ウェルビーイングに働く

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【赤木円香氏】シニアとZ世代を繋ぐことで生まれる新たなウェルビーイングとは?

20〜30代の若いスタッフが、シニア世代にスマートフォンの個別レクチャーや趣味のお供などを行う孫世代の相棒サービス「もっとメイト」、そして多世代コミュニティスペース「モットバ!」を展開するAgeWellJapan。超高齢社会の日本で、シニア世代のウェルビーイング“Age-Well”の実現を掲げている。

若者とシニア世代の交流から、どのようなウェルビーイングが生まれているのか。そもそも、なぜシニア世代に着目したのだろうか。

Forbes JAPAN 【いま注目すべき「世界を救う希望」100人】に選出されるなど、注目を集める代表の赤木円香さんに、Wellulu編集部の堂上が話を伺った。

 

赤木 円香さん

株式会社AgeWellJapan 代表取締役

東京都渋谷区生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2013年に人材コンサルティング会社に参画。法人向けのコミュニケーションやホスピタリティ研修の企画・営業を担当。2017年に味の素株式会社に入社。財務経理部にて決算および原価計算業務を担当。2020年、「シニア世代のわくわくを創造する」を掲げ、株式会社MIHARUを創業。シニア向けに、世代間交流型ライフパートナーサービス「もっとメイト」の運営。法人・自治体向けに、多世代交流の場づくりを支援。2022年、カンファレンスイベント「AgeWellJapan」を主催。「スタートアップス 日本を再生させる答えがここにある」選出。

堂上 研

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

祖母の一言「長く生きすぎちゃったかしら」が創業のきっかけに

堂上:さまざまなメディアに出演されていて注目を集めているAgeWellJapanに、シニアのウェルビーイングを考えるうえでぜひお話を伺いたいと思っておりました! 本日はよろしくお願いいたします。

早速ですがAgeWellJapanはどのような会社なのか教えてください。

赤木:ありがとうございます! AgeWellJapanは、「Age-Wellな人生の相棒になる。」をビジョンに掲げ、シニア世代が歳を重ねれば重ねるほど、「今日はこんな良いことがあった」「明日が楽しみ」「人生まだまだこれから」と思ってもらうためのさまざまな事業を展開しています。

堂上:創業のきっかけは何だったのでしょうか。

赤木:100歳まで生きたいと思うシニアが21.2%しかいないというデータがあるのですが、この数字を100%に近づけたいと思っています。そのきっかけは、私の祖母でした。祖母はミス福島で、幼少期から私の憧れだったのです。書道や料理、裁縫も全て祖母から教わりました。そんな祖母が86歳の時にバスの中で転倒し、圧迫骨折したことから家にこもるようになって……。ある時、「長く生きすぎちゃったかしら」と言ったのが胸に残り、創業を決めました。

堂上:今、おばあさまはお元気ですか?

赤木:はい。今91歳で、元気に暮らしています! 同じマンションに住んでいるので頻繁に会えています。

堂上:すごいですね!

赤木:祖母が88歳で心筋梗塞になった時、祖母のために起業したのに忙しくて全然会えなかったため、家族と相談して同じマンションに住むことにしました。今は「スープの冷めない距離」にいるので、いつでも祖母の手料理が食べられます。

堂上:それだけ愛するおばあさまが後ろ向きになってしまったのが、創業のきっかけだったのですね。起業には元々関心があったのでしょうか?

赤木:17歳の時に途上国発ブランド マザーハウスを立ち上げた山口絵理子さんの『裸でも生きる−25歳 女性起業家の号泣戦記』を読んで、人生で初めてこういう人になりたいと思いました。ボランティアだけでも、利益を追求するビジネスだけでもないソーシャルビジネスで中長期的に社会問題を解決していくことがやりたいと思い、山口さんの母校である慶應義塾大学総合政策学部に進学したんです。

堂上:なるほど! たしか新卒では、味の素株式会社に入社されたのでしたっけ。

赤木:はい。山口さんやさまざまな起業家の方が大学の講演に来られた時、「どうしても自分がやりたい事業やミッション・ビジョンがあったからやってこられた。本当にやりたいものが見つかったら起業しなさい」とお話されていたんです。

堂上:では、会社で色々と学びながら、おばあさまのこともあり、やりたいことが見つかっていったのですね。

「人生の相棒」としてシニアのウェルビーイングを創っていく

堂上:「もっとメイト」はTV取材もあり、反響があったのではないでしょうか。

赤木:かなりの反響がありましたね。「もっとメイト」では、スタッフのことを「Age-Well Designer」と呼んでいます。親御さんから自分の息子や娘にAge-Well Designerをやらせたいというお問い合わせも多くありました。

堂上:採用通過率はどのくらいなのでしょうか?

