
長野県農政部農村振興課が考える「農ある暮らし」についてお話を伺いました。
長野県の豊かな自然、そして重要な産業である「農業」。自然や農業との関わりを持てることが理由で長野に住んでいる方、移住した方も多いはずです。毎日切り離せない自然や農業との関わりを、もっと自分の暮らしの中に取り入れ、自分らしく生きていくべく、農村振興課では「農ある暮らし」を提案しています。
家庭菜園、花を植えてみる、自分の畑を持ってみる、ひと夏だけ挑戦してみる、全てが「農ある暮らし」。長野県の「農ある暮らし応援事業」は全ての人に開かれています。農ある暮らしを志す多様な方々をサポートしている長野県農ある暮らし相談センターの専任アドバイザー・山村さんへインタビューした内容をお届けします。

山村 まゆさん
長野県農ある暮らし相談センター 農ある暮らし アドバイザー
本記事のリリース情報
ウェルビーイングに特化したWebメディア「Wellulu(ウェルル)」にて本県の「農ある暮らし」の取組が紹介されました!
デジタルメディア「Wellulu」で「農ある暮らし」の取り組みが紹介されました
長野県が「農ある暮らし」で叶えたい未来
──長野県が「農ある暮らし応援事業」を始めた背景にはどのような理由があるのでしょうか?
山村さん:長野県は、移住を希望する人々にとって魅力的な場所として知られていますが、過疎化や高齢化の進展、「担い手の減少」などの問題に直面しています。特に中山間地域の農村では、暮らしや文化を支える人々が急速に減少しているのです。このような状況を踏まえ、農ある暮らしを通じて多様な人材を農村に呼び込み、地域活性化を図ることが大きな目的です。
実際に、移住セミナーを実施した際に「農ある暮らしに興味がある」と回答した方が全体の4割と、長野での農ある暮らしへの期待があることもわかりました。この自然豊かな環境で、やりたかった「農ある暮らし」をその方にあった方法で実現してもらうためのサポートをしています。
──「農ある暮らし」の推進によりどのような効果があると思いますか?
山村さん:将来的に地域の担い手を増やし活性化させることが期待できます。さまざまな業種の人材が増えることで、地域コミュニティーが豊かになります。実際に地域おこし協力隊員として県内に訪れた隊員が、自身のキャリアをいかした農ある暮らしを送ることで、地域に新たな活気をもたらしています。
また、定年後田舎暮らしを始める、というのが主流な時代でもなくなってきました。コロナ禍でのリモートワーク、副業、教育の観点などあらゆる時代的要因も後押しして、今や若い世代や子育て世代、単身者も含め、多様な人々が自分らしい暮らしを求めて移住を考える傾向があります。
──「農ある暮らし」の取り組みに対する県民の方の反応はいかがですか?
山村さん:この「農ある暮らし」事業は県外の方々だけでなく、県内に住む人々も対象なんです。家庭菜園を楽しむ方々、自分の畑を持っているがいかせていない方々など、幅広い層からの関心があります。地域の人々からの栽培相談などもあり、ヘルプセンター的な機能も果たしています。農業・農村をみんなでまもり続けていく必要があることに関心を持ってもらえているのではないかと思っています。
──県民の方にとっても大切な取り組みであるというのは、素晴らしいことですね。
山村さん:実は私も16年前に東京から長野県塩尻市に移住しました。祖父母が安曇野の池田町にいたこともあり、子供の頃から夏休みには必ず池田町を訪ね、北アルプスに登って山小屋に泊まったり、キャンプをしたり、畑で農産物を収穫したりしていました。当時からこういったアウトドアや自然に関わることが大好きで、いつか私は長野に暮らすんだっていうのを物心ついたときから考えていたと思います。そう考えると移住には20年程かかってしまったんですが、農業高校に行ったり園芸農業の経験を積みながら、自然との関わりを探求していた流れの中で、今の暮らしがあります。
──今では農ある暮らし相談センターの専任アドバイザーとして活動されていますが、具体的にどのようなサポートをされているのですか?
