のひとつに挙げられますね。

堂上:爪水虫になったとしても、痒みや痛みなどの症状はないのですよね。

高山:そうなんです。症状としてはないのですが、やはり爪が切れないというのはさまざまな悩みに繋がります。歩く時には爪にまで体重がかかるので、爪が健康でないと上手く指を使えず、踏ん張れないことで転倒リスクも高くなります。また糖尿病や壊疽(えそ)など足の病気にもなりやすいんです。

堂上:なるほど。爪が長いと靴が合わなくて、出かけなくなってしまうということもありそうですね。

高山:そうなんです! 出かけなくなることで、認知症の恐れも出てきてしまいます。

堂上:僕もちょうど先日、坐骨神経痛だと診断されたり、扁平足でペタペタ歩いてしまっていたりと、歩き方や体に対する危機感があります。高校・大学とサッカーをしていた時に、怪我をして靭帯を切ってからは足首を使えていなくて、足首が硬くなっているんです。

高山:足首が硬いのは危険ですね。地面に対して足が着いた時、その上の足首から上の部分を動かして歩行するのが理想です。足首を動かさずに歩くのは、かなり足や膝に無理をさせている状態です。

堂上:僕は完全に足首を使えていないですね。坐骨神経痛と診断された時に、どこに重心をかけて歩いているか聞かれたのですが、僕は外側に体重がかかっていて、指が使えていないと分かりました。

高山:ちゃんと指先にもしっかり体重をのせて、足首を柔らかく使って体重移動するのが歩行の基本です。特に女性はヒールやブーツなどを履いていると、指を自由に使うことが難しいんですね。もちろん履く時があっても良いのですが、いつもヒールを履くのではなく、TPOに合わせて、横アーチを締めて、指を自由に動かせる靴を履ける時には、そういった靴を履くことをおすすめします。

子どもの足の骨のために、親ができること

堂上:子どもがいる親としては、足についてどのようなことに気をつけたら良いでしょうか。

高山:子どもの足の骨って、赤ちゃんの時は軟骨なんですね。お肉の中に骨が浮いているような状態なので立てなくて、段々と骨が育ってくるのですが、完全に揃うのは13歳くらい。

堂上:えっ! ということは、小学生の時は軟骨の部分もあるんですね?

高山:そうです。だから成長段階なのですが、現代の子どもたちは運動不足で、色々なところを登ったり、アスファルトではない地面のガタボコ道や、野原を駆け回ったりする機会がとても少ない。そういったところで足の指を使うと自然と発達していくのですが、今の子はそういった運動がどうしても不足しているんです。

堂上:確かにうちの子どもたちも、裸足で野原を駆け回った経験は少ないです。あと小学校5年生の息子は、半年に一回くらい上履きが小さくなったから新しいのを買ってくれ、と言ってきます。すぐに足が大きくなるし、少し大きめのものを買おうかと思ってしまうのですが、これも良くないですよね?

高山:良くないですね! そもそも、小学校で現在よく履かれているような、バレーシューズ型の上履きも、子どもの足には良くありません。足の甲をしっかり押さえてくれないので、足が靴の中で動いて、指が使いづらく、小指が靴の形に合わせて曲がってしまいます。本来はかかとをしっかり支えて、留め具があって甲を固定し、足の指が自由に使えるような、先端に緩みのある靴が望ましいです。現代の子はそもそもかかとも細くて、それはジャンプなどでかかとを打ち付けて刺激する機会が少ないからといわれています。

堂上:ジャンプをしてかかとを打ち付けるのが大切だとは知りませんでした!

