人々が笑顔になる場所・テーマパークで、ウェルビーイングな組織づくりを体現する人がいる。
サンリオピューロランドをV字回復に導いた、株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長の小巻亜矢さんだ。テーマパーク運営の経験がないまま、サンリオピューロランドの館長に就任。
「何も知らない」からこそ生まれた“聴く経営”は、現場を愛するスタッフたちの溢れ出るアイデアを引き出し、笑顔に満ちた組織へと変えていった。
「改革の旗は振らない」「まずは実験から」「誰も、一人にしない。」。「Wellulu」編集長の堂上 研との対談を通して、ウェルビーイングな組織作りへのヒントが見えてきた。

小巻 亜矢さん
株式会社サンリオエンターテイメント 代表取締役社長/サンリオピューロランド 館長

堂上 研
株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
悩んだ時点で、自分の可能性を信じている

堂上:小巻さん、この度はWelluluに登場いただく機会をいただきありがとうございます。サンリオピューロランドには、子どもたちと一緒に来て以来なので、10年ぶりになります。よろしくお願いいたします。
小巻:お話させていただくのを楽しみにしております。本日はよろしくお願いいたします。
堂上:早速ですが、サンリオの関連会社に戻られた頃のお話を聞かせてください。小巻さんは結婚を機にサンリオを退社され、しばらく期間を置いてから再びサンリオの関連会社に戻られています。そのときの心境はいかがでしたか?
小巻:結婚をして子育てをしている間は、仕事について考えない時期が長かったですね。しかし、30代に色々な出来事があり、40歳を迎える頃に“第2のアイデンティティ・クライシス”を経験しました。「自分は何者なのか」と自問自答したり、社会と接点を持ちたいと願うようになったんです。
そんな時を経て化粧品会社に勤めていたところ、サンリオから大人向けの化粧品を立ち上げるプロジェクトを「一緒にやろう」と声をかけていただきました。本当に嬉しかったんです。
堂上:素敵なご縁が巡り巡ったのですね。元々、サンリオの考えに共感したから入社した会社に、もう一度呼んで頂けるというのは嬉しいですよね。
小巻:でも当時の私には専門性もなく、何者でもありませんでした。サンリオ内の新規事業として品質の良い化粧品を作ることはできたものの、マーケティングの深い知識がなかったため、ビジネスとして大きな利益を出すには至りませんでした。
「このままでは会社に申し訳ない、私にできる恩返しや役に立てることは何だろう」と思い巡らせました。そのとき、サンリオは多くの女性たちに愛されて大きくなった会社だからこそ、今度は女性を応援する取り組みがしたいと考えたんです。そこから、心理学やコーチングを本格的に学び始めました。
大学院にも進学し、キャリア教育や女性が活躍できる社会づくりへの想いが深まっていた2014年、サンリオピューロランド館長のお話をいただきました。

堂上:「Wellulu」でもよく、30〜40代の女性読者から「人生の岐路に立つ中で仕事や生き方の選択に迷っている」というお悩みをご相談いただきます。ウェルビーイングというテーマにおいても「選択」への関心は非常に高いのですが、小巻さんはどのように選択をされたのでしょうか?
小巻:私はテーマパークの運営経験もなければ、エンターテイメントのショーを作った経験もありません。客観的に見ればほぼ不可能な挑戦だったはずですが、その場で「無理に決まっているじゃないですか」と即答しなかった。「考えさせてください」と持ち帰って悩んだのです。
後から振り返ると、「悩んだ」ということ自体、自分の中に「やってみたい」「挑戦したい」という気持ちが少なからず存在していた証拠だったのだと気づきました。
以前、仕事で元オリンピック選手の女性にインタビューさせていただいた際、現役復帰を巡って葛藤されたお話を聞いたことがありました。その方が「悩んでいること自体、自分の中にまだ可能性があると感じているのではないか。挑戦したい気持ちがあって悩むのだから、そこに光を当てようと思った」とおっしゃっていたんです。
館長を引き受けるかどうか悩んでいたとき、まさにその言葉が蘇りました。もし100%無理だと思っていたら、その場で断っていたはずです。持ち帰って悩んだ時点で、私は自分自身の可能性を誰よりも信じていたのだとわかりました。
堂上:いいですね。自分の中で限界を決めるのではなく、可能性を信じることで行動に移すことができた、ということですね。そんな中、自分で決めるというのはなかなか大変だと思います。周囲の方々の言葉で、背中を押された瞬間はありましたか?
小巻:そうですね。やはりいろいろと悩みましたので、中学・高校時代からの親友や、サンリオの同期、尊敬する先輩など、さまざまな人に相談しましたね。
親友は「もうこれ以上、あなたが苦労する必要はないよ。身体が心配だから」と親身に止めてくれました。同期は「亜矢ちゃんならできそうな気もするけれど、どうしようか」と一緒に悩んでくれた。そして先輩が「あなたならできるよ」と言ってくださったんです。その一言には、本当に強く背中を押されましたね。
「聴く」経営が、組織の心理的安全性を育てる

