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仕組みを超えて、新しい未来を拓く。NECの新規事業創出を加速させた、リーダーの「盾となる覚悟」

近年、社会課題や市場環境の変化が複雑化する中で、一社だけの知見や技術で新たな価値を生み出すことはますます難しくなっている。そうした時代において注目されているのが、企業や組織の垣根を越えて、そしてアイデアや技術、人材を掛け合わせる「オープンイノベーション」だ。

日本電気株式会社(以下 NEC)では、スタートアップや企業、研究機関との共創を通じて新規事業開発を推進している。2026年4月には、研究開発や事業創出の中核拠点となる「NEC Innovation Park」も本格始動し、さらなる価値創造に向けた挑戦が加速している。

今回は、NECのみらい価値共創部門 ビジネスイノベーション統括部長としてオープンイノベーションを牽引する松田尚久さんと、「Wellulu」編集長の堂上研が対談。好奇心旺盛だった子ども時代から、組織のプロセス主義を打破する仕組みづくり、そして未来を見据えた共創への思いまで、その歩みとリーダーシップ哲学に迫った。

 

松田 尚久さん

日本電気株式会社 みらい価値共創部門 ビジネスイノベーション統括部長

2000年にNECへ入社。通信事業者向けビジネスのSEとしてキャリアをスタートし、2008年からは米国ボストンに駐在。NECが買収したNetcracker社にてPMI(買収後統合)やシナジー創出に携わる。帰国後は、通信領域を中心とした数々の新規事業開発を推進。2023年よりグローバルイノベーションビジネスユニットで全社の技術戦略策定に従事し、2024年から現職。現在は、社内外との共創を通じた新たな価値創出や事業開発を牽引している。

https://jpn.nec.com/innovation/index.html

堂上 研

株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。

https://ecotone.co.jp/

目次

好奇心こそが、イノベーションの原点に。異なる領域から飛び込んだ「NEC」

堂上:今回は、NECで新規事業開発組織を率いるビジネスイノベーション統括部長の松田さんにお話を伺います。よろしくお願いします。

まずは、松田さんのイノベーターとしてのルーツを探るために、少し時計の針を戻してみたいと思います。小中学校時代は、どのようなことに夢中になっていたのでしょうか。

松田:昔からとにかく好奇心旺盛な子どもでした。新しいことに挑戦するのが好きで、特に「誰もやったことがないような未知の領域」に飛び込む瞬間に、一番ワクワクしていました。

スポーツもそうでしたね。野球から始まり、テニス、スノーボード、ゴルフ、最近ではピックルボールまで。少しでも興味を持ったものは、まず自分で体験してみないと気が済まないタイプです。

堂上:失敗を恐れず、新しい世界へ飛び込んでいく。その好奇心旺盛な姿勢は、まさにイノベーターの資質そのものですね。

松田:当時は、とにかく理屈抜きで試してみたくなったんですよね(笑)。形から入るタイプなので、道具を揃えては満足してしまうことも多くて、親にはよく怒られていました。でも、「まずやってみる」「知らないものに触れてみる」というあの衝動は、今でも自分の根底に流れている気がします。

堂上:その後、大学・大学院では工学の道へ進まれています。やはり、ものづくりへの興味がきっかけだったのでしょうか。

松田:それもありますが、何より惹かれたのは「明確な答えや法則が存在する世界」でした。文系科目のように解釈がいくつも成り立つ世界よりも、論理を積み上げながら答えを導き出したり、まだ見ぬ答えを探求したりするプロセスそのものが好きだったんです。

堂上:イノベーションというのは、まさにまだ見ぬ答えを探求する旅のようなものですよね。具体的にどのような研究をされていたのですか?