高山:足は体の土台を作ります。レオナルド・ダ・ヴィンチは、「足は人間工学上の最高傑作である」と言っていたほどよくできています。小学生のうちに、丈夫な足の骨や筋肉・腱を育てるというのは、非常に重要なんですよ。

堂上:子どもが運動不足ということですが、たとえばサッカーをした時にかかとに痛みがあるシーバー病(※)になることもありますよね。

※成長期の子供や青少年に発生するかかとの痛みの一種。正式には「踵骨骨端症(しょうこつこったんしょう)」。

高山:それはひとつの運動をし過ぎていることが原因です。できればサッカーだけでなく、空手や水泳など、さまざまな骨や筋肉を鍛える運動をしたほうが良いんです。

堂上:なるほど。あと足の問題でいうと、子どものサッカーシューズって、どんどん臭くなっていってしまうんです。洗い足りないのだと思って子どもによく洗うように言うのですが、あれって何なのでしょう。

高山:垢や雑菌が汗によって分解されて、匂いを出しているのですね。それが皮膚の角層に付着するので、その状態で靴を履くとより匂いが増してしまうんです。そうなってしまったら抗菌薬を塗って、靴の中を殺菌するのがおすすめです。また同じ靴を履き続けるのではなく時々履き替えたり、中敷きだけでも変えたりしてあげると良いですよ。

堂上:中敷きを変えるだけなら安いですし、実践しやすいですね。他に気をつけることはありますか?

高山:日本人は家屋で靴を脱ぎ履きする影響から、靴紐を結び直さない傾向にあります。靴紐は毎回解いて結ぶ、というのを習慣づけるようにしてください。

堂上:毎回足に合わせて結び直したほうが良いのですか。それはなぜでしょう? 僕の息子はサッカーの試合中に解けるのが嫌みたいで、ガチガチに結んでそのまま脱ぎ履きしてしまっています。

高山:そういう子が多いのですが、足の甲をしっかり固定しなければ足の指が上手く動きません。たとえばテニスの錦織圭選手が、試合中もセットが終わるたびに靴紐を結び直しているのも、足をしっかり固定するためだと思うのです。

堂上:錦織選手がセットのたびに直すなどしているように、日常生活の中でもルーティンを作って習慣づけたいですね。子どもの爪の切り方にもポイントはありますか?

高山:「スクエアオフ」というのですが、指の長さに合わせて四角く切るのが重要です。体重移動をする時に、爪先まで体重がかかっている必要があるのですが、短く切ってしまうと体重がかからなくなってしまうのです。

堂上:子どもが爪切りを面倒くさがるので、つい短めに切りがちなんですよね……。割れないようにという思いもあって。

高山:最後にヤスリをかければ割れることはないので試してみてください。

堂上:子どもの成長のためにも、足育についてはもっと親が学ぶべきだと感じますね。

高山:学校教育としても、足育をもっと広めたいと思います。学校の身体測定では、身長と体重は測るのに、足のサイズは測りませんよね。だから、自分の足の正しいサイズを知らない人が多いんです。〇〇センチの靴が入るから、自分は〇〇センチだと思い込んでいるというケースが多く見られます。今は3Dで足のサイズや重心のかかり方など、詳しく知ることができます。もっと積極的に知ってもらいたいですね。

堂上:学校の授業でも、総合学習の中で1時間、足育をやるだけでも知識や意識の持ち方が変わりそうです。

高山:実はそういった取り組みもないわけではなくて、日本学校体育研究連合会では足育指導用の資料(※)を作成しており、無料でダウンロードすることができます。ぜひ活用が広がってほしいです!

※足育指導用の資料はこちらから

足の指を意識すると、自然と姿勢が良くなる?

堂上:今度は、僕たち40〜50代が気をつけるべきことについても教えてください。坐骨神経痛になった僕のように、生活習慣病が見つかることが多い年代かと思います。

高山:足首の硬い方や扁平足の方は「ニーイントゥーアウト」といって、膝が内側に入って、つま先が外を向くので、母趾の爪が内側から押されて、爪がホチキスの芯のように巻かれてきてしまいます。そういう方の歩き方としては、腰を振ったモデルウォークのような姿勢で一見良さそうに見えるのですが、揺れが多すぎて腰を痛める原因になってしまうんです。腰痛の一種、いわゆる「すべり症」になりやすくなるともいわれています。

堂上:爪が巻いているということから、腰の痛みまで繋がっていくのですね……!

