データがあふれる現代において、顧客の本質を理解し、本当に必要な人に必要なものを届けるにはどうすればよいのか。
そんな課題に向き合うため、日本電気株式会社(NEC)が開発したのが、マーケティング施策立案ソリューション「BestMove®」だ。購買データや生活者インサイトをもとに、マーケターの意思決定を支援し、“最善の一手”を導き出す。単なるAIツールではなく、顧客理解を深めるための「パートナー」として、今も進化を続けている。
このプロダクトを生み出したのは、「NEC Open Innovation」の取り組みから生まれた事業開発チーム。NECの研究者が生み出した先進技術を社会実装へとつなげるべく、顧客の声と向き合いながら挑戦を続けてきた。
今回は、「BestMove®」を開発・推進するプロジェクトリーダーの小図子武弘さん、マーケティング・営業担当の高島華子さん、営業担当の廣田慎悟さんの3名を迎え、「Wellulu」編集長の堂上研が対談。プロダクト誕生の背景にある熱いドラマから、彼らが目指すウェルビーイングな社会の姿について、じっくりと話を伺った。

小図子 武弘さん
日本電気株式会社 みらい価値共創部門 ビジネスイノベーション統括部 部長/ディレクター BestMove プロジェクト責任者

高島 華子さん
日本電気株式会社 みらい価値共創部門 ビジネスイノベーション統括部 プロフェッショナル
NEC入社後、約10年間国内通信キャリア向けの営業を担当し、ハードウェア・システム開発や技術を起点にした共創事業を推進する。通信キャリアへ出向し、新ネットワークサービスの立ち上げを経験。現在は、マーケティング支援サービス「BestMove®」の営業・パートナリングに従事する。

廣田 慎悟さん
日本電気株式会社 みらい価値共創部門 ビジネスイノベーション統括部
2019年、NECに入社。営業や経営企画を経験後、宇宙産業の新規事業開発者として合成開口レーダ(衛星SAR)・自由空間光通信・ロボティクスの企画・営業に従事する。現在は、マーケティング支援サービス「BestMove®」の事業拡大に挑戦中。

堂上 研
株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
顧客の声からプロダクトの種を見つける。熱意が生んだプロダクト

堂上:本日は、NECが提供するマーケティング施策立案ソリューション「BestMove®」の事業開発チームの皆さんにお話を伺います。私自身、長年マーケティングや新規事業開発に携わってきた立場として、このプロダクトには非常に興味を持っています。まずはプロジェクトリーダーの小図子さんから自己紹介をお願いします。
小図子:私は前職で、複合機・プリンターの商品開発や海外事業の拡大に携わっていました。その後、「AIを活用したゼロイチの新規事業」に挑戦したいと考え、2021年にキャリア採用でNECへ入社しました。
堂上:NECに入社された当時から、すでに具体的な事業アイデアや構想があったのでしょうか?

小図子:いえ、入社時点では具体的な構想はありませんでした。「NEC独自のAI技術を活用して、新しい事業を生み出す」というミッションからのスタートだったんです。
大きな転機になったのは、NECの研究者たちが開発した優れたAI技術が十分に社会へ届けられていない、という現状を知ったことでした。
「NECの素晴らしい技術を世の中に届ける伴走者になりたい」。そう考え、研究者とタッグを組んで事業開発に取り組みました。
クレジットカード大手(JCB)のデータと、NECのAI技術を掛け合わせながら、顧客の声を軸に仮説検証を重ねていく中で、現在の「BestMove®」につながるアイデアが見えてきたのです。
堂上:顧客の課題やニーズを深く掘り下げる中で、事業の可能性を確信していったのですね。廣田さんと高島さんは、どのような経緯でチームに加わったのでしょうか。
廣田:私は2023年10月から、このプロジェクトに参加しています。NECでは毎年「オープンハウス」という技術発表会が開催されています。そのたびに「研究者の熱意が詰まったこんなに素晴らしい技術が、なぜ市場に届かないのだろう」と、もどかしい課題を感じていました。その課題を解決したいという思いから事業開発に携わるようになり、小図子さんに声をかけていただきました。
高島:私は2025年にこのプロジェクトへ参加しました。昨年度までは営業を担当していましたが、現在は営業の枠を超えて、「BestMove®」のマーケティング戦略の立案にも携わっています。
堂上:お二人から見て、プロジェクトを引っ張る小図子さんの第一印象はいかがでしたか?
廣田:小図子さんに誘われてすぐ、お客様との商談に同行させてもらったんです。当時はまだ製品化前のPoC(概念実証)の段階でしたが、提案したコンセプトにお客様が強く共感してくださり、まさに「心に刺さる瞬間」を目の当たりにしました。その瞬間に立ち会ったときに、「この事業を小図子さんと一緒に成長させたい」と強く胸を打たれました。
高島:私は配属決定後の最初の1on1ミーティングで、小図子さんからプロダクトへの熱い思いとビジョンをこれでもかと聞かされました(笑)。
小図子:そんなに熱弁していましたっけ?(笑)
高島:はい(笑)。その圧倒的な情熱に一気に引き込まれました。だからこそ、私自身もこの事業の拡大に本気で挑戦したいと思えたんです。