堂上:小巻さんの著書を拝読していて特に印象的だったのは、「わからない」ことをオープンにされ、周囲が自然と助けに来てくれる状態を作られている点です。これはウェルビーイングな組織作りにおいて、トップに求められる非常に重要な要素だと思います。
小巻さんがお持ちの「人を巻き込む力」は、ご自身の「素を飾らずに出せるところ」から来ているように思います。
小巻:館長に就任した当初は、本当にわからないこと・できないことだらけでしたから。長年サンリオピューロランドを支え続けてこられたベテランがたくさんいらっしゃる中で、私に少しでも強みがあるとすれば、心理学やコーチングを学んでいたことくらいでした。ですから、それをフル活用するしかなかったのです。
皆さんに「どうしたら良いと思う?」という問いかけを何度も重ねました。そうして問いを投げかけ続ける中で、皆さんの中にずっと眠っていた想いやアイデアが自然と引き出されていったのです。私自身が何もできなかったからこそ、かえって良かったのかもしれませんね。
堂上:「Wellulu」でウェルビーイングに関する調査を行っていても、リーダーが自分の弱みや素を見せたり、自己開示することで組織に「心理的安全性」が生まれる、ということが分かっています。そこから、チーム全体がウェルビーイングになっていくという結果が出ています。小巻さんのお人柄はもちろん、コーチングの学びがあったからこそ、自然とその姿勢を実践できていたのですね。
小巻:心理学とコーチングの学びは、約3年半に及ぶ修行のような時間でした。コーチングとは、相手にさまざまな角度から質問を投げかけることで答えを引き出していくものです。そのためには当然、自分自身にも深く問いかけ続ける必要があります。
仲間と何度も問いを投げかけ合う練習を重ね、折れそうになるほど自問自答を繰り返したことで、自分自身の価値観と深く向き合うことができました。

堂上:なるほど。単に弱みをさらけ出すというよりも、ご自身のことを深く理解されていたわけですね。この辺は、いろいろな経営者にも聞いてほしいお話です。自分と対話した分だけ、自分を開示し、周りをどんどんと巻き込んでいく。
小巻:自分を客観的に理解し、周囲には自分に足りないものをたくさん持っている素晴らしい人たちしかいないとわかっていたので、必要以上に自分を卑下することもなければ、大きく見せる必要もなかった。そうしたフラットな状態でいられたのだと思います。
堂上:経営者の人柄や哲学は、やはり組織のあり方にダイレクトに反映されますね。
小巻さんは一人の強力なリーダーシップで引っ張るのではなく、みんなを巻き込みながら進む伴走型のリーダーだと感じます。経営をしていく上で、組織を束ねる上で、日常的に最も意識されていることは何でしょうか?
小巻:「風通しの良さ」は、常に大切にし続けています。例えばスタッフが増えてオフィスが複数拠点になると、どうしても情報格差が生まれやすくなりますよね。そうした隔たりができると、組織が一つの方向へ向かうことが難しくなってしまう。
だからこそ、会社で今何が起こっていてどこを目指しているのかという情報をオープンに共有する機会を仕組み化するよう意識しています。
堂上:僕が新卒で入社した際も、上司から「情報格差を生まないよう常にアンテナを張れ」、そして「新人であっても経営者視点を持て」と叩き込まれました。経営者が何を考えているかを意識して動くことで、圧倒的な当事者意識が芽生えるんですよね。
と言いつつ、今ECOTONEの経営をさせていただいていて5人しか社員がいないのに、情報格差が生まれてしまっているのもあり、難しさを感じています。小巻さんが情報格差をなくそうとされているのも、スタッフの皆さんが「自分ごと」として主体的に動き出せる環境を作るためなのだと腑に落ちました。
改革の旗は振らない。「小さな実験」から変える

