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森林・自然環境がもたらすリラックス効果。森林セラピー、木育が主観的幸福度を上げる?【滋賀県立大学・高橋教授】

自然豊かな場所を訪れた際、誰しもがリラックス効果を感じたことがあるのではないだろうか。滋賀県立大学の高橋教授がおこなった森林と幸福度の関係性の研究によると、森林でのリラックスや木工活動を行うことは、人(特に森林所有者)にとってよい影響を及ぼすことが明らかになった。そこで今回、高橋教授に森林幸福度に関する研究で解明できたこと、森林とのウェルビーイングな暮らしについてお話を伺った。

高橋 卓也さん

滋賀県立大学 環境科学部 環境政策・計画学科 教授

専門は森林政策・計画、企業の環境経営。研究テーマは、森林の環境支払い、森林認証、森林史、企業文化と環境対応など。林業経済学会評議員、『水資源環境研究』編集委員長、国際誌『企業の社会的責任と環境管理(CSR&EM)』編集委員。滋賀グリーン活動ネットワーク副会長、ながはま森林マッチングセンター有識者懇話会委員、三方よし研究所理事。愛媛県生まれ。京都大学農学部で林学を専攻し、木材関連企業に就職。(カナダ)ブリティッシュコロンビア大学博士課程を修了後、滋賀県立大学環境科学部にて講師、准教授を経て現職。

本記事のリリース情報

ウェルビーイングをテーマとしたデジタルメディア Wellulu(ウェルル)にて環境科学部 高橋教授の森林と幸福度の関係についての研究が紹介されました

目次

森林・自然環境が主観的幸福度に与える影響とは

──始めに先生が森林研究に興味を持ったきっかけについて教えていただけますでしょうか?

高橋教授:森林関係の学科を卒業後、木材関係の企業に勤めていました。日本というのは林業が成り立ちづらいというところがあり、森林の管理が木材生産だけでは難しいのが現実です。日本学術会議の試算では、森林の公益的機能(土砂崩れ防止などの機能を金銭的に評価)は約70兆円にも上りますが、その一方で木材生産のGDPは約2500億円と、これに比べるとかなり少ないのです。かつては木材生産だけで山での生活が成り立っていましたが、今はそれが難しいということで、森林が提供する多面的な利益に注目し、公益的機能を売ったらどうかと考えたのがきっかけでした。

また、2017年に行った調査では、山に関わる人々には楽しみがあるものの、木材価格の低さが社会的評価の低さを示しており、ネガティブな感情が見受けられました。これらの状況から、「森林幸福度」という観点で新たな切り口を見つけられないかと考え、研究を続けています。

森林との関わりによる幸福度を満足度・充実感や達成感・感情から調査

── 森林幸福度について詳しく教えてください。

高橋教授:森林幸福度とは、OECDが提唱したウェルビーイングの測定方法を基に、森林に関わるさまざまな活動が、その人の主観的な幸福度にどう影響しているかを多面的に測定するものです。これには主に4つの側面があり、「満足度」、「充実感や達成感」、「プラス感情」、「マイナス感情」が含まれます。具体的には、森林との関わりに対する満足度、充実感や達成感を尋ね、感情の側面では森林と関わる際の感情の頻度を測定します。

ただ、これまでの幸福度研究でも言われていることですが、やはり人間関係が人間にとっては非常に重要なので、必ずしも自然が与える影響は大きいというわけではないと思ってます。人間関係の重要性を前提としつつ、自然との関わりがもたらす独自の影響を探ることを目的としています。


森林・自然環境でのリラックス時間や木工活動が、主観的幸福度を上げる?

森林が少ない地域に住む人ほど森林との関わりにより幸福度が上がりやすい

── 「森林所有者の森林幸福度」の研究について教えていただけますか?

高橋教授:2018年3月に琵琶湖の最大流入河川である野洲川の上流域(森林地域)の住民を対象としてアンケート調査を実施し、森林幸福度を測定しました。この調査は一般家庭に対して行ったため、森林所有者だけでなく、非所有者のデータも含まれています。さらに、様々なアクティビティとその影響、例えばキャンプや動植物の観察、森林管理などのアクティビティが人々の感情にどのような影響を与えるかについても分析しました。

── 研究結果について教えてください。

高橋教授:評価の全てにおいて、森林所有者より非所有者の方が森林幸福度が高いことがわかりました。これは、森林の資産価値が低くなり、所有者が負担感を感じているからだと考えております。。一方で、森林が少ない地域に住んでいる人の方が森林レクリエーションによる幸福度上昇効果が現れやすいことが分かっています。都心で暮らしている方などがリラックスするために山へ行ったり、木工活動をするなど、森林レクリエーションを楽しむことで、統計的には森林幸福度を高める効果が余計にあることが示唆されています。

私の研究では、自然環境が影響を与える森林幸福度に焦点を当てて研究していますが、もちろん人の主観的幸福度にはもっとたくさんの要素が影響しています。

精神的につらいときや社会的に孤立したときは森林と触れ合ってみるのもあり

──確かに、主観的幸福度を高めようと思ったら、自然環境で心をデトックスすればOK!というわけではないですもんね。人間関係だったり、身体の健康だったり…、ホントにたくさんのことが影響していますよね。

