「世の中の体温をあげる」を理念に掲げる、スープストックトーキョー。その理念を、リーフレットやギフトのグラフィックデザインや、ブランディングで体現してきたのが、価値づくり部クリエイティブ室マネージャーの上村貴之さんだ。
そして、そのリーフレットに惹かれて入社したのが、店舗経験を経て今は価値づくり部ブランドコミュニケーション室で働く、今井絢花さん。
「世の中さんっていう人はいないよね」という社内で使われているこの一言。お客様もパートナー(アルバイトスタッフ)も、すれ違う誰かも、一人ひとりが「目の前の一人」。目の前の一人の体温を、どうやって上げているのか。二人の仕事観を聞いた。

上村 貴之さん

今井 絢花さん
2020年新卒入社。店舗営業部でアシスタント・店長を経験後、サポートセンターである本社へ。
店舗サポート室を経て価値づくり部ブランドコミュニケーション室に移籍し、販促・企画・業務改善などジャンルを問わず奮闘中。直近はCurry Stock Tokyoのプロジェクトマネージャーを担当。
趣味はGoogleマップにピン留めした行きたい場所リスト巡り。
食を語らない読み物が、私の体温を上げた

── 今井さんは2020年に新卒で入社されたと伺っています。もともと、食や外食、ブランドに対して、どのような関心をお持ちだったんですか?
今井さん:正直、食への興味が特別強かったわけではないんです。大学では社会学を勉強しており、就職活動中は関連性の高いメディア系の企業を受けていました。
その中で、飲食業界で唯一「ここは受けたい」と思った会社が、スープストックトーキョーだったんです。
── そう思われたきっかけについても、教えてください。
今井さん:店頭に置かれていたリーフレットがきっかけでした。リーフレットの中でもとくに印象に残っているのがメイクについて書かれていたものです。
食事を提供している会社なのに、食以外のところにも、かなり時間をかけている。「なんだか面白いことをしている会社だな」と思い、つくっている人たちをもっと知りたいと思って選考に進みました。
── 飲食業界にもかかわらず、メイクについて書かれているのは珍しいですね!リーフレット制作に上村さんが携わったと伺っていますが、どういう内容になっているのですか?
上村さん:私はそもそも、スープストックトーキョーのデザインやブランディング全般に携わっており、スープストックトーキョーのお客様は、メイクにも関心が強いと感じていました。
そんな中、コロナ禍で外出が減り、メイクすることも少なくなった中、「メイクの価値は?」という話が社内で出たことから、このテーマになりました。
── たしかにコロナ禍は、マスク着用も含めてメイクの機会が減っていました。
上村さん:そこから決まったのが「私のメイク、私のカラー」。たった一人、自分のためのメイクをテーマにして、インタビュー記事を作成したんです。
メイクに対して前向きな人もいれば、コンプレックスから向き合っている人もいる。さまざまな人のメイクに対する気持ちを読んだときに、「私もちょっと前向きになれそう」と思ってもらえる内容にしました。
── メイクに対するさまざまな人の気持ちに触れるというのは面白いですね!
上村さん:スープストックトーキョーは飲食がベースですが、「世の中の体温をあげる」が企業理念なので、体温が上がりそうなテーマであれば何でもチャレンジしているんですよ。
弊社はスープの専門店ですが、スープを売ることや宣伝すること自体を目的にはしていません。
世の中の体温をあげるために、スープを食べてもらいたい。スープのおいしさは食べてもらえばわかるので、スープそのものの説明だけに終始する必要はないと考えています。
── なるほど。「世の中の体温をあげる」というのが根底にあるからテーマも幅広いんですね!
上村さん:実は、2016年ごろまでは、商品に使用されている食材やこだわりを書くことがほとんどだったんですよ。
── そこから商品以外のテーマも扱うようになった?
上村さん:はい。2016年に、当時の運営会社であるスマイルズからSoup Stock Tokyo事業が分社し、株式会社スープストックトーキョーが設立しました。
そのタイミングで、もともと社内で使っていた「世の中の体温をあげる」という言葉を企業理念として掲げるようになり、そこからリーフレットのあり方も変わりました。
── どのように変わったんですか?
上村さん:「世の中の体温をあげる」ための読み物をつくるべきではないかという意見がまとまり、リーフレットでは商品にほとんど触れなくなりました。
── 今井さんが出会ったのも、上村さんが作成に携わったまさに体温が上がる読み物だったんですね。
今井さん:そうなんです。商品の説明じゃなくて、目の前の「あなた」の気持ちに寄り添う読み物だったからこそ、心に残ったんだと思います。今振り返ると「リーフレットに体温をあげてもらった一人だったんだな」と感じます。
理念に共感した人が集まってくる

