
かつて日本で唯一海外に開かれた地として、海外の文化との交流や融合を経て、独自の文化が息づいた長崎県。日本一離島の多い県として、自然豊かな地域でもあります。最近では、西九州新幹線の開業をはじめとして、まちの佇まいや産業構造の『100年に一度の大きな変革の時期』を迎えていることをチャンスと捉え、みんなが想いを一つにして取組を進める旗印として、ビジョンの策定を進めています。
現在抱えている課題や県外への魅力の発信などの取り組みなどから長崎県が目指す未来像とは…?
また、県内外の長崎好きが集まる巨大なオンライン・オフラインコミュニティ「長崎友輪家(ながさきゆーりんちー)」という地域コミュニティの取り組みや子育て支援、健康づくりについて、さらに現在長崎県が進めているビジョン策定についてお話を伺った。
本記事のリリース情報
ウェルビーイングに特化したメディア「Welulu」にて長崎県の取り組みについてインタビューを受けました。
選ばれる県になるために。県民と共に実現を目指すビジョン
──2023年から「新しい長崎県づくり」のビジョン策定を進めていると思いますが、そこにはどのような背景や想いがあるのでしょうか?
西さん:「新しい長崎県づくり」のビジョンは、長崎県が県内外の皆様から選ばれる県になるために、様々な立場の方々が思いを一つにして連携しながら取組を進めるための旗印として策定を進めています(2024年春公表予定)。具体的には、特定の分野に絞って、概ね10年後の長崎県のありたい姿とその実現に向けた大きな方向性をお示しすることにしています。
長崎県は、全国に比べて人口減少や少子高齢化が早く進んでいて、労働力不足や地域経済の縮小、公共交通・地域コミュニティの維持・確保の問題など様々課題を抱えていますが、見方を変えれば、そうした課題解決に向けて最先端技術の社会実装などを全国に先駆けて進めていくチャンスがあると言えます。また、まちや産業構造が大きく変化していく重要な時期を迎えています。
そうした時期だからこそ、将来のありたい姿をお示しするビジョンを策定して、皆様に共感をいただきながら取組を進めていくことで、県民の皆様に「夢や希望」、また長崎県に対する誇りや期待感を持ってもらいたいと考えています。
──「夢や希望」を持ち、県民一人ひとりが共につながり、共に進めるためのビジョン。というイメージでしょうか?
西さん:そうですね。みんなが、県をより良くしようという意識を持ち、それぞれが誇りを感じられるようになることが私たちの願いです。つまり、これは県庁だけでなく市町、民間企業、大学等、そして県民の皆様と一緒に取り組むものだと考えています。
このビジョンは、従来の県政全般にわたる計画である総合計画と少し異なり、より特定の分野にフォーカスしています。かつ、農林業、水産業などの分野にとどまらず、デジタル化、子育て支援、地域開発など、多様な分野を縦割りではなく、横断的に、分野を超えた連携・取り組みというのが特徴です。
──“共に取り組む”とのことですが、ビジョン策定にあたって、実際に県民の声はどのように反映しているのですか?
小柳さん:はい。懇親会や講演会を開催し、様々なバックグラウンドを持つ方々、例えばデジタル関係の専門家、子育て中の親御さん、離島で地域作りに取り組む方々などにご参加いただき、県の提案に対する意見をいただきました。自分ごととして捉えてもらえるビジョンにするためにも、具体的な意見を聞いていくことが重要だと考えています。
──現状、定まっているビジョンの内容について詳しく教えてください。
小柳さん:ビジョンのコンセプトは「未来大国」です。これは、長崎県が県民にとって誇りや未来への期待感を持たれ、国内のみならず世界に存在感を示していく姿を表現しています。
かつて、長崎は世界に対する日本の窓口でした。海外から伝来したものが混ざり合い、新たな文化や知識、技術等などが生まれ、それを求める人々が集まり、またそれらは長崎から日本中へと広がりました。このような長崎のDNAを蘇らせたい、様々な課題をみんなで乗り越えたい、という思いがあります。
──なるほど。その課題の中で、特に今だからこそ重視したい分野などもあるのでしょうか?
