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「時間は未来から流れてくる」。保健師・久保田氏が実践する、逆境を強さに変えるウェルビーイング術

保健師・看護師・公認心理師の3つの国家資格を有し、12年におよぶ臨床経験を経て独立した久保田千紘さん。彼女の歩みは、壮絶な家庭環境という逆境を、自らの力で未来を切り拓く「原動力」へと昇華させてきた軌跡そのものだ。現在は企業の健康経営を支えるエキスパートとして、多くの人々の心身と向き合い続けている。

「時間は過去から流れてくるのではなく、“こうなる”と決めた未来から流れてくる」

この言葉に宿るのは、数多くの人生と対峙してきた久保田さんの実践知だ。今回は、睡眠改善プログラムや心理的アプローチを通じてウェルビーイングな職場環境の実現に取り組む久保田さんと、「Wellulu」編集長・堂上研が対談。逆境をバネに人生を切り拓く本質と、誰もが自分らしい未来を描くためのヒントを紐解いていく。

 

久保田 千紘さん

NOVE株式会社 取締役/保健師/公認心理師/看護師/健康経営エキスパートアドバイザー

静岡県立大学看護学部を卒業後、保健センターや発達支援センターで12年間公衆衛生行政に従事。その後、NOVE株式会社で企業に対して心身の健康支援に関するコンサルティング事業をスタートする。企業や自治体で講演活動を全国で展開。順天堂大学保健看護学部(公衆衛生看護学、産業看護学)非常勤講師。
異色の経歴として、元清水エスパルスオフィシャルチアリーダーの一面も持つ。その経験を活かしたエネルギッシュな登壇スタイルと、専門的な内容でもわかりやすい参加型健康教育研修に定評がある。

HP:https://www.nove-t.com/

Youtube:https://www.youtube.com/@hokenshi_kenkoukeiei

堂上 研

株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。

https://ecotone.co.jp/

目次

「経営×産業保健」で描く、新しいウェルビーイングの形

堂上:久保田さんとは、マインドフルネスセミナーを主宰されている関根朝之さんのご紹介で出会いました。「Wellulu」が追求するウェルビーイングの思想をまさに体現されている方だと感じ、ぜひ一度ゆっくりお話を伺いたいと熱望していました。本日は静岡からお越しいただき、本当にありがとうございます。

まずは改めて、久保田さんの活動について自己紹介をお願いできますか?

久保田:NOVE株式会社の久保田千紘と申します。現在は主に企業の顧問業を中心に活動しています。保健師、看護師、公認心理師という3つの国家資格を有し12年間の臨床経験を軸に「健康経営エキスパートアドバイザー」として企業の健康支援を行っています。

夫が経営コンサルタント(ランチェスター経営塾 講師)である強みを活かし、産業保健――つまり従業員の心身の健康維持と、経営戦略を結びつけるブランディング支援を行っている点が特徴です。

実は、夫が代表を務める会社に私が取締役として参画しているんです。元々はランチェスター経営を軸としたコンサルティング会社でしたが、BtoB取引において個人の知見をより社会に還元しやすくするために、現在の体制へと統合しました。

堂上:なるほど。先ほどお話に出た「ランチェスター経営」とは、どのような戦略理論なのでしょうか。

久保田:元々は軍事理論から派生し、それを企業経営に応用したものです。特に中小企業が限られた資源で大手に勝つための「弱者の戦略」として知られています。「一点集中」「差別化」「局地戦」などといった基本方針を徹底することで、勝機を見出す手法です。

堂上:「弱者の戦略」という言葉は聞いたことがあります。競合と戦うのではなく、独自の市場をどう創り上げていくかという戦術ですね。

久保田:「戦わずして勝つ」ためのポジション取りを教える経営塾の講師を、夫が務めています。

堂上:ポジションをどう定め、どうブランディングしていくか。まさに、僕たちが博報堂などのマーケティング領域で培ってきた経営戦略の知見と通底しており、非常に興味深いですね。

壮絶な環境を越えて。自立を誓った「保健師」への道

堂上:少し時計の針を戻して、久保田さんの幼少期について伺わせてください。どのような家庭環境で育ったのでしょうか?

久保田:驚かれるかもしれませんが、私の原点は、ある意味で非常に過酷な場所にあります。私の父は、本来は誰よりも家族思いで、心配性な人でした。しかし、その根底にある「真面目さ」と「不器用さ」ゆえに、過度な職業性ストレスをすべて一人で抱え込み、心が壊れてしまったんです。

外では実直な社員でしたが、家では鬱を患い休職、私たち家族に対して暴力や暴言を繰り返す日々でした。でも、父が悪い人だったわけではないんです。仕事という環境が、一人の人間をそこまで変えてしまった。それが、幼い私が見た現実でした。

堂上:いつも朗らかに笑う久保田さんからは、想像もつかない壮絶さです。ご兄弟はいらっしゃるのですか?

