働く場所って?

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

働く場所に何が必要か!?

みなさんは普段、どこで仕事をしていますか?
オフィス、自宅、あるいは近くのカフェやコワーキングスペースでしょうか。リモートワークが急速に普及し、一時は「オフィスの不要論」や「地方移住」が大きく叫ばれたのは遠い昔のよう。

コロナ禍を経て、リアルとオンラインのハイブリッドで働く環境が整った。最近は、出社が必須の会社も増えている。僕は、今リアルが週に2日ほど。オンラインでずっとzoom打ち合わせが3日となっている。日本の夏は、移動時間も辛いので、オンラインで冷房の効いているところで仕事をするのも快適である。

『Diamond ハーバード・ビジネス・レビュー(2026年9月号)』を購入した。そこに掲載されている論文「ナレッジ・キャンパス:企業の競争力を左右する拠点戦略」(リチャード・フロリダ等著)が面白かったので、読んで感じたことをつらつらと。

働く場所とウェルビーイングの新しい方程式

どこにいても仕事ができる時代になったからこそ、僕たちは今改めて「なぜ、働く場所(立地)にこだわるのか?」という本質的な問いに直面している。

リチャード・フロリダ教授らの論文では、従来の単なる「事務作業をするビル」から脱却し、職住近接でカルチャー・商業・自然・多様な人々が交差する「都市型ナレッジ・キャンパス(Urban Knowledge Campus)」へシフトすることが、企業の生産性や優秀な人材の獲得に不可欠であると説かれている。

この議論は、僕が日常的に探求している「Well-Working(心身ともに健やかに働くこと)」や、ECOTONE社が提唱する「エコトーン(あわい領域、境界領域)の思考」と共鳴するものだった。

今回は、この記事から得た「働く場所とウェルビーイング」に関する5つの気付きのポイントを、僕なりの視点で綴る。

気付きのポイント1:「生産性」の定義が変わった——効率から「創造性と接続性」へ

長年、オフィスの立地や設計は「コスト削減」や「業務効率(アセンブリライン的な生産性)」の文脈で語られてきた。しかし、リモートワークが普及した今、単純な作業や報告会議は画面越しで十分に完結する。僕も、リモートワークの方が楽な時がある。(歩かないというデメリットはあるが)

論文でも指摘されている通り、現在の知的所有権やイノベーションを生み出す「知的な生産性」は、単なる効率(業務のスピード)ではなく、「偶発的な出会い(セレンディピティ)」や「他者とのコラボレーション」から生まれる。これも、常に僕らが言っている移動が多い人ほどウェルビーイングに繋がる。

単にタスクをこなすだけなら家でもできる。それでも僕たちが「特定の場所」に集まる意味はどこにあるのか?

それは、予期せぬ会話や異分野の視点が交差する「雑談や刺激の場」を求めているからだ。ウェルビーイングの観点からも、画面越しの効率的なやり取りだけでは心の充足感や一体感は得られない。対面での「心理的接続」こそが、健全なモチベーションと真の生産性を支える基盤なのである。

気付きのポイント2:「エコトーン(境界域)」としての都市空間がイノベーションを生む

生物学における「エコトーン(生態移行帯)」とは、森林と湿原、陸と海など、異なる生態系が接する「境界領域」を指す。そこは多様な生物が集まり、最も遺伝的変化や多様性が生まれる活気あふれる場所である。だからこそ、僕はECOTONEを会社名にした。

論文が提示する「ナレッジ・キャンパス」の本質も、まさにこの「エコトーン」そのものである。ただオフィスビルが立ち並ぶ単一機能のビジネス街(かつての丸の内やウォール街のような場所)は、夜や週末には人が消え、異質な刺激が生まれない。

一方で、渋谷や六本木、ニューヨークのミッドタウンのように、「ビジネス」「住宅」「文化・アート」「エンターテインメント」「公園・緑地」がグラデーションのように混ざり合う境界域にこそ、クリエイティブなエネルギーが充満する。

ビジネスパーソンが仕事の合間にアートに触れ、公園で深呼吸し、カフェで異なる業界の人と隣り合う。このような「境界(エコトーン)のある街」で働くこと自体が、人の感性を研ぎ澄まし、新しいアイデアを生み出す土壌になるのだ。そして、そこからイノベーションが生まれる。新しい生態系が生まれるのだろう。

気付きのポイント3:「通勤ストレス」の軽減が、個人のウェルビーイングを直撃する

記事の中で特に象徴的だったのが、「職住近接」と「徒歩・自転車圏での生活」がもたらす人間的な豊かさだ。多くの都市において、長時間の満員電車通勤は、従業員のストレスやメンタルヘルス悪化の最大の要因の一つとされてきた。

