2023年9月17日(日)・18日(月・祝)の2日間にわたり、直島および豊島の一部地域において、国内のアーティストやクリエイター、起業家、有識者、専門家といった多様なジャンルの人々が集う実験的な集まり「直島芸術生態系vol.0」が開催されました。
今回は、番外編第2弾。人が集い、自然やアート、食と繋がるための複合施設、「豊島エスポワールパーク」の館長・三好洋子さんとの対談をお届けします。
番外編その1・3の記事はこちら
直島芸術生態系vol.0〈番外編その1〉特別企画「それぞれのウェルビーイング」対談
直島芸術生態系vol.0〈番外編その3〉 現代アートと出合い、自らの「問いを立てる力」と視点を磨く
豊島エスポワールパーク館長・三好洋子×Welluluクリエイティブディレクター・細川剛
細川:二人とも黄色で、なんだかペアルックみたいですね(笑)。
三好:本当ですね(笑)。
細川:まずは「豊島エスポワールパーク」を作られた背景からお聞きしても良いですか?
三好:理事長である福武美津子とのご縁が大きいんですけれど、実際に豊島という場所にきてみて感じたのが、自然や地域の方々との関係性が理想的だったということです。自分と向き合ったり誰かと繋がったりするのにも、ちょうど良かったんですよね。
細川:豊島美術館の近くでは、日本の原風景ともいえる棚田のプロジェクトをやっていたりもしますよね。
三好:ええ、そうなんです。
細川:豊島の食文化について、何か感じるところはありましたか?
三好:基本的に、野菜も育ててお魚も自分で釣るとか、みなさん自給自足をしていらっしゃって、それを循環させていくみたいなところがあると思います。今朝もガソリンスタンドのおじさんが、わざわざ野菜を持ってきてくれたんですよ。「これ余ったから食べなさい」といった感じで。それで私は、遠慮しないでありがたくいただくと(笑)。
細川:おすそ分けだとしても、精神面の軽さがあるんですね。それが普通というか、自然な感じ。都市部ではなかなかできないことです。
三好:食でいうと、塩や無農薬の柑橘類を作っている移住者の方もいます。新たな豊島ブランドを作ろうということで、いちご農家さんもいらっしゃいますね。
細川:エスポワールは「食の未来を支えていく」という理念から生まれたそうですが、今のお話はとても重要そうですね。「食の未来」とは、ある地域についてなのか、もう少し大きな単位で日本におけるといったものなのかなど、どのあたりをイメージされていらっしゃるのでしょうか。
三好:食で人を幸せにするという活動はたくさんあると思うのですが、私たちの考えは人にスポットを当てて、そこに関わっていらっしゃる方々がどういうふうにキャリアを築いていけるかを重視しています。宿泊やイベントを行っているのも、開かれた場でいろんな人同士が繋がる場を作りたいと思っているからなんです。
細川:なるほど、そうなのですね。オープンが2022年秋ということで、始める前と後での可能性を感じることや、一方で課題みたいなことがあったりはするのでしょうか。
三好:大きな可能性を感じるのは、いらしてくださる方々の素晴らしさ。ここに来るっていうことを選んだ方々が、他人と繋がったり、自然やアートと繋がったり、自分自身と繋がったりしています。テラスで月や星を眺めながら、そんな時間を過ごされるんですよね。私たちはこの場を提供しているだけなので、みなさん自身が繋がろうとする力というものに、とても可能性を感じています。
細川:この場の力もあるのでしょうね。自然を介して、自然と人、人と人などいろんなものを繋げるための仕掛けや工夫がここにはたくさんあるような気がします。
三好:そうなんです。パーク内にあるガーデンも、子どもたちが芝生の上で遊んだり寝転んだりしていると、お互いのことを知らなくてもそこから繋がっていくみたいなことがあったりして、おもしろいんですよね。
細川:自然っていうのは不思議ですよね。少しあるだけでコミュニケーションが生まれるというか。先ほどのもうひとつの質問で、これからもっとこうしていきたいなどといった課題や目標はありますか?