久保田:三姉妹の真ん中です。当時の父は、余裕を失うあまり「お前なんて生まれてこなきゃよかった」と、家族を否定する言葉を投げつけずにはいられない状態でした。その影響は大きく、姉や妹は精神的に深く追い詰められ、家庭内は常に張り詰めた空気が漂っていました。

堂上:そうした環境下で、子ども心に何を思っていましたか?

久保田:ただひとつ、「圧倒的に自立する」ということだけを考えていました。何があっても生きていけるよう、絶対に手に職をつけなければならないと。

姉や妹が苦しむ姿を間近で見ながら、私は「どうすればこの状況で生き延びられるか」を冷静に観察する子供でした。皮肉なことに、このときに養われた「一歩引いて状況を客観視する力」が、今の保健師やカウンセラーとしての仕事につながっているのだと感じます。

堂上:保健師を志したきっかけは何だったのでしょうか?

久保田:中学生の時、リクルート社が配布していた職業紹介本を読んだのがきっかけです。手に職をつけることを第一に考えたとき、専門的な知識で人を支える保健師という職業に強く惹かれました。

堂上:早い段階で将来の道を決められたのですね。そもそも保健師とは、どんな仕事をする職業なのか教えていただけますか?

久保田:保健師は国家資格であり、全国に約6万人程度いますが、その中でも独立開業しているのは100人程度と極めて少数です。大半は公務員として行政に勤務し、地域住民や地域企業の健康を守っています。

企業では「労働安全衛生法」に基づき、健診後の保健指導や、高ストレス者のメンタルフォローを担います。専門職を一人雇うほどではない中小企業などは、業務委託されるケースが多いですね。

堂上:独立される保健師さんは珍しいですよね。行政という安定した場所から踏み出すのは、勇気が必要だったのでは?

久保田:公務員を辞めて独立したことに対して、周囲からは驚かれることもありました。保健師の世界には起業という文化がほとんどありませんから。

堂上:独立のきっかけは、ご主人との出会いだったのですか?

久保田:夫が経営者として事業を創り出す姿を間近で見て、「こういう働き方があるんだ」と視野が広がったのが大きな転機でした。

堂上:久保田さんは、虐待など深いトラウマを抱えた方々の支援もされていますよね。そうした方々が回復していくには、どのような道筋があるのでしょうか?

久保田:主に3つの道があると考えています。1つ目は、専門的なカウンセリングを受け、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を治療すること。2つ目は、親代わりとなるような信頼できる大人(教師など)と出会い、愛着関係を修復すること。3つ目は、情緒的に安定したパートナーと出会うことです。

堂上:久保田さんの場合は、その3番目がうまくいったのですね。ご主人との出会いは本当に運命的だったのだと感じます。とはいえ、誰しもが回復できるわけではないですよね。

久保田:おっしゃる通りです。回復の道筋を辿れず、自身の連鎖から子どもを傷つけてしまったり、自傷行為に至ったりするケースも現実にはあります。虐待による引きこもりの支援もしていますが、回復のプロセスは人によって本当にさまざまです。

逆境を力に変える。行動が幸福度を高める理由

堂上:こうしたお話は、なかなか伺う機会がないので考えさせられます。実は「Wellulu」を発信し続ける中で、「ウェルビーイングなんて、豊かな生活を送っている一部の人たちのための概念でしょう?」という声をいただくことがあります。きっと、これまで取り上げてきたゲストの皆さんが輝いて見えすぎたんでしょうね。

でも、僕自身は全く違います。父は僕が生まれる前に、脱サラして起業しました。なので、幼少の頃から起業の大変さをみていました。だからこそ、「起業なんてしたら、仕事ばかりで家庭崩壊する」と思っていました。

久保田:それでも堂上さんが起業されたのは、お父さまの影響があるのでしょうか?

堂上:「自分の好きなことをやる」という選択をしたのは、そうした幼少期のトラウマへの反動もあった気がします。久保田さんは、そうしたトラウマや心の葛藤を抱える方に対し、どのようなアプローチをされるのですか?

久保田:まずは、その人の強みや、過去の逆境をどう乗り越えてきたかを聞くことから始めます。心理学でいう「レジリエンス(逆境を乗り越える力)」について話し合うんです。

今がどんなにしんどくても、過去にも似たような苦難があり、それを何らかの方法で乗り越えて今を生きている。その「乗り越え方」という強みが必ずあるはずなので、一緒に見つけていきます。

次に「未来」です。私は「アクセプタンス・アンド・コミットメント・セラピー(ACT)」という心理療法を活用します。これは、自分の人生の目指す価値が明確になり、それに向かって行動できた人は幸福度が高まるという考え方です。

悩みを無理にかき消そうとせず、あるがまま受け入れて「小脇に抱える」ようなイメージですね。その上で、自分の人生で目指したい価値に向かって、今できる行動は何だろうか?と、伴走しながら一緒に考えていきます。

堂上:ビジネスでいうコーチングに近いですね。

久保田:「アクセプタンス・アンド・コミットメント・セラピー(ACT)」は、マインドフルネスとも親戚のような関係にありますね。

堂上:でも、久保田さんはご主人と出会って情緒が安定されたとはいえ、元々自己効力感が低いわけではなかったかもしれませんね。「自分で前に進む力」が備わっていたような気もするのですが、いかがですか?