堂上:小図子さんはまさにチームを引っ張る「熱い船長」のような存在ですね。ただ、果てしない航海には、羅針盤を持って地図を広げ、進路を冷静に見定める航海士も必要です。
リーダーが大きなビジョンを掲げ、高島さんや廣田さんのように顧客視点やマーケティング戦略から支える頼もしいメンバーがいる。この多様な強みの組み合わせこそが、イノベーションを生み出すチームには欠かせないのだと思います。
超高解像度データで顧客と「対話」する。“最善の一手”を導くパートナー

堂上:ここからはプロダクトの中身について深く伺いたいのですが、具体的に「BestMove®」とはどのようなツールなのでしょうか。
小図子:一言で言えば、企業のマーケティング活動において“最善の一手”を提案するソリューションです。ただ、「マーケティングAI」という言葉だけでは表現しきれない部分があります。私たちは、単なる分析ツールではなく、マーケターの思考を支援する「壁打ちパートナー」のような存在だと考えています。
堂上:データを一方的に出すのではなく、対話を重ねながらマーケティング施策の立案をサポートしていくイメージですね。
小図子:その通りです。最大の特徴は、システムの中にNEC独自の「超高解像度な消費者データ」を持っていることです。クレジットカードやID-POSなどの購買傾向分析データに加え、パネル会員へのデプスアンケート(深掘り調査)を実施することで、消費者の趣味嗜好や価値観まで可視化しています。
高島:実際に、普段からLLM(大規模言語モデル)を活用されているお客様からも、「『BestMove®』のAIは、膨大な分析データに裏付けられているからこそ発言に説得力がある。まるで人格を持っているように感じる」という非常に高い評価をいただいています。
堂上:「人格を感じる」という評価は興味深いですね。小図子さんは、このプロジェクトを立ち上げるにあたって、どのような課題意識を持っていたのでしょうか。

小図子:一番大きかったのは、「データはたくさんあるものの、どの施策が最善なのか、確信を持って判断できない」という悩みを解消したいという思いでした。
事業開発を進める中で、人間の意思決定には大きく2つのパターンがあることが見えてきました。
一つは「比較」です。例えば、「AとBのどちらが安いか」「どれが一番、品質が良いのか」といったように、複数の選択肢を比較して判断する方法です。
堂上:なるほど。比較によって、人間はより良い選択肢を選ぶわけですね。
小図子:はい。もう一つは、「信頼している人の意見を参考にする」という意思決定です。自分が大切にしている人や、信頼している人の声を信じて、人間は判断を下します。
企業のマーケターにとって、その“信頼できる相手”にあたるのが「市場のお客様」だと考えています。「BestMove®」に組み込まれた超高解像度なAIペルソナと対話したり、AIアンケート機能で総合的な市場の反応を予測したりすることによって、マーケターの意思決定の迷いを解消できれば、大きな価値を生み出せると考えています。
廣田:実際に私たちも「BestMove®」を使っていると、市場のお客様と本当に対話しているかのような感覚になるんです。単なる分析結果ではなく、生身のコミュニケーションが成立しているように感じます。

