「ペクトラルフライ」「ペクトルフライ」とも呼ばれる「ペックフライ」は、大胸筋を全体的に鍛え上げることができる上半身のトレーニング。本記事では「ペックフライ」で鍛えられる筋肉や正しいやり方、効果を高めるコツ、組み合わせて取り組みたい胸のストレッチ方法などを紹介。
この記事の監修者
中野ジェームズ修一さん
フィジカルトレーナー
「ペックフライ」と「ペクトラルフライ」の違い
「ペックフライ」と「ペクトルフライ」で異なる名称が存在するが、同じトレーニング。ほかにも「フライマシン」や「バタフライマシン」とも呼ばれる。
「ペックフライ(ペクトラルフライ)」で鍛えられる2つの部位
「ペックフライ」で鍛えられる部位は大きく分けて以下の2つ。
・「三角筋」を鍛えて逆三角形の体型を目指す
大胸筋の「上部」「中部」「下部」を集中的に、「三角筋」まで鍛えられ、理想の上半身づくりにぴったり。正しいフォームでのトレーニングをマシンがサポートしてくれるため、フィットネスレベルを問わず、初心者から上級者までおすすめな種目。
メイン:「大胸筋」を鍛えて厚みのある身体に
おもに大胸筋の上部、中部、下部を鍛えるのに効果的。男性の場合、がっしりとした上半身をつくることができ、女性の場合はハリのあるバストラインや美しいデコルテラインをつくり出すことができる。
「プッシュアップ(腕立て伏せ)」のようなシンプルなトレーニングの場合、正しいフォームでおこなえていないと「三角筋」や「上腕三頭筋」に負担がかかってしまう恐れがあるが、「ペックフライマシン」ではそのようなことが少なく、大胸筋にピンポイントで刺激を与えられる。
サブ:「三角筋」を鍛えて逆三角形の体型を目指す
「三角筋」は、鍛えることで肩のラインが立体的になり、肩幅も広くなるため、理想的な逆三角形の体型を目指すことができる。また、見た目の変化に限らず、肩周りの筋肉が強化されることで、肩こりしづらい身体をつくる効果も期待できる。
「ペックフライ(ペクトラルフライ)」の正しいやり方・フォーム
ここでは、マシンを使った基本的な「ペックフライ」と、三角筋により刺激を与える「リアデルトイド」の正しいやり方を紹介。筋トレは間違ったやり方でおこなうと、期待した効果が得られなかったり、ケガをしてしまったりするので、正しいフォームをきちんと確認してから取り組もう。
ペックフライ
<やり方>
- グリップを握る際には、グリップとバストトップが一直線になるよう位置調整をする。その際、ひじは少し曲げておく
- 身体をしっかりと開きつつ、腕を前へと閉じていく動作を心がける
- 腕が完全に閉じた状態では、ひじを伸ばす。そして、閉じた位置から、ひじを少し曲げつつ胸が開く位置まで腕を戻す
- この一連の動作を10回繰り返しおこなう
負荷が重すぎるとフォームが崩れる原因になり、軽すぎると十分な刺激が得られない。また、ケガを防ぐためにも、動作は常にコントロールしておこなうように意識しよう。
ひじを完全に伸ばした状態で後ろに引くと、ひじを痛めてしまう恐れがあります。曲げすぎても腕の筋肉がトレーニングに関与しすぎて、大胸筋への効果が薄れてしまうので、過度に曲げたり伸ばしたりしないように注意しましょう。
リアデルトイド
<やり方>
- マシンに設定する重量は、ちょうど10回実行できるほどの負荷にする
- イスの高さは、座った際にグリップが胸の高さと一致するよう調整する
- 胸をパットに密着させ、座ってから持ち手を正しい順序で握る(ペックフライの反対方向)
- 息を吐き出しながら、肩を中心にして腕を後方へと開いていく
- 息を吸いながら、重りをゆっくりと元の位置へと戻らない程度まで戻す
- このプロセスを1セット10回、2から3セット実施し、各セット間には1分の休憩を取る
「リアデルトイド」は常に一定の刺激を持続させながらトレーニングすることができる。そのため、可動域を広く取ることができ、肩の後ろ側をしっかり鍛えられるのが特徴。姿勢が改善されて、肩のラインが美しくなる効果が期待できる。
