「僕は、誰と繋がっているのか?」——宮田裕章さんの『AI時代の「問い」を立てる力』を読んで

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

答えが溢れる時代に「問い」を立てる

僕の中で楽しみにしていた一冊の新書を週末読んだ。宮田裕章さんの『AI時代の「問い」を立てる力』(光文社新書)だ。読み始めたら、いつも宮田さんとお話しさせていただいていたことが、いろいろ繋がっていくのが分かった。

最近、僕はAIに聞けば、だいたいの答えはすぐに返ってくることに違和感を感じていた。企画書の構成も、記事の見出しも、それらしいものが一瞬で並ぶ。便利だし、正直、助けられてもいる。でも、答えが速く手に入るほど、自らが考えることを手放し、自分の中から「問い」が湧いてくる時間を放棄しているのが嫌なのだ。

この本を読み進めながら、僕は何度も自分に「問い」を投げ返していた。宮田さんと出逢い、この本に背中を押されて立ち上がってきた僕自身の三つの「問い」を、そのまま綴ってみたいと思う。

「静けさの森」で降りてきた「僕は、誰と繋がっているのか?」

大阪・関西万博の会期中、僕は「静けさの森」に足を運んだ。人の流れが絶えない会場の真ん中で、そこだけ時間の進み方が違う。木々の間に座り、風の音と、遠くのざわめきと、自分の呼吸だけを聞いていた。僕は「静けさの森」が万博の中で一番好きな場所だった。

何かを考えようとしていたわけではない。むしろ、考えるのをやめていた。すると、ふっと一つの問いが降りてきた。

「僕は、誰と繋がっているのか?」

空を見上げると、世界は空で繋がっている。真ん中の池を見ると、空が映っていて、自分が空間の中で、あらゆる世界と繋がっているような感じになった。

世界の入口がそこにある。家族の顔が浮かんだ。仕事を通して出逢った仲間、ECOTONEの仲間、Welluluで話を聞かせてくれた専門家の方々、記事を読んでくれる見知らぬ誰か。そして、鳥や蝶、頭上で揺れている木々、空と池。あらゆるものが繋がっていき、僕の「問い」はどんどん広がっていった。

僕はECOTONEを起業したとき、「つながりの中のウェルビーイングを創る」と決めた。ずっと「繋がり」を、自分の意志を持って、自分が選んで、自分の行動を通して、手を伸ばすものだと思っていた。

でも、森の中で感じたのは、もっと受け身の、気づいたらすでに繋がっていたという感覚だった。僕が繋がっているのではなく、僕は繋がりの中に置かれている感じがした。

宮田さんは本書で、良い問いは一人で机に向かって捻り出すものではない、という趣旨のことを繰り返し書いている。あの森で降りてきた問いも、きっと僕一人で立てたものではなかったのだと思う。森と、そこに集った人たちと、宮田さんたちがつくった場が、一緒に立ててくれた問いだったのかもしれない。

Better Co-Beingは、僕に何を問い続けているのか

宮田さんと一緒に考えてプロジェクト化したBetter Co-Beingプロジェクト。あの頃に話していた感じから、ずっと問いを投げ続けてくる。その問いを一言にすると、こうなる。

「誰のウェルビーイングか?」

Welluluを始めてから、僕は「ウェルビーイング」という言葉を何百回も口にしてきた。でも、ふと立ち止まると、その主語が曖昧なことに気づく。主語が変わる度に、誰のウェルビーイングかによって、定義が変わってくる。読者のウェルビーイングなのか。社員のか、お客さんなのか、家族のか。それとも僕自身のか。

仕事が立て込むと、僕は「みんなのウェルビーイング」を語りながら、目の前の家族との時間を後回しにしていることがある。誰かのウェルビーイングを高めようとする行為が、別の誰かのウェルビーイングを削っている。その矛盾に、Better Co-Beingは光を当ててくる。

本書の中で宮田さんは、Better Co-Beingの原型となる考えが、大学時代にすでに芽生えていたことを明かしている。価値はあらかじめ決まった答えではなく、関係性の中から立ち上がってくるものだ、という考え方だ。

この本を読んで、「誰のウェルビーイングか?」に、問い続けることが大事なんだ、と感じることができた。僕のウェルビーイングと、あなたのウェルビーイングが違っていていい。混ざってもいい。共鳴するというのは、そういうことかもしれない。その違いを消さずに、響き合わせていく。主語を一つに決めることではなく、主語を増やし続けることが、人と人の間に常に問い続けるCo-Beingなのかもしれない。

