
健康志向の高まりとともに、テレビ・書籍・Webメディアなどで「身体によい・悪い食べ物」に関する情報を耳にすることが多くなってきた昨今。
そのなかで、確固とした根拠や裏付けのなく、あるいは本来の意図であるべき“食の健康の啓発”とは違った意図や目的のもと、特定の食材や食品を攻撃したり、逆に熱狂的に持ち上げたりする「フードホラー」というものがある。食品に関する不安を煽り、
人々の食生活を脅かす可能性を持つ情報発信スタイルが増えるなかで、どのように正しく本質的な情報を見極めればよいか、日本ダイエット健康協会代表理事で医学博士の古谷さんにお話を伺った。
科学的根拠が薄い/現実的な観点が見られないなどにも関わらず、「食べてはダメな食品」や「健康に効果的な食材」などをうたい文句に極端な食習慣への誘導をおこなう現象。

古谷暢基さん
博士(補完代替医療)
日本ダイエット健康協会 代表理事・一般社団法人和ハーブ協会 代表理事・日本入浴協会 理事
日本ルーシーダットン普及連盟 代表など
私たちの生活に潜む「フードホラー」
人々を極端な食習慣へ誘導する「フードホラー」とは?
── まず、「フードホラー」とは具体的にどういう現象を指すのか教えていただけますか?
古谷さん:「これを食べると健康に悪い」「これさえ食べれば健康になれる」と言った食に関する極端な情報を耳にしたことはありませんか?
「フードホラー」とは、特定の食材・食品や成分を攻撃・批判して恐怖を煽ったり、逆に熱狂的に持ち上げたりして、食に関しての偏った情報を発信し、人々を極端な食習慣へ誘導したり、怖がらせたりすることを指します。
「食品添加物はすべて危険」「白砂糖は身体に悪い」といった主張や、「○○を食べ続ければ病気が治る」といった宣伝などですね。
これらは科学的な根拠が薄く、あるいはさまざまな現実要素を無視した内容であることが多いのです。
── 最近のフードホラーの代表例としては、どのようなものがあげられますか?
古谷さん:たとえば「食品添加物」ですね。
代表的な添加物が、“発がん性が高い”という理由で危険視され、ソーセージ、ハム、ベーコンなどに使われる「亜硝酸ナトリウム」です。その背景には、WHO下部組織の「国際がん研究機関」が『グループ2A;ヒトに対して恐らく発がん性がある』のカテゴリーに入れていることがあるかと思われます。
しかしながら、このグループ分けの根拠となった研究・実験は、人の身体でおこなわれたものではありません。さらに検証される量なども、現実の食生活とは程遠い状態でおこなわれたものが多い事実があります。
ちなみに、亜硝酸ナトリウムが属するグループよりさらに発がん性が高いもっとも危険『グループ1』で最初に書かれている物質が「アルコール」。
ソーセージを神経質に避けているならば、お酒は一滴も飲んではいけないでしょうね(笑)。
── 確かに理由はよく理解していないものの“食品添加物はよくない”というイメージがありました。
古谷さん:そもそも、亜硝酸ナトリウムは肉の脱色を抑え、さらに生物毒の中では世界一の毒性を誇る「ボツリヌス菌」の食中毒を抑えることのできる、唯一の添加物として知られています。
意外に思うかもしれないですが、この亜硝酸ナトリウムの“由来”は「岩塩」です。欧州などでは肉の保存食品に岩塩を使うと、肉の色が落ちず、また食中毒を予防できることが経験的に知られていました。岩塩には亜硝酸ナトリウムが多く含まれており、これを応用したわけですね。
神経質にソーセージやハムを避ける人たちが自然食品店などで喜んで岩塩をいただいている姿を見ますが、申し訳ないですが、ちょっと滑稽に映ってしまいます。
── 自然食品の代表の一つである岩塩が危険視されている食品添加物の由来というのは、ほとんど知られていないですね。 このようなフードホラー情報というのは、どのように広まっていくのでしょうか?