── 今井さんご自身が体温をあげてもらったように、社員の方々は企業理念に強く惹かれて入社されるケースが多いんですか?
今井さん:そうですね。企業理念に共感した人が多く集まっています。生活のためだけでなく「自分の興味や社会のために」という気持ちを持って働きたい人が立場や役職問わずに集まっている会社です。
── 「世の中の体温をあげる」という理念を体現したり、お互いの考えを共有するようなイベントはあるんですか?
今井さん:弊社では「Soup Stock Tokyo Grand Prix」を開催しており、「世の中の体温をあげる」という理念を体現した取り組みの中からグランプリを選出しています。
── 企業理念がしっかりと浸透しそうですね!
今井さん:企業理念だけでなく、行動指針である「五感」は普段の会話でも使われているほど浸透しているんです。
── 五感には何があるのですか?
今井さん:「低投資・高感度」「誠実」「作品性」「主体性」「賞賛」の5つです。店舗・サポートセンターともに、日常会話で「五感のうちどれが好き?」という会話をするときもあります。
世の中さんっていう人はいない

── ここまで「体温をあげる」姿勢について伺ってきましたが、スープストックトーキョーの象徴的な取り組みの一つとして、「アートから生まれたスープ」があると思います。
今年も2026年9月28日から販売があるそうですが、そもそも食のブランドがどのようにアートに向き合い、商品へと落とし込んでいるのでしょうか?

上村さん:私たちはスープを作品と考えており、2010年からはじめた、芸術家の名前を冠にした「アートから生まれたスープ」は私たちらしい商品開発の切り口のひとつです。
最初に生まれた「ゴッホの玉葱のスープ」は、ゴッホ展のキュレーターの方からお声がけいただいたのがきっかけで誕生しました。
── 芸術家とのコラボレーションは、食品だと珍しい印象です!どのように商品開発を進めたんですか?
上村さん:絵画に込められたストーリーやアーティストの人生、文化的背景、芸術的挑戦を丁寧に読み解き、具材やスープの味付けを考えました。
たとえば、「フェルメールの“牛乳を注ぐ女”のスープ」であれば、描かれた当時のオランダではゴーダチーズのスープが食べられていたのか、ジャガイモや玉ねぎはオランダ国内で流通していたのかなどを掘り下げていきます。
そうやって商品開発を進めていき、自社内でおいしいという意見が多く集まった商品を発売しました。
── おいしさの評価は、どのようにしておこなったのですか?スープストックトーキョーでの商品化の基準があったりするのでしょうか?
上村さん:これは売れるという視点ではなく、シンプルに「おいしい」と思えるかどうかです。
「スープストックトーキョーならではの味わいが楽しめるかどうか」「お客様が食べてみたいと思えるかどうか」などはとくに意識しています。
このスープは、少しクセがあり、酸味を感じるチーズスープですが、スープストックトーキョーでしか食べられないおいしさだと思っています。
──癖のある味は好き嫌いがわかれるというか、万人受けしないのかなと思ったのですが……。
上村さん:世の中の好みに合わせるというよりは、特定の方に届けるためにつくっています。海外でおいしい食材や食事に出会ったときに「これを家族にも食べてもらいたい」という気持ちが近いかもしれません。
そこは、企業とお客様との関係というより、私とあなたの1対1の関係だと思っています。
── 大切な一人に届けるというのが根底にあるのですね!
上村さん:世の中の体温をあげると言っても「世の中さんっていう人はいないよね」という会話を社内でもよくしています。
世の中さんという漠然とした人ではなく、目の前にいるお客様やパートナー、隣のテナントで働いている方、通勤中にすれ違う方など、そういった一人に届けることを意識しています。
目の前の人のために改善を進める

──今井さんは店舗営業部から、ブランドコミュニケーション室に移籍したと伺っています。店舗でお客様と直接1対1で向き合ってきた経験は、今のお仕事にどう活きていますか?
今井さん:店長の経験は、仕事への向き合い方・実際の業務どちらの面からみても活きることがたくさんあります。
たとえば、店舗の備品は発注先が違い、発注先を探すことに時間をかける必要がある、結果、発注をおこなわず店舗が正しい状態に保ちづらいといった状況がありました。
目の前のお客様に向き合う仕事に時間を割きたいのに、こういった作業に時間がかかってしまう。
このような課題を解決するために、発注先の情報をまとめるといった「現場の負担を軽減する」ためのシステムを導入しました。
── まさに、店舗にいたからこそわかる課題ですね。
今井さん:「この作業さえなければ、もっとお客様と向き合えるのに。なんでこうなっちゃうんだろう?」と思うことってけっこうあったりするんですよ。
店舗で働いているパートナーや来店されるお客様の姿が思い浮かぶからこそ、こうした細かい課題こそ改善しなければならないと思っています。
一人のために迷わず動ける接客