堂上:館長として、サンリオエンターテイメント代表取締役社長として、就任当時に「まずこの課題を解決しよう」と掲げたテーマはあったのでしょうか?
小巻:「ここを変えなければいけない」「こういう社風に刷新しなくてはならない」といった「○○しなければいけない」というスローガンを掲げることはありませんでした。私の中に、「改革の旗は振らない」という想いがあったからです。
なぜなら、スタッフのみんなの方が圧倒的に長くサンリオピューロランドを知っていますし、これまで現場が築いてきた歴史や努力を否定したくなかったからです。たとえ当時の経営状況が厳しかったとしても、そうなっているのには必ず歴史的な理由や背景があります。
ですから、大きな改革や変革ではなく、「トイレをきれいにしよう」「挨拶やサービスを良くしよう」といったごく基本的なことを一つひとつ積み重ねていきました。そのために1カ月や半年に1回の研修だけではなく、日々の朝礼を通して具体的なアクションや習慣を変えていく取り組みを徹底したのです。
優しく話す、温かく聴く。否定せずに受け止める、「いいね」と声をかける、拍手を送る。意識したのは、そうした本当にシンプルで当たり前のことばかりです。
堂上:本来はとても重要なことであるにもかかわらず、つい後回しにしてしまう経営者も多い部分ですよね。ウェルビーイング経営を目指すときにありがちなのが、「ウェルビーイングに働くように」とトップが従業員に、ウェルビーイングになるような価値観を押し付けてしまうことです。それでは本末転倒ですし、真のウェルビーイングとは言えません。
日々の小さな習慣から変えていくアプローチを、小巻さんは現場で実践されてきたのですね。そうして習慣が変わっていく中で、スタッフの皆さんが自発的に動き出す瞬間が生まれていったのでしょうか?
小巻:そもそも、スタッフのみんなは「動きたくてしょうがなかった」のだと思います。サンリオピューロランドが心から大好きな人たちばかりですから、現場で何をすべきかは自分たちが一番よくわかっていた。ただ、これまでは「余計なことはしない方がいい」「経費は使えない」「他部署には意見を出せない」といった空気の中で、固まってしまっていただけなのです。
だからこそ、「まずは実験としてやってみたらいいんじゃない?」と背中を押していくと、やりたい企画やアイデアが次々と湧き出てきて、あっという間に花開いていきました。
もちろん、すぐにポジティブに動き出す人もいれば、最初は慎重で批判的な部分に目が向いてしまう人もいます。けれど、ポジティブに光のある方へ動き出す仲間が現れると、組織全体が自然と引き上げられていくのですね。
職場が明るくなると笑顔が増え、お客様からも「最近、館内の雰囲気が明るくなりましたね」とお褒めの言葉をいただけるようになり、それが数値や成果にも表れていく。そうして素晴らしい好循環が生まれていきました。
堂上:「実験」という感じで勧めていくのはいいですね。そうした好循環が生まれる原点には、やはり小巻さんの「まずは、ちゃんと聴く」という姿勢と、深い「観察眼」があると感じます。昔から人を観察することがお好きだったのですか?
小巻:観察は昔からよくしていましたね。周囲の大人の表情や本質を鋭く見抜いてしまう、少し生意気な子どもだったと思います(笑)。
堂上:僕も子どもの頃、電車の中で周りの人をじっと観察しては母に怒られていました(笑)。でも観察していると、言葉以上に相手の感情やコンディションが伝わってくる感覚があるんですよね。
「Wellulu」で多くの経営者の方と対話を重ねる中でも、人の話をじっくり聴くこと、そして相手を注意深く観察することの大切さを実感しています。小巻さんは、経営者になられる前からその素質をお持ちだったのですね。

小巻:相手の話をフラットに聴けるようになったのは、やはりコーチングの訓練を受けた経験が大きいです。それまでの私は、どうしても自分の中に無意識の「答え」を持ったまま相手の話を聞いてしまっていました。心の中で「こうすればいいのに」「なぜそういう考え方をするのだろう」と思ってしまっていました。しかし、徹底的な聴く修行を経たことで、相手にレッテルを貼らず、ゼロベースで耳を傾けられるようになりました。
言葉がきつい人もいれば、なかなか自分の想いを言葉にできない人もいます。けれど、言葉がきついのは期待や熱量の裏返しですし、発せられた言葉そのものだけでなく「声のトーンや音」に耳を澄ませる。言葉が出てこないという状態自体も、一つの大切な答えなのです。
そうやって聴いていくと、誰一人として嫌いな人はおらず、誰もが本当に尊い存在なのだと思えてきます。
堂上:スタッフの皆さんが「小巻さんに付いていきたい」と心から思われる理由がよくわかりました。周囲をリスペクトし、温かく受容してくれるリーダーのもとで働けること自体が、スタッフにとって最高のウェルビーイングですね。
サンリオエンターテイメントが採用において最も重視している軸は何でしょうか?
小巻:一番大切なのは、「みんななかよく」という企業理念を「自分ごと」として捉えていただけるかどうかです。最近ではキャリア採用も増え、多様なスキルや経験を持つ方が集まっています。しかし、どれほど優秀な実績があっても、根底にある「みんななかよく」という理念に共感し、そのもとで共に歩んでいけるかどうかで、いっしょに働きたいかと考えますね。
正義感と探求心が導いた企業理念

