「たられば」を言っても仕方がない。サッカーW杯2026の日本vsブラジルの惜敗。

株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

堂上 研

「たられば」の世界は、本気で挑んだ人たちだけから生まれる。

今朝は、FIFAサッカーワールドカップ2026の決勝トーナメント1回戦 日本vsブラジル戦を観るために、息子2人といっしょにテレビの前にかじりついた。深夜2時キックオフの試合を、家族で夜中に起きて日本代表を応援する。それだけで、もう特別な夜だった。そして、楽しみな1回戦だった。今年のワールドカップは、日本にとって「ケガの選手」がどんどん出てくる形で、「たられば」を言っても仕方がないのは分かっているけれども、「たられば」を言いたくなるものだった。

南野選手がケガをしなかったら。三苫選手がケガをしなかったら。遠藤選手がケガをしなかったら。久保選手がケガをしなかったら。ずっとサッカーをしてきた僕にとって、高校1年の時に「左ひざ靭帯断絶」の大ケガをした僕からしても、人生が変わってしまうくらい「ケガ」はその人たちの人生にも大きな影響をもたらす。仕方がないではすまされない。今回は、シャドーやボランチの部分で替えの選手がいなくなってしまったことが大きく影響を与えたかもしれない。1998年のフランスW杯から見ても、日本は強くなってきているのは分かる。そしてサッカーが緻密なものになってきていることも分かる。何よりも、フィジカルの強さがサッカーで大事になってきている。屈強な身体と精神力がトップアスリートをつくっていく。とはいえ、フィジカルを越えるスピードとテクニックも必要だから、本当にサッカーの世界はより複雑で、心技体を鍛える必要がある。

前半29分、佐野海舟選手が相手のパスを奪い、そのまま自分で持ち上がって、ゴール左下にミドルシュートを突き刺した。代表初ゴールだという。息子たちが飛び上がって、僕も声を上げた。1-0でハーフタイム。このままブラジルに勝てるかも、と期待を寄せた。けれども、後半に入るとブラジルの選手のうまさ、戦略のうまさが光ってくる。守る時間が長くなって、11分に追いつかれた。そして終了間際のアディショナルタイム、マルティネッリ選手に勝ち越され、1-2の惜敗となった。

こう言ったら、監督・選手や日本代表を支えてくださっているスタッフにも怒られるかもしれない。あのとき、コーナーキックをゴールキックで誤審がなかったら。「サッカーやスポーツに、たらればはない」とよく言う。済んだことを悔やんでも仕方がない。本当に、その通りだと思う。それでも今回のワールドカップは、「たられば」を言いたくなることが、たくさんあった。くじ運もある、審判のジャッジもそうだし、選手のひとつひとつの判断もそうだし、監督の采配だって、すべて全部「事実」とつながっている。それは、運という人もいるかもしれない。けれども、チーム一丸となって闘った。これも事実である。

僕自身、高校1年のときに「もっと試合前の準備をしっかりしていれば、ケガをしなかったのに。」とか、人生においても「あのときに、ここであの失言をしなければ。」ということもいっぱいある。失敗するからこそ、学びがある。そして、失敗を恐れず挑戦していたから、「たられば」とか言っても仕方がないことも分かっている。新しい事業を立ち上げるとき、「あの判断を、もう少し早く下していれば」「あの人に、もっと早く声をかけていれば」。数えきれない「たられば」は、挑戦しているからこそ生まれるものである。そして、挑戦しなかった人は、失敗もしないし、「たられば」も生まれない。これは、本気でやっていたから、生まれるものであるにちがいない。心が痛むのは、全力で勝ちにいった証拠なのだ。森保監督も試合後、「ここで大会を去らなければいけないということは、本当に残念」と言葉を絞り出していた。残念だと言えるのは、本気だったからにほかならない。

だから僕は、「たられば」を恥じなくていいのだと思う。本気で挑んだ人にだけ、こぼれてくる言葉なのかもしれない。

選んだほうを、正解にする。

試合を見ながら、僕は先日聴いた、為末大さんの話を思い出していた。元陸上選手で、いまは「走る哲学者」として、身体と心のことを言葉にし続けている方だ。先日、比叡山で開かれた未来会議で、為末さんの基調講演を聴く機会があった。テーマは「身体知」——頭で考えるより先に、身体のほうが知っている知恵のことだ。

佐野選手のあの一瞬も、きっとそうだったのだと思う。ボールを奪った瞬間に「ここで持ち上がって、コースを狙って……」と理屈で考えていたわけではないだろう。考えるより先に、身体が動いていた。知性は脳の中だけで完結するのではなく、身体と脳のあいだを絶えず往復して成り立っている、と。選手たちが夢中で、ほとんど反射のように動いていたあの姿は、日々の地味な練習が身体に宿った知恵となって、あふれ出た瞬間だったのだと思う。

