日本の乳業・食品業界をリードし続け、2027年に創業110周年を迎える森永乳業株式会社。赤ちゃんの健やかな成長を支える育児用ミルクから、日々の食卓を彩るヨーグルトやアイス、そして生涯の健康に寄り添う機能性食品まで、あらゆるライフステージに豊かな「食」を届け続けている。
同社は、2023年に「ウェルビーイングステートメント」を策定。働く「私たち(社員)」のウェルビーイングが、「人びと(生活者)」のウェルビーイングへと伝播していく――そんなポジティブな好循環を目指し、社内外に確かな変化の波を広げている。
今回は、Wellulu副編集長の左達也が、森永乳業の取締役 常務執行役員を務める久野浩子さんと対談。激動の時代を「直感」と「飛び込む力」で切り拓いてきた久野さんのキャリアの軌跡から、ステートメント誕生の舞台裏、そして次世代の子どもたちへ手渡したい「希望に満ちた未来」のあり方まで、等身大の言葉で深く語り合った。

久野 浩子さん
森永乳業株式会社 取締役 常務執行役員 コーポレート戦略本部長

左 達也
株式会社ECOTONE/Wellulu 副編集長
福岡市生まれ。九州大学経済学部卒業後、株式会社博報堂に入社。デジタル・データ専門ユニットで、全社のデジタル・データシフトを推進後、博報堂生活総合研究所では生活者発想を広く社会に役立てる教育プログラム開発に従事。ミライの事業室では、スタートアップと協業・連携を推進するHakuhodo Alliance OneやWell-beingテーマでのビジネスを推進。「Wellulu」立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。毎朝の筋トレとランニングで体脂肪率8〜10%の維持が自身のウェルビーイングの素。
「直感」を信じて、未知へ飛び込む。前例なき時代を切り拓いてきた挑戦の足跡

左:本日は森永乳業株式会社の久野さんにお話を伺います。まずは久野さんのパーソナルな歩みから紐解いていきたいのですが、幼少期に夢中になっていたことから教えていただけますか?
久野:小学生の頃は、とにかく音楽が大好きでしたね。音楽部に入ったのですが、先生に「もっと楽器が上手になりたいです」と伝えたら、放課後の音楽室でリコーダーのレッスンをしてくださったり、木琴などいろいろな楽器に触れさせてくれたりしたんです。
左:素敵な先生との出会いがあったのですね。そこから音楽の道を歩まれていったのですか?
久野:それが、中学校では吹奏楽部に入りたかったのですが、楽器を購入する必要があったことがハードルとなってしまって……。結局、全く関係のないバドミントン部に入りました。そして高校生になると、かつての悔しさもすっかり忘れて、先輩の袴姿が「かっこいい!」という理由だけで弓道部に入部したんです(笑)。
左:吹奏楽からバドミントン、そして弓道へ。軽やかで面白い変遷ですね!
久野:大学に入ると、今度はミュージカルをやっている先輩たちの姿に憧れて、裏方として飛び込みました。
もともと私は、決して目立つタイプでも、友人がものすごく多いタイプでもなかったんです。でも振り返ってみると、「あ、これ面白そう」「かっこいいな」と直感したことに対して、すっと足を踏み入れることへの抵抗感は、当時からあまりありませんでした。

