比叡山未来会議 イカのように生きる

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

イカは、全身で色を発している ―比叡山で考えた「僕らはどんな色を放っているか」

先日、比叡山延暦寺で開かれた基調セッション「いのちをめぐる未来社会とAI」に、参加させてもらった。科学、芸術、ものづくり、生命の最前線にいる方々が登壇する、贅沢な時間だった。
千二百年祈りが積もったこの山の上で、AI時代の「生きる歓び」と身体について語り合う。その取り合わせが、もう何かを語っている気がした。窓の外には夏の青い山並み。話を聞きながら、僕の頭にずっと棲みついて離れなかったのは、なぜか一匹のイカだった。

中島隆太さん(Kwahuu Ocean CEO/ミネソタ大学ダルース校 芸術・デザイン学部 教授)が話してくれたイカの話が、すごく面白かった。このブログでは、イカを中心に綴ってみようと思う。

イカは、色でエネルギーを放っている。中島さんは、元はアートの作家だったが、いまはイカの養殖と研究に深く携わっている。作品をすべて手放して、生きものの本質を探りにいった人だ。その振り切り方に、まず尊敬の気持ちがわいた。

イカは、まわりの色に合わせて瞬時に体色を変える。ただ身を隠すためだけじゃない。「あっちへ行こう」「逃げよう」「助けて」と、仲間に伝えるためでもあるという。体の色が、そのまま言葉なのだ。しかも脳だけでなく、体じゅうに考えるセンターが分かれて散らばっている。中央に司令塔があるのではなく、全身がネットワークになって、色を発している。

僕はこの話を、エネルギーの放出として聞いていた。イカは、思っていることを内に溜め込まない。感じた瞬間に、全身の色を変えて、まわりへ放つ。怖いときは怖い色、誘うときは誘う色。隠しごとができない。

それにくらべて、僕らはどうだろう。心の中ではいろんな色がうずまいているのに、表面はわざとグレーに保とうとする。会議で、家で、SNSで。本当はオレンジに光っているのに、無難な色に塗り直して差し出す。中島さんのイカの話を聞きながら、僕は、自分がどれだけ自分の色を隠して生きてきたかを、少し突きつけられた気がした。

会社で何かを通すために、表向きの作文をすることもある。実際は、違う動きをしているのに、何も知らないふりをしている人もいる。この素直さと透明性をイカから学びべき?と思った。

美しさは、色を発する前の一瞬に宿る。

中島さんは、「美意識」とは、言葉になる前に感覚器官から入ってくる生の情報への、身体の反応ではないか、と語っていた。理解できない何かに出会って、「どうしようか」と向き合う、あのほんの一瞬。そこに「美しい」が芽生えるのではないか、と。イカでいえば、まさに色を変える直前だ。外から光や気配が届いて、まだ言葉にならないうちに、全身がざわっと応える。あのざわめきが、美なのかもしれない。

これは、僕にも覚えがある。富士山の麓で、日の出を眺めたとき、説明する前に「ああ」と思う、あの感じ。あれが、僕の体が色を変えようとしている瞬間なのだろう。あと、今回のFIFAサッカーワールドカップで、日本の選手たちが試合に入るときに、光を発している感じも似た感覚だろう。

美しさは、頭で判定するより先に、体がエネルギーとして受け取っている。理研の高橋恒一さん(生命機能科学研究センター チームディレクター)も、音楽のリズムの心地よさは、腕を振ったときの体の揺れと脳波が響き合うことから生まれる、と話していた。やはり美は、体を通して放たれている。

ものは、色を偽らない。

大野木啓人さん(京都芸術大学 空間演出デザイン学科 教授)の言葉も、イカの色とどこかで重なった。五十歳でサラリーマンから独立し、いまも素材と向き合いつづける方だ。「ものは正直で、騙さない」と話していた。木も、土も、金属も、扱う人の手の動きや迷いを、そのまま受け取って返してくる。ごまかせない。

イカが色を偽れないように、ものも嘘をつかない。人間だけが、自分の発する色をコントロールできてしまう。それは器用さでもあるけれど、同時に、自分が本当はどんな色なのかを、自分でも見失っていく危うさでもある。大野木さんが素材と向き合うのは、ものという正直な相手の前で、自分の色を確かめ直す作業なのかもしれない、と僕は感じた。

隠さない色が、つながりを生む。

土佐尚子さん(京都大学特定教授/アーティスト)は、人の声の抑揚から感情を読みとるシステムを作った経験から、データの世界だけでは表現できない生々しさを求めて、音や振動や重力そのものを使う作品へと移っていったという。日本の「型」――山水画の三遠、華道の天・地・人――に隠れた美の構造を、音で可視化する試みもしている。

型とは、色の発し方の作法なのだと思う。やみくもに放つのではなく、整えて差し出す。イカが仲間に伝えるとき、でたらめに光るのではなく、意味のある変化として色を送るように。

高橋さんは、AIが最適化していく社会の脆さを指摘し、守るべきものとして「人と人との関係性」と人間の「傷つきやすさ」を挙げていた。傷つきやすいというのは、隠しきれずに色が漏れてしまう、ということだ。グレーを保とうとしても、本当の色が透けてしまう。その漏れこそが、予測できない出会いや、創発を生む。完璧に色を制御できる存在からは、たぶん何も生まれない。

気づいたら、ウェルビーイング

この話を聴いて、僕が思っていたのはシンプルなことだ。僕らも、イカのように、もう少し自分の色を発して生きていいんじゃないか。

おいしいと思ったら、おいしいと言う。うれしかったら、うれしい色を出す。疲れたら、疲れた色を隠さない。

Welluluが大切にしている主観的ウェルビーイングの因子――おいしい食事、良質な睡眠、感謝・賞賛、新しい発見――は、どれも、自分の中に生まれた色を、ちゃんと受け取って、まわりへ放っていくことに近い。

色を隠さず発する人のまわりには、自然と色が集まってくる。それが、つながりの中のウェルビーイングなのだと思う。WeとUが「/」でつながるように、まわりの色が交わって、新しい色が生まれる。まずは、明日の朝。光を浴びて「ああ」と思った、その色を、隣の誰かに一言だけ伝えてみよう。イカから学ぶ素敵な座談会だった。人間は、究極どんな光を発するかが、まわりも応援したくなる空気をつくりだすのだろう。

基調セッション 「いのちをめぐる未来社会と AI」から。

科学‧技術‧⾝体‧芸術など多様な領域の最前線に⽴つゲストを迎え、AI 時代における⽣きる歓びと⾝体感覚、精神と技術の融和について多⾓的に議論します。

・高橋 恒一さん(理化学研究所 生命機能科学研究センター チームディレクター)

・中島 隆太さん(Kwahuu Ocean 株式会社 創業者・代表取締役 CEO /ミネソタ大学ダルース校 芸術・デザイン学部 教授)

・大野木 啓人さん(京都芸術大学芸術学部 空間演出デザイン学科 スペースデザインコース教授)

・土佐 尚子さん(京都大学防災研究所特定教授 / アーティスト)

堂上 研 株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

株式会社ECOTONE代表取締役社長
ウェルビーイングメディアWellulu編集長
情報経営イノベーション専門職(iU)大学教授
日本イノベーション協会 理事
私生活では、3人の子供の父。趣味は、スポーツとアート。

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