そして為末さんは、その身体知を「有限性」と「偶発性」という二つの言葉で語っていた。人間には、いつか終わるという、時間の有限性がある。終わりがあるからこそ、「何が大事か」がはっきりして、今日この一瞬が愛おしくなる。90分にも、ワールドカップにも、終わりがある。終わるからこそ、あんなに美しいのだ。息子たちと夜中に起きて過ごしたあの時間も、二度と戻らないからこそ、宝物になる。この時間を過ごせる選手たちは、そこまで選ばれるに値する努力と結果を導いたのである。そこで「心体知」を手に入れたものだけしか分からない世界がある。

サッカーは、失敗が3つ重なったときに失点するし、心体知における偶発性が3つ重なったときに、得点するスポーツだと思っている。そして、ミスはだれでも起こる中で、そのミス(失敗)を周りが支え合うことで、失敗を正解にできるスポーツだと思っている。

人生の岐路に、最初から「当たる宝くじ」を知っている人もいないし、「正解」など落ちていない。どちらを選んでも、その瞬間は五分五分だ。選ばなかったほうの道がどうなったかは、誰にも永遠にわからないのに、人はなぜか、選ばなかった道のほうに後悔というものと「たられば」を言ってしまう。でも、たぶん大事なのは、どっちが正解だったかを当てることではなく、自分が選んだほうを、これから正解にしていくことなんだと思う。そして、まわりの人間が失敗に寛容になり、挑戦したことを賞賛し、その失敗を周りが支えることに正解につなげていくことが大切なんだと思っている。僕が起業を「正解だった」と言えるとしたら、選択が賢かったからではなく、選んだあとに必死で正解にしようともがいてきたからだ。そして、それを支えてくれるセイムボートに乗ってくれている仲間がいるから頑張れるのである。

為末さんのお話では、身体知が熟練していくと、動きは無意識化・自動化されて、成長が予測できる範囲に収まってしまう。型を持つことは強さなのに、その同じ型が、いつのまにか人を閉じ込めてしまう。だからこそ、あえて凸凹したステージで練習するように、予測できない偶発性を意図的に呼び込んで、自分を更新しつづける必要がある、と。新しい価値は、まっすぐな努力の延長線上ではなく、思いがけない「失敗」や「遊び」から、ひょいと生まれる。「挑戦と失敗」から偶然見つかったのも、行動してみてはじめて偶発的な発見があるのである。

サッカーも、同じだと思う。チームスポーツだから、必ずミスが出る。パスがずれる、マークを外す、寄せが甘くなる。11人もいて、相手も全力でくるのだから、ミスが出ないほうがおかしい。でも、サッカーの美しさは、誰かのミスを、別の誰かが走って拾い、つなぎ直して、最後に「正解」に。ときには、誰も予想しなかった新しい形に変えてしまえるところにある。ミスを失敗で終わらせず、挑戦の途中の出来事に変えていく。ここに、協業の精神があると思う。チームでやるスポーツが好きなのはここかもしれない。

僕は、これは経営や組織運営でも、まったく同じだと感じている。「ミスをするな」と縛るチームは、型に閉じこもって、いつか伸び悩む。逆に「失敗してもいい、だから挑戦しよう」と言い合えるチームは、偶発を味方にできる。誰かがつまずいても、隣の誰かが拾って、思いがけない正解へと変えていける。そういう組織は、しなやかで、折れない。そして何より、ウェルビーイングだ。挑戦している人は、ウェルビーイングというデータも出てきている。失敗を責められない安心、つまり、挑戦できる環境 があるからこそ、人は思い切って一歩を踏み出せる。Welluluで僕がずっと大切にしている「挑戦している人や、人間関係が良好な人がウェルビーイング」も、仲間のミスを一緒に正解へ変えていける関係のことなんだと思う。だからこそ、僕の会社も、挑戦の数だけ「失敗」を歓迎できる場所でありたい。

日本代表は、今回も決勝トーナメント1回戦の壁にぶつかった。けれども、挑戦しているからこそ、日本中を巻き込む熱狂がつくれる。最高の時間と夢をありがとう。僕が生きている間に、日本がW杯優勝の瞬間を観たい。常勝国になるためには、FIFAランキングでTOP10に入る自力が必要である。そして、選手層が厚くなったとはいえ、もっともっと強い個が必要になってくる。

このブログを書きながら、日本と同じリーグで闘ったオランダとモロッコの死闘がPKで決着がついた。すごい闘いだった。日本がモロッコに当たっていても、同じような死闘を繰り広げていただろう。本気で挑み、チームで闘う。そして、僕らは挑戦し続ける。さあ、僕らも頑張ろう。日本代表から勇気をいただいた。ありがとう、日本代表。

堂上 研 株式会社ECOTONE代表取締役社長 Wellulu編集長

株式会社ECOTONE代表取締役社長
ウェルビーイングメディアWellulu編集長
情報経営イノベーション専門職(iU)大学教授
日本イノベーション協会 理事
私生活では、3人の子供の父。趣味は、スポーツとアート。

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