左:久野さんのこれまでのキャリアを拝見すると、さまざまな業界を経験され、森永乳業に入社されてからも多彩な領域で手腕を発揮されています。その挑戦に満ちたキャリアの出発点はどのようなものだったのでしょうか。
久野:私の社会人のスタートは、全く別業種の素材メーカーでした。私が大学を卒業した1985年は、ちょうど「男女雇用機会均等法」が制定(※1986年施行)される直前の、まさにボーダーラインの世代です。
左:日本の女性の働き方が、ガラリと変わる歴史的な転換期ですね。当時は、久野さんのキャリアのロールモデルとなるような「企業で活躍する女性」は、身近にいらっしゃったのですか?
久野:企業の中でバリバリ働く女性は、身近には一人もいませんでした。当時は、女性が自立して仕事を続けていくには「手に職をつけること」が手堅い選択肢という時代。看護師や教員以外のキャリアは、選択肢として思い浮かびもしませんでした。
ですから、まさか自分が企業の中でビジネスを動かす側になるとは、当時は想像すらしていませんでした。
左:最初の素材メーカーでは、どのようなお仕事を経験されたのですか。
久野:海外事業部の貿易部隊で、営業アシスタントを3年間務めました。出荷の管理や生産調整、受発注などの内勤業務をこなす、いわば営業担当者の「裏方」です。そこから一転して、証券会社の企業調査チーム(アナリスト)へ転職しました。
左:証券会社のアナリストへの転身は、かなりの方向転換ですよね。
久野:本当にたまたま、私が社会人3年目を迎えた頃が「証券バブル」の絶頂期だったんです。当時の証券業界は中途入社の方も増えていて、特に調査部門では「金融一筋の人にはない、メーカーでの実務経験や事業の仕組みがわかる視点」を求めていました。
そんな折に知人から紹介を受け、そのときも深い計算があったわけではなく、「なんだか面白そう!」という直感だけで、未知の領域へ飛び込んでいきました。
その後は、外資系証券会社や、国内医薬品メーカーでのIR(投資家向け広報)を経て、2016年に森永乳業からお声がけいただき、IRの強化を担当することになりました。
左:その「面白そう!」という直感を信じる感性と、実際に一歩を踏み出す「飛び込む力」こそが、久野さんのキャリアを形作ってきた最大の強みですね。
久野:当時は、女性が企業でキャリアを築く前例がほとんどない時代でしたから、先が見えないからこそ、「だったら、新しいことにどんどん挑戦するしかないじゃない」という、良い意味での“開き直り”が私を突き動かしていたのだと思います。
左:ウェルビーイングの要素を分解すると、人が「挑戦し続けている状態」にあるとき、幸福度が高まるというデータもあります。久野さんの歩みは、まさにその幸福な挑戦の連続そのものですね。
「かがやく“笑顔”」を循環させる。感謝の矢印が巡る組織づくり

左:ここからは、森永乳業が2023年3月に策定した「ウェルビーイングステートメント」についてお伺いします。この確固たる指針は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
久野:2017年の創業100周年を機に、経営理念体系を刷新したことが大きな土台にあります。
それまでの森永乳業は、どちらかというと「おいしさ」を前面に出す会社でした。しかし、私が入社した2016〜2017年頃から「シールド乳酸菌®」をはじめとする健康をサポートする食品への注目が社会的に高まり、中期経営計画でもメッセージの軸が「おいしさ」から「健康」へとシフトしていったんです。
ただ、私たちは食品メーカーです。「体に良くても、おいしくないものを食べるのは違う」という強い思いが、社内には脈々と受け継がれていました。健康、おいしさ、そして食の楽しさ――これらをすべて包括して語れるコンセプトはないだろうかと、当時、広報や経営企画のメンバーとともに頭を悩ませていました。

左:「健康か、おいしさか」という二者択一ではない、双方を包み込む新しい概念が必要だったのですね。
久野:そんなとき、ある社員から「ウェルビーイングという包括的な概念に向き合ってみてはどうか」という提案がありました。当時はまだ社内でも馴染みの薄い言葉でしたが、私にはピンとくるものがあったのです。
実は友人に誘われて、米国企業でのマインドフルネスの動向に関するセミナーに参加したことがありました。現在、武蔵野大学ウェルビーイング学部長・前野隆司先生も登壇されていて、そのお話を伺ったのですが、そのセミナーでの話とメンバーの提案がここでふとつながりました。「これは森永乳業にとって、すごく面白い試みになるかもしれない」と感じたんです。
左:個人のアンテナが、会社の未来を動かす種になったのですね。そこから各部署との共同プロジェクトが始動したわけですが、現場の反応はいかがでしたか?
久野:生産や営業などの各部門からこれからの時代を担う若い世代のメンバーを推薦してもらい、半年がかりで対話を重ねていきました。
プロジェクトを通じて改めて気づかされたのは、森永乳業の社員は本当に自社の商品やブランドに対する「愛」が深いということです。「私たちはこんなにいいものを作っているんだから、もっと世の中に届けていきたい」という熱量があちこちで溢れていました。
左:ステートメントを拝見すると、「社員自身がウェルビーイングでなければ、お客様にウェルビーイングを届けられない」という、双方向の強いメッセージが込められていますね。
久野:そこは最も議論を重ねた部分です。乳業というビジネスは、365日24時間、休みがありません。牛の乳は、クリスマスも正月も関係なく毎日出ますから、主に工場の生産現場では、3交代制で夜勤があったり、年末年始も関係なく働いてくれています。また冬の寒い現場で働く社員もおり、本当にタフな環境でみんな頑張ってくれています。そんな最前線の社員たちに、ただ「ウェルビーイングに働こう」と言っても、「きれいごと」に聞こえてしまいますよね。
森永乳業グループは、「かがやく“笑顔”のために」というコーポレートスローガンを掲げています。だからこそ、自分たちがプライドを持って作ったものがお客様の役に立ち、感謝の矢印となって現場に帰ってくる。この「笑顔の循環」の中に自分たちがいるんだと実感できることこそが、本当のウェルビーイングだと考えたのです。
左:現場のリアルに根ざした言葉だからこそ、社員の皆さんの心に響くのですね。ステートメント策定以降、社内のコミュニケーションにおいて新しく取り入れた施策はありますか?
久野:具体的なアクションとして、役職名ではなくお互いを「○○さん」と呼び合う「さんさん運動」をスタートさせました。なぜ「さん付け」にこだわったかというと、それが最もニュートラルでフラットな敬称だからです。
左:立場や年齢を超えて、一人の人間として対等にリスペクトし合うための「さん付け」なのですね。
久野:相手が年上であれ年下であれ、肩書きというフィルターを取り払った「個人」に対して呼びかけ、敬意を払う。このフラットな空気感と心理的安全性こそが、組織のウェルビーイングを育む第一歩なのだと感じています。
ベトナムでの支援が、国境を越えて日本の現場を誇りで満たすまで

