「変幻自在」に生きること。

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

「プロティアン・キャリア」という生き方

先日、田中研之輔さんとご挨拶させて頂く機会があり、彼の著書『プロティアン』について少し備忘録として綴っておこうと思う。

カバーには「70歳まで第一線で働き続ける」「変幻自在なキャリア」という言葉が並んでいて、まさに「ウェルビーイングに働く」を探求している僕からすると、ワクワクの内容ばかりだった。ページをめくるうちに、これは僕自身がずっと歩んできた道そのものだ、と気づかされた。

就職氷河期に博報堂に入り、事業開発の道に進むと決め、「ミライの事業室」を創設することができた。そこからECOTONEという会社を立ち上げ、Welluluというメディアを育て、宮田裕章先生とBetter Co-Beingというプロジェクトを進めた。常に僕は「変化」を求めたのである。振り返れば、僕のキャリアはずっと「変わり続けること」でできている。

「無形資産」を養う

社員は人財と捉えられるようになり、人的資本経営の話がよく出てくる。そして、本の中に出てくる「無形資産」は、経験や学び、人とのつながりといった、目に見えないけれど確かに積み上がっていくもの、とある。つまり、僕らは会社の中で、人生の中で、この無形資産をどう育むかが大事になる。

人生100年時代を生き抜くカギは、目先の安定ではなく、この無形資産を意識的に育てていくことにあるのだという。僕は昔から、自分が成長できる環境と、常に変化を求めていた。博報堂という大きな会社にいながら、既存の枠に収まらない新規事業をやれる道を選び、その後は企業内起業という、外から見れば不安定に見える道を選んできた。当時は「これでいいのだろうか」と迷うこともあったけれど、今ならわかる。あのとき積み上げていたのは、人との出会い、失敗から得た知恵、そして「変わることを怖れない」という体質そのものだったのだ。

そして僕は、無形資産には二つの意味があるという本の指摘に、さらに深く頷いた。一つは、それ自体が人生を豊かにするということ。もう一つは、その無形資産があるからこそ、次の変身がしやすくなるということ。

つまり、変わり続けること自体が、次に変わるための力を生む。僕が博報堂から、新規事業ミライの事業室、そして企業内起業のECOTONEへと軸足を移せたのは、まさにその都度積み上げてきた無形資産があったからだと思う。そこには、常に出逢うべくして出逢う人がいた。そう、計画的偶発性理論を実践しているのだ。

振り返ってみると、その無形資産を積み上げる土台になっていたのは、会社という枠の中にいながら、自分なりに「イントレプレナーシップ」を実践してきたことだったと思う。具体的には、三つのことを変え続けてきた。

まず、時間の使い方を変えたこと。夜型だった僕は朝型に変え、決められた業務時間の中だけで働くのではなく、新しいことを学ぶ時間、人と話す時間を自分の意思で作り出してきた。

次に、働く場所を変えたこと。同じ部署、同じデスクにとどまらず、ミライの事業室のような前例のない場所に自ら手を挙げて越境してきた。僕は起業家が集う場所に行くようになった。さらには、サテライトオフィスをつくり、そこで仕事をするようにした。出島組織の実践である。

そして、出逢う人を変えたこと。社内だけでなく、社外の研究者や異業種の方々と積極的に出逢いにいった。多くは投資家や起業家に会う頻度が増えていった。

この三つ、時間、場所、会う人を自分の手で変え続けたことが、結果として僕自身のプロティアンとしての土台をつくってくれたのだと、今振り返って思う。

「心理的成功」はウェルビーイング

もう一つ、心に残ったのが「心理的成功」という考え方だ。プロティアン・キャリアの提唱者であるダグラス・ホール教授は、キャリアの成否を決めるのは報酬や社会的地位ではなく、自分が「個人的に最高の努力を尽くした」と感じられるかどうか、つまり心理的成功だと述べている。良し悪しを決めるのは他人ではなく、自分自身なのだと。