西さん:重点的に取り組む分野として、こども、交流、イノベーション、食を考えています。特に「こども」施策を軸に、将来を担う子どもたちが安全・安心、そして健やかに成長すること、彼らの能力と可能性を高め、社会での多様な活躍につなげていくことが重要と捉えています。
──長崎の明るい未来を築くためにも、今の子どもたちの成長が重要ですもんね。
西さん:はい。そして「交流」分野については、古くからの海外との交流による異国情緒あふれる街並み、有形・無形の文化や美しい自然、個性あふれる離島など、県内外の人を惹きつける多様な資源を活かし、交流人口拡大・地域活性化に繋げることをポイントにしています。
──それぞれの取り組みで目指すべき未来像は、すでに描けているのですね!イノベーション、食についても教えてください。
西さん:「イノベーション」分野については、カーボンニュートラル実現に向けて、海洋エネルギー関連産業や半導体関連産業といった新しい時代に対応した産業の振興、さらに未来を創る新たなサービスの創出や先端技術の社会実装を進め、地域の活力へ繋げる。
「食」分野については、長崎の地形や気候等の特性を活かした農産物や豊かな水産物などの魅力発信による需要の創出、美味しくて多様な「食材」を国内外に届けたり、料理としても誇れる「食」を県内各地で提供し人を呼び込むなど、「美味しい!長崎」の実現に繋げるというものです。また、「健康」などの分野の追加も今後検討していくこととしています。
──このビジョン策定を経て、その後計画している取り組みについて教えてください。
小柳さん:令和6年度からは、実際にこのビジョンに沿って、分野を超えた取り組みをスタートさせたいと考えています。具体的な取り組みについては、まだ詳細を詰めている段階ですが、令和6年度は分野を超えた取り組みの土台作りをしっかりと進めていきたいと考えています。
関係人口の拡大を目指して!県内外から長崎好きが集まるコミュニティ
──ビジョンを基に、今後改めて具体的な取り組みの内容を詰めていく段階かとは思いますが、これまでの取り組みについて教えてください。長崎県の課題として人口減少のお話などがありましたが、地域の住みやすさにおける地域コミュニティの取り組みについてはどうでしょうか?
嶋津さん:はい、まず長崎には、県内外の長崎好きが集まるコミュニティ「長崎友輪家(ながさきゆーりんちー)」があります。このコミュニティは、長崎県内外の関係人口の拡大を目的として生まれたものです。関係人口とは、その地域に住んでいなくてもその地域に関心を持つ人々であり、つまり、「県内外の長崎好きな方々」ということです。
──ユニークな名前のコミュニティですね(笑)。一度聞いたらずっと覚えてられます!「長崎友輪家」について具体的に教えてください。
嶋津さん:長崎友輪家は、本県と連携協定を結んでいる民間団体の方と、「長崎暮らし」の多様な魅力を多方面に発信する取組を検討するなかで、オンラインコミュニティの活用を提案いただき実現したものです。
コミュニティは2022年11月に設立されましたが、発起人をはじめとしたメンバーの発信力や参加者同士の口コミを中心に参加者数を増やし、現在では約350人が参加しています。
行政の力のみでこの規模のコミュニティを作ることは非常に困難であり、まさに官民連携の重要性が感じられる事例であると考えています。
──実際に「長崎友輪家」コミュニティ内ではどのような交流が行われているのでしょうか。
嶋津さん:コミュニティ内では、LINEのオープンチャットを利用して、長崎のイベントやグルメに関する情報共有などが活発に行われています。また、親子や子育てに関する話題を扱うチャンネルも設けているなど、メンバー同士が自由に情報や意見の交換を行っています。さらに、移住を検討している方向けのアドバイスを提供するチャットもあります。
オープンチャットのほかに各種イベントも充実しており、TV会議システムを活用したオンライン交流会や、県内外の長崎ファンが集まり語り合うオフラインイベント、移住検討者向けの相談会などが定期的に開催されています。
また、2023年1月には、長崎ランタンフェスティバルの時期に合わせて、友輪家で繋がった皆さんが、全国各地から長崎に集合し、街歩きイベントや長崎を代表するお土産の試食会、地元のプロバスケットボールチーム「長崎ヴェルカ」の応援ツアーなどを通して交流を深めました。
──長崎友輪家などの地域コミュニティに参加して、移住を決めた移住者もいるのでしょうか。
佐々木さん:はい、実際に長崎県に移住された方々もいます。もちろん、長崎県では、移住者が新しい生活をスムーズに始められるように様々なサポートを提供しています。地域コミュニティはその一環であり、移住者同士の情報交換の場として、また、地域の伝統や文化を学ぶ機会として機能してます。これにより、移住者は地域に溶け込みやすくなり、地域社会の一員として活動していくことが可能になります。
──移住の際に活発な地域コミュニティがあるのはとても頼もしいですね!長崎友輪家での活動について、今後の展望について教えてください。
佐々木さん:長崎友輪家は、今後も長崎県の魅力を広く伝える活動を続けます。これからもオンラインコミュニティを通じた情報提供、オフラインイベントの定期的な開催など、移住を検討している方々にとって有益な情報を提供し続けることで、長崎県への関心を高め、より多くの人々を長崎に惹きつけることが私たちの目標です。また、地域の人々との交流を深め、長崎県のさらなる発展に貢献していきたいと考えています。
地域社会や企業とも連携して行う子育てのカタチとは?