堂上:データで顧客ニーズを捉えることはもちろん重要ですが、やはり新規事業を社会実装していくには、開発チームの情熱が何より欠かせないと感じます。小図子さんの「お客様の悩みに寄り添いたい」という強い思いがあったからこそ、ここまで強固なプロダクトになったのではないでしょうか。
小図子:ありがとうございます。私自身、一つの大きな山を人生をかけて築き上げたいという志があります。その想いに共感してくれる大切な仲間たちとともに、「BestMove®」をさらに価値あるプロダクトへ育てていきたいと考えています。
廣田:私は小図子さんの単なる「右腕」という枠に留まらず、「心臓」のような存在でありたいと思っています。事業全体に熱い血液を循環させる役割を担いながら、このプロダクトの成長と拡大に貢献していきたいです。
スクラップ&ビルドで時代を先駆ける。進化を続けるプロダクト

堂上:昨今はChatGPTやClaude、Geminiなどの汎用AIが爆発的なスピードで進化しています。そうした激しい市場変化の中で、マーケティング領域に特化したAIである「BestMove®」は、今どのような進化を遂げているのでしょうか。
小図子:顧客インサイトの解像度をさらに高めることで、食品や化粧品といった消費財領域のマーケティングにおいて、より大きな価値を発揮できるようになっています。これらの市場は個人の嗜好性が高く、トレンドの変化も速いため、深い顧客理解が求められる領域です。
堂上:すでに次のフェーズへ進んでいるということですね。
小図子:現在は「フェーズ2」に突入しています。これまではSaaSとしての提供が中心でしたが、現在はそのノウハウを活用しながら、NECの価値創造モデルである「BluStellar」(※業種横断の先進的な知見とNECの最先端テクノロジーにより、ビジネスモデルの変革を実現し、社会課題とお客様の経営課題を解決に導き、お客様を未来へ導く価値創造モデル)のもと、お客様が保有する独自の会員データと私たちのAIペルソナ技術を組み合わせるための事業開発を進めています。
企業が持つデータだけでは見えなかった顧客の新たな側面を、外部データと融合して可視化し、AIを通じて対話可能な形へと翻訳する。そうした新しい取り組みに対して、経営層からも大きな期待が寄せられています。
堂上:素晴らしいですね! ちなみに、この「BestMove®」という名前にはどのような想いが込められているのでしょうか。
高島:チェス用語の「Best Move(最善の一手)」が由来です。
堂上:チェス用語だったんですね。「チェックメイト(王手)」とはまた違うのですか?
廣田:「王手」そのものではなく、そこへ至るための“最善の一手”を指しています。誰も思いつかなかったような、次なる一手を導き出す。そんな想いを込めて名付けました。
小図子:このプロダクトロゴも、チェスのキングの王冠をイメージして創ったんですよ。

堂上:軍師のように状況を俯瞰しながら、データをもとに「次はここに打つべきだ」と明確な方向性を示してくれる。まさにその役割を体現した名前なんですね。
では、AIの進化が加速するレッドオーシャンの市場において、プロダクトを陳腐化させないために、特に意識していることはありますか。
小図子:常に変わり続けることです。私たちは「スクラップ&ビルド」を徹底しています。大企業の新規事業では、一度作ったプロダクトに固執してしまうケースもあります。しかし、私たちはお客様の声を起点にアジャイルで改善を重ね、日々進化を続けています。
「もっとこうした方が顧客のためになる」という意見は重宝しており、プロジェクトメンバーからの提案を否定することはほとんどありません。より良いものをつくるために、誰もが自由に意見を出せる環境を大切にしています。
また顧客とも共創関係を築いており、カスタマーサクセス活動を通しながら、プロダクトへの改善意見を収集し、速やかに反映させるように努めています。
堂上:顧客とも、単なるベンダーとクライアントという関係ではなく、本音で意見を交わし合えるパートナーシップを築いているということですね。そうした関係性こそが、この変化の激しい時代を生き抜くための大きな強みになるのだと思います。
情熱とアジャイルで切り拓く新規事業の未来

