僕は、メンタルが弱い。荻野淳也さんの「メンタルづくりの教科書」から。

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

荻野淳也さんの「仕事人生を後悔しない メンタルづくりの教科書」出版記念パーティ

令和8年8月8日の土曜日。一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事であり、Search Inside Yourself(SIY)の認定講師でもある荻野淳也さんの、新刊『仕事人生を後悔しないメンタルづくりの教科書』(NewsPicsパブリッシング)の出版記念パーティに呼んで頂いた。

荻野さんとの出逢いは、息子が中学校で同級生になったのが、荻野さんのお嬢さまで、そこからのご縁だった。いわゆる「パパ友」というやつだ。ある日、学校で荻野さんの「マインドフルネス」の講習を受ける機会をいただき、そのあとは僕が教授をしているiUでも教壇に立っていただいた。僕自身がウェルビーイングを追いかけている中で、マインドフルネス、リーダーシップなどを科学的に読み解き、実践している荻野さんの考えは共感しかなく、尊敬する専門家として、そして、いつも子どもの話で笑い合うパパ友として、素敵なご縁をいただいた。

会場に集まっていたのは、荻野さんが長年マインドフルネスを届けてきた企業の方々、研修でご縁のあった経営者、そして荻野さんを慕う仲間たち。誰もが少し照れくさそうに、でも本当に嬉しそうに、荻野さんの新刊を手に取って、ページをめくっていた。ただ、荻野さんという一人の人のまわりに、静かに、あたたかい輪ができている。その光景を見ているだけで、このご縁のご縁が大きな渦になっていくんだな、と感じるものだった。一冊の本のまわりに、こんなに温度の高い人の集まりができるのだということが嬉しかった。

荻野さんは、延べ3万人ものクライアントと向き合ってきたという、25年という時間を、この一冊に凝縮したという。会場の空気そのものが、その積み重ねの証だった。しなやかで、静かで、でも確かな熱がある。マインドフルネスという言葉が、まだ「よくわからないもの」「ちょっと怪しいもの」として見られていた頃から、荻野さんはずっと同じ場所に立ち続けてきたのだと思う。前著『マインドフルネスが最高の人材とチームをつくる』から数年、その積み重ねの先に生まれたのが今回の一冊なのだと思うと、なおさら感慨深かった。

パーティから帰った夜、僕は電気を少し落として、一人でゆっくりページをめくった。「仕事人生を後悔しない」という言葉は、一見すると強いタイトルだ。けれど本文を読み進めるうちに、これは「失敗しないためのマニュアル」ではないのだと分かってくる。むしろ、不安や悩みそのものを敵にせず、まず自分の思考のクセに気づき、そこから少しずつ、無条件の満足感を育てていく。荻野さんが積み重ねてきた25年分の対話が、静かな確信として、一文一文に染み込んでいるのが伝わってきた。パーティのときに、編集者がおっしゃっていたが、「本当に分厚い内容を紙を極力薄くしました。」という言葉を思い出す。本当にボリュームがありすぎて、読み終わるのに久しぶりに時間をかけた。特に、コラムの欄は素直な荻野さんの日常が垣間見えて、面白かった。

読み終えて、僕は大きく3つの視点を受け取った。今日は、その学びと、パーティで感じたことを、つらつらと書いてみたいと思う。

1.まずは、素直に自分を受け入れることの大切さ

本の中で荻野さんは、「不安や悩みをなくすこと」を目的にしていない、と書いている。目的はあくまで、仕事での成果を上げることと、人生を充実させること。悩みをゼロにしようとするのではなく、まず「マイナスからゼロへ」、自分の思考のクセを理解し、そのうえで「ゼロからプラスへ」無条件の満足感を育てていく。この2段階の順番に、僕はなるほどと思った。悩みをなくそうとして頑張れば頑張るほど、かえって悩みそのものに縛られてしまう。順番を間違えると、努力そのものが苦しみになってしまうのだ。

僕はずっと「何か生き急いでいる」「早く前に進まなくちゃ」という人間だった。というのは、「止まるのが怖い」と思っていたのだ。(今も、少しそう思っている)。博報堂で、新規事業開発のミライの事業室で新たな挑戦をしようとしたときも、ECOTONEを立ち上げてからも、悩んでいる自分を素直に認める前に、無理やり「体を動かして、考えるよりも行動」と思って走り続ける。まわりから見たら、寝ないで泳ぎ続けるマグロと同じだろう。本の中で語られている「がんばりすぎ」「断れない」「依存」、そして「ミッドライフ・クライシス」といった、現代のビジネスパーソンが抱えやすい思考のクセの話を読みながら、僕は何度も、「そうだなあ」と共感しかなかった。誰にも見せていないつもりの弱さを、そっと言い当てられたような気持ちだった。とはいえ、僕は「完璧主義」ではないので、たまに「自分の息抜き」を持てている。だからこそ、馬力を出せているんだろうと思う。

