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食の持つ「エモーショナルな価値」とは?料理を楽しむ・誰かと一緒に食べる食事【味の素】

食と健康にプラスしてウェルビーイングを重視する方向へとシフトしてきたという味の素グループ。毎日何気なくおこなっている料理や食事をどのように捉え、おこなうかが主観的ウェルビーイングに関係するという。調査を通して、料理の楽しさや共食の重要性について明らかになったことについて、味の素株式会社の柴草さんに詳しくお話を伺った。

柴草 哲朗さん

味の素株式会社 サステナビリティ推進部社会 グループ シニアマネージャー

京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻にて農学博士を取得後、2007年4月に味の素株式会社入社。入社後は、食とアミノ酸・栄養に関する研究開発に従事し、経営企画部を経て2020年から現職。現在、社会価値定量化(ウェルビーイング)、人権テーマを担当している。高校時代、地元神戸で被災した経験から「食」の価値を実感。「食で世界の人々の幸せに貢献したい」という思いをもって味の素株式会社へ入社しており、今回の調査で判明した結果に大変感激している。

 

本記事のリリース情報

WEBメディア「Welulu」にインタビュー記事が掲載されました

目次

食と健康を考えてきたこれまでとウェルビーイングも含めて考えるこれから

──今回は食とウェルビーイングについてお話を伺っていきたいと思っています。まず、味の素グループの歴史について教えてください。

柴草さん: どうぞよろしくお願いします。私たち味の素グループの創業は約120年前に遡ります。

当時、東京帝国大学の教授であった池田菊苗(いけだ きくなえ)博士がドイツに留学し、現地の人々の体格や健康状態を目にし、自身と比較した際、その原因は食生活の違いであることに気づきました。とくに、欧州では肉食中心の食生活であるため、栄養面で優れていると感じたのです。

──実際に欧米の人たちに比べ私たちは小柄ですよね。やはり毎日食べるものがキーだったのですね。

柴草さん: はい、そこで、日本人の健康を向上させるためには、栄養価の高い食事が必要だと考え、日本に帰国後、料理を美味しくする成分について研究を始めたんです。

そんな中、ある日、池田博士が湯豆腐を食べた際に昆布の美味しさに気づき、昆布の中にある成分が美味しさを引き出しているのではないかと考え、研究を進めました。

──シンプルながらもしっかりとした旨味がありますよね。

柴草さん: 研究の結果、昆布にはグルタミン酸という成分が含まれており、これがうま味を生み出していることを発見しました。

この発見を基に、池田博士はのちの味の素グループの創業者である二代鈴木三郎助(すずき さぶろうすけ)と共に事業化を進めました。この二人の連携により味の素グループが誕生したのです。

味の素グループとしてポジティブな価値を提供する

──味の素グループが掲げている「社会価値と経済価値の共創」というキーワードについても教えてください。

柴草さん: はい、味の素グループは、創業当初から「おいしく食べて健康づくり」を目指してきました。この志を基に、「ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)」という理念を掲げ、社会価値と経済価値の共創を実現することを目指しています。

これまでも食と健康の課題解決を掲げていましたが、2023年2月にはグループのパーパス(存在意義)を再定義し、より広い視点から人・社会・地球のウェルビーイング(健康で幸せな状態)を重視する方向へシフトしました。単なる課題解決ではなく、ポジティブな価値を提供することを目指すものです。

──食と健康の課題解決から人・社会・地球のウェルビーイングへの貢献という視点に変わっていったのですね。

柴草さん: 私たちの製品やサービスは、科学的エビデンスに基づいて健康寿命の延伸を目指しています。たとえば、グリシンというアミノ酸による睡眠改善作用など、具体的な健康効果を示すデータを基に製品開発を行っています。

しかし、ウェルビーイングは身体の健康だけではなく、心の健康も含まれていますよね。そのため、私たちは食の持つ「エモーショナルな価値」を見える化することが重要だと考えているんです。

食のエモーショナルな価値

──食の持つ「エモーショナルな価値」とは興味深いです。そのような取り組みがおこなわれていますか?

柴草さん:現状、世界的に見ると、食のエモーショナルな価値というのは、まだまだ十分な認識が進んでいないんです。そのため、私たちはアメリカの世論調査会社であるギャラップ社と連携し、食の楽しさや共食の重要性についてデータを収集しています。

2018年にはギャラップ社が他社と共同で、料理の頻度とウェルビーイングの関係の調査を実施したところ、男性と女性の料理頻度の差が小さいほどウェルビーイングが高いことが分かりました。

──つまり夫婦で週の半分は男性、もう半分は女性というようにお互いにおこなう方が、どちらか一方に任せきりというのよりもウェルビーイングが高いのですね!

