毎日顔を合わせている大切な人に対して、私たちはその言葉を本当に受け止められているだろうか。自分の思いを伝えることに気を取られるあまり、身近な人の声にじっくり耳を傾ける余裕を、つい失ってしまう日もある。
10歳から子役として活動し、アナウンサーや司会者として数々の現場で経験を重ねてきた安堂さん。現在はキャスティング会社「株式会社and connect(アンド コネクト)」を運営し、仲間や後輩が生き生きと輝く場を創っている。
創作の現場に心を奪われた幼少期、フリーランスとして道を切り拓くなかで育まれたご縁、そして娘との暮らしで気づいた「ただ一緒にいること」と「心で向き合うこと」の決定的な違い。そのすべての歩みの根底には、人と言葉を交わし、温かな思いをつなぎ直そうとする誠実なまなざしがある。
今回は、「Wellulu」編集長の堂上研が安堂さんと対談。相手の心に届く言葉の整え方から、仕事と子育ての葛藤を通じて見つけたウェルビーイングまで、人との関わりをより豊かに育むためのヒントを紐解く。

安堂 サオリさん
株式会社and connect 代表取締役社長/アナウンサー

堂上 研
株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
現場の熱気に魅了され。子役からアナウンサーへ

堂上:安堂さんとは、バーティカルコミュニティとして「Wellulu」が立ち上げた『睡眠上手になる会』で出会いました。共通の知人からのご紹介をきっかけに、足を運んでくださったんですよね。
「計画的偶発性理論」という言葉にもあるように、偶然の出会いが生まれる場所に飛び込むことで、新たな自分に出会えたり、新たな縁につながったりするものです。安堂さんは出会ったときから、見ず知らずのコミュニティにも軽やかに飛び込んでこられて、素晴らしい行動力だなと感じていました。
安堂さんはアナウンサーとして全国を飛び回っていらっしゃいますが、移動を重ねて新しい出会いを楽しむ人には、ウェルビーイングな状態にある方が多いと感じます。そんな安堂さんに「Wellulu」へお越しいただき、とても嬉しいです! まずは自己紹介をお願いできますか?
安堂:今は株式会社and connectというキャスティング会社を運営しており、アナウンサーやMC、ナレーター、声優、俳優、アスリートなどの方々のキャスティングを担当しています。私自身、10歳から子役として芸能界に入り、タレントやモデルとして活動するなかで番組のリポーターを務めるようになり、アナウンサーや司会者としても活動するようになりました。
堂上:子役を始めたのは親御さんの勧めだったのですか?
安堂:そうなんです。母が若い頃にモデルをしていたので、その夢を託される形で、姉妹で子役をしていました。地元・大阪で活動していて、仕事をすると母が喜んでくれるのが何より嬉しかったですね。
そして私自身も、現場の仕事にとても惹かれてきました。大きなスタジオの熱気の中で、大人のクリエイターたちと肩を並べて現場作りに打ち込む。そのチームの一員として現場にいられることが誇らしくて、「この業界で一生、生きていこう」と幼心に決意したのを覚えています。