肩甲骨を下げ、肩の位置を安定させることが重要です。動作中は、手首を合わせるようにしてアームを閉じ、頭を動かさずに、筋肉の力だけでアームを動かすことを意識しましょう。
「ペックフライ(ペクトラルフライ)」マシンの正しい使い方
「ペックフライ」は、胸筋を特化して鍛えるトレーニング。正しく座ってトレーニングをすることで、胸の中央部を集中的にトレーニングできる。
ここでは、重量の設定から、アームを動かす際の動かし方を解説。
「ペックフライ」で効果を高めるコツと注意点
「ペックフライマシン」で効果的なトレーニングをおこなうためには、まず正しいフォームでおこなうことが重要。そのため、初心者はとくに注意点を把握して、トレーニング時に意識できるようにしよう。注意点は以下の4つ。
・手首を合わせるようにして閉じる
・呼吸を止めずにおこなう
・頭を動かすのはNG
肩を下ろし肩甲骨を寄せたフォームを維持する
肩が上がっていたり、肩甲骨を寄せられていないと、腕や背中に負荷がかかってしまう。そのため、肩を下ろし、肩甲骨を寄せた状態のフォームを維持しておこなうことが重要。
これにより、腕や背中への不必要な負荷を避け、大胸筋を効率的に鍛えることができる。
また、肩が上がってしまうおもな原因としては、重量が重すぎることが考えられる。この状態では、「僧帽筋(そうぼうきん)」の上部に負荷がかかりすぎてしまい、可動範囲が狭くなってしまう。
手首を合わせるようにして閉じる
大胸筋の内側への刺激を強めたいなら、グリップではなく手首を中心に動かそう。手首を合わせるようにしてグリップを閉じることで、大胸筋の内側にしっかり刺激を与えることができる。
呼吸を止めずにおこなう
トレーニング中は呼吸を止めずにおこなうのがポイント。グリップを寄せる際は、ゆっくりと「息を吐きながら寄せ」、戻す際には「ゆっくりと息を吸いながら戻す」ことを意識しておこなおう。
頭を動かすのはNG
負荷が強すぎる場合、どうしても肩が上がってしまい力をうまく使うことができずに、反動をつけやすくなる。
頭を動かして反動を使うことは避け、筋肉の動きに集中しておこなうように意識しよう。また、肩が上がってしまわない程度の軽い負荷から始め、徐々に上げていくのがおすすめ。
「ペックフライ(ペクトラルフライ)」と「チェストプレス」の違い
「ペックフライ」と同様に「胸」をメインに鍛える筋トレの定番メニューとして「チェストプレス」が挙げられる。「ペックフライ」と「チェストプレス」では、どのような違いがあるのか、以下2つのポイントを紹介するので、トレーニングの参考にしてみよう。
・扱う重量、回数の違い
鍛えられる部位が集中的か複合的か
「ペックフライ」は「単関節運動」で、おもに大胸筋を集中的に鍛えるもの。狙った筋肉をピンポイントで強化できるのが特徴。
一方で「チェストプレス」は「複合関節運動」で、大胸筋はもちろん、腕や肩の筋肉も同時に鍛えることができる。そのため、より広範囲の筋肉を効率的に強化できるのが特徴。
バストの形を整えたい人には「ペックフライ」、バストアップを目指す人には「チェストプレス」がおすすめ。
筋肥大を目指す場合は「チェストプレス」で筋肉の基盤をつくり、その後「ペックフライ」で細部を調整するよう、両方の筋トレを組み合わせておこなうのがおすすめ。
扱う重量・回数の違い
「チェストプレス」は「ペックフライ」よりも高重量を扱うことができるため、強度の高いトレーニングが可能。「ペックフライ」は、比較的軽めの重量で多くの回数をこなすことができるため、筋持久力アップや筋肉の細かい部分を鍛えることができる。
「ペックフライ」と「チェストプレス」の違い:まとめ
どちらも大胸筋を鍛えるのに適した種目だが、「ペックフライ」は大胸筋をピンポイントで強化でき、「チェストプレス」は大胸筋だけではなく複数の筋群を同時に鍛えることが可能。