これは、僕がWelluluを立ち上げたときの感覚とそのまま重なる。ウェルビーイングという言葉は、まだ多くの人にとって輪郭のはっきりしないものだった。それをメディアとして形にしていく過程は、外から見た成果よりも、僕自身が「これは意義のある挑戦だ」と信じられるかどうかにかかっていた。

実際、Welluluの数字がすぐに伸びたわけではない。それでも続けられたのは、外側の評価ではなく、自分の中の物差しで「今日もいい仕事ができた」と思えたからだと思う。そして、出逢う人々がウェルビーイングだったからこそ、僕自身が常に学びのあるものだった。

本にも書かれている通り、成長そのものが人に強い幸福感を与える。結果として何かを獲得できるかどうかではなく、経験や学びを重ねていく過程そのものに、本人が幸福感を味わっている。これは、まさに「挑戦している人は、ウェルビーイングである」という、僕がずっと大切にしてきた感覚と同じものだ。

「橋渡し型」のつながりの意味するもの

本の第4章では、社会関係資本の話も出てくる。強く結びついた「弱いつながり」だけでなく、異なる集団同士をゆるやかに結びつける「橋渡し型」の関係性が、学習の機会や成長のきっかけを生むという指摘だ。

これは、僕がBetter Co-Beingプロジェクトを立ち上げたときに大切にしてきたことと重なる。宮田裕章先生という、まったく違う専門性を持つ方と出会い、共に何かを作っていく。企業や自治体、研究者、生活者と、立場の異なる人たちを「橋渡し」しながらつなげていく。

一つの組織の中だけで完結していたら、決して生まれなかった発想がそこにはたくさんあった。ウェルビーイングという概念自体が、そもそも「つながりの中」でしか育たないものなのだと思う。共創と共鳴の中にこそウェルビーイング共創社会が創られる。

気づいたら、プロティアンだった

正直に言うと、僕は「プロティアン・キャリアを実践しよう」と意気込んで歩んできたわけではない。ただ、目の前の違和感や好奇心に素直に従い、無形資産を積み重ね、心理的成功を物差しにして、いろんな人と橋渡しをしながら進んできた。そうしたら、気づいたらプロティアンだった。それでいいのだと、この本は教えてくれた気がする。

終身雇用が限界を迎えつつある今、30代、40代の方々がこの本を手に取る気持ちもよくわかる。でも、変わり続けることは、不安から始めるものではなく、無形資産を育てる喜びから始めてもいいのではないか、と僕は思う。

これからも、僕は変幻自在に、けれど自分の心理的成功という物差しだけは手放さずに、挑戦を続けていこうと思う。まずは、目の前の小さな出会いを大切にすることから。

ウェルビーイングに働く環境をつくっていきたい。これは、会社のカルチャーを変えることだし、文化と共に、一人ひとりが成長していく過程なのである。僕も変幻自在の挑戦者であり続けたい。

参考書籍:田中研之輔『プロティアン ──70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP)

堂上 研 株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

株式会社ECOTONE代表取締役社長
ウェルビーイングメディアWellulu編集長
情報経営イノベーション専門職(iU)大学教授
日本イノベーション協会 理事
私生活では、3人の子供の父。趣味は、スポーツとアート。

RECOMMEND

←
←

お粥断食の開始と農作業

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

意志をもって行動する(こどもと対話)

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

1分のビジネスヨガって?

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

学校の先生、生徒、親の関係

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

暇と退屈の先のウェルビーイング

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

WEEKLY RANKING

←
←

Others

骨格筋量・骨格筋率の平均はどれくらい?男女・年齢別の目安や筋肉量との違いも紹介

Others

セブンイレブンで買えるダイエット食品50選!朝・昼・夜におすすめのごはんやおやつも紹介

Others

レッグプレスの平均重量はどれくらい?男女別・目的別の目安と重量アップのコツを解説

Others

すき家の牛丼のカロリー・栄養成分一覧表!ダイエット中におすすめのカロリーが低いメニュー7選

Others

ベンチプレスは何キロからすごい? 平均重量や男女別・レベル別の違いも紹介