松田:大学院では機械工学を専攻し、自動車のエンジン(内燃機関)の研究に没頭していました。研究室の同期の多くは自動車メーカーを志望していて、私自身も当初は同様の進路に進むつもりでした。

堂上:それにもかかわらず、最終的にキャリアの舞台として選ばれたのは、通信やITを主軸とするNECだったのですね。

松田:選んだ決め手は、「縁」と「可能性の広さ」です。就職活動の終盤、自分の将来について改めて考えていた時期に、NECとの出会いがありました。NECは技術基盤が非常に幅広く、通信はもちろん、宇宙事業や海底ケーブル、社会インフラなど、多様な領域に挑戦しています。

その姿を見て、「ここなら入社してから、自分の本当にやりたいことを見つけられる」「どんな新しい挑戦にも飛び込めるだけの、深い懐がある」と感じたんです。一つの専門分野にとらわれるよりも、自分の可能性を広げられる環境を選びたいという直感とご縁を信じて、NECへの入社を決めました。

激変する通信事業。そして、手探りのなかで新規事業開発へ

堂上:NECに入社されてからは、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

松田:入社後は、ETC(自動料金収受システム)の制御システム開発など、SEとしてのキャリアからスタートしました。大学院で学んだ自動車の知識が少し活かせる領域でもありましたね。その後、本格的に通信事業の世界へと進んでいきました。

大きな転機となったのは、2008年です。NECが買収した米国ボストンの企業へ、PMI(買収後統合)のメンバーとして2年間、赴任することになりました。

堂上:海外赴任に加え、難易度の高いPMIの現場とは、ものすごく刺激的な経験だったのではないですか。

松田:非常に濃密な時間でした。赴任先の企業は、大企業というよりスタートアップに近いカルチャーを持っていて、NECとはまったく異なる価値観やスピード感の中で事業を動かしていました。

堂上:帰国後は、いよいよ新規事業開発の領域へ進まれるわけですね。

松田:帰国して直面したのは、NECの通信事業が大きな転換点を迎えているというシビアな現実でした。

かつて通信事業は、大型の交換機を販売することで高い収益を生み出していました。しかし通信技術の進化とともに、機器は小型化し、急速にソフトウェア化が進んでいったんです。市場構造そのものが変わり、従来のビジネスモデルだけではこれ以上の成長が難しい状態でした。

当時、私たちには大きく三つの選択肢がありました。既存顧客をさらに開拓するか、徹底的なコスト削減を進めるか、あるいは「新しい価値」を生み出すかです。そのときに強く感じたのは、「新しい価値を創出しなければ未来はない」という危機感でした。

堂上:当時は、現在のような新規事業開発を専門とする組織や仕組みは整っていたのでしょうか。

松田:まったくありませんでした。現在の組織の前身が立ち上がったのは2013年のことです。私が新規事業に取り組み始めた2010年前後は、専門組織もノウハウも整備されていませんでした。当時のミッションは極めてシンプルです。「通信を使って、何か新しい事業を考えること」。

今振り返れば、あの手探りの日々こそが、私にとっての新規事業開発の原点でした。

堂上:僕も博報堂で2011年頃から新規事業開発に携わっていましたが、トップのコミットメントや組織的な仕組みが整うまでには、やはり8〜10年ほどかかりました。そうした環境がない中で挑戦するのは、相当なご苦労があったのではないでしょうか。

松田:確かに大変なことは多かったです。ただ、私たちには「通信」という確かな軸があります。何を起点に考えるべきかという意味では、進むべき大きな方向性そのものは見えていたんです。問題は、その“フェアウェイ”が極端に狭かったことでした。

当時は「通信技術を活用すること」に加えて、「顧客は通信キャリアでなければならない」「ビジネスはBtoBでなければならない」といった、暗黙の前提が数多く存在していたんです。社内の古い組織構造や既存の顧客基盤の成功体験が、皮肉にも新しい挑戦の強い制約になっていました。

堂上:これまで培ってきた最大の強みや成功体験こそが、新規事業の足かせになってしまう。まさに大企業ならではの構造的なジレンマですね。

松田:通信キャリア以外の新しい市場や顧客を開拓しようとすると、既存部門との調整が必要になりますし、「なぜそこに挑戦するのか」を社内に説明し続けなければなりませんでした。

