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正解のない時代を生き抜く“10の力”。AI時代における新たな人財マネジメント

ハラスメントへの過度な恐れや、「心理的安全性」という言葉の独り歩き、リモートワークによる対話機会の減少……。制度やインフラが整う一方で、かえって現場のコミュニケーションが冷え込み、息が詰まるような違和感を抱えてはいないだろうか。

さらに生成AIの普及により、若者が人知れずAIに相談を寄せる時代において、「優しいだけ」の自由でも、一律のリスク回避でもない、良好な人間関係をどう創っていけばよいのだろうか。

組織開発・リーダー開発のプロフェッショナルとして30年以上にわたりコンサルティングに従事する山本紳也さんを迎え、「Wellulu」編集部の酒向杏奈が対談。大企業を一気に変えるのではなく「身近な5人のチーム」から始める組織変革のヒントと、これからの時代を生き抜くリーダーシップの真意を紐解いた。

 

山本 紳也さん

株式会社HRファーブラ 代表取締役/上智大学 国際教養学部 非常勤教授/立命館アジア太平洋大学大学院 経営管理研究科 非常勤教授/ 一橋大学大学院 経営管理研究科 非常勤講師/ 筑波大学大学院 ビジネス科学研究科 客員教授/ IMD ラーニングマネジャー&エクゼクティブコーチ

組織・人材マネジメント戦略のコンサルティングに30年以上従事。外資系人事コンサルティング会社の日本法人を立ち上げ、ジョブグレード導入経験などを経て、1999年、PwCジャパンにて人事・チェンジマネジメント部門を立ち上げ、パートナーとして部門を統括。2014年に独立、株式会社HRファーブラを設立。キャリア前半は、人事戦略・人事制度の構築、M&Aや事業再編に伴う組織人事アドバイザリー等に従事。キャリア後半は、環境の多様化やDX/AXに伴う組織風土変革、リーダーシップ開発等に従事。

著書に『ノーノーマル時代を活き抜くリーダーシップの教科書』(クロスメディアパブリッシング/2025年)、『ジョブ型vsメンバーシップ型』(共著、中央経済社/2022年)、『外国人と働いて結果を出す人の条件』(幻冬舎/2017年)など。国内外での論文執筆や講演多数。

https://hrfabula.co.jp/

酒向 杏奈

Beauty Plus Mental 代表/Wellulu 編集部/元宝塚歌劇団・メンタルヘルストレーナー

宝塚歌劇団雪組にて「花帆 杏奈」の芸名で14年間、娘役として活動。常に美しさやパフォーマンスを比較される環境下で劣等感や体調不良を経験したことから、退団後に心理学やメンタルトレーニングを修得。『自己肯定ビューティー学』を構築し、女性の内面的な自己肯定感を育むサポートを開始する。これまでスポーツ選手やビジネスパーソン、ダンサー、俳優など、多岐にわたる分野で累計3,000人以上へのメンタルトレーニングや企業研修、講演、個人レッスンを担当。

現在は一児の母として、マレーシアおよびアメリカでの海外子育てを経験。多様な価値観に触れた背景を活かし、日本人の心の健康とウェルビーイング向上に注力した活動を展開している。

目次

引っ込み思案な少年時代。自ら動くことで掴んだ転機

酒向:組織人事コンサルタントとして数多くの企業で組織開発や人財育成に携わってきた山本さん。40代半ばになるまではご自身のやりたいことが見えていなかったと伺いました。現在のキャリアの道筋や、向き合うべき「本質」が見えてきたきっかけは何だったのでしょうか?