古谷さん:フードホラー的な情報は、以前はおもに書籍を通じて広まっていましたね。その中には100万部を超えるベストセラーとなった書籍もあり、かなり世間への影響をもたらしたと思います。
現在、おもな発信源になっているのは、YouTubeなどのSNSなのではないでしょうか。書籍と違い、SNSでは誰でも情報を発信でき、また書籍のような編集側からの厳重なチェックがありません。
よって根拠が薄かったり、極端な煽りを目的とした情報・主張が拡散しやすくなっているんです。
── 発信源が書籍からSNSに変わったことで、どのような変化がありましたか?
古谷さん:SNSが広まったことで、拡散スピードが以前より格段に速くなりました。その情報源として、サプリメントや医薬品などの商品に誘導したい医薬品/食品メーカーの場合があります。
彼らは資本力が高いため、インフルエンサーや有名人を巧みに利用したりします。さらにそこに一般のSNSなどが便乗することで、情報が急速に広まっていきます。
SNSではいいね!や視聴者登録の数を稼ぐため、「極端なことを言ったもの勝ち」という風潮があります。
食の場合はまさに、フードホラーのような「今まで日常的に食べてきたものが、実は危険だった!」と思わせるような表現や主張がセンセーショナルで目に止まりやすく、拡散もされやすいといえますね。
── SNSは、若い世代だけに限らず大きな影響力がありますもんね。
古谷さん:そうですね。
ですが、拡散する側も情報を受け取る側も、大半は科学的な基礎知識はありません。拡散する側は「広がって注目を集める」ことが目的、受け取る側は深く調べることをしないまま「とりあえず避けた方がいいかも」と思い込む。そうやって誤った情報が広まり、一般の人たちの食卓に大きな影響が広がるケースがあります。
── 専門家的な人や有名な人が話していることで、裏付けがなくても信憑性の高いものだと思い込んでしまうんですね。グラフや専門用語を並べられると、あたかも信憑性の高いようなデータにみえて、素人には判断が難しいですし…。
古谷さん:はい。とくに、白衣を着た医師や管理栄養士などの医療者、大学教授、あるいは“専門家風”な人が“最新データ”や“カタカナ専門用語”を使いながら話すと、多くの人が信じ込みがちです。
しかしながら、そこで使われるデータや論文ですら、先ほどの発がん性物質のように確実性が薄かったり、商業目的で示されていたりするものが多いのです。
ちなみに影響力を持つフードホラリストには医師も多く、一般の人は「医師のような専門家が言っているなら…」と受け取りがちです。しかし医師は大学で正式に栄養学、農学などは習いませんし、食に関する基礎レベルは、一般の皆様と変わらないと思ってください。
医師や専門家だからといって、必ずしも正しいことを言っているとは限らない。そのような人たちに過大な信頼を置くことを避けることから、まずはじめるべきでしょう。
フードホラーがもたらす健康への影響
── 最近の顕著なフードホラーのケースがあれば教えて下さい。
古谷さん:昨年から、「四毒」なる説も広まっています。
“四毒”とは「小麦」「甘いもの」「牛乳」「植物油」のことで、これらが健康に良くないので食事からすべて抜くように、という主張。「甘いもの」は砂糖や菓子類だけでなく果物も、また「植物油」についてはオリーブオイルを含めてすべての油を危険視するなど、かなり偏った情報です。
このように、敢えて日常的に食べているものをすべて避けろ、という極端な論が、逆にインパクトを生み出し拡散されています。
── それが実際に、人々の健康に影響をもたらした事例はあるのでしょうか?
古谷さん:ある地方のフリースクールでは、「給食には油・小麦粉・砂糖・肉・乳製品などは一切使わず、基本的には玄米と味噌汁と簡単なおかずのみ」といった極端な給食が提供されていました。
玄米は確かに栄養価が高い側面はありますが、消化が悪く、とくに子どもはお腹を壊しやすい。さらに成長期に必要な栄養素を抑えられているために反動が起こり、子どもたちが学校から帰るとお菓子を一袋丸ごと食べてしまったり、あるいはそれを厳しく守ろうとした母親が何を食べさせてよいか、わからなくなり、料理を放棄してしまうなどが起きてしまって、私に相談が来ました。
健康的な食生活を推奨しているはずなのに、逆に子どもたちの食と心身の健康のバランスを崩してしまうとは、本末転倒ですよね。
── 極端な食習慣を強いた結果、逆効果を生んでしまうということなのですね。
古谷さん:そうなんです。
食で一番大切なことは、まずは何をおいても“バランス”。
“健康のため”を謳っている食事制限の多くはストレスや栄養不足を引き起こし、逆に心身の健康を壊すケースが起きがちです。
とくにフードホラリストたちは、自論への“信者たち”の囲い込み、あるいは外部からの批判に対抗するために、情報をシャワーの如く出し続け、自論をエスカレートさせることもよくあります。
【フードホラーの影響例】グルテンフリー
── フードホラーが食品業界に与える影響も大きいのでしょうか?