久保田:私は多動傾向があり、昔から興味のあることに突進していくタイプで、行動力だけはあるんです。

堂上:実は僕も同じタイプです(笑)。ウェルビーイングには「何歳になっても新しいことを始めている人の幸福度が高い」という話があります。圧倒的な行動力で進んでいると、良い出会いが重なり、ポジティブな成功体験が積み重なっていく。

メンタルヘルスと密接な「睡眠」についても伺いたいです。

久保田:睡眠は私の専門領域のひとつです。研修だけでなく、3週間の「全社員睡眠習慣改善チャレンジゲーム」というプログラムも提供しているんですよ。

堂上:ウェルビーイングな職場づくりにおいて最も重要なのは、経営者自身がその価値を理解し、体現していること。組織がうまくいっていないところは、決まって経営者自身が睡眠を削っているケースが多いと感じます。

僕も以前は、10年以上3時間睡眠を続けていましたが、今は8時間寝ることを目標にしています。「Wellulu」では、「睡眠上手になる会」というコミュニティを運営しているので、ぜひゲスト講師としてお招きしたいです!

決めた未来が現在をつくる。自分を信じて歩むということ

堂上:ウェルビーイングな職場環境を作る際、「権限移譲」は精神的な安定に大きく寄与すると考えています。

親と上司は選べないといいますが、相性や意見の合わない上司に出会うと本当に辛いですよね。その際、相手を変えることにフォーカスするのではなく、自分の居場所を変えて「課題の分離」を徹底することにしました。結果的にストレスから解放されたんです。

久保田:まさに「課題の分離」ですね。自分の課題なのか、相手の課題なのか。自分でコントロールできることにだけ注力する、健全な姿勢です。

堂上:失敗を許容できる寛容な文化も大切です。職場環境の整備は、やはりウェルビーイングの土台ですね。

久保田:産業保健には「カラセックモデル」という、仕事の要求度と裁量度の関係を示すモデルがあります。

仕事の負荷(忙しさ・量的・質的な要求)が高くても、「裁量度(自分で判断できる・決められる・工夫できる)」が高い、つまり「大変だけど、どう進めるかは自分次第」という状態。このとき人は、ストレスを乗り越えて「成長」や「やりがい」を感じます。

一番危険なのは、「高負荷(やらなきゃいけないことが多い)なのに、裁量度が低い(やり方はすべて決められている)」状態。これが最も心身を壊しやすく、最も危険です。
ストレスの最大原因は、仕事の量ではなく「やらされている感(裁量度の低さ)」にあるという見方です。

堂上:非常に面白い理論ですね。久保田さんの経験や知見をぜひ書籍化してほしいです。それにしても久保田さんは、とても楽しそうに仕事しているように見えますね。‎

久保田:自分の目指す価値観が「専門技術で人の役に立つこと」にあるので、その価値に沿った行動をとれていることが充実感につながっています。

周りの方々が幸せになっていく過程に関われるのは大きな喜びですし、何より自分の人生の舵を自分で切っている感覚、「裁量度が高い状態」を維持できているからこそ、毎日が楽しいのだと思います。

堂上:同感です。自分の人生の価値観と仕事が一致していると、日々の幸福度は高まりますよね。では最後に、久保田さんがこれから描きたい未来の社会について教えてください。

久保田:私はカウンセリングをするときに、「あなたは絶対にその未来に行ける」と、誰よりも強く信じていると伝えます。自分の未来はこうなると決める。そしてそこに向かう。そんなマインドを持つ人を増やしたいんです。

「時間は過去から流れてくるのではなく、未来から流れてくる」

こうなると決めた未来から現在へ時間が流れてくるのだから、あなたは大丈夫ですよと、そう伝え続けたいですね。

堂上:久保田さんの「時間は未来から流れてくる」という言葉、とても胸に刺さります。過去を「変えられない事実」として受け入れるだけでなく、未来の自分が決めた道へ向かうための「糧」に変えていく。その強さこそが、ウェルビーイングにつながっていくのだと改めて感じます。

「Wellulu」はこれからも、そんなふうに自分らしい人生を切り拓こうとする人たちの背中を、そっと押し続けられるようなメディアでありたいと思います。久保田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!

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