ただ、苦労も多かったですが、同時に大きな面白さもありました。前例がないからこそ、自分たちの手で道を切り拓いていく手応えがあったのです。

イノベーションが自発的に湧き出る組織の条件とは

堂上:松田さんがオープンイノベーション推進の責任者に着任された2年前、組織はどのような状態だったのでしょうか。

松田:私が着任した時点で、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の仕組みや組織設計など、新規事業を生み出すための制度やプロセスは、ほぼ整備されていました。ただ、その一方で別の課題も見えてきました。仕組みが成熟した結果、「事業を生み出すこと」よりも「プロセスを守ること」が目的化してしまっていたのです。

堂上:大企業の新規事業によく見られる現象ですね。プロジェクトを終わらせたくないあまり、審査を通すためのプロセスをなぞることが目的になってしまいます。

松田:まさにその硬直した状態でした。当時、組織には60を超える開発テーマが存在していました。しかし、それらを一つひとつ見直した結果、継続を決めたのはマーケティング施策立案ソリューション 「BestMove®」を含め3つだけでした。ほかのテーマは、一度すべてリセットするという苦渋の決断を下したんです。

堂上:60以上のテーマから、厳選したテーマだけを残す。その判断は、相当な覚悟が必要だったと思います。

松田:振り返ると、むしろ私が既存の新規事業のルールを「何もわかっていなかった」ことが良かったのかもしれません。

周囲からは「新規事業のルールを理解していない」と言われることもありましたが、だからこそ既存の常識にとらわれず、「なぜこのルールが必要なのか」「なぜこのイベントを続けるのか」と、本質的な問いをフラットに投げ続けることができました。

堂上:あえて「分からない」と素直に言えるリーダーだからこそ、古いバイアスにとらわれずに見える景色がありますよね。

松田:リーダーが何でも知っているふりをすると、現場は失敗を恐れて新しい挑戦をしなくなります。新規事業に必要なのは、社内の審査を通すためのきれいなレビュー資料を作り込むことではありません。仮説を持ち、市場に問いを投げ続けることです。

継続を決めた数少ないテーマの一つである「BestMove®」には、発案者である小図子さんの「絶対にこの技術を社会実装して、事業化するんだ」という強烈な意志と熱量がありました。その現場のパッションがあったからこそ、形式的なプロセスに縛られず、スピード感を持って製品化に向けた審査を突破していくことができたんです。

審査事務局のメンバーから「この審査を実施するのは、3年ぶりです」と言われたときは、いかに組織がプロセス中心の守りに入っていたかを実感しましたね。

堂上:では、松田さんがこれまでの経験から考える「新規事業開発で最も重要なこと」とは何でしょうか。

松田:究極的には、「顧客の声」を聞くことです。ただし、言われた通りに作る単なる御用聞きではありません。自分たちの立てた仮説が正しいかどうかを検証するために、顧客のインサイトの奥底と真摯に向き合うことが重要です。

堂上:僕も全く同感です。「誰が何を言ったか」ではなく、「顧客が本当にお金を払ってでも欲しいと思うか」ということを見極めることが大切ですよね。

松田:新規事業の担当者が社内に閉じこもっている時間は、市場に対して何の価値も生み出していません。どれだけ外に出て、お客様の生身の声と熱量に触れられるかが勝負だと思います。

堂上:これからの激変する時代において、「新規事業を継続的に成功させる組織」に本当に必要なものとは何なのでしょうか。

松田:突き詰めれば、リーダーの「責任を引き受ける覚悟」と、現場への「適切な権限移譲」、そしてそれらを支える日頃の「血の通ったコミュニケーション」です。新規事業のリーダーには、社内外からさまざまな批判やプレッシャーが容赦なく向けられます。リーダーはそのすべての矢面に立ち、盾となって責任を引き受ける覚悟が必要です。

一方で、権限移譲は単なる丸投げや放任ではないんです。現場を信じながらも、必要な場面では適切に介入し、ときには撤退の判断を下さなければならない。

堂上:日頃の信頼関係がない状態で、上から突然「撤退」を告げられても、現場のメンバーは絶対に納得できませんし、心折れてしまいますからね。

松田:日頃から一緒に悩み、挑戦し、想いを共有しているからこそ、本当に苦しい局面で「今回は撤退しよう」と伝えたときにも、「悔しいけれど、この学びを活かして次へ進もう」と前を向くことができる。私が理想とする組織は、洗練された仕組みだけで動く組織ではありません。