山本:何か明確なきっかけがあったというよりは、日々の積み重ねだったと感じています。ただ50代になって振り返ってみると、一つの場所に固定されるよりも「多様な人々と出会える場」を自然と求めていたことが、私の軸として一貫していたように思いますね。

私は元々理系出身で、最初はエンジニアとして就職しました。思い返せば幼少期から算数や物理は得意でしたが、本当に好きだったのは社会学や考古学だったのです。当時は自信がなく、引っ込み思案な性格だったこともあり、親が喜んでくれるからという理由で理系の道を選んでいました。

酒向:幅広い視野で組織を見渡される現在のご活躍からは、自信が持てずに引っ込み思案だった少年時代というのはとても意外に感じられます。

山本:子どもの頃は多動傾向で落ち着きがなく、記憶系の学習が苦手だったため、学校の先生からも「頭は良いのに努力をしない」と言われていました。親は親身にサポートしてくれましたが、私自身は「みんなができる当たり前のことができない」という強い劣等感を抱えていたのです。中学生くらいまでは、いつも自分に自信を持てずにいましたね。

酒向:そうした葛藤の中で、高校生の時に大きな環境の変化と転機が訪れたのですね。

山本:はい。親の仕事の都合でタイへ渡り、現地のインターナショナルスクールへ通うことになりました。そこは大学のように自分で授業を選択するスタイルで、固定のクラスも担任の先生も存在しない環境でした。転校生として入学しても、誰も紹介もしてくれない。自分から話しかけなければ、誰とも友だちになれないし、助けてもくれません。「このままではダメだ」と本能的に感じ、頑張って自分から話すようになりました。管理されない自由な場は、自己責任で自ら行動しなくては何も始まらないことを肌で感じたのでしょうね。

酒向:もし当時のご自分に声をかけるとしたら、どんな言葉をかけたいですか。

山本:「周りの目なんて気にするな」ということですね。小学生の頃は嫌われたくない、仲間外れにされたくないという想いが強く、自分にコンプレックスを感じていました。ただ、人に嫌われたくないからこそ“人を注意深く観察する癖”が身についたことは、巡り巡って今のコンサルタントとしての仕事に活きているのかもしれません。

そしてもう一つの大きな転機は、バスケットボール部に入部したことです。「好きこそものの上手なれ」と言いますが、アメリカ人ばかりのチームの中で唯一の日本人としてベンチ入りを果たせたことが、私にとって大きな成功体験となりました。チームメイトも英語が片言の私を一人のプレイヤーとしてリスペクトしてくれ、仲間になれた。その体験を通して、人と深く関わることの喜びを知ったのです。この頃から、人に興味を持つようになっていたのでしょうね。

エンジニアとして就職した際も、希望の配属を聞かれて業務内容ではなく「さまざまな人と出会える職場に配属してください」と希望したことを覚えています。英語ができたこともあり、自社製品へのアプリケーション開発の研修を国内外で実施する部署へ配属されました。

酒向:ご自身にとって心地よく、能力を発揮できる“ウェルビーイングな環境”を自ら選び取られたのですね。

山本:今でもその会社は心から好きです。ただ、エンジニアという職種への違和感や、アメリカ留学への想いがあり、キャリアチェンジを決意しました。退職する際、尊敬していた先輩から「なぜみんな辞めてしまうんだろう。ここに残って会社を良くしようとは思ってくれないのかな」と言われた言葉が強く心に残りました。それが、今の組織開発コンサルタントとしての自分には、原点となっているように思います。

酒向:留学ではMBAを取得されたのですね。

山本:帰国後もまだキャリアが定まらず悩んでいました。さまざまな企業の面接を受けましたが、自分の中でしっくりとくる場所に出会えませんでした。キャリアについて悩んでいた時、私の人生を変えるヘッドハンターとの出会いがあったのです。彼から、「コンサルティング会社に入れば多様な企業の内側を見られる。働きながら2〜3年じっくり考えればいい」とアドバイスを受けました。そういう選択肢もあるのかと視野が広がりましたね。

日本人が数名しかいないアメリカ系のコンサルティングファームに入社し、リスクマネジメントの業務からスタートしました。世界中の情報をもとに分析し、レポートを作成して提言する仕事は非常に面白く、自分の好奇心が強く刺激されましたね。

その後、人事専門のコンサルティングファームとのご縁があり、人事コンサルタントへ転身しました。当時はまだ日本に専門家が少なかったこともあり、大企業の人事部長や課長層と対峙できたり、彼らを対象にしたセミナーで話せたりする仕事に大きなやりがいを感じていました。

