県民一人ひとりのいのちが輝き、そして神奈川が人々を引きつける魅力ある地域となるため、「県民との対話」をはじめ、健康と病気のあいだで連続的に変化する「未病」にフォーカスしたヘルスケアの取り組みを行っている神奈川県。さらに、県内での実例を用いて「コミュニティ再生・活性化の取り組みでは、社会参加や多世代間の交流が重要」と黒岩県知事は言います。
それぞれが持つ「いのち」が「輝く」ために、神奈川県は県民とどのような取り組みをおこなっているのだろうか?神奈川県が目指す将来像について詳しくお話を伺ってきた。
黒岩 祐治さん
神奈川県知事
本記事のリリース情報
【神奈川県】黒岩県知事に聞く、「いのち輝く」とは?「ME-BYO」コンセプトを発信(別ウィンドウで開きます)(Wellulu)
自ら県民と対話し、県民の声を実現する
──神奈川県の総合計画についてお伺いします。少子高齢化や人口減少の課題の中で、神奈川をどのように位置づけ、どのようなビジョンを描いていますか?
黒岩県知事:はい、神奈川県の基本理念には「いのち輝くマグネット神奈川」を掲げています。これは、県民一人ひとりのいのちが輝き、そして神奈川が人々を引きつける魅力ある地域になることを目指しています。私は知事になる前から、いのちの価値を最も大切にしてきました。神奈川を、他の地域から見ても「行ってみたい」「住んでみたい」と思われるような魅力的な場所にしたいと考えています。
──13年前に立候補されて以来、この理念を掲げ続けていらっしゃいます。また、県民との対話にも力を入れていると伺いました。具体的にどのような取り組みがあるか、また、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
黒岩県知事:私はキャスター出身ということもあり、県民の皆さんとの対話を大切にしています。「対話の広場」という取り組みをしており、コロナ禍を経てオンラインも含めて実施してきました。「対話の広場」をはじめとして、直接県民の声を聞き、即座に反映することを心がけています。
例えば、ある女性が県庁の大会議場で芝居を上演したいと提案した際、すぐに実現しました。また、自殺防止のための電話相談窓口の無料化も県民の声を受けて実現しました。最近では、「ともいきシネマ」という県の施設を活用した映画鑑賞会を開催し、医療的ケアを必要とする映画館に行けない子どもたちが映画を楽しめる環境を作りました。
これらは、直接の対話があったからこそ私自身も気づけた課題や資源の活かし方であり、生まれた取り組みです。
──県民の声を聞いて実現する、迅速な行動力には驚かされます。このように、県民の声を素早く形にすることで、さらに他の提案も生まれる可能性があるのではないでしょうか?
黒岩県知事:そうですね。直接の対話を通じて、現実的にすぐに実現可能な提案は積極的に取り入れています。一方で、すぐには実現困難な提案もありますが、神奈川県庁の特色のひとつとして、スピード感を持って対応していることが挙げられると思います。
──スピード感を持って県民の声に応えるというのは、知事のおっしゃっていた「行ってみたい」「住んでみたい」と思われるような地域になるという部分に繋がっていそうですね。
黒岩県知事:そうですね。総合計画ですが、漢字の「命」ではなく、平仮名の「いのち」としているのにも理由があります。漢字だと、「使命」「命令」「宿命」というように、より重く厳しい意味で使われることも多いですよね。でも平仮名の「いのち」だと、より柔らかくなります。我々は生命そのものの価値をより尊重し、それぞれが持つ「いのち」が「輝く」状態を目指しています。
健康と病気のあいだで連続的に変化する「未病」に目を向けた、ヘルスケア分野の取り組み
──「いのち輝く」にも重要なポイントと思われる、神奈川県のヘルスケア分野の取り組みについても詳しく教えてください。
黒岩県知事:はい。ヘルスケア分野では、医療だけでなく、食品の安全、環境、教育など多岐にわたる分野と連携しています。特に「未病」というコンセプトに注目し、健康と病気の間を連続的に変化するグラデーションに焦点を当てています。これには、再生・細胞医療、ビッグデータ、AIなどの最先端技術を融合させることが含まれます。これらの取り組みは、新たな市場産業の創出にも繋がっており、未病産業研究会には1000社以上の企業が参加しています。
──「未病」つまり「健康と病気の間のグラデーション」についてもう少し伺えますか?