赤木:必ず面接をしており、採用通過率は17%です。採用後はブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナの4段階に分かれ、研修をもとにステップアップをしていくシステムになっています。

堂上:低い採用率を通過してきた人とはいえ、人と人なので相性が合わないこともあると思いますが、そういう時はどうされているのですか?

赤木:同郷や同大学出身、ご近所であると親近感が沸きやすいため、共通点を探してアサインするようにしています。また、私たちはシニアの方を2つのコミュニケーションタイプと、サービスに対して求めるものについて4タイプ、合計6ジャンルに分けており、これに適したAge-Well Designerをアサインするようにしていますね。

堂上:マーケティングのように、クラスター分けをされているのですね。

赤木:そうですね。担当者が決まると、本部のメンバーとAge-Well Designerとで作戦会議をするんです。会員さんへの5〜6回の訪問で、どのようにAge-Wellを実現するかを細かく設計します。この作戦会議の確度が高いと、継続率も高まります。

堂上:かなり緻密に計画を立てられていますね。Age-Well Designerの皆さんは、コミュニケーション能力をかなり鍛えられるのではないでしょうか?

赤木:創業時から最初の研修を私が担当しているのですが、「お客様の期待を超え、感動を生むことが全ての仕事の基準である」と伝えています。それをシニア会員の方に対して続けることで、仕事のスキルとして最も大切な「お客様から感動を得るマインド」を身につけることができます。

顧客感動を引き出すためには、目の前のお客様の潜在的なニーズ、インサイトを深掘る必要があり、そのための傾聴力や対話力を養う研修もあるので、顕在化されたものではなく、潜在的なところを掘りましょう、と言い続けています。

堂上:素晴らしいです。Age-Well Designerの皆さんも、大学生のうちにそういったことを身につけられるのは財産ですよね。僕もそういった方と一緒にお仕事したいです。潜在的なニーズを掴むことはもちろん、俯瞰で物事を見ること、一方で細かいことに気づく力も養われると思います。

赤木:初期研修のひとつにホスピタリティの研修があり、たとえばシニアの方にスマホを教えている時に、老眼が始まっていることに気づけるかどうか。仮に気づけたとしたら、文字だけでなく、「青いボタンを押してください」など気配りができますよね。そういったことを学んでいただきます。

堂上:ある意味、孫より気が利くかもしれないですね(笑)。

赤木:「ちょっと出来の良い孫」と言ってくださる方もいますよ! でも私たちはあえて「人生の相棒」という言い方をしていて、孫だけでなく、若い先生とか秘書とか、さまざまな存在で良いと思うのです。Age-Well Designer自身がウェルビーイングな状態で、シニアの方と最良の関係を作られれば良いので。自分らしい関係性を見つけてくださいと言っています。

堂上:「本当は孫に会いたいんだけど……」という方にはどう対応されるのでしょうか。

赤木:ご家族が一番というのはおっしゃる通りで、だからこそご家族のLINEグループを作っていただいて、お孫さんに送るLINEスタンプを一緒に考えることもありますし、お孫さんへのプレゼントを一緒に選ぶこともありますよ。

堂上:お孫さんとの関係性も作ってあげるのですね!

赤木:Age-Well Designerに教わって、Googleレンズを使いこなしていて、お孫さんに褒められたという方もいます。お孫さんとゲームで対戦できるようになった方もいますね。

堂上:素敵です。デジタルデバイスを使いこなせるようになったことで、家族との会話もより深まったんですね!

天才! と褒めてもらえた幼少期

堂上:赤木さんの幼少期は、どのようなお子さんだったのですか?