人と人との信頼関係が根付き、血の通ったコミュニケーションが機能している組織こそが、新しい価値を生み出し続けられるのだと確信しています。

「NEC Innovation Park」から始まる。未来への新たな挑戦

NEC Innovation Park

堂上:本日お伺いしているここ「NEC Innovation Park」は、2026年4月にグランドオープンしたばかりだそうですね。非常に広大な空間で、その圧倒的なスケール感にワクワクします。

松田:ありがとうございます。移転してまだ2カ月ほどですが、イノベーションや研究開発、プロダクト開発に携わるメンバーがこの拠点に集結しています。ここはまさに次の時代を創り出すための挑戦の舞台です。

この施設づくりにあたっては、私たち現場の声を人事や総務のチームが丁寧に吸い上げて反映してくれました。本当に働きやすい環境ですし、会社として「ここから新しい価値を生み出していく」という強い意志を感じています。

堂上:新規事業創出への挑戦の最前線にいる松田さんですが、ご自身のプライベートではどのような時間にウェルビーイングを感じますか?

松田:今は間違いなく、愛犬との散歩の時間ですね。コロナ禍に家族として迎えた愛犬がいるのですが、一緒に過ごす時間は何にも代えがたい癒しのひとときなんです。これが、私自身のウェルビーイングにも深くつながっています。夫婦喧嘩をしたときの最高の緩衝材にもなってくれていますしね(笑)。

堂上:愛犬が家族の中心にいることで、自然と心に豊かな余白が生まれているのですね。

松田:もう一つ欠かせないのがサウナです。犬の散歩もサウナも共通しているのは、「頭を空っぽにできること」です。新規事業の責任者という立場上、気づけば休日も夜もずっと仕事や事業のアイデアのことを考えてしまいます。

だからこそ意識的に、脳のスイッチをオフにして何も考えない時間をつくるようにしています。そのリフレッシュの時間があるからこそ、また高いエネルギーで仕事に向き合えるのだと思います。

堂上:松田さんにとって、その「無になる瞬間」の質こそが日々のウェルビーイングを創り出しているんですね。最後に、これからの未来に向けて、松田さんがどのような社会を実現したいと考えているのか、ビジョンを教えてください。

松田:私が新規事業に向き合う根底には、「日本の産業をもう一度、強くしたい」という想いがあります。現在の日本企業は、どうしても内需中心の発想になりがちですよね。しかし、本当に国の力を高めていくためには、日本の大企業同士が手を取り合い、新しい市場を創り出したり、スタートアップと共に海外へ挑戦したりするような、新たな循環を生み出していく必要があります。

堂上:先ほど伺った「BestMove®」のような新しい事業が育ち、世界へ広がっていくことは、まさにその日本の未来を変える大きな一歩になりそうですね。僕も、この「NEC Innovation Park」から生まれる未来に大きな期待を感じています。

松田:私もそう信じています。純粋なソフトウェアだけで世界と勝負する時代は、ますます厳しくなっていくかもしれません。しかし、「フィジカルAI」や「バーティカルAI」のように、現実世界のハードウェアや専門的なデータとAIが融合する時代がやってきます。その領域では、日本が長年培ってきたものづくりの力や、現場の泥臭い対応力が、大きな可能性へとつながるはずです。

そして、その可能性を広げるためには、人と人が出会い、新しいアイデアが生まれる「環境」が必要です。この「NEC Innovation Park」という新しい実験場で、多様な人材が交わり、偶発的な出会いや新たな共創が生まれていく。そこからどのような未来が生まれるのか、私自身も本当に楽しみにしています。

堂上:本日のお話を通じて、松田さんの挑戦への情熱と、日本の未来に対する強い想いを感じることができました。この場所からどのようなイノベーションが生まれていくのか、今からますます楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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