高山:そうです。だからこそ、爪が巻いていたり、たこができていたりした時に、早く意識できていれば、腰痛になる前に気づけると思うんです。

堂上:爪が最初のサインになっているのですね。立ち仕事の人は足がむくみやすいとよく聞きますが、それも関係あるのでしょうか。

高山:水分不足や、筋肉の弱さもありますが、足の指を使えてないというのは大きいです。

堂上:立っている時も、足の指が重要なんですね。

高山:意識してもらえると良いのは、電車の中で揺られている時に、足の指で立つと、グラグラを止めることができるんです。また座っている時も、5本の指を地面にしっかり着けていると、両膝の位置が合うのが分かると思います。そうすると、自然と足を開いたり、姿勢が悪くなったりというのを防げますよ。

堂上:本当ですね……! 僕はよく足を組んだり、開いたりしてしまうのですが、指を地面に着けるイメージをすると足を組もうと思わないです。面白い!

高山:指を使っていると、腹筋に力が入るのも分かると思います。

堂上:確かに自然と入ります! 足の指を使うと、骨盤も自然に立つし、腹筋にも力が入る。体の全てに繋がっていくのが身をもって実感できました。

終活から考える「足育」。足の寿命は50年⁉

堂上:冒頭のお話にもあった爪が切れない高齢者は、どのように足育に取り組んでいくべきでしょうか。

高山:私は、日本人には終活が足りないと思います。自分がどういう最期を迎えたいか、イメージできておらず、死がタブーとして扱われている。「どういう人生を送るか」をもっと考えるべきだと思うんです。私は健康に、なるべく介護を受けずに、人生を全うしたいと思っています。そういう意識でいると、自分の体をケアしようと思うし、もし痛みが出ても歩けるようになるためのリハビリをしようとしますよね。

堂上:どう生きたいかを考えて、歩き続けたいと思うのであれば、そのための訓練をすれば良いということですね。

高山:日本は充実した介護保険と医療があることで、将来の歩行を脅かす状態が自分に待っているとは思っていない、という点もあると思います。関節の痛みが出たら病院に行けば良い、病院がなんとかしてくれると思ってしまったり。でも病院でできることは意外と少なくて、治ってもそこからどうリハビリするか、どうケアするかが重要なんです。今後、少子高齢化が進めば、今よりも介護を受けにくくなるでしょう。自分の足で歩き続けるための予防を“やり続けよう”という意識を持つべきではないでしょうか。

堂上:おっしゃる通りですね。確かに、僕も坐骨神経痛は、病院に言われた通りに湿布を貼っていれば自然に治ると思っていましたが、自分自身でもケアする必要がありますよね。

高山:お世話をしてくれる家族がいると甘えてしまうという傾向もあって、1人暮らしの高齢者のほうが、ADL(Activities of Daily Living)といわれる日常生活動作の指数が高いというデータもあります。私は往診で、90歳くらいの農家の方々と会う機会が多いのですが、みなさん常に動き回っているのでとても元気ですよ!

堂上:痛いからといって家にこもらずに、動いていかないといけないですね。

高山:膝が痛い人は、痛い人用の動かし方があるんです。痛くならずに動かす方法があるので、それを学んでいただきたいですね。足育研究会では歩行教室も開催しているので、正しい歩き方、足の使い方を知っていただけます。

堂上:僕たちはもっともっと、足について知るべきですね……。

高山:足の寿命は、50年ともいわれているのをご存知ですか? かつては平均寿命が60歳くらいでしたが、人生100年時代といわれている近年、体の土台である足には限界が来ています。一歩歩くのに体重の約1.2倍、走ると約2倍、ジャンプすると4倍もの負担がかかるんです。足は小さな運動器ですから、もっと大切にしていただきたいです。

堂上:今日はとても勉強になりました。最後の質問になりますが、高山さんご自身は、どのような時にウェルビーイングを感じられますか?

高山:こうやって足育についてたくさんの方に知っていただくというのは、とてもウェルビーイングですね。足育研究会では、さまざまな職種の方々と足の健康について広めていくことができるので、それもやりがいを感じます! あとは、家族と一緒に楽しく食事をしている時ですね。

堂上:今日の取材で足学について知る人が増えてくれることで、高山さんのウェルビーイングにも繋がっていれば嬉しいです! 本日はお時間を作っていただき、ありがとうございました。

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