酒向:山本さんは条件や待遇といった外的な基準ではなく、「どんな環境が好きか」「多様な人と出会いたいか」というご自身の“内発的動機”を軸にキャリアを選択されてきたように感じます。

山本:当時はまだ「良い大学を出て大手企業に入る」という単一の成功モデルが根強い時代でしたが、今から考えると、私は自身の内発的動機に基づいた選択を大切にしてきたのだと感じます。

「言葉」が一人歩きする現場。リスク回避が生む対話の窒息

酒向:組織やキャリアをめぐる環境は目まぐるしく変化していますが、働き方に対する人々の意識は、特にコロナ禍を経てどのように変化したとお感じになりますか?

山本:大学で長年教えていて実感するのは、まず安倍元首相の「働き方改革」をきっかけに、学生たちが「残業のない会社」を意識するようになったことです。そこからコロナ禍を経て、リモートワークや多様な働き方を求める傾向が一気に強まりました。ただ、コロナ禍の渦中では、新入社員として入社しても自宅待機が続き誰とも対面で会えず、孤立感に苦しむ経験をした若者の多い時代もありました。

そして現在は、少子化やインフレ、経済の不透明感が増す中で「心理的安全性」という言葉が広く浸透してきました。ただ、それが学生たちにはどこか“優しいだけ・自由”といった表面的な感覚で伝わっている印象を受けることがあります。「モチベーション」「エンゲージメント」、そして「心理的安全性」といった言葉が一人歩きし、自分に都合の良い部分だけが捉えられている違和感はありますね。

酒向:働き方改革や心理的安全性の確保は重要ですが、単に制度やインフラを整備するだけでは「本当の働きやすさ」は実現しませんよね。仕事のやりがいや、先輩・上司との密なコミュニケーションの機会が削られてしまうという弊害も生じています。「本当はもっと成長したい、教わりたい」と思っている若手にとっても、もどかしい環境になってしまっているのではないでしょうか。

山本:心理的安全性と同時に「ハラスメント」という言葉がブームのように広がり、今や無数のハラスメント研修が存在します。

もちろん研修自体を否定するわけではありません。しかし、弁護士の方が登壇する研修では、リスクマネジメントの観点から「訴えられるリスクのある言葉は一切口にするな」という指導になりがちです。コンプライアンス上は正解でも、現場では「何もしゃべらない方が安全だ」となり、結果として生産性が落ち、息が詰まるような職場が生まれてしまう。

例えば、大きな事故につながりかねない現場で「何をやっているんだ!」と叱責することまでパワハラと捉えられてしまうのは、本質的ではありません。一律にリスク回避だけで「やってはいけない」と制約をかけることで、かえってコミュニケーションが阻害される職場が増えているのは大きな課題だと捉えています。

酒向:リスク管理が優先されるあまり、職場の「体温」や「本質的な対話」が失われ、効率化の陰で対話が生まれにくくなっているのですね。

山本:ネットで容易に情報が得られる時代になり、若者の対人コミュニケーション不足が加速してきた上に、最近ではAIという新しい相談相手ができたことで、ますます人間間のコミュニケーションが減少しています。アメリカの調査や、私が大学で学生たちに接する中でも、「悩んだ時に相談したい相手はAIか、人間か」と尋ねると、「人間」と答えます。しかし実態としては、AIに相談しているケースが多いのです。

いつでも否定せずに話を聞いてくれる利点がAIにはありますからね。学生たちも「本当は感情を理解し、寄り添ってくれる人間に相談したい」とわかってはいるものの、「相手に悪いから」「上司も忙しそうだから」と遠慮してしまう。逆の見方をすると、周りの人間が十分に寄り添えていないと言えるでしょう。

これは親子関係にも言えることです。AI時代の今、人間が磨くべきは「相手の感情を理解する力」「信頼関係を築く力」「相手に応じた本質的な問いを投げかける力」です。まさに“人間性の再生”が問われるフェーズに入っているのだと思います。

「個人と組織」のズレを解く。企業を変える第一歩とは

酒向:「Wellulu」の調査でも、ウェルビーイングな職場環境には「やりがい」が求められており、その根底にはやはり良好な人間関係が存在すると実感しています。山本さんがご覧になって、良好な対話が生まれている組織にはどのような点を意識されていると感じますか?

