国内では、多くの柑橘類が栽培されており、愛媛県では約45品種が栽培されている。季節ごとに異なる品種をたのしめるだけでなく、その栄養価や健康効果は盛りだくさん。とくに温州みかんに多く含まれる「β-クリプトキサンチン」から、温州みかんの皮やすじに多く含まれるヘスペリジンの力まで、えひめ飲料の菅原さんに詳しくお話を伺った。
菅原 邦明さん
株式会社えひめ飲料 総合戦略部 上席研究員
本記事のリリース情報
温州みかんに含まれる「β-クリプトキサンチン」についてインタビューを受けました。
温州みかんや柑橘ジュースの種類や特長とは?
──柑橘類にはどのような品種があるのでしょうか。
菅原さん:柑橘類には多様な品種が存在し、国内において「柑橘王国」といわれる愛媛県では約45品種(令和3年時点)が栽培されています。代表的な柑橘には、温州みかん、伊予柑、ポンカン、不知火(デコポン)、せとか、紅まどんな、甘平、はっさく、甘夏、清見、河内晩柑などがあります。
味や香り、果皮の色や形状などそれぞれ特徴は異なります。たとえば、はっさくはやや酸っぱく、不知火(デコポン)は非常にジューシーで甘いです。一方海外では、バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、レモンなどが栽培されています。
また、収穫時期によっても分類されることがあり、たとえば、温州みかんは9月から12月にかけて収穫されることが多い一方、中晩柑というグループに属する不知火、はっさく、甘夏などは、より遅い時期に収穫されます。伊予柑や不知火の食べ頃は2月から3月、河内晩柑は4月から8月にかけて食べ頃となるため、柑橘類は年間を通して楽しむことが可能です。
同じ品種でも収穫する時期によって、酸味や甘み、香りの強さが変わることがあるため、それぞれの風味を楽しむことができます。
──たとえば、コップ1杯分でどれくらいの柑橘果実が摂取できるのでしょうか?
菅原さん:温州みかんを搾った場合、果汁の搾汁率がおおよそ50%であるため、1個約100グラムの温州みかんからは約50グラムの果汁が得られます。コップ1杯のジュースが200ミリリットル(約200グラム)である場合、4個の温州みかんでできるということです。もちろん、他の柑橘類では、果皮が厚いものや果肉の比率が異なるため、果汁の搾汁率は40%程度に下がることもあります。使用する柑橘品種によって、必要な果実の数量が変わってきます。
──100%ストレート果汁と濃縮還元果汁(のうしゅくかんげんかじゅう)という表記を目にしますが、どのような違いがあるのでしょうか?
菅原さん:100%ストレート果汁と濃縮還元果汁では、まず製造プロセスが大きく異なります。ストレート果汁は果実をそのまま搾汁して製品化されるため、香料などの添加物を使用せず、果実本来の味や香りをそのまま楽しむことができます。
その一方、濃縮還元果汁は、果実を搾汁し、できたストレート果汁を一度濃縮してから、あとに水を加えて元の濃度に戻します。濃縮の過程で熱を加えるため、一部の香り成分が失われますが、製造過程で香り成分を回収し、再度加えることで元の香りを復元しています。濃縮還元果汁は保存や輸送時のエネルギーコストの削減にもつながるため、経済的にもメリットが大きいです。
栄養価については、一部のビタミンなどが熱により若干損失しますが、基本的にはストレート果汁と濃縮還元果汁の間で大きな差はありません。ただし、味や香りの面では、ストレート果汁の方が果実に近く、より自然な風味と評価されています。
── 温州みかんとオレンジは似ていると感じるのですが、その違いについて教えていただけますか?
菅原さん:栄養面で見ると少しの変動はありますが、ビタミン類や糖類、クエン酸の含有量などもよく似ています。一方、香りや味においてはそれぞれの品種の特徴があります。また、オレンジはより黄色がかっているのに対し、温州みかんは赤っぽいオレンジ色をしています。これは、カロテノイド色素の組成の違いによるものです。温州みかんにはβ-クリプトキサンチンが、オレンジにはビオラキサンチンが多く含まれています。
── カロテノイドのβ-クリプトキサンチンとビオラキサンチンについて教えていただけますか?
菅原さん:β-クリプトキサンチンはβ-カロテンから生成されるカロテノイドで、とくに温州みかんに多く含まれています。この成分は、骨の健康をサポートする効果があるとされています。ビオラキサンチンも同様にβ-カロテンからβ-クリプトキサンチンを経て生成されるカロテノイドの一種で、オレンジに多く見られますが、具体的な健康効果についてはまだ詳しく調査されていません。
栄養疫学調査で報告!温州みかんに含まれる「β-クリプトキサンチン」の働き
── 骨の健康サポート以外に、β-クリプトキサンチンの効能について何があるのでしょうか?