赤木:モダンバレエや、陸上に夢中でした。時代もあったのか、私は自分を“平成意識高い系”と呼んでいるのですが(笑)。何者でもないことへのコンプレックスが強く、秀でた何かを見つけたいという気持ちが強かったです。高校2年生の時に、同世代の浅田真央さんとキム・ヨナさんが金メダルをかけた戦いをしていて、「自分はこんなところで何をしているんだろう」「自分には何が出来るんだろう」と震えました。

堂上:コンプレックスや向上心が、パワーに繋がっているのですね。

赤木:創業時も、大好きな祖母がなぜ肩身の狭い思いをしなければならないんだろう、という社会に対する課題意識がきっかけになっているので、憤りがエネルギーになっていることが多いです。

堂上:思うだけでなく、行動されていることが素晴らしいです。よく読者の方から「Welluluに出てくる人は行動力のある方が多いですが、なかなか難しいです」という声が届きます。赤木さんには、どんどん挑戦していけるような環境が、小さい頃からあったのでしょうか。

赤木:「Age-Well」という言葉は、挑戦と発見の多い人生と定義してるのですが、失敗も成功もしてきたことの多い人のほうが挑戦しやすく、行動に移すスピードが速いと思うのですよね。

そういう意味では、私は小さな挑戦と小さな失敗、小さな成功体験をたくさんさせてもらいながら育ってきました。成功したら、もう胴上げ級に褒めてもらったんです。「円香は天才!」「天才なんじゃないかってずっと思ってたの!」って。大きな声で挨拶をするだけでもたくさん褒めてもらいました!

堂上:褒めるというのは、絶対に子どもたちにウェルビーイングな環境を作れますよね。今就職活動をしている学生と話をしていると、自己肯定感の低い若者が多いなと感じます。

赤木:Age-Well DesignerにはZ世代が多いのですが、特徴のひとつに自己肯定感の低さがあります。褒めたり、良かったねと言ったりしても、「ありがとうございます」ではなく「いえ、そんなことないです」と返ってくるんです。謙遜ではなく、本気でそう思っているんですよ。だから褒める時は、明確にここが良かった、ここが評価ポイントです、と伝えるようにしています。

堂上:そうなんですか!

赤木:もうひとつ、Z世代の特徴としてあるのが、利他精神が強いということ。そのため、コミュニケーションする時には、「こういうことに対して会員さんが喜んでくれています。関わってくれてありがとう」と伝えるように心がけています。

堂上:「ありがとう」という言葉は、ウェルビーイングにおいても重要ですね。ウェルビーイングな組織や、コミュニティづくりにおいて1番大切な言葉は「ありがとう」だとも言われています。「ありがとう」を自然に言えるコミュニティは、とてもポジティブですよね。赤木さんはそういったことを元々ご存じだったのですか?

赤木:私もAge-Well Designerと関わる中で学んでいきました。人材育成担当の社員が魂をかけてみんなと向き合ってきて、それによってAge-Well Designerたちがキラキラと輝いていくのを見てきたので、その経験が大きいです。

知識と経験の交換が生まれる

堂上:AgeWellJapanでは、toB事業も行われているそうですが、どのような事業があるのでしょうか。

赤木:シニアの方と関わる中で蓄積してきた情報を元に企業の商品開発に伴走したり、Age-Well Designerの研修を活かした企業の人材育成研修を行なっています。また横浜・二俣川に「モットバ!」という多世代コミュニティスペースを開設しており、世代間交流による口コミや消費・移動の促進など場づくりでのお声がけをいただくことがあります。

堂上:「モットバ!」というのは、リアルなコミュニティの場なのですか?

赤木:そうです。リモートワークなどが出来る作業スペースもありますし、交流スペースではランチ会やスマホ教室、お酒を飲みながら緩やかにお話しするバーイベントもありますよ。

Age-Well Designerが常駐しており、70〜80名ほどのシニアの会員がいるリアルなコミュニティの場「モットバ!」

堂上:面白いですね! ほかにはどんな交流をされているのですか?

赤木:コロナ禍はマスクをしていたので、若い世代ではアイブロウマスカラを薄ピンクにするというのが流行っていました。実は、白髪のシニア世代の方こそ、薄ピンクの眉ってとても可愛いんですよ。なので「眉メイクレッスン」を開催して、おばあちゃんがみんな眉を薄ピンクにして、とても可愛くされていました。

堂上:そうやって世代を超えて口コミが生まれているのですね。

赤木:シニアの方から、駅ビルの美味しいお弁当を教えてもらうこともありますよ!