山本:あるテック企業では、社長がマネジメント層に対して「顧客と飲みに行く時間があるなら、社員と飲め」と説き、社内コミュニケーションの量を徹底的に増やしています。研修を実施することももちろん重要ですが、そうした対話のカルチャーが根づいていなければ、組織のウェルビーイングは実現しません。

酒向:制度や研修だけに頼らない、実践的な取り組みこそが求められているのですね。

山本:企業の人事部や人財開発部門と話していて、『キャリア』や『ウェルビーイング』という言葉を使う際、「組織の視点」と「個人の視点」が混同され、軸が定まっていない点が気になります。

組織にとって望ましい状態をつくることと、個人一人ひとりがウェルビーイングな状態にあることは本来別物です。キャリアコンサルタントは「個人」に軸を置くべきですし、組織コンサルタントは「組織」に軸を置く。専門家同士の対話ですら議論が噛み合わないことがあるのですから、社内であればなおさら混乱が生じて当然です。

本来あるべき姿は、個人一人ひとりがしっかりと自立して自身のキャリア軸を持ち、自らウェルビーイングな状態をつくり出せるようになること。そして、そうした人たちが活き活きと働ける場を企業側がどう提供できるか。これこそが会社の真の役割です。

しかし、100年の歴史を持つような既存の企業カルチャーは、本を数冊読んだからといって明日すぐに変わるものではありません。そうなると、個人が自立すればするほど「この会社にずっといていいのだろうか。私の生きる場所は別にあるのでは?」と離脱を考える人が増えてしまうという矛盾が生じます。

そうした過渡期において、心から働きがいのある職場をつくり、自立した個を「リテンション(引き留め)」し、「エンゲージメント」を上げて、高めて成果へ結びつけるという“正論”へと着地させるのは、極めて難易度の高い作業です。

1,000人、10,000人規模の大企業を一瞬で変えることは不可能です。しかし、5人から10人の部下を持つ「課長」の現場であれば、自分のチームを変えることができるはず。その小さな成功体験を組織全体へいかに波及させていくかこそが、現実的かつ最も重要な変革のステップなのだと思います。

削がれた“好奇心”を取り戻す「10のコンピテンシー」

酒向:山本さんのご著書である『ノーノーマル時代を生き抜く リーダーシップの教科書』では、「正解のない時代にチームを創る10のコンピテンシー」として、「好奇心」「多様性の受容」「謙虚さ」「傾聴」「倫理観」「公平性」「透明性」「適応性」「俊敏性」「ビジョナリー」を挙げられていますね。これらの要素は、ウェルビーイングという観点においても非常に重要なキーワードだと感じます。

山本:「好奇心」や「ビジョナリー」の2つは、10個の中でも少し性質が異なっていて、いくら本で勉強して知識をつけても身につくものではありません。自分自身の経験や人生の歩みから自ずと滲み出てくる、内発性の高いものですから。

酒向:単なる座学やノウハウでは身につかない「好奇心」ですが、大人が改めて好奇心を磨き直し、広げていくためにはどうすればよいのでしょうか?