古谷さん:たとえば最近、フードホラーで食業界に大きな影響を与えているのが「グルテンフリー」ですね。
“小麦粉に必ず含まれる「グルテン」というたんぱく質が腸に穴を開ける”とする「リーキーガット症候群」という説が、そのおもな根拠になっています。
ほかにも、輸入小麦のポストハーベストや遺伝子組み換えなどをとりあげ、伝統食材の小麦をまるで毒物のように扱う風潮があります。
── グルテンが小麦粉に必ず含まれる物質であれば、もっと多くの人が体調不良になると思いますが…。
古谷さん:そのとおりですね。
そもそも“グルテンが腸に穴を開ける”という医学的なエビデンスはなく、正式な医療ではまったく認められていない説です。さらにポストハーベストや遺伝子組み換え問題も、とくに小麦に限った問題ではありません。
実際にこのような主張を100%信じる人や、完全グルテンフリーを実践している人は、全体の比率から言えばほんの一握りでしょう。ただ「なんとなく小麦って身体によくないらしい」と刷り込まれている人は、確実に増えていると思われます。
そうすると消費行動にも少しずつ変化が生じ、小麦関連業界にも多少なりの影響が出てくるのではないでしょうか。
実際に、これが原因かどうかは分かりませんが、2023年の国民一人当たりの年間小麦粉消費量は前年に比べて600g減り、過去10年の内で最低値となっております。
── 根拠の薄いネガティブキャンペーンによって、業界が不利益を被ってしまうんですね。
古谷さん:さらにこのような“小麦いじめ問題”は、正しい日本の食文化への誤解にも繋がります。
小麦粉否定派が主張する間違った説の一つに、「米は日本人がずっと食べてきた主食だから、身体に合う。小麦は食べてこなかったので、身体に合わない。」というものがあります。
稲作は、確かに天皇家から発し、日本文化の根幹的な要素です。しかし庶民の人たちにとって、米はあくまで武士・貴族・寺院などに税として納める換金作物であり、日本人の伝統的な日常主食だったという定義は、完全に間違っているといえます。
時代は下り、江戸時代中期には徳川吉宗による米の流通革命が起こり、江戸や大阪などの都市部では庶民層にも一気に白米が普及しました。しかしその段階でも、人口の9割を占めていた農民の主食は米以外の五穀と雑穀類、芋類などで、なかでも小麦は水田の二毛作食材として重宝されてました。
そもそも比較的、米を食べられた武士などのアッパー層においても、そうめん・うどん・饅頭などの小麦粉食材も頻繁に食べていた記録が残ります。
さらに、日本各地には小麦を材料とした伝統料理文化が多くあります。たとえば「麩」は、小麦のグルテンのみが抽出されたものです。麩は、日本の中でも長寿食文化として世界中で採り上げられる沖縄の食文化の主要な伝統食材でもあります。これらの点からも「小麦が日本人に合わない」というのは、ずばり暴論と言えるでしょう。
ちなみに、総務省発表の最新『都道府県別長寿ランキング』上位3県(1位 滋賀県、2位 長野県、3位 奈良県)は、『都道府県別小麦粉個人消費量ランキング』上位県(1位 奈良県、3位 長野県、4位 滋賀県)と一致する、という結果が出ています。
これはまさに“真のエビデンス”ともいえますが、小麦をとにかく悪者にしたいフードホラリストたちがどう言い訳をするか、聞いてみたいものです(笑)。
── そうすると、グルテンフリーで使われる米(粉)が日本の伝統食だから健康に良い、という説も崩れていきますね。
古谷さん:江戸時代以降、白米が普及した都市部などでは、“夢の白米”に偏った食事が原因でビタミン不足となり、当時は死の病気であった「脚気」が蔓延しました。それは明治時代以降も続き、たとえば“最上級食”が提供される軍隊では白米が常食だったため、脚気で亡くなる人が戦死する人より多かったという記録も残ります。今の小麦云々より、遥かに明確な健康被害ですよね。
もちろん、米が悪いということではなく、だからといって小麦より優れているということでもない。“偏り”が全ての元凶となるということなのです。
私の調査では、少なくとも第二次世界大戦終戦に至るまで、米が日本全国共通の主食だった時代は一度もないといえます。
私が植物民俗研究に携わらせていただいている宮崎県山間部の70代の男性に教えていただいたのですが、彼の少年時代(昭和40年ごろ)ですら、米が食卓に出てくるのは正月やお盆などのハレの日だけ。日常は麦、稗、粟、蕎麦などがデンプン源で、ある日の夕食時にお兄さんと茶碗の中の雑穀飯の米粒を数えたところ、たったの5粒しか入っていなかったそうです(笑)。
