感情を出したら、人生がうまくいく。平本あきお著「感情は全部出し切ったほうがいい」

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

感情って出した方が本当にいいの?

平本あきおさんとの出会いは、僕自身がウェルビーイングを追いかけるなかで、ある講演をご相談させていただいたことがきっかけだった。そして、お仕事もご一緒させていただいたり、素敵なご縁をいただいている。その中で、今回、平本あきおさんが新書『感情は全部出し切ったほうがいい つい、自分の気持ちを我慢しすぎてしまう人のためのメンタルスキル』(日本実業出版社)を出版されて、早速読ませていただきました。

そのご縁から、平本さんに3時間、直接コーチングをしていただく機会があった。あれから何年も経つが、あの3時間のことは、今もはっきり覚えている。先日読んだ平本さんの著書『感情は全部出し切ったほうがいい』を手に取りながら、僕は自分の中にある三つの分岐点を、あらためて思い出していた。そして、あとから、いらない感情を出して後悔することももちろんあるが、感情を出したその先にどう対応するのかが大事である。しかも、その場の感情を客観的に捉えることが大事なんだろう。

僕が、感情を出した三つのエピソードを思い出したので、ここで綴っておきたい。

紙に書いた矢印の先に、育休を断念した僕がいた

感情を出すタイミングは人それぞれだが、僕は比較的、自分の感情を素直に出しているほうだと思う。ただ、昔に比べると、感情を出す必要そのものが減っているような気もする。今も忘れられないのは、15年前、長男が生まれたときのことだ。

当時、僕はまだクライアントの広告営業をしていて、充実した仕事生活を送っていた。そんなときに、ふたりめの子どもが生まれた。長女のときも育休というものに興味を持っていたが、今回は本気で育休を1年取りたいと思った。それは、少し「今の仕事から離れたい」という気持ちももちろんあったのかもしれない。

僕は、育休を取りたいと人事に相談し、上長にも相談した。だが、同じ部門で何人かが病欠している状態が続き、人手が足りず、業務も逼迫していた。人事からも、過去に男性で育休を取った人は1カ月程度が1人いるだけで、1年の育休の事例はないと言われた。当時は、男性の育休がまだなかなか受け入れられる体制ではなかった。

そのとき、僕は「今、僕は何が大切なのか」を考え、その感情を思いっきり出すために、紙に書いてみた。今の自分から矢印を伸ばし、どの選択をすると、どんな未来が待っているかを書き出したのだ。「1年間育休をとる」→「子どもと向き合う時間をつくれる」→「会社のチームに迷惑をかける」→「1年後、会社に僕の居場所はなくなる」→「この会社で出世の道もなくなる」→「好きな仕事をするための権限、判断ができなくなる」→「仕事が嫌いになる」→「新しい道を探る」→「転職する」→「子どもといる時間をつくることが、さらに難しくなる」……。僕は、どうすれば「子どもと時間を一番過ごせるか?」冷静に考えた。分岐点は、どんどん枝分かれしていった。

何かと何かを比べることをナンセンスだと思っていたはずなのに、あのときは違った。正直に言えば、「いろいろと選択するのが怖かった」というのが本当のところだと思う。頭の中だけでぐるぐる考えていても、怖さは形を持たない。でも、紙に書き出して、矢印でつないでいくうちに、その怖さが少しずつ輪郭を持ち始めた。

結論として、僕は育休を断念し、仕事を辞めることも視野に入れて「起業する」ことに動き出した。あれは、自分の感情を出し切るための、僕なりの技術だったのだと、今ならわかる。感情を我慢して飲み込むのではなく、紙という「一人の場」に全部吐き出したからこそ、僕は自分で選択を決めることができたのだと思う。

椅子の位置が教えてくれた、「事業開発ごっこ」からの出口

平本さんのコーチングは、言葉だけでなく「椅子」を使う。椅子の位置、椅子の向き、椅子と椅子の距離。それだけで、今のチームがどんな状態にあるのか、何に不満を感じ、何に共感しているのか、そして最終的に自分自身がどうありたいのかが、驚くほど視覚的に浮かび上がってくる。

当時の僕は、博報堂の新規事業開発部門でマネジメントをしていた。ところが、なかなか事業が生まれにくい構造になっていた。理由はいろいろあるが、僕の中でモヤモヤがたまっていた。そして、あるタイミングで役員から言われた「事業開発ごっこ」という言葉が頭から離れないくらい、このままではダメだと、ずっとどこかで悩んでいた時期だった。感情としては焦りに近いものだったと思うが、それをどう客観的に捉えるかというのは持ち合わせていなかった。

そこで、平本さんが、ひとつひとつ僕の内面に入ってくる問いを立ててくる。それと同時に、椅子の配置という視覚的な情報が、僕自身の状況をそのまま映し出してくれた。平本さんとの問いを通して、「今、僕はどうありたいのか」「僕はどう行動すべきか」という自分への問いに、未来への光が見えたような気がした。そこから、「自分が起業家になる」という一歩を踏み出すきっかけが生まれた。それが、株式会社ECOTONEである。もちろん、いろいろな方のご縁とタイミングが重なって、僕は一歩を踏み出せたのだが、ここで平本さんからの問いを通して、自分の感情を出し、自分を客観的に冷静に観察することができたのが大きい。