堂上:少し、小さいころの小巻さんのお話を聞かせてください。小巻さんは、小中学生のときはどのようなお子さんだったのでしょうか?
小巻:正義感がとても強い子どもでしたね。いじめは絶対に許せなかったですし、困っている子や泣いている子がいたら放っておけない性格でした。幼稚園の頃から先生にも「リーダー的存在だね」と言われていましたね。特定の人と群れなくても平気なタイプだったので、女の子たちのグループには属さないような子でした。
堂上:小学生のときに小巻さんがクラスメイトだったら、すごい小巻さんを頼っていたかもしれません。すごく仲良くなりたいと思っていそうです。その頃から持ち合わせているブレない芯が、今の小巻さんの生き方やリーダーシップにもつながっているのですね。
小巻:世の中の理不尽なことが嫌いで、小学6年生の文集には「将来は女性を応援する仕事に就きたい」と書いていました。社会に存在する理不尽への疑問や、偏見・差別に対する怒りや違和感のような想いは、ずっと胸の中に抱き続けていたのだと思います。
「誰の笑顔も諦めない社会にしたい」という情熱は、その頃から私の中で脈々と流れています。だからこそ、サンリオの『みんななかよく』という企業理念に深く共鳴したのです。本当に大切なことをど真ん中から掲げている会社だからこそ、「この会社に入ろう」と心に決めました。
社会構造が大きく変化していく現代において、本当の意味での『みんななかよく』とはどのような場づくりなのか、今まさにその真価が問われていると感じています。
堂上:ウェルビーイングを追求する上でも、自分自身の生き方の軸や「哲学」がベースにあることが極めて重要だと感じます。小巻さんにとって、その根幹にあったのが『みんななかよく』という理念だったわけですね。
小巻:小学生の頃にサンリオの機関紙『月刊 いちご新聞』を通して、サンリオ創業者の辻 信太郎の「みんななかよく」という言葉や想いに触れ、幼心に深く胸を打たれましたからね。
大分ハーモニーランドがエンタメリゾート構想を発表。新たな挑戦が始まる

堂上:会社の中で「ここがやっぱり好きだな」「働いている人たちのこんなところが好きだな」と感じられるのは、どのような部分でしょうか?
小巻:何よりもスタッフ全員が自社を深く愛していて、本当に心根の良い人たちが集まっているという点ですね。
堂上:以前、子どもたちとサンリオピューロランドにお伺いした際も、働いているスタッフの皆さんが本当に自然な笑顔で接客されているのがとても印象的でした。
小巻:キャラクターたちの存在というのも非常に大きいと思います。やっぱり、あの温かい世界観の中に身を置いていると自然と笑顔になりますよね。
もちろん、実際の業務の中では難しい局面に直面することも、意見がぶつかることもあります。けれど「私たちは何のために働いているのだろう」と原点に立ち返れば、それは「誰かを笑顔にするため」なのです。そこに立ち返ると、やはり自分たちがまず笑顔でいなければと思いますね。それぞれが高い向上心を持ち、お互いを自然と助け合う温かい心を持っています。
堂上:素晴らしいですね。先日、僕たちが行った「ウェルビーイングな働き方(Well-Working)に関する基礎調査2026」でも、働く上で大切にしたいことの第1位は「困ったときに助け合える職場であること」でした。会社にいる同僚や、社風で、「誰と働くか」が重視される時代になってきていると感じます。サンリオエンターテイメントには、まさにそうした理想的な環境があるのですね。
小巻:そうですね。私たちらしさ、そして私たちの世界観とは何かということについて、ここ最近ずっと問いを深めています。「私たちの世界観とは?」と尋ねると、「キャラクターがいること」と答えるスタッフもいれば、「建物の装飾や雰囲気」「ホスピタリティ」「『みんななかよく』の企業理念」と答える人もいる。
そうした現場の声を丁寧に集めていくと、最終的に「誰も、一人にしない。」という姿勢に集約されるのだと気づきました。常に一緒にいるという意味ではなく、ちょっと困っている人がいたら、思わずそばに行って「どうしたの?大丈夫?」と自然に声をかける。それこそが、私たちが誇るべき世界観なのです。

