
香川県の瀬戸内海に浮かぶ小さな島のひとつ、直島。1990年代以降は現代アートの聖地として知られ、国内外から多くの旅行者が訪れています。瀬戸内海の島に、世界中の子どもたちが集える場を作りたいという思いから「直島国際キャンプ場」をスタートし、その後ベネッセアートサイト直島が築き上げてきたこれまでの30年、そして、これからの100年後、あるいは200年後の直島の姿とは。ウェルビーイングを実現するアートやローカルの可能性とともに、この島の未来図について考えていきます。
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次代の“芸術文化共創コミュニティ”とは? 「直島芸術生態系vol.0」の体験〈中篇〉
次代の“芸術文化共創コミュニティ”とは? 「直島芸術生態系vol.0」の体験〈後篇〉
はじまりは、サウナと海。直島のサウナSANA MANEにて、ととのうところから。
瀬戸内海に浮かぶ小さな美しい島「直島」で、海と山の香り、優しい波の音色、柔らかな風の感触、刻々と変わる空の色を感じることができる特別な体験ができる場所、グランピング型リゾート施設「SANA MANE」で、昨年オープンしたサウナ「SAZAE」にてサウナ体験をさせていただきました。
「直島芸術生態系vol.0」で集まったメンバーがサウナを楽しんでいました。今回のメンバーは、はじめて会う人もたくさんいる中で、「はじめまして」という暇もなく、大自然でいっしょにサウナ体験からはじまり、既に前から知っている人同士が集まっているような不思議な感じでした。
この「SAZAE」のサウナを体験した後、火照った体のままで、そのまま海に飛び込みにいきます。海に浮かびながら、空を眺める、そんな贅沢な時間を過ごすことができました。大自然の中でととのうところからはじまったのです。
オーナーの眞田氏は、「大人になってから海に入ることもなくなったと思います。サウナでひとつの空間で時間を共にして、そのまま瀬戸内海の海に飛び込むことができる。大自然を満喫して、非日常を味わってほしい。」とおっしゃっていました。

瀬戸内海の直島にあるグランピング型リゾート施設SANA MANE
ととのった後は、瀬戸内「 」資料館/宮浦ギャラリー六区で歴史に触れる。

宮浦ギャラリー六区下道基行 ≪瀬戸内「 」資料館≫写真:山本糾

レセプション会場となったのは、直島のフェリーターミナルから徒歩5分ほどのところにある「宮浦ギャラリー六区」。パチンコ店を改装して生まれ変わったギャラリー《瀬戸内「 」資料館》は、アーティスト・下道基行氏によるアートプロジェクトです。名称の「 」内には展示毎に異なるテーマが記されていて、このときは「直島部活史」ということで、島民に根付いている“大人の部活動”に着目したものでした。
調査のために収集した資料を展示し、アーカイブする館内の「展示収蔵室」の奥には、焼肉店を改装した「研究室」が隣接していて、ここでは島民たちが焼き物をしたり、子どもたちが表現活動を学んだりといったように、さまざまな活動を行う場になっています。

下道氏が直島に移り住んだのは2020年。とあるプロジェクトの制作のために島をリサーチで訪れたとき、宿泊先での出来事がきっかけになったといいます。
「夜に太鼓の音がするので外に出てみたら、地元の人たちが神社でお祭りの練習をしていたんです。それまで直島は“アートの島”といった観光地のイメージしかなかったけど、意外と地元のコミュニティがしっかり根付いているんだなあと感じました。滞在中、夕方や夜になると旅行者がいなくなっていき、代わりにだんだん地元の人たちが外に出てくるのが面白いなと思ったんですよね。それで、ここで長期的なプロジェクトを行っていくのであれば、もう引っ越しちゃったほうがいいなと思って、2020年3月に家族で直島に移住したんです」
しかしながらその直後、新型コロナウイルスの影響により、世の中は一変。旅行者は激減し、島の人たちは口々に「こんな人がいない状態は数十年ぶり」などと話していたそうです。一方で、それがプラスに働いた面もあり、閉ざされた環境になったからこそ、島にいる地元の人との関係性が深まり、一緒に面白がったり参加してもらったりできるような展示を企画していたと下道氏は話します。
「現在の資料館の展示テーマは“大人の部活動”です。最近では都市部でも広がっているようですが、直島には昔からその文化が根付いていて、60近くもの団体が活動しているんです。すごいたくさんあるんですよ。また、戦後から写真部や絵画部といったものが存在していたことを考えると、現代美術やアートの文化がここまで根付いたのは、地元の人たちにそれを受け止める土壌があったんじゃないかなっていうことも感じるんですよね」
下道氏のお話は、島の人たちとの触れ合いで様々な気づきを得ると同時に、作品自体がどんどん深化していくような感じだった。島全体がアートの島となっているように、島の人たちもアートに触れることが日常になっているように、風景のひとつになっていると感じました。
そもそもなぜ、直島は“アートの島”になったのか。直島の歴史については、「直島芸術生態系vol.0」の体験〈後篇〉でふれていきます(https://wellulu.com/with-nature/8520/)。