ナレッジ・キャンパスが支持される大きな理由は、職場の近くに魅力的な住宅街や生活インフラ(スーパー、保育園、病院、ジムなど)が整っている点にある。

「職場の徒歩10〜20分圏内に暮らす」「通勤時間で体力を消耗せず、朝に公園を散歩する余裕がある」。この時間的・精神的な「ゆとり」(余白)こそが、ウェルビーイングの原点になっている。

個人が心身ともに健康で満たされているからこそ、会社に到着した時に高い集中力とポジティブなエネルギーを発揮できる。都市の配置や企業の拠点戦略は、従業員の「生き方(Life)」そのものをデザインすることなのだと再認識させられた。

とは言いつつ、移動時間も余白と捉えて郊外に住むのもありかもしれない。どちらにしろ時間的余白を創ることが大切なのだ。

気付きのポイント4:オフィス単体ではなく「街全体をポートフォリオとして活用する」

かつての大企業は、自社ビルの中に食堂、ジム、託児所などをすべて抱え込む「完結型」のオフィスを作ろうとした。しかし、どれほど豪華な自社ビルを作っても、そこは「内輪の空間」に過ぎない。

これからの企業に求められるのは、オフィスという「箱」の中に閉じこもるのではなく、「街全体を自社のキャンパス(ポートフォリオ)として見立てる」という視点だ。

例えば、自社内にカフェを作らなくても、街の魅力的なサードプレイスや広場、近隣の大学やスタートアップ拠点、美術館などを「自社の機能の延長」として使い倒す。従業員が街へ飛び出し、地域コミュニティや多様な人々と触れ合うことを推奨する。

自社の領域を「エコトーン(境界)」のようにオープンに開いていくことで、組織の代謝が上がり、社外のナレッジや人材との強いネットワークが構築されていく。地域は、まさにこういう状況がはじまっている。

安宅さんの著書「風の谷」という希望――残すに値する未来をつくる にも通じているような気がした。理想の街づくりはすでにはじまっているのかもしれない。

気付きのポイント5:「多様な人の交流」が組織のウェルビーイング(Well-Working)を高める

最後に、最も本質的だと感じたのは「人とのつながり(関係性)の質」だ。論文では、東京・渋谷の事例を取り上げ、異なる業界(IT、ファッション、クリエイティブ、スタートアップなど)や職種の人々が狭いエリアに高密度で集積していることが、どれほど強いエコシステムを生み出しているかが分析されていた。

人間は、自分と同質な人たちばかりの閉ざされたコミュニティにいると、視野が狭まり、変化に対する不全感やストレス(燃え尽き)を感じやすくなる。

多様な生き方や働き方をしている人々と日常的に触れ合い、「こんな考え方もあるんだ」「新しい挑戦をしてみよう」と思える環境に身を置くことが、個人の自己実現や組織の活力(Well-Working)に直結すると考えている。

都市型ナレッジ・キャンパスとは、単なる「便利な不動産」ではなく、「多様なイノベーションと個人の幸せな生き方を同時に育む生態系」なのだ。

僕たちがこれからつくるべき「働く場所」の未来はどうなっていくべきだろうか?

今回の論文を通して、僕が一貫して感じたのは、「働く場所を選ぶことは、どう生きるかを選ぶことと同義である」ということだ。

ECOTONEとしても、Welluluとしても、僕たちは常に「異なるもののグラデーション(境界)」が生み出す豊かな価値や、人の「心身の幸福」を探求してきた。

企業が拠点を検討する際、単に「坪単価が安いか」「アクセスが良いか」というコスト論だけで判断する時代は終わった。

その場所は、働く人に時間、空間、仲間の余白、ゆとり(ウェルビーイング)を与えてくれるか?

その場所は、多様な人やカルチャーと交差する「エコトーン」になっているか?

その場所で働くことで、自分たちの心がワクワクし、新しい価値を生み出したくなるか?

経営者やリーダーはもちろん、働く一人ひとりが「自分が力を発揮できる場所・街」について改めて考える時期に来ている。

みなさんがいま働いている場所は、あなたの可能性を導いてくれていますか?あなたを心身ともに豊かにしてくれていますか?自身が自分らしく、成長できる場所ですか?

ぜひ、みなさんの「理想の働く場所」についての意見も聞かせてください。

堂上 研 株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

株式会社ECOTONE代表取締役社長
ウェルビーイングメディアWellulu編集長
情報経営イノベーション専門職(iU)大学教授
日本イノベーション協会 理事
私生活では、3人の子供の父。趣味は、スポーツとアート。

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