黒岩県知事:我々が注目しているのは、「未病」という概念です。健康と病気の間は連続的に変化しています。そのグラデーションに注目し、未病改善によって一人ひとりが健康を保つことが重要だと考えています。例えば高齢者の健康維持においては、フレイル(虚弱状態)に注目しています。フレイルになると足腰が弱くなり、なかなか外に出ていくことができません。そのため、「社会との関わり」を重視し、外とのつながりを持ち続けることが大切です。
──「未病」の概念は高齢者だけでなく、他の世代にとっても重要のように思います。神奈川県は積極的に未病の概念を発信していますね。
黒岩県知事:はい、高齢者はもちろんのこと、未病の概念を若い世代、特に若いお母さん方に広めることが重要だと考えています。我々は「ME-BYO STYLE」というプロジェクトを、20代から50代の働く女性や母親世代をメインターゲットに推進しています。女性の健康は体調の変化が多いため、それぞれのニーズに合わせたアプローチが必要です。
いのち・未来戦略本部室:「ME-BYOスタイル」では、企業の協力を得て、様々な活動や情報発信を行っています。栄養士が在籍しているRIZAPグループ株式会社やエームサービス株式会社ではSNSを活用した食事改善の普及啓発を行っています。ヨガインストラクターやノジマステラ神奈川相模原などの女子サッカーチームも参加し、SNSを通じて健康情報を発信しています。また、随時健康に関するセミナーやイベントなども開催していますので、ぜひ、Instagramで「#mebyoスタイル」を検索してみてください(公式Instagramでも発信)。
最近だと、JR川崎駅直結の大型商業施設「川崎ラゾーナプラザ」の広場で、無印良品ラゾーナ川崎店と共催でヨガイベントを開催しました。青空の下、ME-BYOスタイルアンバサダーでヨガインストラクターの方にヨガレッスンをしてもらい、小さなお子様連れの方も含め、幅広い年齢層の方にご参加いただくことができました。レッスン会場の隣には、野菜摂取量や現在の未病の状態を見える化する「未病指標」などの測定を体験してもらえるブースを設置したことで、参加者の健康意識を高めるきっかけにもなったと思います。
──気持ち良くヨガを体験できる、楽しそうなイベントですね!それに、ヨガ体験をして終りではなく、自分の身体の状態を把握できるブースがあるのも面白いです!
いのち・未来戦略本部室:そうですね。ひとつのコンテンツの中に、様々な体験を含めることで参加者の満足度にもつながると感じています。他にも、SOMPOひまわり生命保険株式会社と神奈川県共催で、健康リテラシーとマネーリテラシーの向上を目指した「健康×経済リテラシー向上セミナー」も開催しました。これは、女性特有の疾患について正しい知識を得た上で、『理想の自分』へ近づくためのセミナーで、自分の体質への理解を促すとともに、お金の賢い使い方を伝える場になりました。
これらの活動を通じて、健康に関する意識を高め、一人ひとりに未病改善に取り組んでもらうことを目的としています。
──様々な観点で多様な話者から情報が発信されていて、魅力的ですね。
多世代交流会で生まれる、若者が参加したくなる取り組み
──神奈川県のコミュニティ再生・活性化の取り組みについても詳しく教えてください。
黒岩県知事:コミュニティ再生・活性化においては、社会参加や多世代間の交流が非常に重要です。神奈川県には世界的にも注目されている例があります。それが、若葉台団地の事例です。若葉台は1万3000人ほどが住んでいる団地エリアで、ものすごい勢いで高齢化が進んでいます。65歳以上の割合の国の平均が約30%のところ、若葉台団地は50%を超えています。
しかし、その一方で、介護が必要になっている人の割合である要介護認定率は国の平均を下回っていて、この15年間ほぼ増えていないんです。深刻な高齢化が進んでいるにも関わらず、要介護認定率が低いんです。
──若葉台団地ではなぜ深刻な高齢化が進んでいるのにも関わらず要介護認定率が低いのでしょうか?