堂上:「Wellulu」の対談では幼少期に熱中したものについてよく伺うのですが、安堂さんにとっては仕事の現場そのものがそうだったのですね。
安堂:表に出る役だけにこだわっていたわけではなく、裏方のスタッフとしてでもこの業界に携わりたいと思っていました。「どんなことなら自分にできるだろう?」とずっと考えていましたね。高校卒業後、本格的に仕事がしたいと考えて上京を決めました。両親からは大学進学や大阪に残ることを勧められましたが、どうしても挑戦したくて飛び出しました。
堂上:特に印象的だった出会いはありますか? 今の安堂さんにつながる原体験を伺いたいです。
安堂:たくさんあるのですが、特に覚えているのは、20歳くらいの頃に某番組で小林幸子さんとご一緒させていただいたときのことです。私やスタッフ一人ひとりにまで、分け隔てなく丁寧にご挨拶されているお姿を目の当たりにして、深く胸を打たれました。その凛とした佇まいは、今でも強く記憶に残っています。
堂上:一流の現場での佇まいに魅了されたのですね。子どもの頃から大人に囲まれて仕事をしてこられた安堂さんですが、ご自身の中で「子どもから大人になった瞬間」はいつだったと感じますか?
安堂:最初はどの仕事でも「自分がやりたい」という思いが強くて、主語が「自分」にありました。でもあるときから、「これは私じゃなくて、あの子の方が合いそうだな」「この原稿はこう表現した方が、番組全体がもっと良くなるな」と、作品や番組のことを客観的に考えられるようになったんです。主語が自分から作品へと変わり、視点が変わったときが大人への一歩を踏み出せた瞬間でした。
堂上:良いお話ですね! 子どもの頃は、学校や家庭という限られた世界で過ごすことが多いですが、安堂さんは現場での多様な出会いを通して、物事を俯瞰して見る視点が早くから育まれたのでしょうね。
僕にとってはそれがとても羨ましくもあります。僕は大阪の田舎で育ち、周囲と同じように地元の中学へ進むのが当たり前だと思っていたので、友人が私立へ進学したときに強い衝撃を受けた記憶があります。「僕ももっと広い世界を見たい」と思い立ち、高校生のときに1年間ニュージーランドへ留学しました。それまでの「当たり前」が覆される、僕にとって本当に大きな経験でした。

安堂:留学ですか! それは私の方こそ羨ましいです。私はスイスの高校に通ってみたいと両親に相談したことがあるんです。家族の賛成を得るには至らず、実現はしませんでしたが、憧れていましたね。
堂上:僕の場合は地元の高校からの交換留学だったので、なんとか許してもらえました。ニュージーランドの学校で特に印象的だったのは、アートの授業です。生徒全員にプラムが配られて、デッサンをするのかと思ったら「まず食べて、その味を描きなさい」というお題だったんです。体に電流が走るような衝撃を受けて、そこからはアートの授業ばかり選択していました。
自分の頭で考え、自分の意思で選択するという経験は留学が初めてだったので、僕にとって「大人になった瞬間」でした。
安堂さんはそうして幼少期からプロの現場に身を置いていたからこそ、周囲を観察する力も自然と磨かれていったのでしょうか?
安堂:周りを観察することは確かに多かったですね。なぜだろうと振り返ってみたとき、父の存在が大きかったように思います。父は母のことが大好きで、子どもへの愛情表現は少し不器用なところがありました。私から甘えたり、気持ちを伝えたりしても、思うような反応が返ってこず、寂しく感じることもあって。いつしか、自分の感情を表に出すことを控えるようになっていたように思います。
今では父と当時のことを話すこともあります。振り返ると、そうした経験も、相手の表情や仕草をよく見るようになったきっかけの一つだったのかもしれません。
一文を短く、言い切る。心に届く言葉の整え方

堂上:アナウンサーとしてご活躍される中で、言葉の伝え方や相手に届けるために工夫されているポイントはありますか?
安堂:日頃から意識していることはたくさんありますが、大切にしているのは「できる限り一文を短く区切ること」ですね。「こうなんです。そして、こうなんです」と、相手が理解しやすい“間”を丁寧に取ります。それから、自分の思いや意志を伝えるときは、語尾を曖昧にしすぎないことも意識しています。「こうしたいです」「これを大切にしています」と、自分の言葉で言い切ることで、相手に思いがまっすぐ届きやすくなると感じています。
堂上:それは文章を書くライティングの世界でも、まったく同じことが言えますね。僕も自分の発信などで、つい「〜だと思います」を重ねてしまいがちです。断言してしまうと相手を傷つけたり、否定的になったりしてしまいそうになるのが怖いんですよね。そうした生きたノウハウは、どのように培われてきたのですか?

