快適さや保護性能を追い求めて進化してきた、現代の靴。しかしその裏側で、私たちは本来使うはずだった「足の機能」を使う機会を、少しずつ失ってきたのかもしれない。
群馬・みなかみの地で25年間、足の研究とインソールづくりに向き合ってきた株式会社BMZ。数々の特許技術を確立し、多くのトップアスリートに支持されてきた同社が、なぜ「靴」そのものを作るに至ったのか。その答えを、取締役社長・山中保さんに伺った。
この記事の監修者

山中 保さん
現在、BMZの新作シューズ「GRABBING SHOES(グラビングシューズ)」は、GREEN FUNDINGにて先行販売を実施中です。
BMZが長年追求してきた「足指で地面をつかむ」グラビング理論をもとに開発された、「カラダをつくる靴」。気になる方は、記事とあわせてGREEN FUNDINGのプロジェクトページもぜひご覧ください。
BMZとは、足本来の力を研究してきた会社

── まずは、BMZが誕生した歴史や背景についてお聞かせください。
山中さん:今のBMZをつくった先代(現・会長)の髙橋は、もともとスポーツ用品店で働いていました。
店頭でたくさんのお客さんの足や靴を見ているうちに、「痛みや不調の原因は、足そのものではなく、靴が合っていないからではないか」と気づいたのが、すべての始まりでした。
── そこからインソールづくりが始まったんですね。
山中さん:はい。最初は石こうで足の形を取り、土踏まずを支えるオーダーメイドのインソールを作ることからスタートしました。商品自体は悪くなかったんですが、思ったような結果が出なかったんです。
── 最初からうまくいったわけではなかったのですね!今のようなインソールを作ることができたきっかけはあったのですか?
山中さん:あるドクターから「身体の歪みは、足の『立方骨』という骨が崩れることで起きる」と教えてもらい、それなら「立方骨を支えるインソールを開発してみよう」と思ったのが、今のBMZの土台になっています。
── 「立方骨」って初めて聞きました。インソールは土踏まずを支えるというイメージがあります。

山中さん:そうですよね。一般的にも、インソールは「土踏まずのアーチを支えて足を安定させるもの」と考えられてきました。
でも、僕たちは足を固定するのではなく、「動けるように支える」ことが大切だと考えています。足は本来、細かく動いて、地面を感じたり、バランスを取ったりするための部位だからです。
── 足を止めるのではなく、使える状態にするということですね。
山中さん:そうです。その考え方には、日本人がもともと履いていたものも関係していると思っています。
── 日本人が履いていたもの、ですか?
山中さん:はい。たとえば、草履やわらじです。草履やわらじは、自分の足の機能を使わないとうまく歩けない履物なんです。昔の日本人は、日常の中で自然と足を使って歩いていたのではないかと考えています。
── そうした発想から、立方骨を支えるインソールの開発が始まったんですね。最初からうまくいったのでしょうか?
山中さん:いえ、実際には失敗がありました。会長はまず、土踏まずと立方骨の両方を支えるインソールを開発して、自分の足で試したんです。すると、サッカーの試合で「今まで追いつけなかった相手に追いつける」くらいに動きが変わった一方で、何にも接触していないのに半月板を損傷し、1週間入院してしまいました。
── 動きがよくなったのに、ケガをしてしまったんですか。
山中さん:そこが大きな学びでした。足には26個の骨があります。骨が多いということは、関節も多い。つまり、足は本来「細かく動かす」ための構造になっているんです。
一方で、最初に開発したインソールは足を固めすぎてしまった。足が歪みを吸収できず、その負担が膝にきてしまったんです。
── 足を支えるつもりが、動きを制限してしまっていたんですね。
山中さん:そうです。そこで、僕たちが出した答えが「動けるように支える」でした。同じインソールでも、足を固定するのか、動ける状態に導くのかで、考え方はまったく違うんです。
── 具体的に、BMZのインソールは他社のものと何が違うのでしょうか?
山中さん:一番は、支える場所です。土踏まずではなく、立方骨に着目していること。支える場所が変わるだけで、足の安定の仕方や体重の乗せ方、全身の動きまで変わってきます。
── 土踏まずを支えるのがセオリーだと思っていました……。なぜ、立方骨を支えると足の動きが変わるのでしょうか?
山中さん:足の構造を見るとわかりやすいのですが、小指と薬指につながる第4・第5中足骨は、立方骨と関節をつくっています。さらに、親指から中指側の骨も、足全体のアーチ構造の中で立方骨と連動しています。