博報堂で「ミライの事業室」にいた頃、僕は新規事業を生み出せる挑戦する文化をつくれることに希望を感じていたし、自分ならこの会社を変えられる、挑戦していけると思っていた。でも、いざ前例のない案件を会社の中で通そうとすると、うまく説明できない自分にぶつかった。「事例がない」と言われるたびに、はじめてやることなのだから事例がないのは当たり前じゃないか、と思うのに、なかなか会社に理解してもらえない。そのジレンマの中で、僕は心の中で「なんて、かたい会社なんだ。リスクを負わないことこそが、本当はリスクなんだ」と、自分に言い聞かせるように呟いていた。けれど振り返ってみると、会社を批判している自分こそが、いちばんコンフォートゾーンから出られていなかったのかもしれない。うまく説明できない現実から目を逸らして、ただウジウジと、会社のせいにしていた時期が、たしかにあった。

起業したあとも、似たようなことを繰り返している。経営者になった僕は、社員や業務委託で関わってくれているメンバーに、「これくらいは分かってほしい」「先を読んで動いてほしい」と、つい期待してしまう。でも、それがなかなか浸透しきらない。仕方がないよな、と頭では分かっているのに、気づくと感情が先に出てしまって、「なんで、言われたことだけやる、みたいな受け身になるんだ」と、必要以上に強い言葉でぶつけてしまうことがある。もっと主体的にやってほしい、という思い自体は間違っていないのかもしれない。けれど、その伝え方はきっと、僕自身の焦りや、「分かってくれるはず」という思い込みから来ているのだと思う。書きながら、なんだか恥ずかしくなってくる。(この内省が大切なんだろう)

今回の本で、荻野さんの文章は、こちらを責めない。「そういうクセがあっても、大丈夫」というトーンで、そっと寄り添ってくれる。素直に自分を受け入れるというのは、決して弱さを認めることではない。むしろ、いまの自分の状態を正確に見つめる、静かな強さなのだと思う。パーティの会場で荻野さんが参加者一人ひとりと話す姿を見ていて、その静かな強さがそのまま伝わってきた。荻野さんは誰かを評価するような目では見ない。ただ、その人がいまどんな状態にあるかを、じっと受け止めているように見えた。僕はそれを見て、素直さというのは、自分にも他者にも、同じやわらかさで向けられるものなのだと気づかされた。自分を許せない人は、きっと他人のことも、心の底では許せていないのだと思う。

2.リーダーというものは、常にマインドフルな状態を持つことの大切さ

本書は、7つの章を通して、理論から実践、そして応用へと段階的に進んでいく。各章の終わりにはコラムも添えられていて、読み手が自分のペースで実践に落とし込めるようになっている。そこに神経科学の知見も織り込まれていて、感覚だけでなく、根拠を持って「なぜマインドフルネスがリーダーに必要なのか」を語ってくれる。読んでいて僕が強く感じたのは、マインドフルネスは特別な誰かのための特殊技能ではなく、リーダーという役割を担うすべての人にとっての、いわば「土台」なのだということだった。

僕は3人の子どもの父親でもあるけれど、家庭というのも小さな組織だと思っている。子どもたちの前で、僕がざわついた心のまま何かを言ってしまうと、それはそのまま子どもたちに伝わる。妻に、「子どもへの言い方が悪い」となんでも注意される。(大阪弁だと余計に強い、言葉の暴力になるのだろう)逆に、僕自身が落ち着いていられると、家の中の空気も不思議と落ち着く。子どもたちの表情まで違う気がする。会社でもきっと同じだ。リーダーがマインドフルであるということは、本人のためだけではなく、その場にいる全員のウェルビーイングに関わっているのだと、本を読みながら何度も思った。焦っているリーダーのもとでは、チームまで焦る。落ち着いているリーダーのもとでは、チームも安心して挑戦できる。当たり前のようで、僕自身、日々の忙しさの中で何度も忘れてしまうことだった。反省するのに、同じ過ちを繰り返してしまう。だからこそ、習慣をつくることが大切なんだろう。マインドフルネスの「今、ここの自分と向き合う」習慣を。

