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直島芸術生態系vol.0〈番外編その3〉 現代アートと出合い、自らの「問いを立てる力」と視点を磨く

記事冒頭写真:「南瓜」草間彌生 2022年 ©YAYOI KUSAMA

2023年9月17日(日)・18日(月・祝)の2日間にわたり、直島および豊島の一部地域において、国内のアーティストやクリエイター、起業家、有識者、専門家といった多様なジャンルの人々が集う実験的な集まり「直島芸術生態系vol.0」が開催されました。

今回は、番外編第3弾。福武財団の塩田基氏とともに巡った、直島の現代アート体験記をお届けします。

番外編その1・2の記事はこちら

直島芸術生態系vol.0〈番外編その1〉特別企画「それぞれのウェルビーイング」対談
直島芸術生態系vol.0〈番外編その2〉 豊島の地で、食の未来と「よく生きる」を考える。

直島の自然と日常が融合した「共生するアート」を巡る。

高松港−宮浦港(直島)間のフェリー「なおしま」と、大巻伸嗣による2本の円柱状のトーテムポールのような「Liminal Air -core- /大巻伸嗣」(瀬戸内国際芸術祭作品)。

直島への旅は、果たしてどこから始まっているといえるでしょうか。それは、フェリーや飛行機での移動から、あるいはもっと前のアクセスを調べるところから、始まっているかもしれません。直島までのフェリーは宇野港と高松港の2つ。今回、Wellulu取材チームは高松港から入るルートで向かいました。海上タクシーなどもあるようですが、その土地の時間に身を委ねながら旅を楽しむのもいいものです。

現地を案内してくださったのは、福武財団の塩田基氏。「ベネッセハウス ミュージアム」や「李禹煥美術館」のほか、「家プロジェクト」や島に配置されたアートを巡るとともに、直島の歴史を紐解いていきます。

福武財団 経営企画部 特命部長、ベネッセホールディングス本社・直島統轄部 渉外課 担当課長の塩田基氏。2010年にスタートした「瀬戸内国際芸術祭」の企業連携も担当。
フェリーが港に近づくと見えてくるのは、草間彌生の「赤かぼちゃ」。(2006/直島・宮浦港緑地)©YAYOI KUSAMA

直島の玄関口・宮浦港のフェリーターミナルに到着すると出迎えてくれるのが、海の駅「なおしま」(設計:妹島和世 + 西沢立衛 / SANAA)。そこからすぐ港に沿って右手に向かって歩いていくと、白い立体アートが目に飛び込んできます。27の島々で構成される直島町の「28番目の島」というコンセプトのもと、三角形のステンレス製メッシュ約250枚で構成された「直島パヴィリオン」という作品です。ここまでで、早くも3つのアートにふれています。

「赤かぼちゃ」同様、作品の内側に入ることもできる。こちらは夜になるとライトアップされるそう。「直島パヴィリオン」(所有者:直島町 設計:藤本壮介建築設計事務所)

美術館とホテルが一体となった施設/ベネッセハウス ミュージアム

1992年に開館したベネッセハウス ミュージアムは、安藤忠雄設計のもと、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトとした美術館とホテルが一体となった施設。瀬戸内海を望む高台に立つこの美術館では、絵画や彫刻、写真、インスタレーションといった展示に加え、直島の自然や場の特性を取り込み、アーティストたち自らが場所を選んで制作した「サイトスペシフィック・ワーク」が設置されています。作品は館内だけでなく、周辺の林の中や浜辺にまで作品が点在。自然・アート・建築が融合した稀有な場がつくり出されています。

石そのものを見せるのではなく、空間を通じて空とつながることをコンセプトとした作品。「天秘」。安田侃 “天秘” 写真:山本糾

「これを観たときに、どんなふうに感じますか?」「なぜそう思いましたか?」。鑑賞しながら、さまざまな質問を投げかけてくれる塩田さん。作品を前にすると、その場で感じたことをなかなか言語化できないものの、まずは自分の素直な感覚を持つことが大切であると話してくれました。一人ひとりが違った感性を持つことで、そこからコミュニケーションが生まれ、お互いを認め合う。そうすることで、より良く生きることにもつながっていく。そんな仕掛けも散りばめられているように感じました。

直島での鑑賞スタイルは、ホワイト・キューブの空間で行うものとは全く異なり、季節の移ろいや時間の経過とともに、常に変化している「今」の状態を楽しむといったもの。いずれの展示も、あるのは作者名と作品名のみで、キャプションは存在しません。情報から離れて感覚からインプットするという行為は、普段あまり使っていなかった心の筋肉がほぐされていくようでした。

アーティスト・李禹煥と建築家・安藤忠雄のコラボレーションによる美術館/李禹煥美術館

開館10周年を目前に控えた2018年から19年にかけて制作された大型のアーチ、李禹煥「無限門」(2019) 写真:山本糾
李禹煥美術館 写真:山本糾

ヨーロッパを中心に活動している韓国のアーティスト、李禹煥(リ・ウーファン)と建築家・安藤忠雄のコラボレーションによる美術館。「もの派」の中心的なアーティストとして役割を担ってきた李禹煥の70年代から現在に到るまでの絵画・彫刻が、半地下構造となる安藤忠雄設計の建物のなかに展示されています。ここを訪れて感じるのは、ミニマルでありながらも、建築と響き合う静謐さとダイナミズム。