一般的に「女性はフライ系」、「男性はプレス系」の種目が適しているが、あくまで個人差があるため、必ずしもこの通りではない。また、手首が弱い人や握力に自信がない人は、「ペックフライ」のように握力をあまり必要としない種目からスタートするのがいい。
「ペックフライ(ペクトラルフライ)」の平均的な重量
ここでは「ペックフライ」の重量目安を男女別に紹介。体重と経験レベルごとに重量の目安を紹介するが、あくまでも目安となるので、数値を参考に自分で調整をおこなって無理のない重量からはじめよう。
【男性】「ペックフライ」の重量目安
男性の場合、筋トレ未経験者で「体重65kgなら21kg×10回」、「初心者で体重70kgなら39kg×10回」、中級者で「体重75kgなら63kg×10回」を目安におこなおう。
体重別の重量目安については以下を参考にしてみて。
体重(kg) | 未経験 | 初心者 | 中級者 | 上級者 | 一流 |
---|---|---|---|---|---|
50 | 13 | 25 | 41 | 62 | 86 |
55 | 16 | 29 | 46 | 68 | 92 |
60 | 18 | 32 | 50 | 73 | 98 |
65 | 21 | 35 | 55 | 78 | 104 |
70 | 23 | 39 | 59 | 83 | 110 |
75 | 26 | 42 | 63 | 88 | 116 |
80 | 29 | 45 | 67 | 92 | 120 |
85 | 31 | 48 | 71 | 96 | 125 |
90 | 33 | 51 | 74 | 101 | 130 |
95 | 35 | 54 | 77 | 104 | 134 |
100 | 38 | 57 | 80 | 109 | 139 |
【女性】「ペックフライ」の重量目安
女性の場合、未経験者で「体重45kgなら5kg×10回」、初心者で「体重50kgなら13kg×10回」、中級者で「体重55kgなら26kg×10回」を目安におこなおう。
体重別の重量目安については以下を参考にしてみて。
体重(kg) | 未経験 | 初心者 | 中級者 | 上級者 | 一流 |
---|---|---|---|---|---|
40 | 4 | 10 | 19 | 31 | 46 |
45 | 5 | 11 | 21 | 34 | 50 |
50 | 6 | 13 | 23 | 37 | 53 |
55 | 7 | 14 | 26 | 39 | 56 |
60 | 8 | 16 | 27 | 42 | 59 |
65 | 9 | 17 | 29 | 44 | 62 |
70 | 10 | 19 | 31 | 47 | 64 |
75 | 11 | 20 | 33 | 49 | 66 |
80 | 12 | 21 | 35 | 50 | 69 |
85 | 13 | 23 | 36 | 53 | 71 |
90 | 14 | 24 | 38 | 54 | 73 |
「ペックフライ(ペクトラルフライ)」の回数・セット数
目的やレベルに合わせて、回数やセット数を調整することは、効果的なトレーニングにおいて重要なポイント。初心者は無理をせず、軽めの重量で少ない回数をおこない、正しいフォームを維持しながら慣れていこう。
筋肥大が目的:8~10回を3セット
筋肥大が目的の場合、「8~10回を3セット」おこなうことを目安にしよう。ただし、初心者の場合は、まずは正しいフォームを身につけることが重要なため、「軽い重量で10回を3セット」おこなうことからスタートし、徐々に重量を増やしていくように。
また「チェストプレス」とあわせておこなうことで、よりバランスのとれた胸部づくりが可能なため、「中重量で高回数」のセットを組み合わせるのもおすすめ。