「問い」は才能ではなく、技術であり、関係である

ここで、僕が影響を受けた本の一部分についても少し書いておきたい。この本のいちばんの魅力は、「問いを立てる力」は、誰もが手に取れる技術として差し出してくれていることだと思う。

良い問いには型があるとして、三つの型が示される。一つの視点に固定された問いを別の立場から照らし直す「視点の切り替え」。当たり前として埋め込まれた前提を外してみる「前提の疑い」。個人の実感と社会の構造のあいだを行き来する「スケールの往復」。

僕はこの考えに基づく表を見ながら、Welluluの企画会議を思い出していた。僕らの問いは、つい「編集部の視点」に固定されがちだ。読者から見たら、批判する人から見たら、未来の世代から見たら、この問いはどう変わるのか。三つの型は、問いを鋭くするというより、問いを開いてくれる道具なのだと感じた。

リーダー論も、共感しかなかった。売上が落ちているチームを前に、リーダーが取りうる対応を、指示を出す、質問する、問いを手渡す、という三段階で描き分けている。質問しているつもりで、実は自分の持っている正解を当てさせているだけ、という指摘には、思わず「あれ、僕の問いを見直さないと」と反省した。僕も何度、そんな「質問」をしてきただろう。

ECOTONEは、ウェルビーイングな人をひとりでも多く創るために何ができるか?

この本の誠実さを感じたのは、執筆そのものに生成AIとの対話を使ったことを隠さず、その過程で生まれた違和感や迷いまで開示している点だ。AIが整った答えを返すほど、自分の問いが研ぎ澄まされていく。答えをAIに委ねるのではなく、AIとの対話を通じて人間が問いを更新していく。その実践の記録として読めるところに、僕は共感しかなかった。

僕らが大切にしているものは?

Better Co-Beingの中で、宮田さんが掲げていた言葉がある。「最大多様の最大幸福」。功利主義の「最大多数の最大幸福」に対して、僕らは「問い」続けているからこそ、主観で感じ取れるのだろう。

「生きる上で、一番大切なことって何だろう?」

数を足し合わせて全体を最大化するのではなく、一人ひとりの違いを違いのまま肯定する。言葉にすると美しいけれど、実際の暮らしや仕事の中でそれを生きるのは、簡単ではない。違う価値観の人と向き合えば、摩擦が生まれる。分かり合えない瞬間もある。

本書で宮田さんは、カントの普遍的な道徳律から、ニーチェの価値の転倒、後期ウィトゲンシュタインまでを引きながら、異なる文化や体系のあいだでは絶対的な価値基準を共有するのは難しい、と書いている。それでも、問いであれば共有できる。この一節を読んだとき、僕の中で何かがつながった。

答えは共有できなくても、問いは共有できる。僕は、問いを共有するためには、二つのものが土台に要るのだと感じた。これは人と人の関係において僕が大切にしている信念に近い。

一つは、「自らが素であること(オープンであること)」。自分の問いを抱え込まず、未完成のまま差し出す勇気。宮田さんがAIとの対話の迷いまで開示したように、問いは開いたときに初めて、他者の問いと交わり始める。素であれば、オープンに他者と接すれば、仲間が生まれてくる。

もう一つは、「リスペクトであること」。相手の問いが自分と違っても、それを消そうとしない。違いを正すのではなく、違いに耳を澄ます。静けさの森で僕がしていたのは、きっとそういうことだったのだと思う。宮田さんも著書中で、相手への敬意の重要性を記していた。

問いを、手渡しながら生きていく

もう一度三つの問いを並べてみた。

僕は、誰と繋がっているのか。誰のウェルビーイングか。僕らは何を大切に生きることか。

どれも、すぐに答えが出る問いではない。きっと、一生かけて付き合っていく問いなのだと思う。でも、この本を読んで、それでいいのだと思えるようになった。問いは解くためだけにあるのではなく、誰かと分かち合い、手渡していくためにもある。

AIが答えを出してくれる時代だからこそ、僕らにできるのは、問いを持ち続けること。そして、その問いをオープンに差し出し、相手の問いにリスペクトをもって耳を澄ますこと。それが、Welluluが目指す「ウェルビーイング共創」の、いちばん根っこにある姿勢なのかもしれない。

宮田さん、いつも「問い」を投げかけてくださり、ありがとうございます。

参考:宮田裕章『AI時代の「問い」を立てる力——「答え」が溢れる世界で、人間は何を引き受けるのか』(光文社新書)

堂上 研   株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

株式会社ECOTONE代表取締役社長
ウェルビーイングメディアWellulu編集長
情報経営イノベーション専門職(iU)大学教授
日本イノベーション協会 理事
私生活では、3人の子供の父。趣味は、スポーツとアート。

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