パーティの中で、荻野さんが「今日という日を、ちゃんと味わっていますか」というような佇まいで、一人ひとりに向き合っていたのが忘れられない。あの会場の中で、少し時間の流れがゆっくりになるような感覚があった。あれこそが、マインドフルなリーダーの姿なのだと思う。常に、というのは決して「気を張り続ける」ことではない。むしろ、いま、ここに、ちゃんと在り続けることなのだと、その場で教わった気がする。人と話すときは、まず一度、自分の呼吸を確かめるようにしないと。。。

3.他者を受け入れ、人と人の関係の中での対話の大切さ

本の後半で語られているのは、個人の内側の話だけではなく、他者との関係、対話の話だった。マインドフルネスというと、一人で静かに自分を見つめる時間を想像しがちだけれど、荻野さんが本当に大切にしているのは、その先にある、人と人のつながりなのだと僕は受け取った。自分自身を受け入れられて初めて、他者もそのまま受け入れられる。そこから始まる対話にこそ、本物の力があるのだと思う。頭で分かっていても、忙しさの中ではつい忘れてしまう順番だ。

Welluluという場所で、僕はずっと「ウェルビーイングは、一人では完成しない」ということを、いろいろな方から教わってきた。We(私たち)とU(あなた)が「/」でつながる。それがWelluluという名前の由来でもある。荻野さんの本を読んで、その考えがまた一段深くなった気がした。対話というのは、正しい答えを言い合うことではない。むしろ、相手が何を感じているかを、ジャッジせずにそのまま受け取る時間なのだと思う。

パーティの会場でも、名刺交換のあとに、みんなが本当に長く立ち話をしていた。誰かの近況に、誰かがうんうんと頷き、また別の誰かがそっと笑う。荻野さんという一人の存在が、こんなにも人と人の対話を生み出しているのだということに、僕は静かに感動していた。会場を見渡しながら、この空間そのものが、本の中身をそのまま体現しているのだと感じた。理論として書かれたことが、目の前で、人と人の温度として立ち上がっている。人の笑顔も伝染する、会場にいた人、本を読んだ人にウェルビーイングが伝染しているのだろう。

ウェルビーイング共創社会へ、地続きの学び

ウェルビーイング共創社会というのは、誰か一人が正しい答えを持っているわけではなく、それぞれが素直な自分でいながら、対話を通して少しずつ場をつくっていく社会のことだと、僕は思っている。多様であること、そのままでひとつになれること。そこにいつも立ち返るようにしている。

そう考えると、荻野さんの本から学んだ3つの視点――素直に自分を受け入れること、リーダーがマインドフルであること、他者との対話を大切にすること――は、そのままウェルビーイング共創のための、いわば土台のようなものなのだと感じた。共創というのは、大きなビジョンやフレームワークから始まるものだと思われがちだけれど、本当は、一人ひとりが自分を素直に受け入れられているかどうかから始まっているのかもしれない。自分にざわつきを抱えたまま人と組んでも、その場はきっとうまく育たない。ギブの精神、透明性、リスペクト。僕が共創の場でいつも大切にしたいと思っている3つの言葉も、結局はこの本の中にある考え方と、地続きなのだと思う。

僕は、メンタルが弱い。それを見つけたことが最大の発見かも。メンタル強くなくては、と思わなくて良い、と気づかされた。

仕事人生というのは、後悔しないようにと気を張るものではなく、素直に、しなやかに、対話しながら重ねていくものなのかもしれない、と思った。頑張ることをやめる必要はない。ただ、頑張りながらも、ちゃんと自分の状態に気づいていられる、そんな在り方でいいのだと思う。そんなことを考えながら、少し温かい気持ちになった。生きるってワクワクする。

まずは、今日から。誰かと話すときに、一呼吸置いてから、素直な自分でその場にいることから始めようと思う。がんばりすぎている自分に気づいたら、一度、そのがんばりを認めてあげようと思う。そして、一呼吸を置いて、「余白」をつくる。気づいたら、しなやかになっている。荻野さん素敵な本、ありがとうございました。

堂上 研 株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

株式会社ECOTONE代表取締役社長
ウェルビーイングメディアWellulu編集長
情報経営イノベーション専門職(iU)大学教授
日本イノベーション協会 理事
私生活では、3人の子供の父。趣味は、スポーツとアート。

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