長さ25メートル・幅3メートルのステンレス板とアーチ、石を組み合わせた「無限門」は、作品について難しく考えたり、意味を見出したりしようとするのではなく、通るたびに体験をしてもらいたいという想いが込められています。ここでは言葉を介さずとも、自然や自分との静かな対話の時間を楽しむことができるでしょう。

空間そのものをアーティストが作品化/家プロジェクト

直島・本村地区に作品が点在する「家プロジェクト」。チケットを「本村ラウンジ&アーカイブ」で購入することで、各プログラムを鑑賞することができる。本村風景/写真:鈴木研一

直島・本村地区において1998年よりスタートした「家プロジェクト」。現在は「角屋」、「南寺」、「きんざ」、「護王神社」、「石橋」、「碁会所」、「はいしゃ」の7軒が公開されています。空き家を改修し、かつての時間と記憶を織り込みながら、空間そのものをアーティストが作品化している本プロジェクト。現在も生活が営まれている地域を散策しながら鑑賞するといったスタイルが実にユニークです。

今回鑑賞したのは、ジェームズ・タレルの作品に合わせて安藤忠雄が設計した「南寺」と、現代アートが地域や島民の生活に介在する契機となった作品の「角屋」。心が揺さぶられるというよりも、身体まるごと飲み込まれてしまうような、今までに体験したことのない感覚でした。いずれもここでしか味わえないアート体験であり、プログラムを一言で説明するのが困難であるということは、鑑賞を終えて会場を後にする人々の表情が物語っているように感じました。

「家プロジェクト」第1弾として1998年に生まれた作品「角屋」。宮島達男 家プロジェクト「角屋」"Sea of Time ’98" 撮影:鈴木研一

「ベネッセアートサイト直島」は、直島・豊島・犬島の3つの島を舞台にベネッセホールディングスと福武財団が30年以上にわたって展開する、アートを通じた地域再生を目的とした活動の総称です。直島の南部から始まり、1990年代以降は現代アートの聖地として知られ、国内外から多くの旅行者が訪れています。各島でのアート作品との出会い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々と触れ合いを通して、訪れてくださる方がベネッセホールディングスの企業理念である「ベネッセ―よく生きる」とは何かについて考えてくださることを目指しています。

“瀬戸内海の島に、世界中の子どもたちが集える場を作りたい”という思いから「直島国際キャンプ場」をスタートし、その後、美術館とホテルが一体となった世界初の施設である「ベネッセハウス」をオープン。1998年には直島の本村地区の古い空き家を改修し、アーティストが空間そのものを作品化する「家プロジェクト」を開始するなど、実に多岐にわたるアート活動を続けてきました。

また、瀬戸内海の島々を舞台に開催される現代アートの国際芸術祭「瀬戸内国際芸術祭」は、2010年から3年に1度開催され5回目を迎えています。昨年はコロナ禍の開催とあって来場者が落ち込んだものの、2019年には過去最多の118万人を記録。次回開催は2025年を予定しており、既存の地域に加えて3つの市町が追加で参加することが決定していることもあり、さらに盛り上がっていきそうです。

今回の取材を機に、新たなフェーズに向かって進化を遂げていこうとする直島の姿を見ることができました。最後に、福武財団名誉理事長・ベネッセホールディングス名誉顧問である福武總一郎氏の言葉を引用させていただきます。

「自然こそが人間にとって最高の教師」
「在るものを活かし、無いものを創る」
「経済は文化の僕(しもべ)」

編集後記

今回、はじめて訪れた直島を、塩田さんにご案内いただいた。事前にいろいろと学習していたこともあったが、実際に自分の目で観たり、体験することで全く違う印象を持った。そして、塩田さんの「さて、ここでおうかがいします。」といって私たちに問いを提供してくださったことは、僕の中で「考える」ということにつながった。

僕は、直島が大好きになった。そして、家族をいつか連れてきて、アートと自然が共存しているこの島を体感してもらいたいと思った。

子どもたちが、僕の今と同じくらいの年になる2050年に、僕たちは何を感じ、何を創造して、何と共生していくのだろうか? 僕自身のウェルビーイングの探求は続く。

直島という土地から、私たちが創っていくものは、次の「芸術生態系」。進化の先に新しい発見がある未来をつくっていく。

塩田さん、今回素敵なご案内をいただき感謝申し上げます。

堂上 研

 

参考:ベネッセアートサイト直島
https://benesse-artsite.jp/about/soichiro-fukutake.html
https://www.benesse-hd.co.jp/ja/about/naoshima.html

直島のシンボルとして親しまれている草間彌生氏の作品、「南瓜」。写真に収めようとして並ぶ観光客の行列も、新たな島の風景になりつつある。「南瓜」草間彌生 2022年 ©YAYOI KUSAMA

〈Information〉
ベネッセハウス ミュージアム https://benesse-artsite.jp/art/benessehouse-museum.html
李禹煥美術館 https://benesse-artsite.jp/art/lee-ufan.html
家プロジェクト https://benesse-artsite.jp/art/arthouse.html
ART SETOUCHI https://setouchi-artfest.jp/

番外編その1・2の記事はこちら

直島芸術生態系vol.0〈番外編その1〉特別企画「それぞれのウェルビーイング」対談
直島芸術生態系vol.0〈番外編その2〉 豊島の地で、食の未来と「よく生きる」を考える。

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