柴草さん:興味深いですよね。じゃあここで、私たち味の素グループが提供しているもの、調味料や冷凍食品の提供価値って何なのかな?と考えたところ、「料理の頻度」に加え、「料理の楽しさ」や「一緒に食べること」も重要になってくるはずだと思いました。

このような経緯から、私たちは、食の楽しさと共食に焦点を当て、ギャラップ社と共同で調査をおこなうこととなりました。

料理を楽しんでいる人や誰かと一緒に食事をすることが多い人は主観的ウェルビーイングが高い?

料理の楽しさと共食に注目

──そもそも、「料理」と「共食」に注目されたきっかけについて教えてください。

柴草さん: 私たち味の素グループが料理と共食に注目するきっかけは、主に2つの理由があります。

まず、これまでは消費者の皆様には時短や簡便さを提供することが大きな価値とされてきましたが、それに加えて、料理を楽しんでもらうことの重要性に気づきました。そのため、料理を通じて楽しさを提供することが大切だと考えました。

2つ目は、共食の重要性です。ウェルビーイング(心身の健康)の観点から見ると、健康や経済状況のほかに、社会的関係や社会とのつながりが大きな因子であるとされています。とくに、社会とのつながりが薄いとウェルビーイングが低下してしまいます。

もともと共食回数の考え方は2017年に発表した味の素グループ中期経営計画における当社が提供する社会価値として組み込まれており、その価値を認識していたものの、ウェルビーイングの文脈で再度強調し、社会との繋がりを提供する手段として共食に注目するようになりました。

──実際に味の素グループがギャラップ社とおこなった料理の楽しさと共食の調査はどのようなものだったのでしょうか?

柴草さん: 私たちは料理の楽しさと共食(共に食事すること)にフォーカスしたもので、調査項目としては、「あなたの知っている誰かと何回ランチを食べましたか?」や「あなたの知っている誰かと何回ディナーを食べましたか?」、「あなたは料理を楽しんでいますか?」といった質問でした。

料理の楽しさと主観的ウェルビーイング

──実際にこの調査を通してわかったことを教えてください。

柴草さん: グローバル調査の結果、料理を楽しんでいる人は約6割で、とくに女性の方が楽しんでいるという結果が出ました。一方、男性は料理をしない人が約4割いるため、楽しんでいる割合が少ないです。

地域別に見ると、北アメリカやヨーロッパでは料理を楽しむ人が多く、とくに女性の割合が高いです。東南アジアも比較的高い傾向がありますが、南アジアやアメリカでは約5割と低い結果が出ました。日本は全体で約5割と低く、女性も他の地域と比べて低い結果となりました。

──日本の結果は低かったのですね。どのような背景が影響していると考えますか?

柴草さん: 実際に当社の女性社員に話を聞いてみたんです。すると、楽しんでやってるわけではない、料理を日々の中で義務感を感じながらもやっている、献立を立てるのが面倒、という意見が多くありました。

日本では料理というと、手作りでしっかりと手が込んでいるもので、仕込みや準備も大変で…というものをイメージされることが多いという文化的背景が影響しているのではないかと考えています。

──確かに、料理というのは手間がかかってしっかりとした献立があって…というイメージあります。

柴草さん: その一方、アメリカやヨーロッパでは、簡単な料理や冷凍食品の利用が一般的で、それでも彼らは料理だと考えているので、料理を楽しんでいると感じる人が多いようです。

たとえば、チーズをかけてオーブンで焼くだけだったり、冷凍餃子をフライパンで焼くことも料理なんです。このように、料理に対する考え方や文化の違いが、調査結果に反映されていると考えられます。

──なるほど!料理に対する考え方が全然異なるのですね!面白いです。

柴草さん: 日本みたいに料理を真面目に考えすぎてしまう気質があるところは低い結果が出ているようですね。たとえば韓国も同じような結果でした。

──では、これらが主観的ウェルビーイングに与える影響についてわかったことを教えてください。

柴草さん: はい、料理を楽しんでいる人は楽しんでいない人に比べて、主観的ウェルビーイングが20%高くなることが分かりました。

これは、人生を梯子に見立てて10段階で自身の生活を評価してもらう方法で測定をおこないました。

日本人の平均的な評価は6から7の範囲ですが、欧米やラテンアメリカの人々は9や10といった高評価をする人が多く見られました。これらを統計解析した結果、料理を楽しむことが主観的ウェルビーイングに1.2倍の影響を与えることが明らかになりました。