──ビジョン策定の中でも「こども」政策を軸にしているとのことでしたが、長崎県が取り組んでいる子育て支援についてはどうでしょうか?
福井さん:まず、平成27年度末に開設したウェブサイト「ココロンネット」についてご紹介します。当時、長崎県では子育てに関する信頼できる情報が不足していることが問題となっていました。このようなニーズから、イベント情報や子育てに関する様々な通知を一極集中させることを主な目的として、このウェブサイトを立ち上げました。ウェブでの情報発信が当時まだ十分でなかった市町村にとって重要な取り組みだったと思います。
また、現在では全国でも取り組みが行われていますが、子育て応援パスポートのデジタル化も、全国に先駆けて実施しました。デジタルパスポートを利用することで、加盟店舗で様々なサービスや割引を受けられます。
──子育て情報へのアクセスの良さがポイントということですね。サービスの利用者からの声があれば教えてください。
本多さん:利用者からは、ココロンネットを通じて提供されるサービスやイベントなどの情報が大変役立っている、という肯定的な声が届いています。今後の計画としては、ウェブベースのチャットボットを導入し、子育てに関する相談に応じる体制を整える予定です。これにより、親御さんがより簡単に情報を得られるようになり、子育てのサポートが一層強化されることを目指しています。
── チャットボットでリアルタイムなサポートを、ということでしょうか。子育ての悩みの相談先が増えるのはありがたいですね。続いて、「ココロねっこ運動」についても詳しく教えてください。
本多さん:はい、「ココロねっこ運動」は「子どもたちの心の根っこを育てるため、大人が変わろう、行動しよう」という、県民総ぐるみの子育て支援を推進する長崎県独自の県民運動です。平成13年度に始まって、令和4年度末現在で6200以上の団体が登録しています。この運動では、「大人からの積極的な挨拶や声掛け」のような日常の小さな行動から始めることが重視されていて、さらに企業や他の団体とのコラボレーションを通じて、地域全体でのこどもたちの育成と支援が強化されることを目指しています。
例えば、ある公共交通機関では毎月第3日曜日「家庭の日」とタイアップしてこどもの運賃無料デーを行ったり、建設会社が親子向けワークショップを開催するなど、地域全体で子育てを支援する動きが見られます。そのほかにもこどもたちが親の職場で働く姿を見る「パパママおしごと体験事業所」も募集しています。
授業参観でなく、お仕事参観?こどもが両親の職場へ!
──「パパ、ママおしごと体験事業所」について、こどもたちが親の職場で働く姿を見る機会ってなかなかないと思ったのですが、この取り組みの目的や内容など詳しく教えてください。
本多さん:これは、こどもたちが親の職場で働く姿を見ることで、仕事への理解を深め、親子の絆を深めることを目的としています。例えば、カステラ屋さんではカステラ作りの体験、建設会社では植樹体験、ドッグトレーナーではトレーニングの実践、ドローン操作や家の間取りの計画などを行いました。
この取り組みは、日々の家庭生活の中では見ることのできない親の働く姿を直接体験する貴重な機会を子どもたちに提供します。これを通して、こどもたちは親の努力や仕事に対する理解を深め、親子のコミュニケーションが促進されることが期待されています。
──授業参観の逆パターンですね!こどもにとっても、ママ・パパにとってもすごく価値のあるプロジェクトな気がします。
福井さん:そうですね。また、この事業は地域社会における企業の役割を再考する機会にもなっています。従来、子育て支援に関わりが少なかった企業が、このプロジェクトを通じて子育て家庭の支援に貢献することが可能になり、地域コミュニティの一員としての役割を果たすことができます。実際に参加した企業からは、やってみてよかったという声も上がっています。もちろん、企業の社会的責任の一環としても機能している取り組みだと思っています。
──地域コミュニティの一員として企業の子育て支援が進む…。子育てに優しい地域社会になりそうです。
福井さん:まさに、「パパ、ママおしごと体験事業所」は、子育て家庭にとっても、参加企業にとっても、地域社会にとっても有益な取り組みであり、今後もこのようなプロジェクトを通じて、子育て支援の拡大と地域社会の活性化を目指しています。こうした取り組みにより、地域社会全体が子育てを支援し、こどもたちが成長する環境を育むことに成功していると実感しています。長崎県では、引き続きこれらの取り組みを通じて、子育て家庭の支援を強化していく予定です。
運動・食事・禁煙・健診を考える。「はじめる!長崎健康革命」
──次に、長崎県の健康課題や健康づくりに対する取り組みについて教えてください。