フードホラリストの主役となる医学系の人間は、こう言った民俗学的視点に疎く、実際のフィールドワークをする人はほとんどいない。彼らは医学的な「エビデンス」を集めて調べる教育をされているので、ほぼそこがベースになる。
しかし私に言わせれば、それはあくまで他人がおこなった経緯と結果の書面であり、ある意味、“机上の空論”ともいえます。
── 実際に自分の目で調べていない情報によって、これまで守られてきた食文化までが影響を受けるのはもどかしいですね。
古谷さん:フードホラーを発信する人たちの一番の狙いは「注目を集めること」なので、伝統的/継続的に食べられてきたものや、多くの人が日常的に食べるものが、攻撃ターゲットになりやすい。
逆に、最近になって急に登場したような食べものに対して「実は身体に悪い」と主張しても話題になりにくいし、影響力も小さいですよね。
そのため、小麦・砂糖・乳製品、あるいは肉といった食品を否定することで、より多くの人が脅され、注目を惹きつけることができる。これが結果的に「食文化自体の否定」に繋がることもあるわけです。
【フードホラーの影響例】農薬が使われた農作物
── フードホラーの一つの要素として、農薬が使われた農作物についてはどうお考えでしょうか?
古谷さん:農薬(除草剤を含む)や化学肥料を使用し、大量に安定的に作物を育てる農法を「慣行農業」と言います。それを完全否定する層は、食品添加物などの同様に農薬が、がんやその他病気増加の原因となっているという主張を信じ込んでいます。
しかし実際には、“使用量などを守った慣行農業による農作物を日常的に食べることで病気が激増した”という確固たるエビデンスは、一つも存在しません。
この“食による病気増加説のからくり”も、ホラリストたちが自論を展開する上での欠かせない要素です。
そもそも平均寿命は伸びていますし、高齢者になれば身体にガタが来て、病気の数が増えるのは当然。ところがホラリストたちはその原因を半ば強引に自論における食事の問題に紐づけます。病気の真の原因には運動不足やストレスといったほかの健康要素や、それらが複雑に絡み合っての現れなのですが、そこにはなぜかまったく触れないのです。
──農薬や食品添加物は、病気の原因では無いということでしょうか?
古谷さん:農薬の人体への本当のリスクは、農家さんが散布時に吸い込んだり粘膜が曝されることで、これは気を付けたほうがよいと思います。しかしながら、普通に口から消化管を通して食べている限りは、取り立てて神経質になる必要は無いでしょう。
そもそも、現在の日本の農業の98%が慣行農業すなわち農薬を使用しているスタイルで、有機農業とされるものは全体の2%ほどしかない…という現実に目を向ける必要があります。世間のほとんどの人たちが日常的に農薬と化学肥料によって育てられた穀物、野菜、果物を食べている、ということですね。
たとえば、私が住んでいる東京などはスーパーで食材を買う人がほぼすべてですから、病気だらけになるはずですが、現実には普通に健康、かつ元気に暮らしています。寿命についても“100歳の時代”という言葉があるように、農薬導入以降も順調に延びていますよね。
──なるほど、ある意味、とても説得力があります。
古谷さん:ちなみに私は植物生理学が専門の一つですが、無農薬の農作物は、虫や微生物などに自分の身体を侵されるリスクが高まるために、それらに対抗する「アルカロイド」や「サポニン」などの生物毒を合成するようになります。つまり植物種や状況によっては、残留基準をきちんと守った農家さんの作物を食卓で口にする状態より、生物毒の量が増えるケースが出てくることが予想されます。
もちろん、農薬は環境への影響が大きく、その側面からは私も否定派です。一方で、現状の食糧供給を求めるなら、農薬を使わなければ追いつかない構造上の問題もあります。
とにかく、フードホラリストたちが「慣行農業による農作物は毒」と強く決めつける風潮が、実際に私たちの食の安定を支えてくれている農家への感謝を忘れ、批判や誤解を生み出し、さらに敵に回してしまうこともあります。
食で人をコントロールする!フードホラーの過去
── このようなフードホラーが見られるようになったのは、いつごろからなのでしょうか?