── ここまでのお話で、目の前のお客様のための時間を確保することを重視されていることがわかりました。上村さんに伺いたいのですが、そういった想いは店舗での接客ではどのように表れているのでしょうか?
上村さん:たとえば、スープストックトーキョーでは、ご購入いただいた商品はお客様自身で席まで運んでいただくセルフサービスが基本ですが、妊婦の方やサポートが必要そうなお客様を見かけたときは、スタッフがお席までお運びするようにしています。
──マニュアルなどで細かく決められているわけではないのですか?
上村さん:そうなんです。決まったマニュアルで縛るのではなく、一人ひとりの「目の前のお客様のお役に立ちたい」という想いやおもてなしから、自然と広がっていった工夫なんです。
現場で気づいたときに迷わず一歩を踏み出せるよう、「こういう時は声をかけてお運びして大丈夫だよ」という安心感や共通の姿勢をチーム内で提示するようにしています。
世の中の体温をあげるために、目の前のお客様に全力で対応してほしいと伝えています。
一人の食卓の温度をあげるために

── 一人ひとりの体温をあげていくために、上村さんが言葉やビジュアルづくりで意識していることはありますか?
上村さん:伝えすぎないことですね。たとえば、同じ言葉でも縦書きと横書きで、余白の見え方が異なります。縦書きにすると文字が小さくなる分、文字と文字の間隔や読みやすさのバランスを細かく調整しています。
そうやって意図的に余白をつくり、情報を詰め込み過ぎないことで、内容を理解しやすくなったり、じっくり考えるためのゆとりにもつながったりするんですよ。
このようにスープストックトーキョーが届けている価値の一つに、生活における余白があると思っていて。
── 生活における余白というと?
上村さん:情報がたくさん溢れている時代に、スープストックトーキョーでのスープを食べる時間を生活の余白として使っていただきたいと思っています。
熱々のスープは、ふうふうと息を吹きかけながらゆっくり食べますよね?忙しい生活の中でも、こうしたゆっくりと食事をする時間を楽しんでいただけたらうれしいです。
── たしかに、忙しいときはパパッと食事を済ませてしまっている気がします。
上村さん:そういう人も多いのかなと思います。実は、強制的にゆっくりした時間を取り入れることも、体温をあげることの一つの形なんです。
世の中の体温をあげるというと、大きな言葉に聞こえるかもしれません。ただ、目の前の一人の食卓を温めることを積み重ねていけば、世の中の体温をあげることにつながると思っています。
── バタバタと過ごしてしまう一日の中で、ゆっくりとした時間を確保できることは貴重ですね!今井さんは今後、どのようなことを届けていきたいですか?
今井さん:私自身、お客様や社内のメンバーに日々体温をあげてもらっている一人なので、これからも変わらず、目の前にいる一人ひとりの体温を少しでもあげられることをしていきたいです。
日々の積み重ねが誰かの一日を変えることにつながると思っています。
Wellulu編集後記
企業理念と聞くと、社内に掲げられた大きな言葉を想像していました。けれどお二人のお話から伝わってきたのは、「世の中さんっていう人はいない」という、徹底して一人に向き合う姿勢でした。
商品にほとんど触れないリーフレット。妊婦のお客様に寄り添う接客。文字の向きや間隔まで細かく調整して生まれる、心地よい余白。そのどれもが、目の前の誰か一人のことを想いながらつくられています。
お二人のお話を伺いながら、世の中の体温をあげることは、大きなメッセージを届けることではなく、目の前の一人の体温を、地道に上げ続けることなのだと感じました。
神奈川県出身。大学卒業後、印刷会社の制作部門でグラフィックデザイン業務を経験後、2007年5月スマイルズに入社し、現在は価値づくり部クリエイティブ室マネージャーを務める。
Soup Stock Tokyo、PASS THE BATON、giraffe、刷毛じょうゆ 海苔弁山登り、おだし東京、yellowなどの企画やグラフィックデザイン、ブランディング施策に携わる。
週末は息子が始めたバスケットボールの観戦や付き添いと、地元のお祭り。