左:森永乳業の「働きやすさ」や「個の尊重」という点では、男性の育児休業取得率も高い水準を維持されていると伺っています。
久野:私たちは育児用ミルクを長年お届けしてきた企業として、性別を問わずに育児を支援していきたいという強い思いを持っています。ですから育児休業期間は、単に仕事を「休む」のではなく、しっかりと家庭の基盤をサポートし、「大切な子どもを育みながら、親として成長する」ための前向きな期間と位置づけました。
2022年からは、育児休業の愛称を「はぐくみ期間」へと刷新し、出生時育児休業を100%有給化する取り組みをスタートしました。その結果、男性の育休取得率は3期連続で9割以上を維持しており、2030年度までの目標である「100%」の達成に向けて着実に歩みを進めています。
左:9割以上とは素晴らしい実績ですね! 男性の「はぐくみ期間」の取得が当たり前になってきたことで、組織のあり方にはどのような変化が生まれましたか?
久野:大きく2つのポジティブな変化があると考えています。
1つ目は、マネジメント層の「解像度」の向上です。現在、多くの男性管理職が女性の部下を持っていますが、出産や育児というキャリア形成において極めて重要なライフイベントの「リアルな実態や悩み」を、自らの実体験をベースに高い解像度で理解できるようになるはずです。これは組織として非常に大きな財産です。
2つ目は、男性社員自身の「生産性の向上」です。育児や家事は、待ったなしのマルチタスクの連続ですよね。その経験をすることで、限られた時間の中でいかに仕事を組み立て、周囲と調整し、成果を出して定時に帰るかというマネジメント能力が磨かれます。復帰したメンバーたちの仕事への向き合い方を見ていると、タイムパフォーマンスへの意識が明らかに高まったと感じています。

左:森永乳業では社内や国内にとどまらず、ベトナムの幼稚園での給食支援プログラム「Smiles & Health for Children」など、グローバルな社会貢献活動にも注力されていますね。
久野:当時、海外事業のメンバーから「現地で赤ちゃんの粉ミルクを届けるビジネスを展開する以上、その国の子どもたちの健康や栄養状態に、直接貢献する活動が必要だ」という熱い声が上がったんです。
私が当時本部長を務めていたサステナビリティ推進部も伴走する形でプロジェクトが立ち上がり、衛生的な給食設備を整える基盤を作りました。そして、2023年5月に始動した「Smiles & Health for Children」の取り組みは、現在3期目を迎えています。
どこかの外部団体にお任せして終わりにするのではなく、自社の社員たちが「自分たちのプロジェクト」として主体的に関わり、熱量を持って継続していることが、何よりの誇りです。
左:現地の方々の喜びもひとしおだったのではないでしょうか。
久野:私が何より胸を打たれたのは、現地に赴いたメンバーから報告された、ベトナム人の現地社員の言葉でした。給食設備の贈呈式に立ち会った彼らが、「こんな素晴らしい活動を本気でしている会社で働けて、私は本当にハッピーだ」と、会社に対する深い誇りと愛着を伝えてくれたそうです。
さらに面白いのは、このベトナムの地で生まれた善意の矢印が、巡り巡って日本国内の現場にも素晴らしい波及効果をもたらしていることです。