菅原さん:β-クリプトキサンチンには複数の健康効果が報告されています。たとえば、温州みかんの産地で住民約1000人を対象に栄養疫学調査が行われたのですが、温州みかんを多く摂取していて血中のβ-クリプトキサンチン濃度が高い人は、脂質異常、肝機能異常、動脈硬化、2型糖尿病の発症リスクが低下することが示されています。
── 脂質異常、肝機能異常、動脈硬化、2型糖尿病、骨粗鬆症の発症リスクが低下するとは驚きです。柑橘ジュースがスポーツ時におすすめと耳にしたこともあるのですが、本当でしょうか?
菅原さん:スポーツにおいてトレーニングは非常に重要ですが、まず3つの主要なポイントに注意する必要があります。一つ目はバランスのよい食生活です。栄養バランスを整えることで、体の機能を最大限に活用し、パフォーマンスを向上させることができます。二つ目は水分補給です。十分な水分を摂ることで、体の代謝を助け、疲労物質の排出を促します。三つ目は質の良い睡眠とストレスの適切な管理です。質の良い睡眠や休養による体力の回復と、上手なストレス解消による精神的な健康もパフォーマンスに大きく影響するため、心身を整える休養の時間を設けることも重要です。
そのような中で、柑橘ジュースは、スポーツ後の栄養補給にも適していると考えられます。その理由として、まずビタミンCを豊富に含むため、抗酸化作用があります。また、カリウムやマグネシウムなどのミネラルも含まれており、これらは筋肉の働きを助け、疲労回復に役立ちます。さらに、糖類も含まれているためエネルギー補給も可能です。これらの栄養素が組み合わさることで、柑橘ジュースは運動後のリカバリーに適した飲料となるというわけです。
温州みかんが肌にもいいって本当?
──その他にも、温州みかんが肌にもよいそうですが、これについても教えていただけますか?
菅原さん:栄養機能食品としての一般的な知識に基づいて説明しますと、温州みかんにはビタミンAに変換されるβ-クリプトキサンチンとビタミンCが豊富に含まれています。ビタミンAは、皮膚や粘膜の健康を維持するのに役立ち、皮膚の新陳代謝を促進し、健康な皮膚を保つ効果があります。ビタミンCには強力な抗酸化作用があり、肌の老化防止に寄与します。ビタミンCはコラーゲンの生成を助けることで知られており、これが皮膚の弾力性を高め、しわやたるみを予防するのに重要です。また、フリーラジカルから肌を守ることで、紫外線によるダメージの軽減にも寄与するとされています。
さらに、温州みかんに含まれるクエン酸については、これが疲労回復をサポートする効果があるとされており、間接的ではありますが、肌の健康によい影響を与える可能性があります。クエン酸はエネルギー産生の効率を高め、活発な生活を支えることができるため、これが肌細胞の健康にもよい影響をもたらすと考えられています。
温州みかんジュースに含まれる「β-クリプトキサンチン」が骨の健康を守る?
──β-クリプトキサンチンに関する研究を始めたきっかけを教えてください。
菅原さん:β-クリプトキサンチンに関する研究を開始したきっかけは、オレンジ果実や果汁の輸入自由化を受け、国産の温州みかんが持つ独自の利点を明確に示すため、特有の成分を探求し始めました。カロテノイド色素であるβ-クリプトキサンチンは、オレンジには少量しか含まれていない一方で、温州みかんには豊富に含まれています。最初はがん予防に関する研究から始まり、そのあと、骨の健康や肝機能の改善に関する研究にも広がっています。
──オレンジには少量しかなく温州みかんに豊富に含まれる…おもしろいですね!その他にも行っている研究があれば教えてください。
菅原さん:他の柑橘成分についての研究を進めています。β-クリプトキサンチンの他にもヘスペリジンなどもあり、現在のところ、弊社ではヘスペリジンに関する研究を始めたところです。この他、温州みかんの加工特性を生かす技術開発や、高付加価値商品の開発に関連した研究は積極的に行っており、これには果実の加工方法や、新しい製品形態の開発が含まれます。また、骨の健康や肝機能の改善といった、より広範な健康効果を持つ可能性のある研究にも力を入れてきました。
──β-クリプトキサンチンによる骨の健康への影響の研究について教えていただけますか?
菅原さん:この研究では、骨の形成と吸収のバランスに着目しています。β-クリプトキサンチンが骨形成を促進し、骨吸収を抑制する効果があることが示されていて、これは、骨の代謝プロセスが常に動的なバランスであり、このバランスが健康な骨の維持には不可欠であるという点から非常に重要な発見です。
とくに、β-クリプトキサンチンの摂取によって、骨を形成する骨芽細胞増殖因子を刺激し骨芽細胞の増殖と分化を促進して石灰化を増進させ、また、骨吸収促進因子による破骨細胞への分化、形成を抑制させることにより、骨代謝マーカーを変化(骨形成マーカーの上昇と骨吸収マーカーの低下)させ、その結果として、骨量の減少を抑えると考えられます。これらの結果から、β-クリプトキサンチンは骨粗鬆症の予防に有効な可能性があることが示唆されています。
──骨の健康を損なう原因にはどのようなものがあるのでしょうか?