三好:課題は山のようにたくさんあります(笑)。ひとつには、瀬戸内の食文化を私たちがもっと勉強して、広い範囲で展開できるような形にしたいと思っています。そこから一般の方々とどのように繋げて企画できるかということを考えています。
細川:食というのは、誰にとっても大切な「生きる」ための基本ですもんね。そういう意味では、誰とでも繋がれる可能性があるともいえますね。ちなみにwell-being(ウェルビーイング)は日本語にすると「よく生きる」という意味がありますが、三好さんが「ウェルビーイング」を意識されるのはどんなときですか?
三好:前職がベネッセという会社だったんですが、在籍中は「よく生きる」っていうことをいわれ続けてきたんですね。それで当時は、人との繋がりや人の役に立つ仕事っていうのをずっと考えていたんです。豊島にきてからの発見で一番大きいのは、自然と繋がるということ。さらに、アートと繋がるということは「よく生きる」のにとても効果があるんだっていうことが、住んでみて初めて分かりました。
細川:どんなときにそれに気づいたのですか。
三好:朝日と共に目覚めること、自然を感じながら会社に行くこと、お月様に照らされながら帰宅するということが、こんなに人を元気にさせるのかと感じました。そういうのは住んでみないと分からなかったかもしれません。自然やアートを介して自分のなかで色んなものが触発されるっていうことを短期間で実感することができました。
細川:なるほど。食はアートだ、といわれることもありますが、食そのものもやっぱりアートなんでしょうか。
三好:食の場合は関わる人たちがすごく多いですよね。私たちの口に入るまでに、生産者さんがいて、届けてくれる人がいて、加工する人がいて……っていうように、本当にいろんな方がたくさんいます。そういう意味ではみんなの「総合芸術」みたいな感じでしょうか。
細川:ああ、確かにそうかもしれませんね。それに、生きている時間っていうのは全部繋がっていますもんね。
三好:はい。少し話は変わりますが、ここは島なので虫がすごく多いんですよ。それで毎朝、その亡くなった虫たちを掃くところから一日が始まるんです(笑)。でも、これだって営みのなかに全部入っているってことですもんね。
細川:そう思います。ある本を読んだときに「都会は死というものを排除する場所である」とありました。生き物の死を意識するというか命を意識することで、食べるものの味や意味も変わってきたりしますか?
三好:感じるのはやはり、新鮮であることの素晴らしさでしょうか。循環してもらえるのが旬のものだけなので、新鮮な旬のものしかこないんです(笑)。だから、それらをいかにいっぱい無駄なく食べられるような工夫をするかということなんですね。
細川:そういう意味でも自然とすぐに繋がることができるんですね。
三好:意識せずともですよね。自然の力の方が大きいというか。
細川:確かに、都会だとどうしても人の方が強いですもんね。
三好:それはありますね。人と繋がるのはとても大事なことではあるけれど、こうやって自然と繋がることもすごく力になるんだなあっていうことを教えてもらった気がします。
細川:豊島に住んでこういったご活動をされるなかで、「よく生きる」ということは、食を通して自然と生きていくっていうところにも繋がるというか。
三好:そうですね。つまりは「よく死ぬ」ってことでもありますよね。食だって、自分がよく生きるために、よく死んでくれる命があるってことですもんね。だからこそ「いただきます」と「ごちそうさまでした」が大事なんです。本当にそういう気持ちが生まれると思いますよね。
細川:私事なんですが、僕の実家は魚屋でして、死んでいる魚たちがそこらじゅうにいる環境だったんですよ(笑)。そのせいか、小さい頃から食べることへの意識っていうのは強い方でした。今回、あらためてそのことを考える機会をいただいた気がします。どうもありがとうございました。
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三好 洋子さん
一社食で未来を創るアカデミー理事。豊島エスポワールパーク 館長。一社オトナ思春期をデザ インするプロジェクト 理事長。eumo 最幸顧問
細川 剛さん
Welluluクリエイティブディレクター、チーフアートディレクター
2001年「みよしようこ事務所」を設立。その後は目的によってチームを作り、新規事業の立ち上げ、出版・人・商品をプロデュース。一生で自分や家族、友人がして欲しいサービス、商品を新しい価値観と共に世の中にうみだすことに喜びを感じる。