堂上:この開発チームで、これからそれぞれが実現したい夢について、お一人ずつお聞かせください。
廣田:私は映画や本などのカルチャーが好きなのですが、世の中にはまだ知られていない素晴らしい作品や商品が数多く存在しています。その一方で、それらを本当に必要としている人に届いていないケースも少なくありません。
「BestMove®」が介在することで、良い商品や価値あるモノが、それを必要とする生活者のもとへ適切に届く。そんな素敵な世界を、このプロダクトを通じて実現したいと思っています。
高島:私にとって人生の大きな転機となったのは、子どもが生まれたことです。昨年度、NECの社内研修で約8カ月間、自分自身の価値観や信念と徹底的に向き合う機会がありました。その中でたどり着いたのが、「次世代や子どもたちのウェルビーイングを高めたい」という想いです。
今のデジタル広告の世界には、多くの情報があふれています。その中には、受け手にとって不要だったり、ときには不快に感じられたりするものもありますよね。だからこそ、「BestMove®」を通じて、情報リテラシーの差に左右されることなく、誰もが自分に合った情報や商品と、自然に出会える環境をつくりたいと思っています。
堂上:押し付けるのではなく、人にどこまでも寄り添うマーケティングの本質ですね。
小図子:プロジェクトリーダーとしては、この素晴らしいメンバーとともに事業を大きく成長させ、NECの新たな柱となる事業へ育てていくことが私の責任だと考えています。
その先にある夢は、メーカーと消費者といった立場の違いを超えて、社会全体がお互いを尊重し合える環境を創ることです。
私はたまたま高島や廣田より少し早く生まれただけですので、偉そうにするつもりはありません。チーム内にそれぞれ役割はありますが、関係性はフラットです。お互いを一人の人間として尊重し、認め合いながら新しい価値を生み出していく。
そんな関係性が社会全体にも広がっていけばいいと思っていますし、その実現に「BestMove®」が少しでも貢献できればうれしいですね。
堂上:それぞれが、とても熱い想いを持っていることが伝わってきました。では最後に、皆さんにとっての「ウェルビーイングな瞬間」について教えてください。何をしているときが一番楽しいですか?

高島:私は、実はオペラを歌っているんです。もともとクラシック音楽が好きだったのですが、社会人2年目の頃に「自分でも表現する側になりたい」と思うようになりました。
大人になってから楽器を始めるのはハードルが高いですし、時間的な制約もあります。そこで、「自分の身体ひとつで挑戦できる声楽なら、ずっと続けられるかもしれない」と思い、オペラを始めました。
堂上:何歳になっても新しいことに挑戦できる人は、ウェルビーイングな状態にあることが多いんです。高島さんはまさにそれを体現されていますね。
廣田:私にとってのウェルビーイングの原点は「餃子」です。子どもの頃、母と一緒に餃子を作り、家族4人で食卓を囲んで食べた楽しい思い出が今でも強く残っています。餃子そのものというより、その時に流れていた温かい時間や記憶が、私にとってとても大切なんです。

堂上:「餃子」という商品から「家族との幸せな思い出」という目に見えない価値が見えてくる。まさにそこにもマーケティングの本質がありますね。小図子さんはいかがですか?
小図子:私は、イノベーションや事業のことを考えている時間が、一番楽しいですね(笑)。つまり、仕事をしているときです。
堂上:それは僕も同じです(笑)。仕事そのものを心から楽しんでいる人が作るプロダクトだからこそ、人をワクワクさせ、世の中をより良くしていけるのだと思います。ただし、お互いに仕事を楽しみすぎて家族に怒られないようにだけは気をつけたいですね(笑)。
本日は胸が熱くなるような貴重なお話をありがとうございました!

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NECの独自AI技術を起点にしたゼロイチの新規事業開発を担当。株式会社ジェーシービー(以下、JCB)との共創を通じて、生成AIを活用したマーケティング支援サービス「BestMove®」の企画・開発・立ち上げを行う。世界初の革新的サービスを生み出すべく、現在も挑戦を続ける。
マーケティング業務をAIで変革する「BestMove®」 | BestMove by NEC