古谷さん:フードホラーのように、人々の「食生活」を操り、その行動や思想をコントロールすることは、日本の政治・歴史的にも散見します。
たとえば、仏教の政治利用はその代表例で、そこには「禁葷食(きんくんしょく)」すなわち「三厭(さんえん)」「五葷(ごくん)」の禁止の歴史があります。
三厭とは獣・鳥・魚の動物性食材です。これらは、すべて必須アミノ酸バランスが優れた消化吸収が良いタンパク質を豊富に含み、かつ、脂質・ビタミン・微量元素なども効率的に摂取できる優秀な食材です。
また、五葷とはニラ、ネギ、ニンニク、ラッキョウ、アサツキなど、硫黄に近い香りを持つ“ヒガンバナ科ネギ属”に属する食用植物のことで、これらは糖の代謝を促進する「有機硫黄化合物」と呼ばれるフィトケミカルが豊富です。
つまり、三厭と五葷を摂れば人は元気になり、頭脳が冴え、活動意欲が上がります。
江戸時代以前は、寺院も年貢を庶民から徴収する側でもありましたが、“支配層”にとって庶民は反逆せず、適度に大人しくいてくれる方が都合は良い。
仏教の禁葷食の政治利用の最たる例が、平安時代から数度に渡り発布された「肉食禁止令」でしょう。
これは現代にも繋がると指摘する人もいます。
「フードホラー」に煽られないためのマインド
── フードホラーを信じる人には、特定の共通点があるのでしょうか?
古谷さん:はい、いくつか特徴がありますが、自分自身や子どもの健康に不安を感じる人たちでしょうか。そのなかでも、何かのきっかけで近代医療や現代政治に不信感を持った人たちが、影響を受けやすいように見えます。
たとえば、アトピーやアレルギーの子どもを持つ親御さんは、毎日お子さんが苦しんでいるのを見て、必死になって調べます。皮膚科の薬も対症的にしか効かないなどで、それまで信じていた医療に不信感を持つうち、曖昧で見えにくい食において「これが原因だ!」と強く断定した情報に出会うと、信じ込んでしまうケースがあります。
しかし実際には、アトピーやアレルギーの原因は環境・ストレス・睡眠・遺伝など、ほかのさまざまな要因が絡み合って発症することが多く、特定の食品を徹底的に排除しただけで改善するとは限りません。
むしろ私が見てきた現場では、極端な食事制限でかえって栄養バランスを崩してしまったりと、親の必死さや緊張が子どもに伝わって状態が悪くなっているケースを多く見てきました。
── では、フードホラーに振り回されないために、私たちができることは何でしょうか?