左:国境を越えた支援が、日本の現場にもつながっているのですね。
久野:実は、私たちのグループ会社では、ベトナムからの技能実習生の方々が多数活躍されており、日本での寮生活を送っています。彼らが「私たちの働いているグループが、ベトナムの幼稚園で子どもたちのために支援活動をしている」というニュースを知り、自社に対して非常に大きな誇りを持ってくれたんです。
結果として、日本で働く実習生の皆さんの定着率が向上し、モチベーション高く日本語検定に挑戦するなど、現場のエンゲージメントが高まるという想定以上の好循環が生まれています。
左:「子どもたちの健やかな成長を支えたい」 という純粋な願いが国境という境界線を溶かし、ウェルビーイングが循環し始めているのですね。素晴らしいお話です。
競争ではなく「共創」へ。企業を越境し、トップと現場が本音で響き合う瞬間

左:「ウェルビーイングステートメント」という確固たる指針を掲げた森永乳業ですが、今後、ウェルビーイング経営をどのような方向へ進化させていきたいと考えていらっしゃいますか?
久野:ステートメントを外に向けて宣言したことで、「ウェルビーイングにおいて、ぜひ協働しませんか」とお声がけいただく機会が本当に増えました。外の世界と越境してつながることで、新しく生み出せる価値がたくさんあるのだと、今まさに強く実感しています。
その一環として、私たちは志を共にする企業や有識者、団体が集うコンソーシアム「Well-being Initiative」にも参画し、社会全体の幸福のあり方を模索しています。
左:他社や外部とのつながりによって、組織の中に新しい視点やポジティブな刺激がもたらされているのですね。
久野:例えば「Well-being Initiative」が推進する、将来世代と対話し、共に未来の関係性を築いていく「FR(Future Relations)活動」を取り入れています。これにより、当社の未来を担う若い世代の社員と、私たち経営層がフラットに対話できる貴重な機会が広がりました。
さらに、他社さんが社会や社外の若者とも一歩踏み込んだ対話を深めている先進的な事例を知り、大いに刺激を受けました。そこで得たご縁から、私たちのサステナビリティチームが、ある大学の女子学生の皆さんと一緒に「FR活動」のような対話イベントを企画・実施するなど、共創の輪が外側へと広がり始めています。
左:「共創」は、ウェルビーイングを社会へ広げていく上で、欠かせないキーワードですね。 久野さんは、これからどのような「共創」のあり方を目指していきたいですか。
久野:サステナビリティや環境問題、そして「ウェルビーイング」といったテーマは、市場でシェアを争う「競争分野」ではなく、手を取り合って知恵を絞るべき「非競争分野」です。
この領域においては企業の壁を取り払い、幅広く情報交換をしながらアイデアを持ち寄って、社会のために何ができるかを共に考える「共創」を加速させたいですね。異なる組織のカルチャーに触れることは、私たち自身にとっても大きな学びであり、成長の原動力になると信じています。

左:外に向けて共創を広げる一方で、社内のコミュニケーションという「内側のエンゲージメント」においては、どのような変化が生まれていますか。
久野:大きな転換期となったのは、2025年5月に新しい中期経営計画を発表したことです。その際、代表取締役社長・大貫陽一自らが、「今回は中期経営計画を“説明”しにいくのではなく、現場のリアルな“声”を直接聴きに行きたい 」と発案し、全国の事業所や工場を精力的に回りました。
左:トップ自らが現場へ赴き、双方向の対話の場を設けたのですね。一方的な通達ではなく、「聴く」姿勢を示したことで、現場からはどのような言葉が上がってきましたか?
久野:中期経営計画に対する率直な感想から、日々の業務における「実はこの設備が不便で困っている」といった、本当にリアルな現場の声まで、たくさん上がってきました。上がった声はすべて経営企画部で取りまとめ、必要なものには対応をしています。
すぐに改善に着手できるものもあれば、私たち本社側がこれまで全く気づけていなかった現場の盲点もあり、経営陣にとっても極めて多くの気づきと学びがありました。
左:トップの熱い想いが現場へ伝わり、現場のリアルな体温が還ってくる。この風通しの良さは、ウェルビーイング経営を内側から突き動かす大きな推進力になりますね!
葛藤の果てに見つけた、「未来へ希望を持てる社会」とは