堂上:単に仲良くするだけでなく、相手を深く慮る真のリスペクトが根底にあるのですね。
サンリオピューロランドは35周年を迎え、大分のサンリオキャラクターパーク ハーモニーランドも新たなフェーズへと向かっています。現在の手応えとこれからの展望をどのように捉えていらっしゃいますか?
小巻:まずサンリオピューロランドに関しましては、来場予約の取得が困難な日が出るほど、多くのお客様にご来場いただいております。大変ありがたいことに来場者数が上限に近づいている中で、ここからいかに質を高めて成長していくかという新たなフェーズに入っています。
一方、ハーモニーランドにおきましては、地方でテーマパークを運営する難しさを長年実感してまいりました。しかし、同業・異業種の皆さまや地元施設、県民の方々、自治体の皆さまと『みんななかよく』の手を取り合った連携が上手く回り始め、少しずつ確実に良い方向へと動き出しています。熊本の震災など様々な試練もありましたが、先日発表させていただいた「エンタメリゾート構想」という新たな挑戦に対しても、あらゆる業種の企業様が大分まで見学に訪れてくださっており、非常に大きな希望に満ち溢れています。
この二つのテーマパーク軸に加え、サンリオの世界観を体感していただける場をさらに世界へ広げていくためのグローバル戦略も推進しています。リゾート分野において私たちはまだ新規事業者ですから、ワクワクするような新たな挑戦が待っています。
堂上:小巻さんとお話ししていて素晴らしいなと感動するのは、常に新しい未知の領域へ挑戦し続けていらっしゃることです。「何歳になっても『はじめてをはじめる』人はウェルビーイング度が高い」という傾向がありますが、小巻さんはまさにそれを体現されていますね。
小巻:「これしかできない」と自分で限界を決めてしまうのが嫌なのです。せっかく現場の皆が成功させようとさまざまな工夫を重ねているのですから、もっとできる可能性があるなら挑戦すべきだと思うのです。

堂上:よく経営者の方から、「うちの会社には挑戦できる人がいない」というご相談をいただくことがあります。小巻さんなら、そうした悩みにどのようにアドバイスされますか?
小巻:色々なアプローチがあると思いますが、まずは「実験としてやってみよう」と声をかけるのがとても効果的だと思います。スタッフが何も思いついていないわけではなく、「失敗したらどうしよう」「自分が思いつく程度のアイデアは、すでに誰かがやっているはずだ」と無意識にブレーキを踏んでしまっているだけなのです。だからこそ『まず実験』という言葉で心理的ハードルを下げてあげることが大切ですね。そして、どんなに小さくても「成功体験」を積み重ねることが何よりの薬になります。
もう一つ欠かせないのが、本気の「承認」と「称賛」です。「よく気がついたね!」「すごい、どうしてこれをやろうと思ったの?」と、お世辞ではなく心から感動して言葉を伝える。そうした真正面からの承認を受け取ると、「じゃあ次も頑張ってみようかな」と自然と思えるようになりますよね。
さらに、外部の方々に注目していただくこと、例えばメディアの取材を受けたり露出したりする機会をつくることも極めて重要です。たとえ控えめな性格のスタッフであったとしても、自分たちの仕事が社会的に認められるというのは、社会人として素直に誇らしく嬉しいものですからね。
堂上:とても共感します。「Wellulu」自体が社内の賞賛になり、挑戦を言語化しています。記事を社内で共有して「自分たちの取り組みが形になった」と心から喜んでいただいています。また、取材で質問を受けること自体が、自分自身の原点や想いに問いを立て、深く内省する貴重なきっかけにもなりますからね。
『自分となかよく』から始まる、優しい世界へ