山村さん:主な役割は、相談対応と情報発信の二つです。相談対応については、栽培相談から農地の活用、新規就農の支援、移住相談まで幅広く行っています。例えば、家庭菜園のはじめ方や野菜の栽培方法、西洋野菜の料理方法など、具体的な質問にも対応しています。また、移住希望者や若い世代からの相談も増えており、農ある暮らしに関する多様な質問に応じています。情報収集や地域の人々とのネットワーク構築も重要な仕事です。
もう一つの重要な役割は、信州の農ある暮らしの魅力を発信することです。私自身も東京から長野に移住しているのでその経験を活かしています。また得意分野であるフラワーアレンジメントや料理、ハーブを育て楽しむ生活などを通じて、農ある暮らしの魅力をSNSやセミナー、講習会などで伝えています。
──24名の農ある暮らし地域サポーターの役割について教えてください。
山村さん:農ある暮らしを支援する県の活動を地域でサポートする県内在住の農業者や農ある暮らし実践者の方々で、特定の分野に精通し、市町村や住民グループからの要望に応じて技術指導やアドバイスを提供しています。たとえば、特定の作物の栽培方法や有機農業、料理・加工、移住など、得意分野を活かし、農ある暮らしを希望する方々がスムーズに活動を開始できるようサポートしています。
自分に合ったライフスタイルを実現できる、多様な「農ある暮らし」のカタチ
──「農ある暮らし」のスタイルとして、どのような形がありますか?
山村さん:農ある暮らしには、多様なスタイルがあります。特に県外の方には、ステップバイステップで農業に携わることを提案しています。たとえば、庭先で始めてみる、市民農園を借りてみるなど、暮らしの中に農を取り入れるスタイルです。また、半農半Xや更に関心がある方は本格的な農業に進む道もあります。
──「半農半X」は、時々メディアでも注目されていますよね。実際に人気とのことですが、具体的にはどんなスタイルなんでしょうか?
山村さん:言葉自体の意味としては「半分農業、半分は他の何か(X)で営む。」ということになります。実際に県内で実現されている方の例としては、地域おこし協力隊として地域に入った後、特産品の栽培や加工までご自身で関わっている方や、医師の傍ら果樹栽培に挑戦されている方など、様々なスタイルがあります。
また、在来種の黒豆を栽培しお茶として加工する女性や、キッチンカーでの焼き鳥屋を営みながら農業に携わる方など、農繁期の農業生産と農閑期の加工を組み合わせて収入源としている方もいます。
──農業を始めたい人に対して、地域の反応はどのようなものですか?
山村さん:地域の方々は、農地の利用や農業技術の伝承に協力的です。よい関係を築ければ新しく農業を始める人に対して、農地や農業機械、技術などサポートしてもらえることもあります。また、地域おこし協力隊や移住者が活躍することで、地域の高齢者も自分たちの暮らしや技術が価値あるものと認識し、後世に伝えることに意欲を見せています。これにより、地域の活性化や相互関係の強化が進んでいると感じています。
──農村ワーキングホリデーについても教えてください。
山村さん:農村ワーキングホリデーは、農家さんのところで宿泊しながらお手伝いをするプログラムです。これにより、実際の農業体験を通じて農ある暮らしを学べます。食事を提供してもらいながら、実務を経験することができるため、実践的な学びが得られます。地域によっては、このようなプログラムを積極的に取り入れているところもありますが、高齢化の影響で受け入れ先が減っている現実もあります。参加者は年齢層も幅広く、趣味で参加する方から、真剣に農業を学びたい方まで様々です。
──農ある暮らしに興味がある方や移住を検討されている方々向けの体験プログラムについて教えてください。
山村さん:そういった方々向けにも様々な体験プログラムを提案しています。たとえば、クラインガルテン(滞在型市民農園)の利用や、県が提供する「農ある暮らし入門研修」があります。この研修は年に4回行われ、1回あたり1泊2日のプログラムです。参加者は農作業を体験したり、移住者の話を聞いたりします。今年は16名が参加し、そのうち9名が県外からの参加者でした。参加者同士の交流も活発に行われていて、それぞれの暮らしの様子がプログラムが終わった後もSNS上で共有されているのも、とても嬉しいことです。
「農ある暮らし」を体験してみよう。実際に滞在して見つけるウェルビーング
──農ある暮らし入門研修は具体的にどんな内容なのでしょうか?