古谷さん:まず何より、「極端な話はすべて疑うマインドを持つこと」。そして「医学より、伝統や、現実の現象をフラットに見て素直に受け入れることを優先すること」です。
「アンビバレント思考法」という大事な考え方をご紹介しましょう。Ambivalent は英語で、「二つの相反する感情や意見を同時に持つこと」 という意味です。何かの意見や情報を聞いた際、“それと真逆な概念と言葉”を自動的に頭に浮かべ、そちらの見解も受け入れる姿勢をつくる。
たとえば、インターネットで「小麦は身体に悪い」という情報に出会うと、大半の人はこのワードでのみの検索に走ってしまいます。これがインターネットの隠された情報誘導の構造で、以降はその類の情報のみが目に触れるようになり、さらにそれに関連したSEOや広告記事が多く流れてくる状態に誘導されます。
そんなときは「“小麦が身体に悪い”という概念は正しくない」というワードでも考えを巡らし、インターネット検索をします。すると、たとえば“小麦が人類最古の作物かつ、現代でももっとも食べられている作物の一つ”という情報が目に入るはずです。
すると「世界では小麦を常食としている国がもっとも多いのに、なぜみんな病気にならないのか?」という疑問が湧いてきます。さらに「小麦やグルテンを食べても大半の人に問題が起こらない」「腸に穴を開ける科学的証拠はない」といった現実・情報にも目が向くようになります
── 話をすぐに信じるのではなく、冷静に比較する習慣をつけ、「自分と反対の意見をあえて調べる」 ことが重要なんですね。
古谷さん:多くの人にとって関心が高い食や健康・医療については、科学的な情報に注目し、その専門家の意見だけに耳を傾けがちです。しかしそれは本来、多くの要素が絡むものであり、単一の要因で決まるものではありません。対極の意見も調べ、さまざまな角度と視点から複数の情報を比較することが大切です。
食に関していえば「人類の歴史上、どのように食べられてきたものなのか?」という視点は非常に重要。長い期間に渡って食べられ続けているものは、基本的に安全である可能性が高いといえます。
たとえば、小麦は日本を含めて何千年も食べられてきた世界最古の作物であり、現在も世界でもっとも食べられている主食です。それが急に「有害」と言われるのは不自然ですよね。
── そういわれてみると、突然小麦を身体に悪いものとして捉えるのは、おかしな話ですね。
古谷さん:それは「四毒」で対象となっている植物油・砂糖・乳製品・植物油、また肉などの食材すべてに、あてはまるでしょうね。
もし本当にそれらが「すべて有害」なら、そもそも人類は歴史的に選ばないでしょう。
現代においても都市部では、慣行農業で作られた野菜・穀物・植物油、あるいは添加物が入った加工肉食品などを、自炊/外食を問わず毎日のように食べている人たちがほとんどです。だけど大半の人たちが普通に健康に日常生活を送っていますし、元気な高齢者も山ほどいます。
ちなみに最近、WEB記事でよく見かける102歳の薬剤師さんは、未だ現場に毎日立って働いている元気な方ですが、朝食ルーティンの欠かせない品目は、グルテン食材の代表であるパン、オーガニックではない野菜サラダ、乳製品のミルクティーと白砂糖入りのヨーグルト、そして亜硝酸ナトリウム入りのハムだそうです(笑)。
このケースを見てもわかるように、食べるものだけが寿命を決めるわけではなく、もっと総合的な要因が影響しているということです。
── こうして数字や実際の状況に目を向けてみると、情報に違和感を覚えますね。
古谷さん:実際にそれらを食べてきた自分の健康の歴史や、周りの人たちの状態に目を向けてみることが大事ですね。
たとえば「白砂糖が身体に悪い」とホラリストなどに断定的に言われ、仮に「あ、そうなんだ!」と一瞬、思ったとします。それでも現代日本の食文化に育っていれば、それまでの人生で多くの白砂糖を摂取して生きてきているわけで、もしそんなに危険ならとっくに体調を崩しているはず。「自分の身体や周りで具体的な現象が起きていないのに、人の話だけで恐怖を抱くのはおかしい」とは思いませんか?
── ほかにも重要な観点はありますか?