堂上:素敵なコミュニティですね! 色々な方がいらっしゃると思うんですが、気難しい方がいらっしゃった時は、どのように対応されるのか気になります。

赤木:たとえば過去の肩書きを話したがる方も一定数いらっしゃいます。そういった方は、プライドが高くて地域のシニアクラブにも行こうとされないのですが、若い人も来る「モットバ!」には関心を持って来てくれるんです。最初はムスッとされているのですが、気さくな男の子が話しかけ続けると、段々と心がほぐれていって、長く続けてくださる方も多いです。「俺の人生で学んだことを、死ぬまでに全部お前に託すからな」と言ってくれるくらい!

堂上:まさに人生の相棒になっているのですね。

赤木:気難しい男性のシニアには、同性のAge-Well Designerのほうが相性が良い傾向があります。異性が良さそうと思いがちですが、人生の酸いも甘いもかっこつけずに話して、これからの人生どうしようかと議論するのには、同性の方が良いようです。

堂上:面白いですね!

赤木:シニアの女性と、Age-Well Designerの男性も相性が良いですね。すごく素敵なエピソードがあるんですよ! 先日バレンタインデーの訪問に同行したら、大学3年生のAge-Well Designerが、「今の時代、バレンタインは感謝をしている素敵な女性に、男性から贈るものなんですよ」と言って、70代の女性に花束を渡したんです。そうしたらシニアの方がとっても嬉しそうなお顔で、「あらあら、女性に花束を渡すときは、紙袋の中から出すのよ」と教えてくれました。それに対してAge-Well Designerが、「それは大変失礼しました。女性に花束を贈るのが初めてで」って。これはエモすぎる! と1人で興奮していました(笑)。

堂上:素敵なお話ですね。皆さんサービスを通じて、とても会話を楽しまれていることが伝わってきます!

赤木:シニアの方は「早くお迎えが来ないかな」とネガティブなことを仰ることもありますが、そういった時にAge-Well Designerは本気で怒ります。「そんなこと言わないでください。〇〇さんからこんなことを学んで、私自身こんなに変わったんだから」と話している言葉を聞くと、お互いがそういう相手に出会えるなんて、本当に素敵だなと実感します。

堂上:若い方にとっても、色々と学ぶ機会になりますよね。お互いにとって人生が豊かになりますね。

赤木:知識と経験の交換というのはとても大事にしていて、どちらかがやってあげる、ではないんです。若い人はデジタルに強くて重いものを運べるけれど、シニアの方は人生経験があって、戦後の時代を生き抜いてきたさまざまな経験がある。それをお互いに交換することで、人生をより良くしていけると思うんです。

堂上:Age-Well Designerは大学生が多いのでしょうか。

赤木:大学生も多いですが、大学卒業後に副業で続けてくれたり、主婦(夫)の方、デザイナーで普段はものづくりをしているけれど、リアルなコミュニケーションを求めている方など、多種多様な方が参画してくれています。会社員をしながらの副業という方もいて、イベントをとても盛り上げてくれていますよ。

今後、Age-Well Designerがコンビニや郵便局の窓口、銀行の窓口にいてくれたら、オレオレ詐欺の防止や地域の見守り機能を果たせると思います。いつも同じ時間にコンビニにお弁当を買いにくるおじいちゃんが、ある日、お弁当に加えてプリンも買おうとしていたら、「今日はどなたかいらっしゃるのですか?」と話しかけて、「今日は遠くから娘が来るんだよ」という会話が生まれるような社会を創っていきたいです。

堂上:赤木さん自身は、どんな時にウェルビーイングを感じますか?

赤木:美味しいお酒や料理を楽しむのが大好きです。美味しいお店を開拓するのも好きですし、夫が作ってくれたパスタを大量に食べて、片付けは明日しようと約束してベッドにダイブする瞬間も幸せですね。

堂上:良いですね。今日は心が温かくなるお話をたくさん伺えました。ぜひ今度「モットバ!」に参加させていただき、皆さんともお話しさせてください。本日はありがとうございました!

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