筋トレ後の胸のストレッチメニュー
胸の筋肉が張ったままでは、肩や首、背中上部のケガにつながるリスクとなるため、胸を鍛えた後はしっかりとストレッチをおこなおう。胸周りの筋肉がきちんとほぐれていないと、背中が丸くなり、呼吸が浅くなったりしてしまうため、十分なケアがおすすめ。
肩や胸部のストレッチ
<やり方>
- 足を肩幅に開いて立つ。その後、身体の背面で両腕を交差させ組む。
- 組んだ手を背中側へと伸ばす動作により、胸部が広がるのを感じる。
- 胸が上方向へ向かうようなイメージを持ちつつ、あごは引かないようにする。
胸郭が広がって、肩もしっかりと伸び、呼吸の深まりが感じられる。
肩甲骨はがし・胸筋ストレッチ(ウォールスライド)
<やり方>
- 壁に背中を預け、足を肩幅ほどに広げて立ち、腰、肩、そして後頭部を壁に接触させる状態で位置を取る。
- ひじを90度に折り曲げ、壁に腕をつける形で、手のひらが前方を向くようにする。
- 腕が壁から離れないよう気をつけつつ、腕を上方向へと伸ばしていく。
- 腕を伸ばした位置で、肩甲骨を寄せて背中に力を入れ、その状態で腕を降ろす。
胸筋が伸び、胸周りの柔軟性が高まる。また、呼吸が深くなり、肩周りのコリの解消を導く。
ドアウェイストレッチ
<やり方>
- 壁やドアを利用してひじの支えとなるようにして立つ。
- ひじを曲げて、前腕がドアの枠に沿うように置く。この時、ひじから肩までが水平になることを意識する。
- 手のひらで壁やドアを押す。
- 足を前に一歩出して、4~6回深呼吸をおこなうか、10〜20秒間その姿勢を維持する。
- 左右の位置を交換し、同じストレッチを実施する。
胸の筋肉が効果的に伸ばされ、柔軟性が向上する。
ポール・フォームローラーを使ったストレッチ
<やり方>
- ポールやローラーを床に設置し、身体を直線的に乗せて仰向けの姿勢を取る
- ひざを軽く曲げ、足を肩幅よりわずかに広げる
- 肩の高さで腕を横に広げ、身体が「T」の形を形成するようにする
- 4~6回深い呼吸をおこなうか、10秒から20秒間、その姿勢を維持する
胸部全体がゆっくりと伸び、緊張が和らぐため、肩のコリや背中の痛みを軽減できる。また、呼吸が深まり、ストレスの解消にもつながる。
「ペックフライ(ペクトラルフライ)」に関するQ&A
大胸筋の下部や上部が大きくならない人に「ペックフライ」は効果的?
A:大胸筋の下部や上部だけを集中的に鍛えるのは難しい
「ペックフライ」は、おもに大胸筋をターゲットとしたエクササイズのため、下部や上部にも効果的な刺激を与えることは可能です。ただし、大胸筋を構成する筋繊維は全体的に同じ方向に向かっているため、「ペックフライ」をおこなったとしても、大胸筋の下部や上部だけを集中的に鍛えるのは難しいです。ベンチの角度を変えたり、フォームを少し変えることで、より下部や上部にアプローチできる可能性はあります。
「ペックフライ」で腕や肩が痛くなるときの対処法は?
A:腕や肩が痛くなる場合は、フォームの見直しが必要
肩を下げ、肩甲骨を寄せた姿勢を保ちながら動作をおこなうことで、腕や肩への負担を軽減できます。フォームが崩れる場合は、重量が重すぎることが考えられるため、軽くすることも有効です。また、シートの位置が適切でない場合も、トレーニング効率が悪くなることがあります。
アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士として、運動の大切さを広める活動を行っている。2014年からは青山学院大学駅伝部のトレーナーも務めており、東京神楽坂にある会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB100」で一般の方やアスリートを指導。「科学的根拠に基づき、必ず結果を出す」が合い言葉で熱意のある指導を常に心がけている。