古谷さん:「本当にその食品だけが原因なのか?」という視点も持っておきましょう。
白砂糖が悪者にされる原因に、GI値(食後血糖値の上昇度合い)が高いためにインスリンの過剰分泌を促し、それが糖尿病リスクを高める、というものがあります。
しかしながら、“白砂糖の代わりの健康に良い砂糖“としてよく取り上げられる黒砂糖や甜菜糖も、実は白砂糖とGI値はほぼ変わりません。
さらに糖尿病の原因は糖質食材の摂取だけでなく、食生活全体、身体活動の不足、遺伝などさまざまな要素が絡みます。
繰り返しますが、健康に悪いのは「偏ること」であって、「何かの食品を食べること自体」ではありません。「白砂糖が悪い」と「特定の食品を悪者にする」論法は、フードホラーの典型といえます。
「エビデンス(科学的根拠)」という言葉に振り回されない
── こうして話を聞いてみるとすぐに情報がおかしいことに気がつきそうですが、研究データなど「エビデンス」と呼ばれるものを出されると、やはり信じてしまいそうです。
古谷さん:とくに権威やブランドに弱い人、あるいは自信がある人ほど、フードホラーのエビデンス主義にハマりやすい側面があります。だけど、そのエビデンス自体を「自分自身でちゃんと読んだのか?あるいは正しく読めるのか?」となると、読んでいない、あるいは読めない人がほとんどです。
もし医学エビデンスを正確な判断材料にしたいならば、その研究の内容・規模・目的、実験環境の条件(動物実験なのか、試験管内にとどまる実験なのか?など)、そして結論が“どのレベル”において示されているか(例えば“これからさらに研究・検討が必要”という場合がよくある)を確認する必要があります。
さらに、研究のバックについているスポンサーなども調べると良いでしょう。
── エビデンスがあるかないかではなく、その内容をしっかり確認してから情報を判断しなければいけませんね。
古谷さん:とはいっても、専門知識や経験が無いと正確に読み取ることはできないでしょうし、実際には難しいと思います。
そこで大切なマインドが、先ほども申したように「医学的な観点のみで考えず、様々な観点から見る姿勢」に加えて、「医学自体を盲信しない姿勢」 です。
今の世の中では、「科学的に証明されたものだけが正しく、それ以外は信じてはいけない」という風潮がありますよね。しかし長い間に培われた伝統や経験則の方が、特定の限られた人間が特定の目的を持って作った新しい医学エビデンスよりも、遥かに信頼できる真のエビデンスだったりもします。
それ以外でも、自分の勘や本能的な感覚も大切にして欲しいです。
“勘”というと曖昧なものと捉えられがちですが、実は自分の経験の積み重ねと本能に基づいた合理的なものだったりします。
とくに食や身体に関していえば、もともと持っている動物的な本能力はバカにできません。昔気質の大工さんや漁師さんなどで「俺は医者が嫌いだから絶対に行かないんだ」という人のほうが、変な科学よりも正しかったりもする。実際に病院にかからず、健康で長生きしている人も中にはいます。
とにかく、医学の観点にだけ根拠を置かず、視野を広くして伝統やさまざまな現実や背景を素直に見ること、そして自分自身の本能力も鍛えて欲しいと思います。
── どれもすぐに意識・実践できれば、フードホラーに振り回されにくくなりそうですが、改めて、フードホラーの情報は拡散しやすいのに正しい情報はなかなか届きにくいのはなぜでしょう?
古谷さん:心理学でも証明されていますが、「不安や恐怖」は無知な人をマインド・コントロールする際の絶好のツールであり、センセーショナルな情報や見せ方ほど受け取り側は動揺し、情報にアクセスする確率が高まります。
食に関しては「バランスよく食べるのが一番健康になるよ」が唯一と言ってもよい真実なのですが、これはある意味、当たり前で、ニュースバリューがありません。
一方、「いつも食べているあれが実はあなたを死に至らしめる」などと言われたら、ショックを受けたり、不安になりますよね。だから、どうしてもフードホラー的手法のほうが、広まりやすいんですよね。
健康において“正しい選択”ができる知識をつけよう
食と健康の本質が学べる「ダイエット検定」「食アカデミー」
ダイエット検定▶ https://diet-kyoukai.com/kentei/
食アカデミー ▶ https://waherb.info/foodacademy
── フードホラーに惑わされないためのポイントを、とてもわかりやすく教えていただいてありがとうございました。もし古谷先生から直接、具体的に学べる企画や場所などがあれば、教えて下さい。