堂上:もう少し個人的なことを聞かせてください。小巻さんにとって、どのような状態にあるときが一番ウェルビーイングだと感じられますか?
小巻:仕事をしているときですね。
堂上:本当にお仕事が好きなのですね! 実は「Wellulu」の取材でこの質問を投げかけると、多くの経営者やリーダーの方が「仕事」と答えられるのです。皆さん、遊ぶように仕事を楽しんでいらっしゃる。僕もこの仕事が天職と思っており、仕事を楽しんでいます。
小巻:本当に楽しいです。「こうかな、あのアプローチはどうだろう」とあれこれ思考を巡らせる時間が大好きなのですね。けれどそれも、自分の精神状態が良好で、ウェルビーイングであるからこそ可能になるのだと感じます。
堂上:自身の体調が優れなかったら、深く考えることすらできませんからね。睡眠も普段からしっかりとれていますか?
小巻:ここ最近はとてもよく眠れていますね。
堂上:素晴らしいですね。実はウェルビーイングな組織をつくる絶対条件の一つに、「トップである経営者がよく眠れていること」が挙げられます。経営者が睡眠を削って余裕をなくしていたら、ウェルビーイングな組織は生まれません。
最後に、仮に2050年という少し先の未来を想像していただいて、小巻さんはこれからどのような社会を創っていきたいと思われますか?
小巻:誰もが他者に優しくなれる世界になっていてほしいですね。人間には向上心があるため、どうしても「もっとほしい」「より良くなりたい」と望んでしまいがちですが、他者のものを奪い合うのではなく、今あるものに感謝し、互いに満たし合える世界になってほしいと心から願っています。
そのためには、まず自分自身のことを好きになり、その上で相手のことも愛せるようになってほしい。「みんななかよく」を実現するための前段階として、私は常に『自分となかよく』あることの大切さをお伝えしています。
それは決して自分勝手や我がままに生きるという意味ではなく、誰よりも自分自身を愛し、誰よりも自分自身の可能性を信じてあげるということです。自己理解と自己受容、そして他者理解と他者受容。これこそが、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括)の真の本質だと思うのです。
堂上:まったく同感です。お互いの違いを認め合い、「多様であって良いんだ」と包摂し合うことこそが本当の多様性ですよね。
自分の価値観を一方的に押し付けず、自分が絶対正しいと思い込むこともない。たとえ周りと価値観が異なっていたとしても、お互いがお互いを尊重し支え合える社会になれば、自然と『みんななかよく』なれる未来が引き寄せられる気がします。
僕は以前、北海道での「ホースローグ」の研修で小巻さんとご一緒させていただきました。小巻さんは本当に不思議な包容力とリーダーシップをお持ちの方だなと感動したのを覚えています。馬と一緒に参加者数名で一つの共同体となり、「群れになれた」と感じた瞬間に静かに手を挙げるというプログラムがあったのですが、小巻さんが誰よりも一番最初に手を挙げられたのですよね。
当時はお伝えしなかったのですが、僕自身が手を挙げたとき、無意識のうちに小巻さんを群れの『リーダー』だと感じて同調していたのだと後から気づきました。人間や動物が何か行動を共にするとき、最終的に心が一つになることの尊さを学びましたし、小巻さんという方の圧倒的な魅力に触れた瞬間でした。
本日は「Wellulu」でこうして深く対談させていただき、本当に光栄でした。温かいお話をありがとうございました!

堂上編集長後記:
ホースローグで出逢った亜矢さん(ここでは、亜矢さんと呼ばせていただきます)は、常に観察と内省をされている真のリーダーだと感じました。そして、素敵な経営者だからこそ、たくさんの人たちが亜矢さんの周りで、動く人たちがいるんだと感じました。
馬にも僕の心はまったく伝わらなかったのに、亜矢さんが心を通わせると、馬は自然に歩き出す。これが本当のリーダーだと感じました。亜矢さんから学ぶことが多いホースローグでした。
そして、今回、久しぶりにサンリオピューロランドにお伺いしたときに、10年前に子どもたちと一緒に行った日を思い出しました。子どもたちが本当に楽しそうに遊んでいて、館内のスタッフのみなさま、キャラクターたちが、そこにいるだけで「みんななかよく」なっているのです。
サンリオがあるから、みんなつながっていくんだなあ。まさに、ウェルビーイングな会社ですね。亜矢さん、ありがとうございました。

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東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。1983年に株式会社サンリオ入社。結婚を機に退社し、出産、育児などを経てサンリオ関連会社に復帰。2014年サンリオエンターテイメント顧問就任。2015年サンリオエンターテイメント取締役就任。2016年サンリオピューロランド館長就任。2019年より現職。子宮頸がん予防啓発活動「ハロースマイル(Hellosmile)」委員長、NPO法人ハロードリーム実行委員会代表理事など社外活動にも取り組む。著書に『サンリオピューロランドの人づくり』(ダイヤモンド社)、『Kawaii経営戦略』(髙木健一氏との共著・日本経済新聞出版)。
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