この解析では、結婚状況、収入、教育レベルなどの影響を排除しており、純粋に料理を楽しむことがウェルビーイングに与える影響を示しています。

共食の頻度と主観的ウェルビーイング

──料理を楽しめるかどうかでウェルビーイングを高くできるんですね…!続いて、共食についての調査結果も教えてください。

柴草さん: 共食、つまり誰かと一緒に食事をすることについても調査では、各国の人々に「他の人と夕食をどのくらいの頻度で取りますか?」と質問し、0日、1〜3日、4日以上の三つのカテゴリーに分けて回答してもらいました。

その結果、共食の頻度が多い人ほど主観的ウェルビーイングが高いという傾向が見られました。これは男性、女性ともに同様の結果が得られました。また、昼食の場合でも同様です。

─孤食が増える中、このような結果は興味深いですね。

柴草さん: 大きなまとめとしては、料理を楽しむことと共食の頻度が高いことが、主観的ウェルビーイングに良い影響を与えるということですね。

食事や料理、誰かと食べることって日常のありふれた行為なのですが、実はウェルビーイングの重要な要素だということが明らかになりました。

──この調査結果から味の素グループとして今後どのようなアプローチを考えていますか?

柴草さん: 今回の調査結果を踏まえ、今後は料理を楽しむ人を増やすための提案や、共食を促進する取り組みを行っていくことが重要だと考えています。

料理を楽しむことや共食をはじめとした「食」価値を広めていくために、製品開発だけでなく、政策提言や他の企業との連携も進めていきたいと考えています。調査データを基に、食生活の満足度を向上させるための具体的な施策を提案し、社会全体でウェルビーイングを高める取り組みを推進していきたいと考えています。

──自社内だけでなく、広い範囲での提言をおこなう予定なのですね。

柴草さん: はい、政府や行政が実施しているウェルビーイングに関連する調査に、「食」に関する項目を取り入れていただけるよう働きかけていきたいと考えています。ウェルビーイングに重要な項目として、健康状態、家計や仕事と生活のバランス等がよく挙げられますが、これらに加えて食生活の満足度を含めることで、新たな気づきが得られると考えています。

また、オックスフォード大学の教授と連携した解析も進めており、、食とウェルビーイングの関係についての科学的な証拠をより強固にすることを目指しています。オックスフォード大学での解析結果においても食がウェルビーイングに貢献することが見いだせたこともあり、毎年3月に国連持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)が発行する世界幸福度調査の2025年版のチャプターの一つとして、「食」の項目が入ることが決定しました。(※Global research team assembled for World Happiness Report 2025 | The World Happiness Report

孤食が多いとウェルビーイングの実感が低くなる傾向に

──現代の食を取り巻く環境はどのように変わってきているのでしょうか?

柴草さん: 共働き家庭が増える中で、家族全員が揃って食事をする機会が減少しています。大人も子どもも忙しく、たとえば子どもが塾や習い事に通うために、移動中に食事を摂るようなこともありますよね。私自身も息子がサッカーに行く車の中でご飯を食べることがよくありました。このように、食事の時間が分散され、食事の場が家族全員で過ごす時間ではなくなりつつあります。

─たしかに、お腹は空いているけれど、楽しく食べるというよりは、とにかく食事を済ませるために1人でパパッと食べてしまうこと、多いと思います。

柴草さん: このまま何もしなければ家族や友人と食事を共有する機会がどんどん減ってしまいます。そのため、意識的に食事の時間を作ることで、家族や友人との繋がりを保つことが可能です。食事を楽しむためのモチベーションを高めることが重要であり、今回の調査がその気づきを提供できるのではないかと期待しています。

─共に食事をすることは私たちにポジティブな効果をもたらしてくれますが、1人で食事をすることのデメリットにはどのようなものがありますか?