古谷さん:フードホラーの情報に引っかからないために、食についての本当に基本的な知識は最低限、身に付けることも大切です。
私が人生を賭けておこなう仕事は「日本人が健康・医療に関して、誤った情報や誘導に振り回されず、正しい考え方と知識を持ちながら、真の意味で健康になるための啓発」だと思っており、その手段の一つとして、誰もが気軽に受けられるレベルの検定・資格や、アカデミーを定期的に開催しています。
── まずは「ダイエット検定」の概要を教えて下さい。
古谷さん:もう15年以上の歴史を持ち、全国で10万人以上の方に受検していただいています。「ダイエット検定」という名前なので、ダイエットに特化した「痩せるための資格」みたいなイメージを持つかもしれませんがそうではなく、健康全般に関わる幅広い基礎知識を身につけることを目的にした検定です。
若いときは健康ですから、直接的な医学情報に接することは少ないと思いますが、「ダイエット」は健康な人でも、自分の身体と向き合い、また医学的な情報に自らの興味・関心を持って接する、恐らく人生で初めての機会かと思います。
その段階で、健康や医療に関する意図的な情報や間違った誘導に振り回されず、自分で調べ、考える癖をつけ、“本質的な情報への接し方”を身に付けてもらうのが、ダイエット検定の真の目的になります。
── 「食アカデミー」についても教えて下さい。
古谷さん:「食アカデミー」は、私が立ち上げたもう一つの団体「一般社団法人和ハーブ協会」の主宰になります。
食に関する真の健康学を習得するにおいて、植物のことを学ぶことは不可欠な要素です。
たとえば五大栄養素でいえば、地球上にもともとあるミネラルを除いた糖・アミノ酸・脂・ビタミンの4つ、さらにそのほかの食物繊維やポリフェノール類といった機能性物質まですべて、植物の光合成をスタートとして作られます。自然界において動物はそれをいただいて循環し、従って生きている生物になります。
よって植物の生化学や生態学、さらに植物食材の原産地や文化・歴史などを掘り下げることで、人にとっての食の本質が浮かび上がってくるのです。
たとえば今回の「植物から紐解く真の歴史講座」の最初の2回では、日本人の生命を支えてきたデンプン源文化すなわち主食について学びます。小麦や米などの原産地と日本に伝わったルートや文化の流れとともに、イネ科植物の生態学や、また雑穀や野生植物を使ったデンプン源文化などにも言及します。
先ほどは米が日本人の真の主食じゃなかった事実に言及しましたが、アカデミーでは玄米を食べる文化は日本には無かったことを解説します。これをいうと、玄米菜食などを崇拝している人は腰を抜かして驚くのですが(笑)
詳細は講座を楽しみにして欲しいと思います。
── そうやって広い視点や切り口の事実を知っておくことで、食に関する極端な主張に惑わされにくくなるということですね。
古谷さん:そのとおりです。「昔の日本人はみんな玄米を食べていた」と言われても、歴史を知っていれば「本当にそうなのか?」と疑問を持てるようになります。
また、「小麦粉は日本人に合わない」と言われても、日本の歴史を見れば、小麦はずっと食べられてきたことがわかる。
── そういう視点を持つことが、フードホラーに騙されない力につながるんですね。
古谷さん:その通りです。フードホラーに騙されないためには、「○○は体に悪い」といった単純な話を鵜呑みにせず、「そもそもなぜその食文化が生まれたのか?」を考える習慣 をつけることが重要です。
ですから私たちは、こうした講座や検定を通じて、科学、歴史、文化を基に食を学ぶことの大切さ を伝えています。
「ダイエット検定」や「食アカデミー」は、単に知識を学ぶだけではなく、「考える力」を養う場 なんです。
── 検定や講座を通して、食について考える機会を持てるのは素晴らしいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
古谷さん:こちらこそ、ありがとうございます。
「食」は命の糧というだけでなく、人生の楽しみであり、コミュニケーションの場であり、文化です。皆様の食卓が真に健康で、楽しく、そして昔日の知恵も受け継いだ豊かなものであることを祈ります。
現代日本における「健康、美容、医療に関する正しい意識と知識の啓発」を使命とし、わかりやすく面白く伝えることをモットーに、日本全国へ飛び回り、研修や講座を行う。健康・美容・医療情報が氾濫する中、専門家ではない日本人が正しい選択をし、真に幸せと豊かさを獲得することを願う。
TV、ラジオ、WEBなどメディア出演および、著書は『和ハーブ図鑑』『カルボナーラとペペロンチーノ どっちが痩せる?』『入浴検定テキスト』など多数。