いま振り返ると、あれは感情を頭で分析するのではなく、身体や空間で「見える化」して出し切る、まさに一つの技術だったのだと思う。もやもやとした焦りは、言葉にする前に、まず形にしてみることで、初めて自分でも扱えるものに変わるのかもしれない。

名前で勝負する人を見て、自分の肩書へのこだわりに気づいた

三つめは、自分が主語になるか、会社が主語になるかを見つめ直したときの話だ。社会人になって、経営者になって、自己紹介のたびに「〇〇会社の〇〇です」という定型文に、何かうっすらとした違和感を覚えていた。それが、肩書や会社というステータスに自分が縛られているせいだと気づいたのは、本当に40代後半になってからだった。

Welluluでは、いろいろな経営者や専門家との対談をさせていただいている。あるとき、小国士郎さんと対談した際に、「肩書ってなんなんですかね」という話になった。元NHKのプロデューサーという素晴らしい経歴を持つ小国さんは、自己紹介で「名前で勝負する」人だった。肩書にとらわれない、というその姿勢に触れて、僕は自分がいかに肩書にこだわっていたかに気づかされた。Welluluで300名以上と対談させていただいたが、小国さんが唯一プロフィール欄に「肩書なし」と書いた人物である。これは、いまだに小国さんだけだ。

そこで、僕は自分に問いかけた。「僕は、このまま博報堂で肩書が欲しいのか」「僕は、どんな人間になりたいのか」「どんな社会を創りたいのか」「何をしているときが、一番ウェルビーイングか」。好きなことを仕事にしている状態があるなら、それでいい。だから、自分が「やりたい仕事」をつくる環境を、自分でつくろうと思えた。まわりでよく聞く「なんであの人は評価されて、自分は評価されないんだ」という愚痴の時間が、急にとても無駄なものに感じられた。

いろいろな考えがあるだろう。Welluluの経営者との対談は、「過去の自分、今の自分、未来の自分をタイムマシンでいっしょに旅をさせていただいてる感じでお話を聴かせてください。」と伝えることが多い。これは、その人の生き方や感情を表に出してもらうきっかけをつくり、その人がWelluluの対談が面白かった、自分を見つめ直すきっかけになった、と思ってもらおうと思っている。編集長方針として、「ウェルビーイングな自分はどこにいるのか、何を目指しているのか?」自分で気づいてもらいたいのである。

アドラー心理学が教えてくれる、この三つの共通点

平本さんは、アメリカのアドラー心理学専門大学院で学んだ経歴を持つ。そのアドラー心理学は、人の悩みや感情を「原因」からではなく「目的」から見つめる。振り返ると、僕の三つの人生の分岐点は、どれも「感情を我慢して消す」のではなく、「感情を見える形にして、その奥にある目的に気づく」ことで前に進んできた。椅子の配置も、紙の矢印も、Welluluでの対話も、僕にとっては同じ一つの技術だったのだと思う。感情は頭の中だけで処理しきれるものではなく、視覚化したり、言葉にしたりして、初めて自分の目的が見えてくる。

平本さんの本では、感情を出し切ることと、誰かにぶつけることはまったく別物だと語られている。僕の三つのエピソードも、誰かを責めるためではなく、自分の中の感情をきちんと形にして受け止めるための時間だった。感情的になることと、人間的に感情と付き合うことは、似ているようで、まったく違うのだと思う。

感情を出し切った先に、自分の人生を選び直す

感情を出し切ることは、特別な技術のように聞こえるかもしれないが、椅子でも、紙でも、対話でもいい。自分の感情に、まず一つの形を与えてあげること。それだけで、「今、僕はどうありたいのか」という問いに、少しずつ答えが見えてくるのだと思う。アドラー心理学が大切にする「自分の人生は自分で選べる」という感覚も、感情を我慢して押し殺したままでは、なかなか手に入らないものなのかもしれない。

僕らECOTONE社が目指す「ウェルビーイング共創社会」ということも、まずは自分自身の感情と正直に向き合い、自分がどうありたいかを見つけるところから始まるのだと思う。人生を自分が選んだほうを正解にしていくためには、感情を出し切ってからこそ、自分で運を運んでくるプロセスなのだろう。これからも、迷ったときは、頭の中だけで考え込まず、何か形にして、自分の感情と向き合う時間を大事にしていきたい。

平本さん、素敵な本ありがとうございました。

堂上 研 株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

株式会社ECOTONE代表取締役社長
ウェルビーイングメディアWellulu編集長
情報経営イノベーション専門職(iU)大学教授
日本イノベーション協会 理事
私生活では、3人の子供の父。趣味は、スポーツとアート。

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