岩橋さん:まず、長崎県民の健康上の生活習慣は、全国的に見ても良くないのが現状です。このような現状を踏まえ「はじめる!長崎健康革命」という取り組みを行っています。これは「運動」「食事」「禁煙」「健診」の4つを中心に県民の皆様に健康づくりを促す取り組みです。
生活習慣の課題としては、まず、運動不足です。目標とされる1日の歩数である9000歩に対して、男性は平均7000歩、女性は6900歩と、ともに目標に達していないのが現状です。次に、野菜摂取量の不足があります。目標摂取量は1日350gですが、長崎県民は平均で234gしか摂取しておらず、なんとこれは全国ワーストです。
また、喫煙率も高く、特に男性の喫煙率は全国ワースト4位です。加えて、特定健診の受診率も低く、40歳以上の人口の半数にも及ぶ人が健診を受けていないという状況で、全国でワースト2位となっています。高血圧の問題も深刻で、男女ともに高血圧の割合が高く、収縮期血圧は全国でワースト6位です。
これらの問題を踏まえ、県民一人ひとりが健康習慣を見直し、改善に取り組むことが重要と捉え、長崎県では健康増進の取り組みを推進しています。
──なるほど。全国的に見ても健康状況はあまり思わしくないのですね…。では「はじめる!長崎健康革命」における具体的な取り組みについて教えてください。
岩橋さん:ながさき健康づくりアプリとして「歩こーで!」をリリースしています。目標歩数に応じて「長崎の変」キャラクターの「にゃーが」が増えていく機能があり、目標達成すると5匹揃うユーザーが楽しみながら健康を意識してもらうことを目指しています。
歩いたポイントを使って、県内の協力店で割引やサービスを受けられる仕組みもあります。例えば、温泉施設での割引や飲食店での特典など、様々なお店でポイントを利用することが可能です。
また去年「スーパーではじめる!減塩・野菜で健康革命!!クイズラリーキャンペーン」といったものも実施して、店を巡りながらクイズに答える形式のクイズラリーで、たのしみながら健康に関する知識を深める取り組みなども行っています。
──貯まったポイントを割引や抽選に使えるなど、これならたのしく続けられそうです。今後さらなる展開として計画している取り組みはありますか?
岩橋さん:2月に、アプリの各市町別ランキングを活用した、市町対抗の競争を開催しています。平均歩数やダウンロード率を基に、市町ごとに競い合う形です。また、来年度も企業対抗や住民対抗のイベントも予定しており、引き続き抽選キャンペーンも実施したりと、より利用してもらえるよう工夫を行っていく予定です。
自然や思考に集中して身を任せる、長崎県で過ごす上質なご褒美タイム
──最後に、長崎県のおすすめのウェルビーイングスポットを教えてください。
川原さん:長崎県には、大自然の中で静かでリラックスした時間を過ごすことができる魅力的なウェルビーイングスポットが多くあります。
まず一つ目としてご紹介するのは、五島列島にある中長期滞在型レジデンス「めぐりめぐらす」という宿泊施設です。この施設は福江島の北西部に位置し、廃校となった小学校の分校を全面改修、フランスやイタリアの修道院にインスピレーションを得た美しい建築が特徴です。「考える」ための場所として、宿泊者はこの静かな環境で、自分の思いを深く反芻する時間を持つことができます。
この宿泊施設は小さな集落にあり、滞在中は草刈りや海のゴミ収集などの地域コミュニティ活動に参加することを推奨しています。これはSDGsへの取り組みとしても位置づけられており、地域再生に貢献する形での宿泊体験が提供されています。五島の原風景と美しい建築に囲まれた環境で、デジタルデトックスや地域住民との交流を通じて、ゆったりとした時間を過ごすことができるのです。
二つ目のおすすめは、西海市の雪浦地区で開催される「ゆきのうら星空コンサート」というイベントです。年に1度、雪浦海浜公園(うしろの浜)で10月末に行われる特別なイベントです。五島灘に臨む美しい海辺で夕焼けとアナログレコードの音楽の中、それぞれが思い思いのスタイルで非常に贅沢な時間を過ごせます。
このイベントは、同地区にあるアナログレコード16万枚を所蔵する音浴博物館と日本を代表する音響メーカーテクニクスが提供する高品質な音響機器を利用して、星空の下で大音響ながらもレコードの柔らかな音と打ち寄せる波の音に包まれながら、自然の摂理に身を任せ、満点の星空を眺めるという、贅沢でリラックスできる時間が体験できます。
──どれも、長崎の自然や文化に触れられる素敵なスポットですね!本日はありがとうございました。
Wellulu編集後記:
地域コミュニティ「長崎友輪家」のお話は特に印象的で、その規模だけでなく、関係人口の拡大への貢献、すなわち県内外から人をつなぐことに大きく貢献しており、活発な交流の姿を感じました。また子育て支援に関しての独自の取り組みは、魅力に溢れ、子どもたちと親子の絆の強化に焦点を当てるなど興味深いお話でした。今後長崎県がこれらの取り組みを通じてどのような街へアップグレードしていくのか?気になります。