黒岩県知事:これは、地域の強いコミュニティと、住民同士の支え合いによるものです。若葉台団地では、自治会活動や多世代交流、スポーツイベントが盛んで、住民が生き生きとしています。例えば「ふらっと寄って何となく喋る場所」というのも作っていて、そこでは子育て中のお母さんが子どもを遊ばせながら、立ち寄ったご老人とお話をする。住民同士が日常的に交流する環境ができています。
──多世代間の交流が盛んなのですね。
黒岩県知事:はい。このようなコミュニティを県内に増やしていくことが目標です。コミュニティ再生・活性化の取り組みでは、社会参加を通じて就労やボランティアなど、様々な形で役割を持つことが、人々の生きがいややりがいに繋がると考えています。様々な世代が集まり、互いに交流し、支え合うことで、健康を維持し、孤立を防ぐ効果があることが示されています。
──一方で、神奈川県は若者の交流や発信も盛んですよね。
いのち・未来戦略本部室:はい。私たちは、コミュニティ再生・活性化のために、「かわさき若者会議」や「NAMIMATI」といった若者団体の交流会を開催しています。この交流会で若者団体が抱える困りごとや課題に耳を傾け、それらに対する解決策を共に考えています。
以前開催した交流会では、活動内容の発表や意見交換を行いました。同じ興味や問題意識を持つ団体同士のつながりを作れたことで、ノウハウの共有ができる場になっています。例えば、SNSを使った情報共有の方法を取り入れたり、同じ横須賀市内の若者団体同士が交流会をきっかけに連携し、新たな取り組みの検討を始めています。
他にも、SNSを活用した情報発信をテーマにワークショップを行い、各団体が自身の活動をSNSでどのように紹介するかを話し合いました。例えばビーチクリーンでは、ゴミ袋に麻袋を使用するなど、若者も注目しやすい工夫を取り入れていて、「参加したくなる見せ方」というのも共有されていました。
県としては、これらの若者団体を中心とした情報を集め、今後は団体数を増やし、民間企業とも連携して活動の幅を広げていく予定です。このように、若者同士を繋げることで新たな化学反応を生み出し、コミュニティの活性化に寄与しています。
県知事に聞く、神奈川県のこれから
──知事がこれから特に力を入れていきたいと考えている分野はありますか?
黒岩県知事:今後の重点はデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進です。特に医療とヘルスケア分野のDXに注力しています。私たちは「マイME-BYOカルテ」というアプリケーションを開発し、県民が自身の健康情報をデータとして管理することで、未病の状態を把握し、早期に対応していけるようにしています。
──健康データを日々管理するというのは、ちょっとした異変や生活習慣に気づくのに、とても役立ちそうですね。
黒岩県知事:はい。この「マイME-BYOカルテ」には、日常の様々な健康データが記録され、それを基に個人の健康状態を知ることができます。また、「マイME-BYOカルテ」と連携した電子母子手帳の導入も進めており、生まれた時からの健康記録を一元管理することで、健康管理の質を向上させています。
さらに、「未病指標」を追加で実装するなど、一人ひとりが自らの健康状態を把握しやすくなるよう取り組んでいます。これらのデジタルツールを活用することで、健康な生活を長く維持し、未病の段階での介入を可能にすることが目的です。
──医療分野のDXが今後鍵になってきますね。
黒岩県知事:コロナ禍突入の最初のニュース、ダイヤモンド・プリンセス号がやってきたのも神奈川県でした。あの経験を生かし、オンライン診療やデジタルを活用した健康管理など、新しい医療の提供方法を探求しています。DXを通じて、効率的かつ効果的な医療サービスを提供し、限られた医療資源を最大限に活用することを目指しています。
今後より「いのち輝くマグネット神奈川」をDXの推進によって推進していきたいと思っています。
──日本の、そして世界にとっても神奈川県が高齢化問題や医療分野のDX・発展の先駆者になっていきそうですね。本日はお時間をいただきましてありがとうございました。
都内近くで心身を整える!神奈川県のウェルビーイングスポット
箱根や小田原、足柄、鎌倉など歴史の地だけでなく、鎖国後の開港から近代化の象徴である横浜など、多彩な歴史を感じられる神奈川県。都心から近いにも関わらず、大自然や歴史を目一杯感じられる。そこで、「ウェルビーイングスポット」をテーマに、神奈川県の魅力的な場所を黒岩県知事に教えてもらった。
食・運動・癒しがコンセプト「BIOTOPIA (ビオトピア)」
「BIOTOPIA」は、「BIO」(いのち輝く社会の実現)と「UTOPIA」(未病改善の取り組みを実現する理想的な里)を表し、健康な社会を実現するための場所にしていきたいという思いが込められています。地元食材を楽しめるレストランやマルシェ、アリーナやスパをはじめとした運営施設などを運営。子どもから大人まで楽しめます!