BMZ公式サイトより引用
だから、立方骨まわりを支えることで親指から小指までが安定し、足指を使いやすい状態になると考えています。


── 足指が使えると、身体にはどんな変化があるのでしょうか?
山中さん:実際に体感してみるとわかりやすいです。まず、立った状態でつま先を軽く反らしてみてください。
── あ、後ろに体重がかかって、安定しないですね。

山中さん:姿勢も少し猫背気味になりますよね。今度は、地面をぎゅっと握るようにしてみてください。
── おお、重心が安定している感じがします。指先の使い方だけなのに……。

山中さん:おもしろいでしょう。指先が反っているか、握れているかだけで、骨盤の位置や胸の開き方まで変わってきます。

足は、単に身体を支えるだけのものではありません。足指を使って地面を捉えることで、姿勢や身体の使い方にも関わってくるんです。
インソールだけでは届かなかった領域へ。BMZが靴を作った理由

── BMZさんはインソールの会社として歩んできましたが、なぜ靴を作ることになったのでしょうか?
山中さん:僕も会長もサッカー出身なので、サッカー関係者の方に「インソールに合う靴は、何を買えばいいですか?」と聞かれることが多かったんですよ。
でも、正直に言うと、自信を持ってすすめられる靴がありませんでした。同じメーカーでもモデルによって形は違いますし、今年よかった靴が来年もあるとは限りません。
── インソールに合う靴がなかったから、自分たちで作ろうと?
山中さん:はい。決定的だったのは、サッカー選手をサポートしていたときのことです。
BMZのインソールを使っていた選手から、足の痛みを訴えられたことがありました。そこで、インソールを靴から出して床に置き、その上に立ってもらうと痛みはない。ところが、インソールを靴に戻すと痛みが出るんです。
── つまり、インソールではなく、靴との相性に問題があったんですね。
山中さん:そうなんです。たとえば、つま先が細い靴では、BMZのインソールが足指を広げようとしても、靴がその動きを押さえつけてしまいます。
実際に、あるサッカー選手がスパイクの提供メーカーを変えたタイミングで、足底筋膜炎になってしまったことがありました。確認してみると、本来27.0cmを履いていたはずが、いつの間にか26.5cmを履いていたんです。
── たった0.5cmでも、足には影響が出るんですね。
山中さん:そうなんです。インソールはそのままで、靴のサイズだけ27.0cmに戻したところ、足底筋膜炎の症状が落ち着いていきました。
この経験から、足・靴・インソールのどれか一つでもバランスが崩れると、足は本来の力を発揮しにくくなると実感しました。

だからこそ、「インソールを正しく機能させるための靴を、自分たちで作るしかない」と考えるようになったんです。
「足を使う靴」へ。グラビングシューズが生まれるまで

── 先ほど草履やわらじの話がありました。BMZさんが本当に作りたかったのは、その延長線上にあるものなのでしょうか?
山中さん:まさにそうです。当時の日本人は、自分の足の力を使わないと前に進めない履き物しか持っていなかった。その知恵を、今の時代によみがえらせたいと思っています。
試しに、武士や飛脚が履いていたとされる「足半(アシナカ)」を履いてみますか?

── かなり新鮮な感覚です……。あ、意外と歩くのが難しいですね。

山中さん:それは、現代人がかかとから着地する歩き方に慣れてしまっているからです。でも本来、かかとは前足部に力をバトンタッチするための場所で、地面を蹴ったり、身体を安定させたりする役割は前足部にあります。
その前足部をきちんと使える構造になっているのが足半であり、その現代版がBMZのシューズなんです。
── 本来の足の機能を使って歩くための靴ということですね!世の中にある靴との大きな違いはどういったところにあるのでしょうか?