安堂:専門的な記事を読んだり、話し方の講座に足を運んだりしてインプットを重ねる中で、「確かにこのほうが相手に伝わるな」と自分の肌感覚で腑に落ちたものを、一つひとつ実践して磨いてきました。
堂上:数々の現場をくぐり抜けてきた百戦錬磨の安堂さんだからこその説得力ですね。安堂さんはご自身で講座の講師も務められていますが、アナウンサーや司会者を目指す人だけでなく、あらゆるビジネスパーソンや生活者にとっても深い学びになるお話だと感じます。
安堂:まさに今、リーダーや経営者の方々に向けた「プレゼン講座」の立ち上げを準備しているところです。ゆくゆくはキッズ向けやシニア向けにも広げていきたいですね。
今や誰もが自らの言葉で「自分は何をしたいのか」を表現することが求められる時代です。でも、街を見渡せば英会話スクールはたくさんあるのに、私たちが日常で使っている日本語で「どう思いを届けるか」をじっくり学べる場所は、驚くほど少ないですよね。だからこそ、誰もが安心して自分の言葉を磨ける場をつくっていきたいんです。

堂上:個人の発信力が問われる時代だからこそ、「どんな言葉で届けるか」の重みが増していますよね。実は僕も、小学校の総合学習で「言葉のつくり方」というワークショップをやらせていただいた経験があります。自分の大好きなものを友だちに伝えるために、子どもたち自身にキャッチコピーをつくってもらうんです。表現する楽しさを伝える場づくり、ぜひ何かご一緒したいですね!
安堂:ぜひご一緒させてください! 言葉には、目の前の世界を一変させる力があります。たった一言で誰かを深く幸せにすることもできれば、逆に傷つけてしまうこともある。どんな言葉を選び、どんな温度で手渡すかによって、相手の行動も未来も変えていけるのだと信じています。
ただ一緒にいるのではなく。娘の言葉を「聴く」時間
堂上:今、安堂さんはどんな瞬間に幸せを感じますか? ウェルビーイングを実感する瞬間について伺いたいです。
安堂:私はやはり、現場にいる時間が何より幸せですね。自分がその喜びを知っているからこそ、キャスティングの仕事を通じて、仲間たちが現場で生き生きと輝く姿を見届ける瞬間が大好きなんです。以前からキャスティングは手がけていましたが、会社を立ち上げてからはお任せいただく規模も広がりました。ご相談いただく機会もぐんと増えて、本当にありがたいです。
堂上:ご自身の長いキャリアで培われた経験があるからこそ、かつて先輩から受け取ったバトンを、後輩たちに惜しみなく手渡すことができるのでしょうね。

安堂:私がフリーランスになったきっかけは、当時所属していた事務所が無くなってしまったことでした。運良くスポーツ番組のリポーターに抜擢されたり、情報番組のオーディションの機会をいただいたりして仕事を続けることはできましたが、当時はフリーランスという働き方自体がまだ珍しく、随分と遠回りをしました。新しい所属先を探そうとしても、「アナウンサーなのか、モデルなのか」と単一の専門性を求められることが多く、枠にとらわれず多角的に活動していた私は、なかなか居場所を見つけられなかったんです。
それでも一つひとつの現場で結果を積み重ねるうちに、実績が次の仕事につながり、様々な事務所と提携できる新しい形を切り拓くことができました。今手がけているキャスティングの事業は、そうやって私に機会をくださり、育ててくださった方々への「恩返し」の意味合いも強くあります。
堂上:安堂さんが立ち止まらずに行動し続けたからこそ、そのご縁がまた次の豊かな縁を呼んだのですね。
安堂:教え子や後輩たちには、自分の強みを最短で見つけて輝いてほしいんです。現場で彼女たちが堂々と活躍する姿を見届けることが、私の大きな誇りになっています。
堂上:後輩たちから刺激を受けることも多いでしょうし、互いに学び合い高め合える環境をつくれていること自体が、まさにウェルビーイングそのものですね。