黒岩県知事:ここはヘルスケア分野で推進している「未病」の拠点として位置づけられている施設です。県の西部に位置し、箱根や小田原などにも近く、温泉や豊かな自然もあり、富士山も見える場所です。「食」、「運動」、「癒し」をコンセプトに、全世代が楽しく未病改善ができます。
関東ではここだけの大自然!海も山も一気に満喫「城ケ島・三崎」
年中温暖な気候の三浦半島。その中でも城ケ島のその豊かな自然は「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で2つ星に選ばれた。港町ならではの自然が作り出した絶景や海の幸がたのしめ、さらに小網代の森では森と海と干潟が繋がる珍しい自然も感じられる!
黒岩県知事:「小網代の森」は、関東で唯一のもので、山から海に流れていくプロセスが集約されている場所です。それほど距離はないですが、山から海へ流れていく間にさまざまな生態系の変化が見られるので、散策に非常にいいです。また、アカテガニという赤くて小さなかわいいカニにも会えます。都心からも近い場所であるにも関わらず、大自然の中に入ってきたような感じを味わえる場所でもありますね。
信仰の歴史と神々しさを感じながら歩く「大山」
伊勢原市にあり、日本遺産にも選ばれた大山。山岳信仰の地として、古くからの参道が残る。ケーブルカーに乗って大自然を満喫するもよし、こま参道で縁起物とされる大山こまの職人技を見たり、大山の滝を巡ったり、と歴史や自然を感じながらそれぞれの大山詣りをしてみたい。
黒岩県知事:大山阿夫利神社からの眺望は、都心の近くだけど別世界にいるような、神々しさがあります。江戸時代には信仰の山として江戸の町民が、大山詣りに来ていたという歴史があります。宿坊や参道も残っていますし、実際に登って行くと神々しさを味わえるスポットです。
Wellulu編集後記:
神奈川県が取り組む「いのち輝く」暮らしへの取り組みをお伺いし、その独自の視点は大変印象的なものでした。健康と病気の間のグラデーションである「未病」に着目して、健康か病気か、ではなくその間である未病を改善することで健康を保つというアプローチは高齢者だけでなく若い世代にも重要な視点だと思います。さらに、日本各地で高齢化が進む中で、若葉台団地の例は、社会参加を通じてそれぞれが様々な形で役割を持つことによって生きがいややりがいに繋がること、また、世代間交流により健康の維持や孤立の防止があるなど、これからのコミュニティ再生・活性化の希望となるだろうと感じました。
1954年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、1980年フジテレビジョンに入社。「FNNスーパータイム」や「新報道2001」のキャスターを歴任後、国際医療福祉大学大学院教授を経て、2011年4月神奈川県知事に就任。健康と病気の間の概念として「未病」のコンセプトに注目し、超高齢社会を乗り切る「ヘルスケア・ニューフロンティア」や健康長寿社会を見据えた「人生100歳時代の設計図」等、「いのち輝くマグネット神奈川」の実現に向けて取り組んでいる。未病改善による健康長寿の取り組みが認められ、2022年に未病コンセプトを活用した「健康な高齢化」に向けた取り組みが国際的に認められ世界の「The Healthy Ageing 50」の50人の1人に選ばれる。