山中さん:一般的な靴は、つま先が反り上がっていたり、細かったりして、足指の動きを制限してしまう構造のものが多いんです。
一方、BMZのシューズは、つま先の反り上がりをなくし、立方骨を支えることで、足指が自然に開き、地面をしっかり握れる構造になっています。
── その「足を使う」という考え方は、どのように靴へ落とし込まれていったのでしょうか?
山中さん:最初に形になったのは、「アシトレ」という考え方でした。日常の中で足指を使う感覚を身につけるための仕組みです。
きっかけは、僕の息子がサッカーをやっていたことでした。足まわりのトレーニングとして、階段の上り下りや、かかとをつけない歩行などを試していたんです。ただ、そうしたトレーニングを続けるのは大変ですよね。
それなら、インソールを履くだけで足指を使うトレーニングになったらいいのではないか。そう考えたことが、アシトレの発想につながりました。
── 足を使うためのトレーニングを、日常の中に取り入れようとしたんですね。
山中さん:はい。その後、アシトレスニーカーとして形にしたところ、多くの方に「足指を使える感覚がある」と喜んでいただきました。
ただ、ラバー素材でベアフットに近い分、トレーニング要素が強く、足の筋肉量が落ちている方やご年配の方には、少し刺激が強いという課題もありました。
── そこから、より多くの人が日常で履ける靴を目指したのでしょうか?
山中さん:そうです。足を使う感覚は残しながら、より軽く、より歩きやすく、足に悩みがある人でもすっと受け入れられる靴にしたいと考えました。
そうして生まれたのが、グラビングシューズです。機能や構造の考え方はアシトレスニーカーと同じですが、日常の中で無理なく履ける優しさを持たせています。
靴づくりを支える、25年のデータと独自の製造体制
── グラビングシューズのように、足本来の機能を使える靴をつくるには、どのようなことが大切なのでしょうか?
山中さん:一番大きいのは、25年かけて見てきた足のデータと、それを形にできる開発体制です。
BMZはこれまで、たくさんの人の足を見てきました。足の形、体重の乗り方、歩き方、靴との相性。そうした積み重ねがあるからこそ、「足はどうあるべきか」を考えながら、靴の形に落とし込むことができます。
── 足のデータが、靴づくりの土台になっているんですね。
山中さん:そうです。たとえば弊社では、足型をスキャンして、AIで木型データに変換し、靴をつくる工程まで自社でおこなっています。ちなみにこれが木型です。

── これが靴の形を決めてるんですね。普通は専門の業者さんに発注するものだと思っていました。
山中さん:普通はそうです。木型は木型屋さん、ソールはソール屋さん、縫製は縫製屋さん、というように、靴づくりは分業で進むことが多いんです。
でも僕たちは、できる限り自社でやるようにしています。なぜなら、木型屋さんは木型づくりのプロですが、足のプロではないからです。
── 足のことをわかっているからこそ、木型の形まで自分たちで判断できるということですね。
山中さん:そうです。実は、最初にサッカースパイクを作ろうとしたとき、木型屋さんにお願いしたことがありました。でも、「こんな形の木型では靴にならない」と言われてしまったんです。
それなら、自分たちが理想とする足の形を、自分たちで木型にしようと考えました。高価な削り出しの機械も導入して、木型から自社で作れる体制を整えたんです。
── 商品開発では、かなり多くの試作を重ねるのでしょうか?

山中さん:昔は本当にたくさん作りました。試作品を履いてもらって、検証して、また作り直す。その繰り返しです。
今は、25年間蓄積してきたデータがあるので、以前ほど多くのパターンを作らなくても、精度の高い設計ができるようになってきました。
── それでも、世に出ない試作品もあるんですか?
山中さん:たくさんあります。一度も量産に進まずに終わった木型や金型も、正直かなりあります。
でも、よりよいものができたなら、そちらを世に出したい。悪いものを売って一時的な利益を得るより、履いた人に喜んでもらえるものを届けたいんです。
── ビジネスとして効率を優先するよりも、足にとって本当にいいものを追求しているんですね。
山中さん:そうですね。僕たちは、売れるものを作るというより、身近な人たちの悩みを解消することを考え続けてきました。
その積み重ねが、インソールになり、アシトレになり、グラビングシューズにもつながっています。足のことを考え続けてきた時間そのものが、BMZの商品を支えているんです。
BMZが目指す「足育文化」