山村さん:この研修では、野菜や果樹の季節ごとの管理作業を通し、フィールドで長野県の「農」に触れながら基礎知識を学びます。たとえば、小諸地域のブランドじゃがいも「白土ばれいしょ」の収穫作業や、リンゴの色づきをよくするための葉つみ作業から収穫・調整作業まで。農作物の種類や栽培方法、季節に応じた作業を体験することができます。
また、先輩移住者やこの研修のOB・OGとの交流もあり、実際にこの地域で暮らす人の生の声を聞く機会もあります。これにより、農ある暮らしのリアルな一面を知ることができます。さらに、研修では農ある暮らし相談会も行われ、移住先の選び方や様々な情報を提供しています。これらの活動を通じて、参加者は農ある暮らしのイメージを具体化し、自分に合った暮らし方を考えるきっかけになると思います。
──実際にはどんな方が参加されているのでしょうか?
山村さん:県外から参加の方だと移住希望者、県内からの参加の方だと定年帰農者、農ある暮らしや農業に興味がある方など、幅広い層の人々が参加しています。農ある暮らし入門研修では、専門家がそれぞれの分野で講座を担当し、実際の農業体験を通じて、農ある暮らしのイメージをより具体化できるプログラムが用意されています。
また、今年からは新たな試みとして「農ある暮らしガーデン」が設置され、家庭菜園風のエリアで多品目の野菜やハーブ栽培のほかレイズドベッド(花壇風菜園)での栽培体験が可能になりました。これにより、参加者は小スペースでも野菜栽培ができる方法や自身の暮らしに取り入れやすい方法を学べるようになりました。
──県内外から参加される方がいるのも、地域のコミュニティの活性化に繋がりそうですね。実際参加された方からの反応はいかがでしょうか。
山村さん:プログラムでは先輩移住者の経験談を聞いたり、実際の畑を見学したりする機会もあり、これが参加者にとっては次のステップへの具体的なイメージを持つ助けになっているようです。
実際に研修の最中に移住先を見つけられているような方もいらっしゃいました。
──まさに次のアクションにつながる時間になっているというのが、研修の内容の濃さが伺えますね。次回は2024年5月頃の開催とのこと、3月に情報が出るようなので要チェックです!
山村さん:はい、研修の内容はもちろん、研修の舞台となる小諸市の施設からは浅間山がとても綺麗に見えます。たった2日間でも、ぜひ農ある暮らしに興味のある方にお越しいただければ、新しいライフスタイルやウェルビーングの形を見出していただける機会になるのではないかと思っています。
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農ある暮らし入門研修 2024年5月頃開催予定(全・年4回開催)
↓情報公開はこちらをチェック(3月情報公開予定)
https://www.pref.nagano.lg.jp/nogyodai/index.html
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Wellulu編集後期:
今回のインタビューを通じて長野県農政部農村振興課が提案している「農ある暮らし」は、地域の活性化と多様なライフスタイルの実現を目指す取り組みなんだと感じました。専任アドバイザーによる栽培相談や農地活用の支援、新規就農へのサポートは、農業に興味を持つ人々にとって大きな助けとなります。また、情報収集や地域のネットワーク構築のサポートは、移住者や地域住民にとっても非常に価値があります。
また、農村ワーキングホリデーや農ある暮らし入門研修などの体験プログラムは、農業に関心を持つ多様な人々に向けた実践的な学びの場を提供しています。これらのプログラムを通じて、参加者は自分に合った農ある暮らしを見つけ、新しい生活スタイルを実現するきっかけにつながるんだろうと感じました。
東京都杉並区生まれ。都立農芸高校、恵泉女学園短期大学園芸生活学科にて園芸を学ぶ。短大在学中にイギリスのブルックスビーカレッジ・ガーデンデザイン短期研修課程を修了。卒業後は生花店や、ドライフラワー店、恵泉女学園非常勤講師等の勤務を経験後、スイスの野菜農家にて約2年農業研修生として滞在。帰国後2007年より塩尻市へ移住。塩尻市宗賀の長野県野菜花き(かき)試験場にて研究補助や農業大学校野菜花き実科研究科特別教授等の勤務を経て、2019年より長野県農ある暮らし相談センターのアドバイザーとして、全県および首都圏拠点で活動中。