山本:好奇心というのは後から育てるものというより、幼少期から少しずつ「削ぎ落とされてしまっているもの」なのだと思います。

酒向:確かに、子どもは誰に教わらなくても好奇心のままに行動していますよね。大人になるにつれて失われてしまうのはなぜでしょうか。

山本:そこから社会の枠組みにはめられて育てられることで、好奇心がどんどん削られていく。日本の教育も少しずつ変化してはいますが、根底には“管理”のもとに好奇心を抑え込んでしまう構造があると感じます。

酒向:山本さんご自身は、旅に出られたりジムに通われたりと、常に多方面へ好奇心を広げられていますよね。

山本:そうですね。確かに、私は好奇心レベルは高い方だと思います。こうした好奇心の源泉は、落ち着きがなかった幼少期の自分自身がベースにあるのかもしれませんね。

また、高校時代にインターナショナルスクールで多様性を肌で実感した体験も大きかった。人によって「常識」は異なること、多様な視点や考え方が存在することを、知識としてではなく“体験”として身体に染み込ませることができました。

以前、ある大企業の人事部長さんが、役職に就いてから初めて海外法人での職務を経験され、帰国後に「20代や30代の若いうちに海外へ行く重要性が、初めて身をもって理解できた」とおっしゃっていました。座学の研修や読書による頭での理解を超えた、実体験のインパクトを感じられたのだと思います。

酒向:実際に肌で体感し、経験する。あらゆる情報がネットで手に入る時代だからこそ、失われつつあるそのプロセスが重要になってきますね。

山本:身近な日常からでも「好奇心」を持ち、「多様性の受容」を実践することは可能です。例えば職場で若手社員が変わったファッションをしていたら、「なぜそれが面白いのだろう」「どんな流行があるのかな」と純粋に関心を持つ。ハラスメントと言われることを恐れる時代ですが、そうした問いをさらっと投げかけられる関係性を作れれば、自分の興味の幅も広がっていきます。

そして、それは家庭でもまったく同じです。親は子どもに対して関心を持ち、対話ができているでしょうか。特に父親が、妻と子どもたちのやり取りを知らなかったなんて話もよく耳にします。

いかに自分たちビジネスパーソンが世間知らずであるかを、まず自覚しなければならないと感じますね。……と言いながら私も自信があるわけではなく、これを自分の子どもたちが読んだらと思うと怖いですが(笑)。

酒向:相手に好奇心を持って多様性を受け入れ、謙虚に傾聴する。10のキーワードはすべて相互に連動しているのですね。

山本:この循環が回るようになって初めて、本当の心理的安全性が実現します。

リーダーが「好奇心」を持つことで、「多様性」に興味を持ち、「謙虚」に「傾聴」ができるようになります。その結果、心理的安全性のある場が形成されます。

「倫理観」「公平性」「透明性」については、マネジメント層が「昭和世代と平成・令和世代では価値観の軸が根本から異なる」という現実を正しく認識しなければなりません。

さらに変化の激しい現代においては、「適応性」と「俊敏性」が不可欠です。ただし、言うことがコロコロ変わるだけではチームはついてきません。何を目指すのかという「ビジョナリー」な軸がブレないことが前提です。

悲しいのは、大企業でこのお話をすると「それって神様か仏様の話をしていませんか?」と言われてしまうことです。もちろん外資系企業がすべて良いとは言いませんが、海外の社員が活き活き働いている企業で同じ話をすると、「そうそう、うちの優秀なリーダーはみんなそんな感じだよ」と返ってきます。

日本企業はやはり、この意識のベースラインを変えていく必要があります。AIが急速に浸透するこれからの時代、トップが過去の経験値だけを頼りに指示・指導を行っていても、組織は成果を上げられません。100人がいれば100通りの多様な意見を出し合い、そこから新しい価値を共に創り上げていく時代において、この10のコンピテンシーは不可欠な基盤なのです。

AIと共存し「問い」を磨く。人間の可能性はこれからだ

酒向:組織をウェルビーイングな状態へと導いていくためには、経営陣が率先して変わるべきでしょうか。それとも現場を支える中間層からのボトムアップで進めるべきでしょうか。どのレイヤーから着手するのが理想的だと思われますか?