高橋教授:先ほどもお伝えしましたが、主観的幸福度を高めるには特に社会的なつながりが重要だと考えられ、精神的につらい人や社会的に孤立している人は、なかなかQOLが上がらない状態になります。私たちの研究ではそういった方々を対象に、森林レクリエーションをすることで生活全般的の幸福度が高まるのか?という検証もおこないました。

高橋教授:この結果を踏まえると、社会的に孤立している方々が森林レクリエーションをすることで主観的幸福度が上がる可能性も期待できます。実際にスコットランドでは、心の問題を抱える人向けの森林レクリエーションのプログラムが政府によって実施されているそうです。

──このデータを見ると、人間関係が原因で孤立したときには自然環境でのんびり過ごしたり、山のアクティビティを楽しむことを推奨したいですね。ちなみに、山でのアクティビティによる効果として何かわかっていることはあるのでしょうか?

高橋教授:具体的な例でいうと、登山や動植物観察、木工活動といった創造活動などは、プラス感情に良い影響を与える可能性があります。また、森林管理をおこなうボランティア活動は、充実感や達成感に好影響を与えると考えられます。

──なるほど、ありがとうございます。これらの影響は性別や年齢によって異なるのでしょうか?一般的な主観的幸福度において、女性の方が高い傾向があると聞いたことがあるのですが、森林幸福度の場合はどうなのでしょうか。

高橋教授:森林幸福度で見た場合、プラスの感情の変化は女性の方が高い傾向にありました。また、年齢に関して言うと、若い世代と高齢者で高い生活全般の幸福度が見られU字型のパターンとなっています。ただ、森林幸福度においては年齢が明確な影響を及ぼしているとは考えにくいかもしれません。

レクリエーションを超えた、森林とのつながりが強くなる時代へ!

──続いて、森林の文化や精神的な価値について、森林研究に関わりのある先生方と取り組んだ共同研究の内容についてもお伺いできますか?

高橋教授:木材以外の部分で森林の良いところを利用しようというプロジェクトがヨーロッパであるのですが、プロジェクトが主催した国際ワークショップに参加しました。そこで、国別でスピリチュアリティというのが歴史的にどう変化していったのかを見ていこうということで、私たちは日本の森林とスピリチュアリティの関係を古代から現代に至るまで検証しました。

高橋教授:まず、スピリチュアリティというのは、単に宗教的なものではなく、尊いものや聖なるものといった幅広い概念を含むものと定義することとしました。その上で、スピリチュアリティがどういうふうに時代を経て変化したかというと、図のように4段階にわかれて変化していったと考えました。今は非物質的価値、例えば森林浴やパワースポットというのが注目されるようになってスピリチュアリティが重要になってくるのではないかと考えています。

つまり、現代では、単純にレクリエーションでは片付けられない、森林に対してもっと文化的にも大事に思う傾向が強くなってるのではないかと考えています。

ただ、これはヨーロッパ中心なので、現在のアフリカやアジアなどを見ると必ずしもそうとは言い切れません。1つのモデルとしてこう考えることで、国際的に色々な議論がしやすくなれたらと思います。

幸福度を高めるために!森林と触れ合う時間を大切にしよう

「森林セラピー」や「木育」、「ワーケーション」

── 森林幸福度をより高めるためのおすすめのアクティビティなどあれば教えてください。

高橋教授:森林の中で五感を使ってその環境を楽しむ「森林セラピー」はおすすめです。空気を吸ってみたり、水に触れてみたり、葉っぱを拾ってみたりと、五感を使って自然環境を感じてほしいです。ハンモックに寝転がってみたり、ハーブティーを飲んでみたりなど、その場に身を置いて、森林を感じてみてください。キャンプでも良いですし、他にも例えばフォレストアドベンチャーという、山の木の間で遊ぶアウトドアパークや、東京にはおもちゃ美術館といった木のおもちゃで楽しめる木育(もくいく)施設もあります。会社員の方は最近流行っているワーケーションなどもおすすめです。

環境に配慮した商品を購入する「グリーン購入」

── 森林のために、私たちが日常生活でできることがありましたら教えてください。

高橋教授:グリーン購入というのがあって、自然保全・生物多様性保全など環境のための活動なのですが、環境に配慮した商品を購入するというのはできることかなと思います。私たちが日常消費するものと森林は繋がっていることが多く、ノートといった小物から食品、家具などさまざなものがあるので、何らかの形で関わってもらえると嬉しいです。

── 最後に、これからの取り組みや現在進行中の研究について教えていただけますか?

高橋教授:現在は、森林のエコシステム(ディス)サービス、特に森林による良い面だけではなく、悪い面に対処する方法について考えています。具体的には、獣害、花粉症、流木の被害などです。また、自然のスピリチュアル価値とウェルビーイングの関係性についても研究を進めているので、今後発表できたらと思います。

Wellulu編集後記:

今回、滋賀県立大学の高橋教授にお話を伺い、森林と私たちの関係性を幸福度という視点から考え、実際に森林でのアクティビティは私たちの感情にプラスの効果をもたらすことがわかりました。

たくさんの森林に囲まれた日本に暮らす上で、森林との共生やウェルビーイングな付き合い方について深く考えることもできました。グリーン購入といった小さなアクションから森林でのアクティビティまで、さまざまな関わり合いを持ちつつ、先生の更なる研究の成果を楽しみにしています。

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