── ここまでお話を伺っていると、BMZさんは単に靴やインソールを作っている会社というより、足との向き合い方そのものを変えようとしているように感じます。これからチャレンジしていきたいことについて教えてください。
山中さん:僕たちが目指しているのは、「自分の足に合った靴を履く」という、ある意味では当たり前のことを取り戻すことです。
昔の靴づくりは、足を測ってから靴を作るのが当たり前でした。でも産業革命以降、先に靴が大量につくられ、それに足を合わせるという順番になってしまったんです。
── 本来は、足に靴を合わせるべきなのに、靴に足を合わせるようになってしまったんですね。
山中さん:そうです。だから僕たちは、その順番を本来の形に戻したいと思っています。
実際に、お客様の足型を3Dスキャンし、そのデータをAIで木型データに変換して、その人の足に合わせたオーダーメイドのゴルフシューズを制作しています。すでに200人以上にご利用いただいています。
── 足を測り、その人に合う靴を作る。まさに原点に戻るような取り組みですね。
山中さん:はい。靴づくりは本来、木型は木型屋さん、ソールはソール屋さん、縫製は縫製屋さんというように、分業で進むことが多いんです。
でもBMZでは、その工程をできる限り自社でおこなっています。全部を自社で見ることで、「こうしたほうがより歩きやすくなるのではないか」という気づきを、すぐに試すことができるからです。

── 足を研究してきた会社だからこそ、靴づくりの工程にも踏み込めるんですね。
山中さん:そうですね。僕たちは、足に合った靴を履くことが特別なことではなく、もっと当たり前になってほしいと思っています。
自分の足を知ること。自分に合った靴を選ぶこと。そして、足本来の機能を使って歩くこと。そうした「足育文化」を広げていきたいんです。
── 足育文化、ですか!?
山中さん:はい。足は毎日使うものなのに、学校でも家庭でも、足のことを学ぶ機会はほとんどありません。でも、足は身体を支える土台です。足のことを知る人が増えれば、靴選びも変わりますし、日々の歩き方や身体の使い方も変わっていくと思います。
「自分の足に合った靴を履く」という、昔は当たり前だったことを、今の時代に合ったやり方で取り戻していく。それが、BMZとしてこれからも挑戦していきたいことです。
── これからの飛躍が楽しみです。本日は素敵な話をありがとうございました!
Wellulu編集後記

今回の取材で強く印象に残ったのは、BMZさんが靴を単なる「商品」として見ていないことでした。
もちろん、立方骨に着目した特許技術や、25年にわたって蓄積してきた足のデータ、自社でおこなう開発体制は、BMZさんの大きな強みです。ただ、それ以上に根底にあるのは、「足のことが好きで、もっと知りたい」という純粋な探究心なのだと感じました。
その象徴が、アシトレ理論の誕生秘話です。きっかけの1つは、山中さんの息子さんがサッカーをしていたこと。プロを目指すためには足まわりのトレーニングが欠かせないと考え、階段の上り下りや、かかとをつけない歩行など、さまざまな方法を息子さんで試していたそうです。
さらに印象的だったのが、中国の展示会でのエピソードです。会長と山中さんが、あまりに時間を持て余していたとき、「もっといいインソールができないか」と、ティッシュペーパーを丸めてインソールの裏にガムテープで貼って遊んでいた。それが、のちのアシトレの原型になったといいます。
普通なら見過ごしてしまうような遊びや思いつきも、足のことを考え続けている人たちにとっては、次の発明の種になる。研究室で整然と生まれた理論ではなく、日々の観察や実験、そして少しの遊び心から生まれているところに、BMZさんらしさを感じました。
レオナルド・ダ・ヴィンチが「足は人間工学上、最大の傑作であり、最高の芸術作品である」と表現したという話も、足を追求し続けるBMZさんの姿勢と重なります。

足は、毎日当たり前のように使っているのに、まだまだわからないことが多い。だからこそ、もっと知りたい。もっとよいものを作りたい。そのあくなき探究心と、足への愛情こそが、BMZさんのものづくりを支えているのだと思います。
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株式会社BMZ 取締役社長。学生時代から打ち込んだサッカーをきっかけにインソールと出会い、以来、靴ホペイロとして10年以上のキャリアを重ねる。
足のメカニズム研究とインソール・サンダル・シューズの開発を牽引し、「立方骨」を支える独自のインソールの開発・普及に携わってきた。
現在は、新発売の「GRABBING SHOES(グラビングシューズ)」の開発を主導している。