柴草さん:今回の調査でわかったこととして、孤食が多い人にはいくつかのデメリットが見られました。

孤食の人は、ウェルビーイングの実感が低くなる傾向があり、具体的にはその割合が週に一回でも共食している人に比べて約3倍に増えることがわかりました。さらに、社会との繋がりも共食をしている人よりも低いと感じる人が多く、自分の健康についても「健康だ」と感じる割合が低くなります。

──とくに気持ちの面に大きく影響が出ていそうですね。

柴草さん:その通りで、実際の健康状態については今回の調査では見ていませんが、主観的な感覚がさまざまな面で低く表れましたね。気持ちの面においても大きな影響があり、これは生活の質(QOL)にも深く関わってくることがわかります。

もちろん、1人で食べること自体が悪いわけではなく、たまには1人で食事をしたい時もあるはずです。しかし、1週間に1回も誰かと共に食事をしないという状況は避けた方がよいのかなと思っています。

料理を楽しむ&誰かと一緒にする食事でウェルビーイングを向上させていく

──お料理を楽しむためのアドバイスをいただけますか?

柴草さん:レシピ通りに作ることよりも、誰かに喜んでもらえることを考えながら作ってみてほしいです。料理の定義を高く設定せずに、自分なりの料理を楽しんでほしいですね。冷凍餃子を焼くだけでも立派な料理です!

また、簡便性を求めることも大事で、「手抜き」ではなく「手間抜き」という考え方を持つと良いです。我々は、手間を省いて皆さんに楽しんでもらいやすくしています。

──自分に優しく、真面目になる必要はない!ですね。子どもや誰かと一緒にできるもので何かおすすめはありますか?

柴草さん:今、国内の営業部門が地域で「ペアクック」という活動を行っています。これは大切な人と一緒に料理をするもので、子どもや家族、夫婦と一緒にすることをいいます。一緒に料理をすることで楽しさを共有し、大切な人との絆を深めることができる取り組みです。

子供と一緒に料理をすることは、子供にとってもポジティブな影響が多く、料理の楽しさを知るだけでなく、思い出にもなります。

家族で一緒に食事をすることや料理をすることは、親子のコミュニケーションを深めるためのツールにもなります。たとえば、「明日は一緒にホットケーキを作ろう」といった提案もよいですよ。ホットプレート料理は簡単ですし、みんなで作って食べる楽しさを共有できます。

──たしかに、私自身も家族で囲んで食べたお好み焼きはおいしくて楽しかった思い出があります。共食についてですが、たとえば週末に友人を誘ってカフェに行ったり、家族でレストランに行くのもよいのでしょうか?

柴草さん:もちろんです。毎日家で食事をしていると飽きることもありますし、環境を変えることで新しい出会いや発見があるでしょう。

外食やカフェでの時間は、ウェルビーイング(健康で幸せな状態)にも繋がりますし、社会とのつながりを意識するよい機会になるはずです。新しい環境で誰かと食事をすることで気分転換にもなり、また、外で食べたことで家での食事がより美味しく感じることもあります。

─まずは気軽にカフェからでもよさそうですね!

柴草さん:そうですね、誰かと一緒に食事をすることで、日常の安心感や幸福感が増すことがあります。義務感を感じることなく、まずは楽しんでほしいです。友人や家族と過ごす時間を楽しみ、気軽に共食の場を設けてみてください。

──共食について改めて伝えたいことはありますか?

柴草さん: 一人で食べるよりも誰かと一緒に食べることで、食事の美味しさや楽しさが増すことにあります。誰かと食事を共有することで、味覚が変わるだけでなく、心理的な満足感も大きく向上するんです。これが結果的にウェルビーイングにつながる、これが共食の価値だと思っています。

また、共食は社会的なつながりを強化する機会を提供することで、孤立感が減り、社会的なサポートを感じることができます。共食を通じて、人々が繋がり、互いに支え合う環境を作ることが、私たちの目指すウェルビーイングの向上に寄与すると考えています。

もっと気楽に料理を楽しみ、誰かと食事の時間を共有することに目を向け、ウェルビーイングの向上につなげていけるといいなと思っています。

編集後記
料理を楽しんでいるか?実際に自分はどうかと考えてみると、義務感や面倒だったり、手の込んだものを作らなければ料理と言うほどでも……と思ってしまい、確かに日本では料理を楽しむことはどこかハードルが高いものに感じてしまう傾向があると感じました。また、ついつい孤食になりがちな食事シーンも、たまに誰かと一緒に食べるだけでウェルビーイングの向上につながる。料理に対する考え方や共食の機会を考え直して心の健康にもつなげていきたいものです。

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