菅原さん:骨密度の低下を促し、骨粗しょう症のリスクを高める要因としては、年齢、運動不足、不適切な栄養摂取、そして女性の場合は閉経後のホルモン変化があります。
そのため、とくに骨密度が低下しやすい中高年の方々や、骨の健康に関心があるすべての成人にβ-クリプトキサンチンの摂取がおすすめです。とくに、骨粗しょう症のリスクが高い閉経後の女性や、運動不足で生活習慣が乱れがちな方々には、さらに重要です。骨の健康を支えるためには、バランスの取れた食事、適切な運動と共に、このような機能性成分を 意識的に摂ることが大切です。
β-クリプトキサンチンを摂取するために
──β-クリプトキサンチンを多く含む食材や品種にはどのようなものがありますか?
菅原さん:まず、β-クリプトキサンチンは体内で生成されないため、食品から摂取する必要があります。柑橘類に豊富に含まれており、とくに温州みかんは高い含有量を誇ります。その他には、ポンカンやパパイヤ、ビワ、唐辛子にも含まれています。近年では、β-クリプトキサンチンを多く含むように品種改良された柑橘類も登場していて、たとえば「みはや」や「あすみ」、「せとみ」、「つのかおり」などの品種があります。
──品種改良も進んでいるのですね。β-クリプトキサンチンの濃度が高い果実には何か特徴がありますか?
菅原さん:実は、果実の糖度とβ-クリプトキサンチンの濃度には相関関係があります。糖度が高い果実は、成熟が進んでおり、その過程でβ-クリプトキサンチンなどの成分が豊富に生成されています。
──柑橘類といえば、果実そのままやジュース、ジャムとしての摂取が多いかと思いますが、よりβ-クリプトキサンチンを効率よく摂取できるのはどれでしょうか?
菅原さん:やはり新鮮な果実をそのまま食べるのが最もよい方法です。β-クリプトキサンチンは熱や光、酸素に弱いため、加工するとその含有量が減少する可能性があります。ジュースやジャムの場合、加熱殺菌工程である程度損失が生じます。冬場は自然な果実から摂取し、果実が少ない夏の時期にはジュースやジャムなどの加工製品をうまく活用していただくのがベストだと思います。
温州みかんの皮や筋にも栄養たっぷり?
──温州みかんの筋を取るか取らないか、それぞれの好みがあるかと思いますが、栄養の面ではどうでしょうか?
菅原さん:皮をむいたあとの内皮(じょうのう膜)白い筋(維管束)も一緒に食べることをお勧めします。この部分にはヘスペリジンなどの機能性成分や食物繊維も多く含まれており、全体の栄養価を高め、便秘の改善にも役立ちます。
──温州みかんの皮や筋に含まれるヘスペリジンについて教えてください。
菅原さん:ヘスペリジンはフラボノイドの一種で、ビタミンPとも呼ばれるもので、とくに柑橘類の外果皮や内果皮、筋の部分などに多く含まれており、血管の保護作用があると言われています。血流改善や炎症の抑制などの効果が期待されています。また、内皮などの食物繊維を摂取することで、健康維持に寄与する可能性が高いとされています。
ヘスペリジンに限らず、柑橘類は多様な機能性成分を含むことで知られています。ほかにも、河内晩柑の外皮に多く含まれているオーラプテンという成分は、認知機能の維持に関連して機能性表示食品として認められています。
──なるほど。最後に、温州みかんの1日の摂取量の目安を教えてください。
菅原さん:温州みかんの産地での栄養疫学調査の結果から、1日に温州みかんを3個から4個食べると、血液中のβ-クリプトキサンチン濃度が高まり生活習慣病のリスクが下がるという報告があります。必ずこの量を摂取する必要はありませんが、温州みかんのシーズンにはできるだけ食生活でうまく取り入れることにより健康効果が期待できると思います。
温州みかんジュースの場合は、1日に約200ミリリットルが目安です。ジュースは手軽に摂取できますが、果実そのものを食べることで得られる食物繊維よりは少なくなるので、バランスを考慮した摂取が望ましいです。
──温州みかんを摂りすぎた場合の注意点はありますか?
菅原さん:摂りすぎると糖分やカロリーの摂取過多になることがあります。とくに糖尿病などの疾患をお持ちの方は、食べる量には注意をしてください。また、果物アレルギーのある方も同様に気をつけてください。
編集後記:
β-クリプトキサンチンが脂質異常、肝機能異常、動脈硬化、2型糖尿病、骨粗鬆症の予防、ヘスペリジンが血管の健康に寄与するという研究報告は、健康寿命が重要視される現代にとって健康維持のヒントになるものだと感じました。とくにβ-クリプトキサンチンは、オレンジにはほとんど含まれないにも関わらず、私たちになじみのある温州みかんに多く含まれるといった興味深い内容もあり、日本国内でも数多く栽培される柑橘類の可能性に期待が高まります。