山本:ある程度の土壌やカルチャーが存在する企業では、現場から変わっていくケースが多いですね。一人の意思ある社員が仲間を一人増やし、さらに一人と共感の輪を広げて伝播させていく──そうやって現場から変革を起こしていくのが本質だと思います。

ただし、伝統的な歴史ある日本企業などの場合は、トップが背中を押し、バックアップしなければ実現しません。とはいえトップはあくまで“サポーター”であり、トップダウンで力尽くで変えるものではない。そこが組織開発の難しさですね。

人事で成功している企業は、人事の責任者と社長が完全にペアを組んでいます。組織を変革し、そのカルチャーを根づかせるためには、両者が“一蓮托生”の強いパートナーシップで結ばれていることが不可欠です。

酒向:経営者の哲学を人事のトップが深く理解して言語化し、具体施策やカルチャーづくりへと落とし込んでいく構造ですね。山本さんが30年以上、組織開発の第一線で活躍されてきた中で、これからの未来に向けて「まだ答えが出ていない問い」はありますか?

山本:むしろ、ほとんど答えなんて出ていないのではないでしょうか。人間の秘められた可能性なんて、どこまで行っても誰にもわかりません。科学的にも、人間は脳の本来のポテンシャルのごく一部しか使い切れていないと言われていますよね。

これからAIと切磋琢磨し合う時代に入った時、人間は今まで以上の成長を遂げるかもしれない。「人間の本当の凄さはこれから発揮されるのだ」と思いたいのです。

酒向:すごく素敵で、勇気を与えられるお話ですね。本当にそうであってほしいです。

山本:人間は常に「問い」を立て続ける存在だからこそ、限界はありません。あるいは仮に限界があったとしても、それは私たちがまだ知覚できていない、遥か高い次元にあるのだと信じたいですね。

AIが登場したことで、引き出される人間の潜在能力は計り知れません。ただ、AIと対立・競合してはいけません。いかに共存し、相乗効果を生み出していくか。AIには代替できない人間固有の力──単純な“人間力”という言葉で片付けたくはありませんが、人間だからこそ持てる「感性」を磨き、立てられる「問い」をみんなで磨き合っていくことで、より良い世界を実現したいですね。

酒向:ありがとうございます。最後に、山本さんご自身がウェルビーイングを実感されるのはどのような瞬間でしょうか?

山本:真っ先に頭に浮かぶのは、やはり「仕事をしている瞬間」です。周りからよく「いつバケーションを取っているのですか?」と聞かれますが、一度も取っていないとも言えるし、毎日がバケーションであるとも言える感覚なのです。「人生のピークはいつですか」と聞かれたら、常に「今です」と答え続けたいですね。

酒向:制度や管理に頼るのではなく、目の前の相手に『好奇心』を持って向き合い、共に学び合っていくこと。AI時代だからこそ人間の持つ無限の可能性を信じ、私自身もまずは身近なチームから、温かく本質的な対話を重ねていきたいと思います。山本さん、本日はありがとうございました。

堂上編集長後記:

山本さんと出逢ったのは、「Wellulu」にも出演いただいた石田茂さん主催の「人語会」。ここには、企業のHR人材が越境して、お互いがお互いを刺激を与える環境がある。そこで、僕はたくさんの人事という職種をやっている方にお話しを聞かせていただいた。

山本さんとの対談を通して、僕自身3つの気づきがあった。

「人事戦略と組織戦略を混ぜるな」
個々人のウェルビーイングと、組織のウェルビーイングは違う方向に行くからだ。これは、会社の目指すパーパスと、社員の多様な内発的動機の重なりを押し付けになるかもしれない、ということだ。

「会社を中と外、両方から観察する大切さ」
僕らは、会社の評判だけで、あの会社やばいらしいよ、と判断したり、決めつけたりする。中で働いている人や経営者と会って、観察することと対話で見えてくるものがある。

「実際の体験を通して、仕事が好きを見つける」
結局、会社の中で「何が自分にとってワクワクするのか?」は人によって多様である。山本さんは、結局「人が好き」ということに気がついた。だからこそ、仕事が好きになった。これは、まずはやってみるという体験を通して、その中の良いところを観察で見つけ、自分の好きに繋がる。

山本さんとの対談を企画させていただきありがとうございます。「Wellulu」とHR分野は今後も、たくさんのウェルビーイングな会社を紹介していきたいと思います。

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