左:久野さんご自身も、自らの直感を信じていくつもの転機を乗り越えてこられましたが、社員の皆さんの「挑戦」を支える具体的な仕組みについて教えていただけますか。
久野:2022年4月に、経営企画部内に「非連続的成長推進室」という部署ができました。そこがハブとなり、グループ初となる社内新規事業創出プログラム「Mori“NEW”」を始動させています。
まだ大きな利益を生むビジネスにまで育っているわけではありませんが、第一期の事業プランとして採択された象徴的なプロジェクトとして、現在は「milushi(みるし)」というWebメディアが動き出しています。
左:「ミルク」と「ウシ」を掛け合わせて「milushi」。非常にユニークで愛着の湧くネーミングですね。
久野:私たちは日々、牛乳やヨーグルトといった商品をお客様に届けていますが、作っている私たち自身も含めて、その原点である「酪農」や「ウシ」という生産現場のリアルは見えにくくなってしまいがちです。「milushi」はそこへスポットライトを当て、可視化することで、生産者と消費者をつなぐメディアとして誕生しました。
実はこのメディア、ある非常に熱量の高い女性社員のアイデアから始まったんです。生産者の方々が直面している「後継者不足」や「労働力不足」といった構造的な課題の解決につなげたいという、彼女のピュアな思いが込められています。

左:一人の社員の「どうしてもこれをやりたい!」というパッションを会社が拾い上げ、形にできる土壌が生まれつつあるのですね。
そんなふうに他者の挑戦を支える久野さんですが、久野さん個人にとってウェルビーイングを感じる瞬間は、どのようなときでしょうか。
久野:私自身、普段はあまり意識したことがなかったのですが、こうしてお話ししていく中で改めて気づかされました。やはり私は、「新しい何かに向かって飛び込んでいる瞬間」に、最もウェルビーイングを感じているということです。ただ、その新しい挑戦の種は、私一人の頭の中から湧き出てくるものではありません。
いつも、人とのつながりや出会いの中にヒントがあります。多様な人たちとの触れ合いを通じて、「あ、これ面白そう!」「これは今、自分が向き合うべきことだ」と、自分にはない新しい視点に心が突き動かされる。
その瞬間に、胸の奥からものすごいワクワク感が溢れてくるんです。私は本当に、周囲の素晴らしい方々からたくさんの素敵なエネルギーをいただいているのだと感じます。
左:人との共鳴の中にこそ、ワクワクの源泉があるのですね。最後に、少し未来のお話になります。これからの時代を生きる子どもたちが大人になったとき、社会がどうあれば、よりウェルビーイングな世界になっていくと思われますか?
久野:実は私の娘がまだ保育園に通っていた頃、これからの社会がどうなっていくのかを考えて、不安に駆られた時期がありました。山積するさまざまな社会課題を前に、「自分にできることなんて、本当に一握りだ」と無力感を抱いたこともあります。
それでも、目の前にあるできることを一生懸命積み重ねることでしか、次の未来にはつながらないと思い直したんです。その葛藤の果てに行き着いたのは、これからの社会が、子どもたちにとって「将来に対する希望を持てる場所であるかどうか」という問いでした。

左:未来に対して「希望を持てるかどうか」。それこそが、次の世代を生きる人々にとっての心の根幹であり、ウェルビーイングの基盤ですね。
久野:親としては、子どもが大きくなるにつれて「いい学校に行ってほしい」とか、ついあれこれ欲が出てしまうものです。しかし、すべての原点にあるのは「この子たちが大人になったとき、未来に希望を持って時間を積み重ねられる社会であってほしい」という願いだけです。
森永乳業のコーポレートスローガンである「かがやく“笑顔”のために」も、まさにその未来へつながっています。なぜなら、明日への希望がなければ、人は心から笑顔になることはできないからです。
左:物質的な豊かさではなく、「希望」こそが笑顔を引き出すのですね。
久野:そう信じています。「希望」や「笑顔」は、決して金銭や整った環境といった物質的な条件だけで満たされるものではありません。ベトナムの現地社員の言葉に私たちが深く感動したように、もっと内面的な、人と人との温かいつながりや、明日を信じる力から溢れてくるものです。
私自身、これからも「面白そう!」という直感を原動力にしながら、次の世代が、そして社会全体が明日への希望を持てるような未来を、皆さんと一緒に「共創」していきたいと思っています。
左:「希望が持てる未来」。久野さんのこれまでの歩みと、森永乳業が目指すウェルビーイング経営の根底にある、温かくも強い意思を感じる素晴らしいお話でした。本日は本当にありがとうございました!


「男女雇用機会均等法」施行前後のボーダーラインの世代として、1985年に東レ株式会社へ入社。その後、証券会社で証券アナリスト業務を担当する。2002年からは国内医療品メーカーにてIR(投資家向け広報)の経験を積む。2016年に森永乳業株式会社に入社し、2019年に広報IR部長に就任。2021年に常務執行役員サステナビリティ本部長、2025年には常務執行役員 コーポレート戦略本部長を歴任し、同年6月より取締役に就任する。
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