安堂:現場で仕事に打ち込んでいる時間もかけがえのないものですが、もう一つ、6歳になる娘と過ごす時間も本当に愛おしく、幸せを感じる瞬間です。
堂上:全国を飛び回る多忙な日々の中で、お子さんとはどのように時間を作って向き合っていらっしゃるのですか?
安堂:娘は保育園に通っていて、今は二人で暮らしています。小学校に上がるタイミングで、私の両親と同居する予定です。以前は「娘が家にいる時間帯は仕事をしない」と心に決めていました。ただ、地元に戻って仕事の幅が広がるにつれ、娘とゆっくり向き合う時間を確保することが難しくなっていきました。
次第に娘がスマートフォンやパソコンを敵視するようになり、私が作業していると、小さな手でパタンと画面を閉じてくるようになりました。夜遅くに帰宅した日には、「どうせ私のことなんて好きじゃないんでしょ」と涙ながらに言われてしまって……。
仕事と子育てを両立しようと必死でしたが、あるとき気づいたんです。私はただ同じ空間に「物理的に一緒にいただけ」で、娘の心の声を聴けていなかったんだと。それからは、作業の手を完全に止めて娘の目を見つめ、彼女の言葉を受け止める時間を何より大切にするようになりました。
今では、夜遅く帰っても満面の笑みで玄関へ駆け寄ってきてくれますし、「お仕事頑張ってくれてありがとう!」と言ってくれるようになりました。
堂上:僕も一人の父親として、子どもたちの言葉を本当に心で聴けているだろうかと自分に問いかけています。「今、自分に心を向けてくれているか」を、子どもは大人が思う以上に敏感に感じ取っていますよね。
それでは最後に、安堂さんがこれから言葉や仕事を通して実現していきたい未来についてお聞かせください。
安堂:私は言葉を扱う仕事に携わっているからこそ、言葉を通して人と人の思いを丁寧につなぎ、「生まれてきてよかった、幸せだな」と実感できる人を一人でも増やしていきたいです。
堂上:僕たちも「Wellulu」というメディアを通じて、一人ひとりの心の奥にある思いが表に出て、たくさんの人に温かく届くことを願っています。今日はお互いの原点に立ち返るような、素晴らしいお話を聴けて嬉しかったです! ありがとうございました!
堂上編集長後記:
安堂サオリさんと打ち合わせをしていると、頭の中を整理してもらえるような気持ちになる。僕が、はじめてサオリさんとお逢いしたときに感じたことだ。
ウェルビーイングなチームを創っていくために、「まずは、ちゃんと聴く。」ことが大切だというのは、エールの代表取締役である櫻井将さんのお話だ。サオリさんは、まずはちゃんと聴いてくださるのである。「聞き上手」というのは、サオリさんのような方なのだろう、と感じた。
僕がぼんやり思っていることを言葉にして紡ぎだすと、サオリさんはそこにそっと寄り添いながら、新たな言葉を紡いでくださる。だから、頭の中が整理されて、すっきりするような感覚になるのだろう。そして、打ち合わせをご一緒していると、周りに笑顔が増えていることに気づく。みんな同じような感覚になっているのだろうか? 子役からアナウンサー、経営者として「言葉」に魂をのせて語ることが、周りの人たちを巻き込み、そして大きな渦をつくっていく。
今回、サオリさんとの対談を通して、サオリさんは仕事が好きなんだな、と思った。全国いろいろなところをまわって、いろいろな人をウェルビーイングにしていく。そんなサオリさんと一緒に仕事をしたいと思った。
ぜひ、いっしょにウェルビーイングな世界を拡げていきましょう。ありがとうございました。

幼少期より子役として活動し、アナウンサーやナレーター、司会として全国の様々なイベント・テレビ番組で活躍。2025年に株式会社and connectを設立。アナウンサーやナレーター、モデル・インフルエンサーなどのキャスティング事業を手がける。
https://www.and-connect.jp/