自然と溶け合う、五感で楽しむアート鑑賞。「オープン・スカイ」ナイトプログラム/地中美術館
直島でのアート鑑賞を楽しむなら「地中美術館」は欠かせません。“自然と人間を考える場所”というコンセプトに基づいて2004年に設立されたこの美術館は、島の景観を損なわないよう、建物の大半が地下に埋設されています。極限までデザインを切り詰めて設計された安藤忠雄氏による建物は、光や風といった無形の自然の美しさを際立たせているともいえます。
今回、「直島芸術生態系vol.0」のメンバーは、「地中美術館」に移動して、「オープン・スカイ」ナイトプログラムに参加させていただきました。
現在、毎週金曜日と土曜日のみ開催しているナイトプログラムは、日没にあわせて45分間の特別プログラムを静寂の中鑑賞できるものです。日中とは違う、直島の暮れてゆく空と、ジェームズ・タレルが生み出す光の空間を楽しむことができます。

館内に入っていくとクロード・モネ室があります。そこで、本来ならこの時間に入れないクロード・モネ室に少しだけ立ち寄らせていただきました。
印象派を代表する画家であるクロード・モネが暮らしたパリ郊外ジヴェルニーの庭を描くようにして構成された庭園「地中の庭」。モネが描こうとした自然を立体的に感じたうえで、モネの「睡蓮」シリーズを味わうことができるのは、直島という環境ならでは。自然光のみで鑑賞する作品は、通常のホワイトキューブでの展示とは大きく異なる印象を与え、人の手によって敷き詰められたおよそ70万個の立方体の大理石の床にも、均一の取れたやわらかな美しさが宿っています。
だんだんと日が沈むと同時に、モネの描いた「睡蓮」の色味も色濃くなっていく変化を感じます。時間帯によって作品の感じ方が変わっていくのは、自然とアートが一体となっていることを体感できました。参加メンバーからは「これはもうひとつのモネ・ナイトプログラムがあっても良いのでは」という話もありました。最高の体感で、新たな発見と進化が生まれていきそうです。

続いて、ジェームズ・タレルの「オープン・スカイ」のナイトプログラム貸切鑑賞をさせていただきました。
作品自体は、開館時間中いつでも鑑賞可能ではあるものの、ナイトプログラムは、また違った感覚を味わわせてくれます。私たちのいる部屋から、ジェームズ・タレルが設定した様々な色彩の光によって空間が照らし出され、人工の光と夜明けの空の光を同時に楽しめます。不思議な空間の中で、夕暮れの空の色の移り変わりを楽しむことができます。空を45分間ずっと眺める時間は、素晴らしい体験でした。
作品は屋外とつながっているため、雲の動きが見えると同時に、飛行機が飛んだり、虫の音色が聞こえてきたりと、その時間を視覚だけでなく五感すべてで味わえました。空の色は、薄い青色から、だんだんと夕焼けのオレンジ色に移り変わり、うっすらと紫っぽい色に変化していきました。
そして、今までに見たことのない真っ黒な空になりました。こんな濃い黒色は生涯見たことがあっただろうか、と感じさせてくれ、自分自身が吸い込まれていきそうなくらい宇宙の中を覗いているような感覚に陥りました。すると、そこからチラホラと見えてくる星は、何か宝物を見つけた感じで、空の色の変化を楽しめました。
今回、集まったメンバーは、直島という場所から何を感じ、何を未来に紡いでいくのでしょうか?直島から世界へ、過去から現在、そして未来へ、自分たちと向き合い、他者と向き合い、自然と向き合う。そして、直島にあるアートと向き合うことで、感じたことを表現していくことで、何か新しいものが創発されていくのかもしれません。福武英明氏の発案で集まったメンバーが、これからどういう行動を起こしていくのか楽しみになりました。


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編集部日記
直島から、自分と向き合う(2023.09.17)/Wellulu 編集部プロデューサー堂上 研
直島ウェルビーイング体験記(2023.09.19)/Wellulu 編集部プロデューサー堂上 研